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春光遥かな祈り

  • 山崎行政書士事務所
  • 3月30日
  • 読了時間: 2分

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静かな暁(あけ)、薄桃色の空に一筋の光が山裾を照らす遠く聳える富士の峰、白く輝き忠霊塔の朱がそっと朝日に染まる風はまだ、声をひそめて桜の花びらだけが囁くように散り落ちる

山麓の町はまだ靄(もや)の中に眠り丘陵の斜面は一面薄紅に霞んでいる枝という枝に咲き満ちる桜花(おうか)その淡紅(たんこう)の雲は静けさに溶けて朝の光を柔らかに弾ませている微かな香(か)とともに花びらははらはらと舞い降り石段を薄桃色に染めゆく

朱塗りの忠霊塔は静かにそびえ幾重(いくえ)の屋根を空高く重ね遥かな時を見つめるように立つその鐘楼(かねやぐら)の鈴が風にそっと震えて誰も聞かぬ祈りの音色を響かせる幾万の祈りと想いを秘めてなおも花の雨を受け止めながら永久(とわ)の静寂と一瞬の煌めきを抱きしめている

富士は黙して語らず広大な裾野に季節をまとい頂(いただき)は雲海(うんかい)を突き抜けて空の青と永劫(えいごう)の白雪とを戴くはるか昔から幾千の春を見守り幾千の花吹雪を見送ってきたその静謐(せいひつ)は祈りにも似て天地の響きを一身に受け止めている

春の盛りは静かに移ろい新緑の風が丘を渡る夏の日差しに木々はざわめき秋の夕には紅(あか)や黄金の実りがゆらめき冬の夜には凍てつく星光が冴え渡るそれでもこの丘は変わらず巡り来る季節を静かに迎えまた桜の夢を春に見る

いま、静寂の祈りが空に満ち風と光が祝福の調べを奏でている永遠と一瞬とが出会う場所で舞い散る花びらとともに祈りは空へ昇り青い天(そら)へと溶けてゆくこのひととき、世界はただ美しく静けさそのものが祈りとなる

 
 
 

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