The Fusion–Fission Hybrid as a “Tritium Hub”燃料・廃棄物の統合管理によって世界の核融合移行を加速する二重炉の経済的価値
- 山崎行政書士事務所
- 5月5日
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要旨
私は、2050年の核エネルギー市場における融合・分裂ハイブリッド炉、すなわち「二重炉」の本質的価値は、発電量そのものではなく、核融合炉の立ち上げに必要なトリチウムを供給し、同時に既存核分裂炉由来のマイナーアクチニドを処理する燃料・廃棄物インフラとして機能する点にあると考える。純粋核融合炉は、運転中にはリチウムブランケットでトリチウムを自己増殖することを目指す。しかし、自己増殖は「炉が既に安定運転している」ことを前提とする。問題は、その前に必要な初期トリチウム在庫である。トリチウムは半減期12.33年の放射性水素同位体であり、時間とともに年約5.5%ずつ実効在庫が失われる。カナダ原子力安全委員会は、トリチウムが放射性水素同位体であり、物理的半減期が12.33年であると説明している。
私の中心仮説は、次である。二重炉は、純粋核融合炉と競合する発電所ではない。二重炉は、純粋核融合炉を増やすための「トリチウム・ハブ」である。 すなわち、二重炉は、サブクリティカル核分裂ブランケットでマイナーアクチニドを燃焼・核変換しながら、リチウム増殖領域で余剰トリチウムを生産・精製・計量・貯蔵し、外部の純粋核融合炉へ初期燃料として供給する。これにより、二重炉は「発電所」から「核融合時代の燃料工場・廃棄物処理工場・戦略備蓄機関」へ再定義される。
1. 問題設定:2050年の制約資源は電力ではなくトリチウムである
2050年の低炭素電力市場では、原子力の役割が再評価されている。IEAは、世界的に原子力容量を2050年までに3倍にする多国間イニシアチブが立ち上がったこと、原子力への年間投資が2020年以降の3年間で約50%増加し600億米ドルを超えたことを報告している。
同時に、核融合も研究装置から産業政策の対象へ移行している。米DOEの2025年Fusion Science and Technology Roadmapは、商用核融合実現に必要な中核技術領域として、構造材料、プラズマ対向機器、閉じ込め系、燃料サイクル、ブランケット、プラント工学・統合を挙げている。特に燃料サイクルとブランケットが独立した重点領域として扱われていることは、核融合のボトルネックが炉心物理だけではなく、トリチウムを含むプラント統合へ移ったことを示している。
私はここで、核融合実用化を「発電炉の建設問題」ではなく、トリチウム流動性の問題として捉え直す。石油経済では、油田だけでなく備蓄、精製、輸送、先物市場、戦略在庫が必要である。同様に、D-T核融合経済では、トリチウムを「炉内で生まれる燃料」と見るだけでは不十分である。トリチウムは、起動前に必要であり、輸送・貯蔵中に減衰し、漏えい・透過し、計量誤差を生み、国際取引や核不拡散上の制約を受ける。したがって、2050年の核融合市場で本当に希少なのは、発電設備容量ではなく、信頼できるkg単位のトリチウム供給能力である。
2. 現状の問題点
2.1 純粋核融合炉は「最初の一炉」を超えてから詰まる
純粋核融合炉は、運転中にトリチウムを自己増殖する構想である。しかし、自己増殖炉であっても、起動前には外部から初期トリチウムを投入しなければならない。Pearsonらのトリチウム供給解析では、2.4GWth級DEMO炉について、燃焼率5%、トリチウム処理時間1時間、TBRが1を上回る高度な条件でも、全出力起動には約8kgのトリチウムが必要とされ、技術進展が不十分な場合には単一DEMO起動で最大50kg規模に達し得るとされている。さらに、複数のDEMO計画が並行すれば、CANDU由来トリチウム供給では不足する可能性がある。
これは極めて重要である。なぜなら、純粋核融合炉の長期運転時のトリチウム自給性と、最初にその炉を点火するためのトリチウム調達能力は別問題だからである。ある国が「自己増殖可能な核融合炉」を設計しても、その炉を起動する数kgから数十kgのトリチウムを持たなければ、発電所は紙の上の資産に留まる。
