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草薙の炎

  • 山崎行政書士事務所
  • 1月11日
  • 読了時間: 4分



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プロローグ:火と風のはざまで

朝焼けが淡いオレンジ色の空を染めて、草薙神社の鳥居をすり抜ける風が、すこしだけ生温い匂いを運んでくる。涼一は石段に座り込み、肩から息を吐きだしていた。山裾をうすい霧がかすめ、社殿の屋根が朝日に浮かぶ。そこには、見えない炎のようなものが揺らめいている気がした。

──幼い頃から、涼一は「火」にまつわる奇妙な感覚を持っていた。指先が熱を感じるだけでなく、まるで炎そのものに触れているかのように――それは時に彼をひどく怖がらせもしたが、同時に説明できない安心感も与えていた。

第一章:火災の夜と奇跡の力

夏の終わり頃、草薙神社の近くで大規模な火災が起こる。ぼやけた夜空に赤い光が染まり、街にはサイレンの音が響く。炎は予想以上の勢いで周囲に広がり、人々が避難する中、涼一は無意識のうちに灼熱の現場へ足を踏み入れていた。「なぜ、ぼくが……」自問する間もなく、熱気が肌を刺す。だが、彼の内なる力が燃え立つように反応し、まるで炎と対話をするかのように揺らめきが収まっていく。居合わせた人々は唖然としながら、涼一を見つめていた。激しい火が、まるで彼の意思に従うかのように形を変え、やがて静かに鎮まり始める。

第二章:草薙神社の秘密

その日から、涼一の周りには噂が渦巻き始める。「宮司の血筋には“炎を制御する力”があるらしいよ」「草薙剣が草を薙ぎ払ったように、炎をも操るんだとか……」どこまでが真実で、どこからがただの言い伝えなのかは分からない。だが、涼一の胸には焦燥にも似た感情が芽生える。自身の力の源が何なのか、確かめなくてはならない、と。

草薙神社の社務所に保管されている古い記録に、ほんの小さな手掛かりがあった。そこには**「炎は破壊であり、同時に再生の予兆」**とだけ書き残されている。「草薙剣が神話で草を薙ぎ払い、日本武尊を救ったように、そこには破壊と再生の二面性がある。もしかすると……」と涼一は呟く。

第三章:謎の勢力の影

火災が自然発火ではなく、“土地の力”を狙う謎の勢力によるものではないか――そんな話が小耳に挟まる。漁師や地元の商人たちが憶測を交わしている。「あの火は変だった」「誰かがあえて導火線を仕掛けたんじゃ?」さらに不自然なほど何度も町を訪れる黒いスーツ姿の男たち。彼らは涼一の行動を探るように視線を送り、まるで彼の力を利用しようとしているかのように見える。

港の明かりが夜の海面に揺らぐころ、涼一は漁港を背にして考える。「いったい何が進行しているんだ?」答えはまだ霧の中にあるが、彼の心の底では焔(ほのお)が蠢き、何か大きな選択を迫っていた。

第四章:炎を制する者

夜、涼一は神社の拝殿の階段に腰掛け、夕闇に浮かぶ山の稜線を見つめる。蝉の声の残響が耳の奥で微かに振動している。「ぼくは、どうしたらいいんだろう?」その問いに答えてくれる人は誰もいない。過去の記録にも、ただ「草薙剣の炎がもたらすのは破壊か、それとも救済か」と曖昧に記されているだけ。ふいに風が吹き、木々がざわついたかと思うと、炎に包まれた光景が目の奥にフラッシュバックする。人々を救ったはずの自分の力が、実は次なる破壊を引き寄せるかもしれない――そんな不安が涼一の心に影を落とす。

第五章:剣の正体

やがて、涼一は町の古老から草薙剣の更なる伝承を聞き出す。「草薙剣の本質は、炎を操る力じゃ。人間はその力を制御できると思うか? それとも飲み込まれるのかのう……」その言葉は、まるで涼一が進む道を問うようだった。数日後、涼一のもとに謎の勢力が直接接触してくる。彼らは**「あなたの力を手にしたい」**と巧妙に誘惑するが、涼一は断る。「これは自分だけの問題じゃない。草薙の町そのものが関わるんだ」と直感する。

結末:選択と炎の未来

最後の夜、草薙神社の境内で大きな儀式めいた衝突が起こる。炎が再び狂ったように燃え上がり、謎の組織の暗躍があわや町を巻き込むかと思われる――しかし涼一は立ち向かい、刃のように鋭い炎をその両手で制御し始める。それは究極の破壊をもたらすか、あるいは新たな再生へと誘う力なのか。涼一は静かに呼吸を整え、両目を閉じ、炎の意志と一体となる。一瞬の閃光のあと、炎は息を潜めるように消えていき、町は漆黒の闇に沈む。空には淡い星が浮かび、神社の木々がざわつきを止めた。何があったのか、詳しく知る者は少ない。けれど、草薙の炎は確かに涼一の手によって制され、町は再び夜の静寂を取り戻す。

その夜明け、涼一は一人、神社の階段に腰を下ろし、東の空を染める薄紅を見つめていた。「炎は人を傷つけもするし、救いもする」――彼はそう呟く。町には小鳥の声が広がり、遠くの山並みには朝霧が昇っている。炎の残り香は、もうどこにもない。ただ、涼一の心の中に、草薙剣の力と伝説の重みが深く刻み込まれたまま、朝の光の中に溶けていくのだ。

 
 
 

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