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プリンアラモードと最後の言葉

  • 山崎行政書士事務所
  • 1月12日
  • 読了時間: 5分
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第一章:祖父の遺言

 新静岡セノバのカフェは、活気ある商業ビルの中にありながら、どこかくつろぎのオアシスのような雰囲気を漂わせている。丸テーブルがいくつも並ぶ空間で、行き交う人々は忙しないが、ふと甘い香りが鼻をくすぐると足を止める。 そのカフェで毎週プリンアラモードを食べていた一人の老人が、最近亡くなった。――彼は**優真(ゆうま)の祖父だ。優真は祖父を失った喪失感を抱えながら、祖父が遺した遺言状を開いて驚く。そこには、「プリンアラモードを再現してほしい」**という奇妙な依頼が記されていた。 いったい何のことだろうか? それほどまでに祖父はあのカフェのプリンアラモードを愛していたということか。それとも、もっと別の意味があるのだろうか。戸惑いと疑問を胸に、優真は遺言の続きを読み進める。

第二章:祖父の通っていたカフェ

 遺言にはさらに、祖父が通っていたカフェの名と、そこでの出来事を示すような断片的なメモが残されていた。カフェは**「Aqua Leaf」という名前。新静岡セノバの上階にあるが、もともとは戦後まもなく別の場所で開店した古い店を前身としているらしい。 優真はそのメモを頼りに、祖父の足取りを追おうと心に決める。なぜなら、「プリンアラモードを再現してほしい」**なんて言う祖父の気持ちが、どうしても知りたかったからだ。彼の人生で、あのデザートがどんな位置づけだったのか……。 カフェを訪れると、スタッフが「ああ、あのご老人ですか」と穏やかな笑みで語ってくれた。毎週日曜の午後に決まってやって来て、決まってプリンアラモードを頼み、しみじみと味わっていたという。時折スタッフに昔の話をしてくれたが、詳しいことまでは語らなかったらしい。

第三章:家族の思い出と地域の歴史

 自宅の整理をしていると、祖父が残していたアルバムからいくつかの写真が出てきた。そこには、若き日の祖母と祖父が笑顔で映っており、テーブルに置かれた皿にはフルーツとプリンのようなもの……。 「昔からプリンアラモードが好きだったんだ」と優真は少し胸が熱くなる。アルバムの片隅には、祖父が若い頃に撮ったらしい街の写真や、新静岡駅周辺の昔の様子を記録したメモも挟まっている。どうやら、祖父はこの街の移り変わりや、カフェの歴史をずっと見守ってきたらしい。 さらに、優真はある図書館の郷土資料室で、古い雑誌記事を見つける。そこには戦後の静岡の復興期において、Aqua Leafの前身となる喫茶店が人気を博した話と、**「プリンアラモードが街の人々を和ませた」**という小さなコラムが載っている。 祖父と祖母もその喫茶店の常連だったのだろう。もしかすると、二人の思い出の味というだけでなく、この街の変遷をともに歩んだ大切な存在だったのではないか——そう思うと、優真の目にじんわり涙が浮かぶ。

第四章:味を再現する試み

 「プリンアラモードを再現する」。その言葉がどれほど大変なことか、優真は想像がつかなかった。しかし、祖父の遺言を読めば読むほど、「きっと祖父は、僕に何かを伝えたかったんだ。だから挑戦しなきゃ」と気持ちが固まっていく。 まずはAqua Leafのパティシエに相談してみる。現在のレシピは、戦後の時代とは改良が加えられているかもしれないが、何かヒントが得られるかもしれない。 しかし、パティシエは「その頃の正確なレシピは残っていないんです。昔から数回のオーナー交代やメニュー改訂がありましたから……」と申し訳なさそうに答える。 でも、記憶や残された日記などをもとに、「こんな感じじゃないか」と一緒に試行錯誤を始めてくれる。優真は慣れないながらも厨房でスポンジケーキを切り、フルーツの盛り付けを考え、プリンの硬さを調整して……。まるで一つの芸術作品を作るような気持ちで向き合う。

第五章:祖父の最後の言葉

 試作を続けるうち、優真は不思議な感覚にとらわれる。「何かを思い出しかけている」……。それは、幼い頃に祖父に連れられて行った公園や、古い家屋が立ち並んでいたあの頃の街のイメージだ。祖父の穏やかな笑顔と重なり、胸が締めつけられる。 そして遺言の最後に書かれていた一文が頭をよぎる。「このプリンアラモードが、おまえを未来へ導いてくれる」 未来へ——。つまり、過去を懐かしむだけじゃなく、この味を次の世代にも残すことで街の歴史を繋いでいく、という意味かもしれない。祖父はずっと、それを願っていたのだろうか。

第六章:完成した一皿

 幾度かの失敗を経て、ようやく**「これだ!」という一皿が完成する。プリンは少し硬めで、卵感の濃さとバニラの優しい香りが特色だ。カラメルはほろ苦さをしっかり残し、フルーツの盛り付けは甘さと酸味のバランスを重視。生クリームは甘さ控えめで、全体の調和をとる。 味見をすると、優真は涙が出そうになる。「懐かしさと新しさ」が同居している。まるで祖父が傍らで「そう、それが僕たちの味だ」と笑顔で言ってくれているような気がする。 そして、そのプリンアラモードをAqua Leafのメニューに一時的に載せる試みが行われる。店にやってきた年配客たちが、「これは昔の喫茶店の味にそっくり」と目を潤ませ、「懐かしいねぇ」「あの頃を思い出すよ」と口々に喜ぶ様子を見て、優真は胸がいっぱいになる。

第七章:受け継ぐもの

 こうして、**「プリンアラモードを再現してほしい」という祖父の遺言は、優真の手で見事に果たされたように思えた。だが実際は、ただ一皿を作っただけではなく、祖父が残そうとしたものは「家族の思い出や街の歴史、そして未来へ繋ぐ心」だった。 ある夜、優真は祖父が生前書き留めていたノートをめくり、「街は変わっても、人々が思い出の味を作り続ければ、そこに人と人の繋がりが生まれる」という言葉を見つける。ああ、これが祖父の「最後の言葉」だったのかもしれない、としみじみ感じた。 街を歩けば、ビルが建ち並び、古い店は少しずつ消えていく。それでも「プリンアラモード」**という小さな一品が、記憶の糸を繋ぎとめ、思い出を生き続けさせるのだろう。優真はそう信じて、この街を再び見つめる。 今、新静岡セノバの夜景がきらめき、カフェの灯が温かく揺れる。その中に、人々の想いと歴史が柔らかに息づいている――。そして優真はあらためて、自分の人生をも見つめ直す勇気を得ていた。 「明日もまた、この街でプリンアラモードを作り続けたい。それが、僕の新しい一歩になるはず」——そう胸に刻みながら、優真はカフェの扉をそっと閉じる。

 
 
 

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