近年の政策論説では、カナダのCANDU炉群が最大で年2kg程度のトリチウムを生産し、価格が1gあたり3万米ドル程度とされる一方、世界在庫は約20kg規模にすぎず、ITER消費後には2055年頃に14kg程度へ減少し得るとの見積もりも提示されている。これは査読済み経済モデルではなく政策分析として読むべきだが、トリチウムが既に普通の燃料商品ではなく、戦略物資化していることを示す。
2.2 燃料サイクルはまだ「発電所の周辺設備」ではなく未成熟な主機器である
F4E/EUROfusionの2025年Fuel Cycle Technology Mapping Reportは、磁場閉じ込め核融合では注入燃料のうち燃える割合が最大でも数%にとどまり、未燃D-Tを排気・分離・精製・再投入する技術が必要であると整理している。同報告書は、現在の燃料処理が大きなトリチウム在庫を動員し、そのため大きな初期在庫が必要になること、さらに燃料サイクルには貯蔵、ブランケット由来トリチウム処理、空気・水の除染、トリチウム測定・アカウンタンシーが必要であると述べている。
私は、この点を極めて重く見る。核融合炉のトリチウム問題は、単に「TBRを1より大きくする」問題ではない。発生したトリチウムが、どこに、どの化学形態で、何時間または何日滞留し、どの精度で計量され、どの損失率で燃料系へ戻るかが本質である。F4E/EUROfusionは、トリチウムが燃料サイクル内の多数のサブシステムや処理機器に部分的に保持されるため、精密な在庫管理と信頼できる測定技術が必要であるとも指摘している。
つまり、純粋核融合炉の商用化は、「炉心で燃えた」瞬間ではなく、トリチウムを漏らさず、失わず、数値で説明できた瞬間に始まる。私は、この燃料サイクルの産業化を単一の純粋核融合炉に任せるのは危険だと考える。むしろ、核融合産業全体が共用できるトリチウム・ハブを先行整備すべきである。
2.3 核分裂側には、処理しなければならない巨大なバックエンド資産がある
世界には既に巨大な使用済燃料・放射性廃棄物の在庫がある。IAEAの2025年版Status and Trends報告は、2019年末時点を中心とするデータに基づき、世界の使用済燃料在庫を約301,000 tHM、固体放射性廃棄物総量を約3,200万m³と推定し、体積では低レベル・極低レベル廃棄物が大半である一方、放射能量では中レベル・高レベル廃棄物が約95%を占めると整理している。
マイナーアクチニドは、使用済燃料全体の中では小さな質量割合であっても、長期放射毒性・発熱・処分場設計に大きく効く。JAEAも、アメリシウムやキュリウムなどのマイナーアクチニドを、強い放射毒性と極めて長い半減期を持つ核種群として説明し、体積・有害度低減のために分離・回収・核変換研究を進めている。
したがって、核分裂側には「燃やせるが扱いにくい核廃棄物」があり、核融合側には「燃やしたいが初期燃料がない」という問題がある。私は、この二つの問題を別々に解くのではなく、二重炉によって同じ中性子経済の中で結合するべきだと考える。
3. 二重炉の再定義:発電所ではなく「トリチウム・ハブ」である
融合・分裂ハイブリッド炉は、一般に、融合コアを中性子源とし、その周囲にサブクリティカル核分裂ブランケットを配置するシステムである。米国のハイブリッド炉研究ニーズ報告は、ハイブリッドを「融合コアに囲まれた、ではなく、融合コアを中心に核分裂ブランケットを置くサブクリティカル原子炉」と定義し、融合コアが独立した中性子源として核分裂ブランケットを未臨界状態で動作させると説明している。
従来、二重炉は「核融合が難しいから核分裂の助けを借りて発電する中間技術」と見られがちだった。しかし私は、この見方は二重炉の経済価値を過小評価していると考える。二重炉は、純粋核融合炉より安い電気を売る必要はない。二重炉は、次の四つのサービスを同時に売るインフラである。
第一に、トリチウムを生産・精製・計量・備蓄・供給する燃料サービス。第二に、マイナーアクチニドを受け入れ、核変換し、廃棄物管理負担を下げるバックエンドサービス。第三に、サブクリティカル核分裂ブランケットから熱・電力を取り出すクリーン電力サービス。第四に、純粋核融合炉の立ち上げ時期を早めるオプション価値サービス。
EPJ Nuclear Science & Technologyの2023年論文は、融合・分裂ハイブリッド炉を、核融合反応で生じる中性子に駆動されるサブクリティカル核分裂炉として整理し、発電、廃棄物核変換、トリチウム増殖、核燃料生産に用い得ると述べている。同論文は、サブクリティカルであること、幅広い核燃料を使えること、未臨界条件によりブランケット設計の柔軟性が高いことを利点として挙げている。
