次の揺れ
- 山崎行政書士事務所
- 1月18日
- 読了時間: 6分

プロローグ:いつ起こるか分からない不安
三保地区――駿河湾に面し、富士川河口断層帯が近くを走ると言われる町。 専門家の一部が「近年、活断層の動きが活発になっている可能性がある」と警告するものの、大多数の住民はそれを強く意識してはいない。なぜなら地震はいつ起こるか分からないし、日常は続くものだから。 だが、この物語では、“次の揺れ”に備えるかどうかなど考えもせず、または考えながら、それぞれの人生を日々送っている人たちがいる。彼らのささやかな日常が、ある日地震発生によって交差し、ひとつのドラマとなる。
第一章:漁師と海
登場人物:坂口 勝(さかぐち まさる) 三保地区で小さな漁船を持つ漁師。まだ40代だが父の代から続く漁を守ってきた。 海の様子に詳しく、「地震が来るかもしれんってテレビで言うが、海はいつもと変わらん」と笑う。彼にとって毎朝の漁こそが生活のリズム。 しかしふとしたとき、浜辺に漂着するゴミや海水温の変化を感じ、「なんだか変だな」と思う場面もある。 地震のリスクを周囲が騒いでも、「漁をやめるわけにいかないしな」と肩をすくめる。 日常シーン:夜明け前に出港、波の音を聞きながら漁を行い、夕方に帰港する一日。家では妻が「もし地震が来たら?」と不安を漏らしても、「そんときゃそんときだ」と豪快に笑う。
第二章:老人ホームと看護師
登場人物:真鍋 美月(まなべ みづき) 三保地区の老人ホーム「浜辺の灯」で働く30代の看護師。忙しく日々を駆け回り、高齢者のケアに全力を注ぐ。 施設の防災訓練で「もし大地震が起きたら、車椅子の人や寝たきりの方をどう避難させる?」と頭を悩ませるが、職員数が足りないのが現実。 利用者の中には**「昔ここで小さい地震を経験したが、今度大きいのが来るという噂が怖い…」**と怯える高齢者もいる。美月は優しく「大丈夫、一緒に逃げましょう」と励ますが、心の中では「本当に無事に逃げられるのか?」と不安が渦巻く。 日常シーン:昼間、利用者に食事を配りながら防災マニュアルを思い出し、自分だけでは足りないと感じたり、夜勤中にふと訪れる静寂の中で「次の揺れが来たらどうする?」と自問する。
第三章:大学生の迷い
登場人物:岡田 翔(おかだ しょう) 地元の短大に通う二年生。就活を控え、「地元に残るか、都会へ出るか」で迷う毎日。 学校の先生から「地震リスクを踏まえて、将来設計するのもありだよ」と言われたが、「地震を理由に町を出るなんて…」と腑に落ちない。親は「できれば近くに居てほしい」と言うが、都会への憧れも捨てがたい。 日常シーン:友人たちとの会話で「もし大地震が来たら逃げるしかない」「都心の方が対策が進んでるから安全かも」と無責任に盛り上がるが、翔は本気で悩んでいる。 彼にとって地震のリスクは漠然としたものでしかなく、何となく将来への選択に影を落としている。
第四章:主婦と家庭の不安
登場人物:大橋 理恵(おおはし りえ) 30代後半の主婦、夫は単身赴任で不在が多く、小学生の子2人を抱えている。 市の防災セミナーに参加したが、「実際に大地震が来たとき、夫がいないならどうしよう?」と不安が募る。 隣のママ友は「大丈夫よ、そんな大きなの来ないって」「私のマンションは耐震バッチリだから」と軽く流しているが、理恵は夜な夜なインターネットで地震対策や避難所情報を検索し、眠れない日々が続く。 日常シーン:朝、子どもたちを学校へ送り出すとき、「いざという時はこうして逃げてね」と話すが子どもは聞いてくれず、夫は「心配しすぎだよ」と電話で笑う。その孤独感が理恵の胸を締め付ける。
第五章:町全体の分裂と不安の増大
住民の中には、「地震保険や耐震改修」を実行する世帯と、「費用がない」「大丈夫」と動かない世帯があり、町内会は温度差でギクシャク。 行政は「必要最低限の避難所整備はしている」と言うものの、予算不足で大規模な防災計画は進まない。「大震災なんて来るかわからない」との声が強いからだ。 主人公たち(各視点で描かれる登場人物)は交差点のように会話を重ねる機会を持つ。漁師の坂口は老人ホームに魚を届け、美月と話し込む。理恵は老人ホームのボランティアをすることもあり、お互いが顔見知りになる。岡田は漁港でアルバイトし、坂口に将来の悩みを打ち明けたり。 このように日常が繋がりあい、それぞれが地震への認識を微妙に共有しながらも解決には至らず、どこか不安を抱えている。
第六章:地震の発生、一瞬で変わる日常
ある平日の午後、天気も良い日。 突如、強い揺れが町を襲う。揺れの大きさは想定外で、家屋や建物が崩れ、電気やガスが止まり、悲鳴が響く。津波警報も同時に発令され、漁師の坂口は沖に出ていたが港に帰れず恐怖を感じる。老人ホームでは美月が必死に寝たきり高齢者を守ろうとする。 岡田はアルバイト先で停電し暗闇の中、店の棚が倒れるのを食い止めながら避難を呼びかける。理恵は子どもが学校にいるため安否を気にして外に飛び出そうとするが道路が裂けている…。 わずか数十秒の揺れが町を壊滅状態にした。各視点で描かれてきた日常が一斉に崩れ去り、次の瞬間は生存をかけたサバイバルになる。
第七章:揺れの後に交錯する物語
地震直後、坂口は船で辛うじて沖合へ避難し、津波から逃れられたが、陸上がどうなったか分からない。ラジオで悲惨な報道を聞き、家族の顔を思い浮かべる。 美月は老人ホームで建物の一部が倒壊し、孤立状態。数人の同僚や住民と協力して重傷者を救護するが、食料や医薬品が足りず、外部支援がこない。 岡田は崩壊したアルバイト先で仲間を助け、やっと外に出たが、自宅を見に行くと半壊状態。家族は無事だが心細い。どう協力すればいいのか、町はパニック。 理恵は学校の安否が分からず、瓦礫(がれき)をかき分けながら必死に子どもを探す。途中、近所の人を救助し、ボランティア活動に巻き込まれ、子どもを探す時間がどんどん遅れる…。
エピローグ:再生への灯火
数日後、外部から救援が入り、町の様子が全国に報じられる。死者や行方不明者の数が増え、町は深く傷つく。 それでも人々は命が残った限り、助け合いを続ける。 漁師の坂口は船を使って海沿いの被災者を救助し、老人ホームの美月は崩壊した施設で最後まで患者を守り抜く。岡田は仲間と協力し、物資配給に奔走。理恵はようやく娘を発見、涙の再会を果たす。 この地震によってバラバラに見えた人々の物語が繋がり、「次の揺れ」を恐れつつも、生き残った人々が復興へ歩み出す姿が描かれる。 ラストシーン、町の瓦礫の中に差し込む朝日を見上げながら、それぞれが今後の生き方を考える。「地震はまた来るかもしれない。でも私たちはこの町で生きていく」——そんな一筋の希望を示し、物語は幕を閉じる。
(了)





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