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静寂に包まれる中庭――ブルージュのベギン会修道院

  • 山崎行政書士事務所
  • 2月3日
  • 読了時間: 4分

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 ベルギー・ブルージュの中心部から少し離れたところに、ベギン会修道院(Begijnhof) と呼ばれる不思議な空間があります。中世における女性の共同体として誕生し、現在も当時の静寂と安らぎを色濃く残す場所。その正式名称は**「プリンセス・テンク・ウィンガールデ(Princely Beguinage Ten Wijngaerde)」**。真っ白な外壁と緑の中庭が、訪れる人を別世界へと誘います。

1. 白壁と緑が織りなす風景

 入り口の門をくぐると、まず目に飛び込むのが、白い塗装を施された建物の列と、そこに囲まれるように広がる中庭の芝生。春から夏にかけては、この芝生の上に水仙が咲き誇り、黄色い花が白壁と見事なコントラストを作り出します。 石畳の通路を踏みしめながら歩くと、建物の壁に緑のツタが絡んでいたり、窓辺にカラフルな花が飾られていたりと、どこを見ても絵画のような風景が広がります。観光客が声を落として足を進めるのは、この静けさと神聖さを自然と感じ取るからかもしれません。

2. ベギン会とは何か

 ベギン会(Beguinages) とは、中世ヨーロッパで発達した女性共同体で、修道院とは異なり正式な修道誓願を立てなくても集える場所でした。独身または未亡人の女性たちが共同生活を送りながら、祈りと労働、そして地域社会への奉仕に携わる――そんな半独立の共同体として機能していたのです。 ここブルージュのベギン会も、13世紀に成立し、以後多くの女性を受け入れてきました。今は修道女が少なくなったものの、当時の生活様式や建築が美しく保存され、世界遺産に登録されています。

3. 修道院を彩る静寂と祈り

 中庭には礼拝堂(教会)があり、白壁と赤い屋根がひと際目を引きます。内部は質素ながらも暖かな雰囲気で、木のベンチや祭壇が清潔感を漂わせている。訪れた人が短いお祈りを捧げたり、静かに座って瞑想したりする姿を見ると、ここがただの観光スポット以上の聖地であることを思い出させてくれます。 外からは、ブルージュ中心部の賑わいが嘘のように感じられるほど、ここには静寂が満ちている。時折聞こえるのは修道女や住人の足音と、鳥のさえずりだけ。まさに都市のオアシスとも言うべき空間です。

4. 四季折々の表情

 ベギン会修道院は、季節ごとに異なる魅力を放ちます。

  • :水仙の花が咲き乱れ、中庭が黄色く彩られるシーズン。

  • :緑の木々や草花が一層鮮やかに茂り、澄んだ青空とのコントラストが印象的。

  • :落ち葉が敷き詰められ、建物の白壁に暖色のツタが絡む。温もりある風景が広がる。

  • :雪が降れば白壁と雪の白さが溶け合い、一層神秘的な空気をまとった姿を見ることができる。

5. 小さな博物館と暮らしの名残

 敷地内には、ベギン会に関する資料や当時の生活用具を展示する小さな博物館がある場合も多い。糸紡ぎの道具や手工芸品、古い聖書などが置かれており、ここでの生活がいかに自立的かつ敬虔であったのかを伺い知ることができます。 狭い部屋や台所を再現した展示を見れば、当時の女性がどのように暮らしを営んでいたのか想像が膨らむでしょう。決して豊かではなかったかもしれないが、共同体の連帯感の中で支え合っていた様子が、古い道具や家具から感じられます。

6. 日没後のライトアップと幻想

 日が傾き、夕暮れが近づく頃、ベギン会修道院もまた異なる表情を見せ始めます。建物の窓に明かりが灯り、石畳や中庭を淡いオレンジ色が照らし出すと、白壁が静かに浮かび上がるような美しさに包まれます。 夜には、敷地内のライトアップが施されることもあり、礼拝堂のステンドグラスや中庭のシルエットが、より一層幻想的に見えるでしょう。観光客がほとんどいなくなった静寂の中で、この光景を独り占めできる瞬間は、まるで歴史の秘密を覗き見るような感覚を味わえます。

エピローグ

 ブルージュのベギン会修道院(Begijnhof)――ここは観光名所というだけでなく、中世から受け継がれてきた“女性の自立と信仰”が暮らしの形として結実した特別な場所です。白壁と緑の中庭、そして礼拝堂に漂う静寂は、現代の喧騒から訪れる人々に深い癒やしを与えてくれるでしょう。 もしブルージュを訪れたら、運河や鐘楼の景色だけでなく、このベギン会修道院もぜひ足を運んでみてください。四季折々の表情と信仰の歴史が、あなたの旅に穏やかな余韻を刻んでくれるはずです。

(了)

 
 
 

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