ここで私が提案する概念は、Tritium Hub Reactor、すなわちトリチウム・ハブ型二重炉である。これは、単にTBRを1以上にする炉ではない。自炉の燃料需要を満たしたうえで、外部の純粋核融合炉へ輸出できるトリチウムを、認証済み在庫として生産する炉である。
4. 経済モデル:LCOEではなく「核融合移行加速価値」で評価する
通常の発電所は、LCOE、設備利用率、建設費、燃料費で評価される。しかし、トリチウム・ハブ型二重炉をその枠だけで評価すると、本質を見失う。私が提案する評価式は次である。
NPVhub=Relectricity+Rtritium+Rwaste+Rcapacity+Rtransition−Ccapex−Copex−Csafety−CsafeguardsNPV_{\mathrm{hub}} = R_{\mathrm{electricity}} + R_{\mathrm{tritium}} + R_{\mathrm{waste}} + R_{\mathrm{capacity}} + R_{\mathrm{transition}} - C_{\mathrm{capex}} - C_{\mathrm{opex}} - C_{\mathrm{safety}} - C_{\mathrm{safeguards}}NPVhub=Relectricity+Rtritium+Rwaste+Rcapacity+Rtransition−Ccapex−Copex−Csafety−Csafeguards
ここで最も新しい項は、RtransitionR_{\mathrm{transition}}Rtransition、すなわち核融合移行加速価値である。これは、トリチウム不足によって純粋核融合炉の商業運転が遅れることを回避する価値である。
D-T反応の1回あたりエネルギーは17.6MeVである。これから計算すると、1GWthの核融合出力を1年間維持するには、約56kgのトリチウムが燃焼する。政策論説でも、1GW級核融合炉が年約55kgのトリチウムを必要とするとの値が示されている。
ただし、商用炉の本質的な外部需要は、運転中に燃やす全量ではない。自己増殖が成功するなら、運転中の燃焼分は炉内で再生される。外部市場で問題になるのは、初期在庫、燃料サイクル内滞留、予備在庫、損失補填、次号機起動用の余剰在庫である。
私は、トリチウム・ハブの価値を次の指標で測るべきだと考える。
YTexport=(TBRnet−1−ϵloss−ϵreserve)M˙T−ΔIhubY_T^{\mathrm{export}} = \left(TBR_{\mathrm{net}}-1-\epsilon_{\mathrm{loss}}-\epsilon_{\mathrm{reserve}}\right) \dot{M}_T - \Delta I_{\mathrm{hub}}YTexport=(TBRnet−1−ϵloss−ϵreserve)M˙T−ΔIhubLT=YTexportIstartpureL_T = \frac{Y_T^{\mathrm{export}}}{I_{\mathrm{start}}^{\mathrm{pure}}}LT=IstartpureYTexport
ここで、YTexportY_T^{\mathrm{export}}YTexport は外販可能トリチウム生産量、IstartpureI_{\mathrm{start}}^{\mathrm{pure}}Istartpure は純粋核融合炉1GWeあたりの初期トリチウム需要、LTL_TLT は一基のハブが年間に起動可能にする純粋核融合容量である。
例えば、0.5GWthの融合中性子源を持つ二重炉が、設備利用率75%、実効余剰TBR 0.20、すなわち自炉需要を超えて20%相当を外販できる設計であれば、トリチウム燃焼量は年約21kg、外販可能量は年約4.2kgとなる。純粋核融合炉の初期在庫を5kg/GWeと仮定すれば、この一基のハブは、ほぼ年1GWeの純粋核融合炉立ち上げを可能にする。初期在庫が10kg/GWeであれば、二年で1GWeを起動する規模である。
