620億の影
- 山崎行政書士事務所
- 1月18日
- 読了時間: 6分
プロローグ:突きつけられた620億円の不足

静岡県庁。ある冬の日、財政課からの衝撃的な報告が全庁に広まった。「次年度予算で620億円の財源不足」——あまりに大きな穴に、議会や世間が騒然となる。町の住民は「なんでそんなに足りないんだ? まさか公務員の給料が高すぎるから?」と批判。マスコミも連日トップニュースで取り上げ、ネットは“静岡県崩壊”と煽り立てていた。それは、普通の公務員の生活をも大きく変える事態だった。**「給与削減案を検討せざるを得ない」**という県庁上層部の発言が公表され、職員の士気は一気に落ち込む。さらに労働組合も「到底容認できない」と反発し、混乱が加速していた。
第一章:中堅職員・伊藤の戸惑い
主人公伊藤 勇作(いとう・ゆうさく)、38歳。静岡県庁で働いて15年目の中堅職員。係長級の立場だが、給料は家族をやっと支える程度。妻・沙織と小学生の娘・真奈がいる。マイホームを数年前に購入し、住宅ローン返済も残っている。彼は日々の業務に追われ、残業も多い。決して“優雅な公務員生活”というわけではなく、肩こりに悩まされる毎日だった。そんな折、620億円もの財政赤字が発覚。**「給与削減は必至…」**と聞かされ、伊藤は正直ショックを受ける。「ただでさえ余裕のない生活なのに、これ以上減らされたら、ウチはどうなるんだ…?」一方、「公務員は高給取り」「給与カット当然」という世間の声にも苦々しさを感じる。**同僚たちの間では“これじゃ士気が下がる”**とため息が漏れる。
第二章:労働組合と住民運動のはざまで
労働組合が「給与削減反対」の集会を開く。組合長久保がマイクを握り、「私たちは日々激務をこなし、県民サービスを支えている。給料だけが原因じゃない」と熱弁。伊藤も集会に参加するが、周囲の同僚から「伊藤さんも家族いるし、削減案に反対でしょ?」と問われ、「…まあ、正直そうだね」としか言えない。心の中では、自分たちの高給批判をする住民の声にも理解はある。さらに住民側では「もっと大幅カットを」「無駄な出費を削ってよ」というデモが発生。“公務員は天国だ”と批判するチラシが街に貼られる。伊藤は複雑だ。「職員にも生活があるし、確かに無駄遣いはあるかも…」。両方の意見を知るだけに、悩みを深めていく。
第三章:財政再建チームへの抜擢
ある日、上司の三浦 課長から呼び出される。「伊藤、お前を**“財政再建チーム”に入れようという話が出てる。県の未来がかかる大事な仕事だ。やってみないか?」伊藤は驚くが、断る理由もない。そこでは財政課や総務課の精鋭たちが集まり、歳出削減・歳入増加のあらゆる施策を検討するという。ところがメンバーをざっと見回すと、議会のご意見番的なベテラン議員や県幹部も参加し、何か政治的な駆け引き**があるのではと感じる。 それでも伊藤は「少しでも役に立ちたい」と思い参加を決める。
第四章:見え隠れする不透明な支出
再建チームで討論を重ねるうちに、伊藤はある事業に目を止める。毎年増えているが説明の少ない「企画調査費」や「委託業務費」などがあり、金額が大きいわりに成果が不明瞭。上司の三浦課長が「そこは既定事項だから突っ込まなくていい」と言うが、伊藤は納得できない。「これこそ無駄の温床かもしれない」と感じる。更に外部から「特定企業との随意契約が繰り返されている」「裏で政治家への献金がある」という噂を耳にする。伊藤は、**赤字の原因の一つが自分たち公務員の給与だけではなく、こうした不透明支出が絡んでいるのでは…**と直感するが、周囲は「そんなのタブーだ」と口をつぐむ。
第五章:家族の危機と自己矛盾
一方、伊藤の家庭では給与削減のうわさが現実味を帯び、妻の沙織は「このままじゃローンも払えなくなる」と悲痛な表情。娘の真奈に習い事を継続させるか悩む状況だ。伊藤は家族の不安を目の当たりにしながら、**「公務員が給与削減されるのは仕方ないのか、それとも不正な支出を正す方が先なのか」と葛藤。職場では同僚が「お互い様だ。俺たちの給料も削られる」と文句を言い、労働組合は「絶対反対」を叫ぶ。しかし伊藤は「本当の問題はそこじゃない…」と内心もどかしい。“公務員の給料だけに焦点が当たることで、本質が見えなくなる”**と苦い思いをする。
第六章:告発への道と組織の壁
再建チームの会議が進む中、伊藤は「公務員給与の大幅カット」案が優先され、一方で怪しい“企画調査費”などの削減はあまり議論されない現実を目撃。勇気を出して「こちらにもメスを入れるべきでは?」と発言するが、ベテラン議員や幹部は「ここは経済の活性化に必要な事業だ」「予算削減しても効果が小さい」とゴマかされる。だが伊藤は独自に裏の資料を探し、政治家と特定企業の癒着、利権がからんだ裏金の流れを疑わせる証拠をつかむ。財政再建チームで公表しようとするが、上役たちは「余計なことをするな。職員給与の削減が先決だ」と一蹴。どうやら組織ぐるみで隠蔽しているらしい。
第七章:クライマックス—赤字の核心を暴く
伊藤は決断を下す。「家族を守るためにも、真実を公にして県を変えなければ」と腹をくくる。知り合いの記者や市民団体の力を借りて、不正支出や政治家・企業の関係をまとめ、内部文書の一部をリークする形に踏み切る。まもなくマスコミが**“静岡県、620億円赤字の背後に不正支出か?”**と報道。県議会が騒然となり、労組も「やはり給与だけが問題じゃない! ほら見ろ!」と勢いづく。幹部たちは激怒し、伊藤を特定しようとするが、既に証拠は複数メディアに渡っている。政治家の汚職疑惑まで浮上し、世論が沸騰。結果、県知事は「徹底的な調査を行う」と宣言し、政治家や幹部らの責任が追及されることになる。
エピローグ:未来への一歩
告発のあと、伊藤は内部リークがバレて処分されかけるが、世論の支持があり解雇には至らない。むしろ「公務員こそ誇りを持ち、不正を許さない姿勢が必要だ」と称賛する声も上がる。不正支出が是正されることで財政赤字が少し軽減され、結果的に職員給与の大幅削減は回避できる方向へ。もちろん全く影響がないわけではないが、少なくとも**“給与を悪者にするだけ”の構図が変わり始める。家では、沙織や真奈が「パパ、こんな騒ぎになって怖かった」と泣いて抱きしめる。伊藤はそっと微笑み、「もう大丈夫。いつかこの町が、本当にみんなのために変わるなら、その一助になりたかったんだ」と語る。ラストシーン:伊藤が県庁の玄関を出ると、労組の仲間や市民が拍手で迎える。その先で、少し晴れやかになった空を見上げながら、“これが俺の信じた仕事だ”**と胸を張る。静岡県の新たな一歩が始まる——。**—この瞬間、『620億の影』**の幕は閉じ、新たな希望の光が差し込む。
(了)





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