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三人の店員と一枚のブランケット

  • 山崎行政書士事務所
  • 1月13日
  • 読了時間: 6分



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第一章:出逢いのブランケット

静岡駅前の高級ブランドショップ「ラ・ファブル」。クリアなガラス扉の向こうからは、上品な照明と並々ならぬオーラが漂ってくる。会社員の修平(35歳)は、結婚記念日の贈り物として高級ブランケットを探しにやってきた。

店に入ると、まず出迎えてくれたのは落ち着いた雰囲気の三浦。「いらっしゃいませ。今日はどのようなものをお探しでしょう?」柔らかい口調で微笑む三浦に、修平は思わず緊張がほぐれる。「実は妻へのプレゼントで……ブランケットを見たいのですが」「かしこまりました。こちらが最新のコレクションです」三浦はブランケット一つひとつの由来や素材を丁寧に説明し、「特別な贈り物に最適です」と、まるで物語を語るように話す。修平はその優しさに心惹かれる一方、買うかどうか迷いが残る。

そこに別の店員、宮本が割って入るように登場した。「今シーズン一番人気はこれですね。ブランドのメインビジュアルにも使われていて、早期完売が予想されます」はっきりと割り切った営業トークに、修平はちょっと押され気味。「なるほど……でも、もう少し他も見てみたいです」宮本は流れるような手つきで布を広げ、「これが一番ブランド力をアピールできます。プレゼントなら喜ばれること間違いなしですよ」と畳みかける。

さらに、三人目の店員・杉山が奥からスッと現れた。「そういう決断は実物を見ないとわからないですよね? もしよければ、こちらのソファで実際に掛けてみては」積極的な提案に、修平は驚く。杉山はブランケットを実際に修平へ肩からかけてみせ、「こんな感じに肌触りや色味を確認するといいですよ」とすすめる。その行動力に、修平は思わず笑みをこぼし「確かに、イメージが湧きますね」と納得した。

三人三様のアプローチに戸惑いながらも、修平は最終的に杉山の提案したブランケットを購入することに決める。肌触りと色合いが妻にぴったりだと感じたのだ。

第二章:ブランドに潜む謎

後日、家でブランケットを広げていた修平は、裏側に小さなタグが隠されているのを見つけた。そこには見慣れない文字と「プロトタイプ」の印字が。まるで試作品か特別モデルのようだ。「普通に売られてる商品じゃなかったのか……?」疑問がわき上がった修平は、再び「ラ・ファブル」を訪れる。対応したのは宮本だった。「“プロトタイプ”ですか? それは展示会用のサンプルかもしれませんね。ですが問題ありません。製品としては完成度が高いはずです」宮本は冷静にそう言うと、店長に確認してくると告げ、奥へ引っ込む。戻ってくるまでの間、修平は店内を見回していたが、どこか張り詰めた空気を感じる。

突然、三浦が修平にそっと近づき、小声で話しかける。「実はこのブランド、サプライチェーンの一部が公にされていないんです。労働環境や原材料の問題が取り沙汰されていて……私も気になっていました」修平は思わず息を呑む。「そんな話があるんですか? じゃあ、このブランケットも……?」三浦はうつむきながら、「まだ確証はありません。でも……お客様が心配されるのも無理ないです」と言葉を濁した。

第三章:店員たちの葛藤

やがて杉山が現れ、修平を見つけると声を掛ける。「あのブランケット、気に入っていただけましたか?」修平は素直に答える。「使い心地は最高ですが、何かブランドの“秘密”を感じてしまって……。実は『プロトタイプ』のタグが……」杉山はその場でポンと手を叩き、「なら、はっきりしよう」と売り場の真ん中で言い出した。「実は私も、ブランドの透明性に疑問を持っていました。目の前の客を優先すべきか、ブランドイメージを守るべきか、いつも悩んでいた。けど、やっぱりお客様を騙すようなことはしたくない」杉山の率直な想いに、修平は驚く。店長や上層部はどう考えるだろう。客の前でそんなことを話せば、店の方針に背くように思えるが、杉山はまるで開き直ったような勢いだった。