この価値は、トリチウムの現物価格だけでは測れない。仮に1GWeの純粋核融合発電所が、設備利用率85%、電力単価80米ドル/MWhで運転できるなら、年間売上は約6億米ドルである。5kgの初期トリチウムが不足して5年間遅れる場合、失われる売上機会は約30億米ドルになる。すると、トリチウム1kgの移行加速価値は、単純な燃料価格ではなく、数億米ドル/kg級のオプション価値を持ち得る。これは概念計算であり実価格ではないが、トリチウムは燃料ではなく、核融合発電所の商業運転権を開く鍵であることを示す。
5. 二重炉が担うべき三つの市場
5.1 トリチウム市場:売買ではなく「貸与・返済・備蓄」の市場にする
私は、トリチウムを単純なスポット商品として扱うべきではないと考える。トリチウムは半減期を持ち、漏えいリスクがあり、軍事転用上の機微性を持ち、国境を越える取引には規制がかかる。したがって、二重炉ハブが担うべき市場は、トリチウム販売市場ではなく、トリチウム初期在庫貸与市場である。
純粋核融合炉は、初期起動時にハブから5〜10kg規模のトリチウムを借りる。運転が安定し、自炉ブランケットで余剰を生み始めたら、同量または減衰補正後の同等量をハブへ返済する。これは金融で言えば、燃料ローンであり、エネルギー版の中央銀行制度である。私はこれをTritium Reserve Bankと呼ぶ。
この制度では、kg単位の現物トリチウムだけでなく、kg-T-year、つまり減衰を考慮した有効トリチウム在庫単位で会計処理する必要がある。半減期12.33年のトリチウムは、在庫として持つだけで価値が毎年約5.5%低下するためである。
5.2 廃棄物市場:マイナーアクチニドを「負債」から「中性子需要資源」へ変える
マイナーアクチニドは、通常の核燃料サイクルでは厄介な長期負債である。しかし、二重炉では、融合中性子で駆動されるサブクリティカル環境により、通常の臨界炉では扱いにくい燃料組成にも設計自由度が生まれる。近年のARCベースのハイブリッド解析でも、再処理燃料を核変換層へ入れ、MCNPとMONTEBURNSを用いてTRU/Th酸化物燃料および窒化物燃料を比較し、窒化物系がマイナーアクチニド核変換で有利になり得るとの結果が示されている。
ただし、私はここで過大な主張はしない。二重炉は地層処分を不要にする魔法の装置ではない。米国ハイブリッド炉報告も、ハイブリッドの経済評価は単体ではなく、廃棄物管理、燃料供給、発電を含むシステム全体で比較すべきだと述べている。また同報告は、ハイブリッドが純粋核融合炉や軽水炉より複雑になり得ることを明確に指摘している。
したがって、廃棄物市場での二重炉の価値は、「廃棄物を消す」ことではない。価値は、最も処分場設計を支配する核種群を選択的に減らし、処分場の熱設計・長期リスク・社会的受容性を改善することにある。これは、トリチウム外販と組み合わせて初めて、二重炉の経済性を支える収益柱になる。
5.3 電力市場:主収益ではなく、ハブ運営を支える安定収益にする
二重炉は発電もできる。しかし私は、二重炉を「最安LCOE発電所」として市場投入する戦略には懐疑的である。融合コア、サブクリティカル核分裂ブランケット、トリチウム設備、再処理・核変換施設、厳格な保障措置を一体化するため、単純な発電所として見れば高コストになりやすい。
むしろ、電力収益はハブ運営の安定キャッシュフローと位置付けるべきである。主価値は、トリチウム供給、廃棄物受け入れ、容量価値、核融合移行加速価値である。これは、空港が旅客運賃だけでなく、物流、保税倉庫、燃料供給、整備、着陸枠で価値を持つのと同じである。
6. 技術設計:必要なのは「TBR」ではなく「輸出可能TBR」である
トリチウム・ハブ型二重炉で最重要の設計指標は、単なるTBRではない。私は、次の指標を導入する。
eTBR=Trecovered,qualified,exportableTburnedeTBR = \frac{T_{\mathrm{recovered,qualified,exportable}}} {T_{\mathrm{burned}}}eTBR=TburnedTrecovered,qualified,exportable
ここで重要なのは、分子が「生成されたトリチウム」ではなく、回収され、精製され、品質保証され、輸送・貸与可能なトリチウムである点である。ブランケット内で発生しても、構造材に保持され、冷却材に溶け、計量不能な場所に滞留し、規格外同位体比で出てくるトリチウムは、経済的には外販可能在庫ではない。
このため、二重炉ハブのブランケットは二層構造にすべきである。
