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雪の縁に揺れる青と黄――ウクライナ・リヴィウ冬日記


リヴィウの冬は、街の輪郭をいったん白で塗りつぶしてから、ゆっくりと細部を浮かび上がらせる。通りに出た瞬間、足元の雪がきゅっと鳴り、音がそれ以上遠くへ逃げない。建物の石壁も、車の列も、人々の声も、厚い雪の膜に包まれて、都市が少しだけ「静かなもの」になっていた。

視線を上げると、古いヨーロッパの街並みが続いている。窓枠や装飾の陰影が深く、壁の色は淡い蜂蜜のようで、雪の白さに負けない温度がある。軒先には積雪がふっくらと乗り、屋根の形を丸く変えてしまっている。冬は角を削り、街を柔らかく見せるのだと思った。

その柔らかさの中で、ひときわ鮮やかな色が揺れていた。青と黄――ウクライナの旗が、通りの上に張り出している。風は強くないのに、布はきちんと呼吸して、ゆっくり波をつくる。雪景色の白と、建物の褐色のあいだに挟まれた二色は、目印というよりも「ここがどこか」を一瞬で思い出させる合図のようだった。

通りの左手には、黄色い配送トラックが停まっている。雪の粒が車体の縁にこびりつき、扉の金具は冷たく光っている。車道には車の列が続き、タイヤが雪を踏み固めた泥色の線が伸びていた。走るというより、耐えながら進む冬の交通。ブレーキランプの赤が、薄い雪空の下でぽつぽつと灯る。

歩道は、除雪された雪が高い壁になって両側に積まれ、まるで白い堤防の間を歩いているみたいだった。黒いボラード(車止め)の頭だけが規則正しく雪から顔を出し、道の端を示してくれる。人々は厚手のコートに身を包み、足元を確かめるように歩く。背中を丸めているのは寒さのせいだけではなく、雪の日特有の慎重さ――転ばないための姿勢でもある。

空を横切る細い線――架線だろうか、都市の上を通る糸のような電線が、古い建物の上に張り巡らされている。石造りの街に、現代の生活がしっかり結びついているのが分かる。遠くには塔の先が霞んで見えた。雪の微粒子が空気に漂い、景色の奥行きを柔らかくしている。冬の街は、近いものはくっきり、遠いものはすべて“記憶”のようにぼやけていく。

私は旗の下をくぐるように歩き、ふと立ち止まった。雪の日の都市には、独特の匂いがある。冷たい金属、湿った石、溶けかけの雪、どこかの店先から漏れる温かい空気。目には見えないそれらが混ざって、「旅先の匂い」として鼻の奥に残る。手袋越しにコートのポケットを探ると、指先がじんと痺れ、体がこの街の寒さに順応していくのが分かる。

やがて、どこかの入口から人が出てきて、雪を踏んで通りへ溶け込んだ。大げさな出来事は何もない。ただ、人が歩き、車が進み、旗が揺れる。雪は街を止めるのではなく、速度を落とし、音を吸い、日常の輪郭を少しだけ丁寧に見せる――そんな力を持っているのだと思う。

リヴィウの冬の通りを歩きながら、私は一枚の写真の中に、いくつも旅の手触りが詰まっているのを感じた。白い堤防のような雪、古い壁の色、車の列の鈍い光、そして青と黄。

次に角を曲がったら、どんな店の灯りが見えるだろう。温かい飲み物の湯気が、窓に曇りを作っているだろうか。そんなことを考えながら、私は雪の街の「ゆっくりさ」に身を預け、もう少しだけ歩いてみることにした。

 
 
 

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