宮本が戻ってきて、渋い顔で言う。「店長は『展示会のサンプルが混在しただけで問題なし。お客様が満足しているならOK』と。一応はそういう話に落ち着きそうです」その冷淡な口ぶりに、杉山が反発。「都合良く隠して終わりにするんですか? こんな大事なこと。ブランドの信用に関わるでしょう」宮本は目をそらす。「働く側としては、売上を落とせないし、店の評価を維持するのが仕事ですからね。あまり深入りしても何も得しませんよ」そのやりとりを見ていた三浦は、明らかにオロオロした様子。「でも、もしこの背後に不正があれば……。ブランドを愛しているからこそ、見過ごせません。どうしたら……」三人の店員はそれぞれ立場を語り合い、衝突が浮き彫りになる。修平はただ戸惑うばかりだった。

第四章:真実の先にあるもの

修平がブランケットの真相を探るうちに、複数の情報が混じり合い、ブランドが一部の製造を不透明な業者に委託している可能性が見えてきた。労働環境や原材料調達の問題があり、プロトタイプのタグはその一端を示す“隠された品”だったかもしれない。杉山は店内で意見書のようなものをまとめ、店長と本社に掛け合おうとする。一方、宮本は「それが会社にとって有益か?」と冷静に疑問を投げかけ、三浦はどちらの意見にも一理あると迷っている。修平はふと気づく。自分はただの客であるはずが、なぜここまで店の内部問題に深入りしているのだろう。しかし、購入者としての責任や、企業姿勢に対する疑問が、彼を突き動かしていた。

最終的に、三人の店員はそれぞれの矜持を胸に、本社へ問題提起を行う方向で合意する。表立って衝突するかもしれないが、「誠実に商品を扱う」ことが一番大切だと杉山が強く主張したからだ。宮本も「結果的に信頼を得た方がブランドのためになる」と納得し、三浦は「それこそが私たちが守るべき想い」と賛同する。

クライマックス:店員たちの選択

数日後、ブランドがサプライチェーンの透明化に向けた取り組みを発表し、同時に一部商品をリコール・交換するというニュースが駆け巡る。社内では激しい議論が巻き起こったが、結果として大きなスキャンダルになる前に手を打つことができた。杉山は「お客様を大事にする」という自らの信条を貫き、宮本は「合理的に考えればこれが最善」と納得し、三浦は「ブランドもお客様も守る道が見えた」と安堵する。

修平は店を訪れ、三人の店員に感謝を伝える。「あのブランケットのおかげで、僕は“良い買い物”ってなんだろうと初めて真剣に考えました。皆さんの行動が教えてくれたように思います」杉山が微笑んで言う。「こちらこそ、勇気を出すきっかけを下さったのはお客様ですよ。私たち店員ももっと勉強して、より良い接客と商品を提案したいと思います」宮本は苦笑しながら、「会社を動かすって、大変なことですね。でも、今後は本社も目が覚めるでしょう」と肩をすくめる。三浦は「私たちも一歩前進できた。これからもこのお店で、お客様に本当に価値あるものを届けたいです」としっかり視線を合わせる。

エピローグ

店を出た修平は、淡い夕日を背にブランケットを抱え、ふと笑みを浮かべる。自分が何気なく選んだ一枚が、こんなにも多くの人を巻き込み、変化をもたらすとは思いもしなかった。「でも、それも悪くない。これが本当に価値ある買い物ってことなのかもな……」空気が少し冷えてきた街並みを歩きながら、ブランケットの肌触りが優しく腕に当たる。「三人の店員と一枚のブランケット」――その出会いは、単なる買い物を超えた新たな物語の始まりだった。

(終)

 
 
 

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