第一層は、マイナーアクチニド核変換を担う高速中性子・サブクリティカル層である。ここでは、核分裂出力、発熱、燃焼度、FP蓄積、未臨界度、冷却、燃料交換性を管理する。
第二層は、リチウムを主体とするトリチウム増殖・抽出層である。ここでは、マイナーアクチニド燃焼とは独立に、トリチウム回収率、透過抑制、酸化・除染、同位体分離、オンライン計量を最適化する。
この二層を混ぜすぎると、核変換性能、TBR、熱流動、腐食、トリチウム滞留、安全解析が互いに干渉し、設計が破綻する。私は、二重炉ハブの最初の世代では、「最高の中性子利用効率」よりも「計量できるトリチウム」と「説明できる安全ケース」を優先すべきだと考える。
7. 社会実装:トリチウム・ハブは国際公共財として管理すべきである
二重炉ハブは、民間発電所としてだけでは成立しにくい。理由は、収益の大きな部分が社会的便益だからである。廃棄物処分負担の低減、純粋核融合炉の立ち上げ加速、戦略トリチウム備蓄、エネルギー安全保障は、通常の卸電力市場では十分に価格付けされない。
したがって、私は、トリチウム・ハブを次の契約束で支えるべきだと考える。
第一に、純粋核融合事業者との長期トリチウム・オフテイク契約。これは販売契約ではなく、初期在庫貸与・返済契約を含む。
第二に、核分裂発電事業者または廃棄物管理機関とのマイナーアクチニド受け入れ契約。これは処理量、核変換率、残渣品質、最終処分区分を明示する。
第三に、送電事業者・需要家との容量価値契約。二重炉は安定電源であり、AIデータセンターや産業熱需要に対する長期供給契約を組み合わせられる。
第四に、政府または国際機関によるトリチウム戦略備蓄契約。これは石油備蓄に相当する制度であり、kg-T-year単位で備蓄義務と減衰損失補填を設計する。
第五に、保障措置・輸送・計量の国際標準化。二重炉は、トリチウムと核分裂性物質の両方を扱うため、通常の純粋核融合炉よりも厳しい規制・監視が必要になる。
ここで避けて通れないのが核不拡散である。米国ハイブリッド炉報告は、ハイブリッドが個別に会計管理された燃料棒に保持されない核分裂性物質を大量に生み得るため、重大な核不拡散上の懸念を持つと指摘している。また、再処理・流動燃料・巨大トリチウム在庫はいずれも転用リスクを増やす。
このため、私は、トリチウム・ハブは完全な民間自由市場ではなく、国際保障措置付きの準公共インフラとして設計すべきだと考える。これは弱点ではなく、むしろ事業価値の源泉である。安全に計量され、監査され、国際的に信頼されるトリチウムだけが、2050年の核融合市場で真に流動性を持つからである。
8. 解決策:研究開発ロードマップ
8.1 2030年代前半:トリチウム会計・抽出・輸送の標準化
最初に必要なのは、炉ではなく会計である。トリチウム・ハブを作る前に、トリチウムの生成、滞留、透過、漏えい、容器詰め、輸送、受け渡し、返済を統一的に扱うデジタル台帳が必要になる。F4E/EUROfusionが指摘するように、燃料サイクル全体で高度なトリチウム在庫管理と高精度測定が必要である。
私は、この段階で「Tritium Passport」を制度化すべきだと考える。各トリチウムバッチについて、同位体純度、生成ブランケット、精製履歴、測定不確かさ、容器、減衰補正、輸送履歴、使用先、返済義務を記録する。これは化学品のSDS、核物質計量管理、金融証券台帳を統合したような仕組みである。
8.2 2030年代後半:非発電トリチウム・ブランケット実証
次に、融合出力を用いない、または小規模中性子源を用いたブランケット・燃料サイクル実証を行う。ここでは、TBRではなくeTBRを測る。発生量ではなく、回収量、品質、計量精度、滞留時間、漏えい率、保守時の残留在庫を測る。
この段階の成果物は論文だけではない。配管仕様、フランジシール、透過バリア、オンライン水中トリチウム計、空気除染設備、非常時移送タンク、在庫台帳、監査手順書である。
8.3 2040年代:小型サブクリティカル核変換カセットとの結合
その後、マイナーアクチニドを含むサブクリティカル核変換カセットを結合する。この段階では、熱出力を最大化しない。目的は、未臨界度、核変換率、発熱分布、FP処理、残渣分類、保障措置を実証することである。
私は、最初のハブで「廃棄物を大量に燃やす」ことを目標にすべきではないと考える。最初の目標は、マイナーアクチニドを含む燃料を、規制当局と廃棄物管理機関が受け入れられる形で、計量し、照射し、取り出し、残渣分類できることを示すことである。
8.4 2050年前後:商用トリチウム・ハブ
最終的な商用ハブは、純粋核融合炉群の近く、または既存原子力サイト・再処理施設・廃棄物管理施設に近い場所に設置すべきである。ここでは、発電、トリチウム貸与、マイナーアクチニド処理、容量価値を束ねた事業モデルが成立する。
この時点で、二重炉は「核融合が完成するまでの中継ぎ」ではなくなる。むしろ、純粋核融合炉が増えれば増えるほど、初期在庫、燃料返済、廃棄物管理、トリチウム備蓄の需要が増え、ハブの価値は上がる。
9. 反論と限界
私は、二重炉を過度に理想化すべきではないと考える。第一に、融合と核分裂を同じ施設に置くことは、安全解析を単純化しない。米国ハイブリッド炉報告は、融合炉は一般に安全と考えられ、サブクリティカル核分裂炉も臨界炉より安全性上の利点を持ち得る一方、融合と核分裂を一施設で混合すると新たな安全課題が生じるため、概念ごとに事故起因事象と影響を評価する必要があると述べている。
第二に、マイナーアクチニド分離・燃料製造・再処理は、化学的にも放射線的にも難しく、核不拡散上の懸念を伴う。第三に、トリチウム外販は、各国の安全保障政策、輸出管理、核物質管理制度に左右される。第四に、eTBRを高くする設計は、ブランケット厚さ、冷却、遮蔽、保守、材料劣化と衝突する。
それでも私は、二重炉ハブを検討する価値は大きいと考える。なぜなら、純粋核融合だけで世界の核融合移行を進めようとすると、各炉が自分の初期在庫を個別に確保し、個別に燃料サイクルを成熟させ、個別にトリチウム損失リスクを負うことになるからである。それは、すべての空港が独自に製油所と燃料備蓄を作るような非効率である。
10. 結論
私は、融合・分裂ハイブリッド炉を「二つの炉型を組み合わせた複雑な発電所」としてではなく、2050年の核融合市場を成立させるトリチウム・ハブとして再定義すべきだと結論づける。
純粋核融合炉の最大の弱点は、発電中にトリチウムを燃やすことではない。最大の弱点は、最初に炉を点火し、燃料サイクルを満たし、次号機を立ち上げるための初期トリチウム在庫である。CANDU由来トリチウム供給は限定的で、時間とともに減衰し、複数国・複数民間企業のDEMO・商用炉計画が並行すれば、kg単位の在庫をめぐる競争が起きる。
一方、核分裂側には、マイナーアクチニドを含む高レベル廃棄物という長期課題がある。二重炉は、融合中性子を用いてサブクリティカル核分裂ブランケットを駆動し、その過程で廃棄物核変換、熱生産、トリチウム増殖を同時に行える可能性を持つ。近年の研究は、再処理燃料を用いたARCベースのハイブリッド解析や、FFHRにおけるマイナーアクチニド核変換解析を通じて、この方向の研究価値を示している。
私の独自の提案は、二重炉の価値をLCOEで測るのではなく、Tritium Transition Multiplier、すなわち「一基のハブが年間にどれだけの純粋核融合炉容量を起動可能にするか」で測ることである。二重炉が年5kgの外販可能トリチウムを供給し、純粋核融合炉の初期需要が5kg/GWeなら、そのハブは年1GWeの核融合導入を可能にする。これは発電所の売電価値ではなく、核融合産業全体の拡張速度を決めるインフラ価値である。
したがって、私が提案する研究テーマは次である。
The Fusion–Fission Hybrid as a Tritium Hub: Accelerating the Global Fusion Transition through Integrated Fuel and Waste Management.
この論文の核心は、二重炉を「核融合と核分裂の折衷案」と見ることではない。二重炉を、トリチウム不足、マイナーアクチニド処理、核融合炉初期在庫、燃料サイクル標準化、国際備蓄を同時に扱う核融合時代の社会インフラとして位置づけることである。
核融合社会への移行を本当に加速するのは、最初に最安の核融合電力を売る炉ではない。最初に、他の核融合炉を何十基も起動できるトリチウムを、安全に、計量可能に、国際的に信頼される形で供給できる炉である。私は、その役割を担う最有力候補が、トリチウム・ハブ型二重炉であると考える。





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