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「興津駅 反対ホームに現れた亡霊列車」――ダイヤには存在しないはずの列車が通過したという多数の目撃証言。幽霊列車騒ぎの裏で計画される完全犯罪。――

  • 山崎行政書士事務所
  • 2月1日
  • 読了時間: 5分



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序章:深夜の目撃証言

興津駅は、静岡市内のJR東海道線沿いにある比較的小さな駅だ。周囲には住宅街と海岸線が広がり、日中はのんびりした雰囲気だが、深夜となると人気が途絶え、静寂のなか線路だけが暗闇を突き抜けている。

そんな駅で最近、奇妙な噂が囁かれていた。「ダイヤに無いはずの列車が深夜に通過する」 というのである。終電が出た後、はずれのホームに突如として列車のライトが近付き、走り去っていくのを見たという目撃証言が相次いでいた。

しかも、通過列車の車体は通常のJR東海道線とは違い、昔の古めかしい塗装に見えた――と口を揃える人までいた。かつて興津駅周辺の沿線を駆け抜けていた旧型車両か、あるいはさらに古いSL列車か……。「まるで“亡霊列車”じゃないか」 と地元の人々は不気味がっていた。

第一幕:真夜中の問い合わせ

「こんな時間に通過する定期列車なんてありませんよ」深夜帯の駅員・堀川は、駅長室で不安げに時刻表を睨んでいた。興津駅では上りも下りも終電が発車し、夜のダイヤは回送列車がわずかに走る程度。だが、回送列車の運行は鉄道会社が把握しており、そもそも“古い車両”など使っていない。

「昨日の夜、女性客が“終電逃したかと思ってホームに駆け込んだら、謎の列車が通過していった”と届け出たんです。結局、それは乗れる列車じゃなくて……幻のように消えたとか」

堀川は駅の防犯カメラをチェックしたが、確かに遠方の線路に白い光が映り、数秒後には消えていた。しかし列車の形状までははっきり映らず、何ともいえない。これを聞きつけた地元のメディアは、「亡霊列車が出る駅」と興津駅を面白おかしく報道し始め、さらに話は広まっていった。

第二幕:捜査一課の視点

県警捜査一課の刑事・今井は、最初はこの“亡霊列車”の噂を半ば都市伝説とみなしていた。だがある日、市内の企業に勤める男性が失踪する事件が発生し、その最後の足取りが「深夜の興津駅近く」だったことが判明。今井は興津駅での“亡霊列車騒ぎ”に関連があるのではないかと直感した。

「どちらも深夜の駅周辺で起きている。不審者がこの噂を利用して、人目を欺いている可能性はないか?」

今井は駅員・堀川や付近の住民から聞き込みを開始する。そして、ある事実に突き当たる。興津駅近くの線路脇に古い側線が存在する という情報だ。普段は使われることのない引き込み線で、昔は貨物列車の待避などに利用されていたが、今は事実上廃線同然。

「まさか、その側線を利用して“何か”を動かしているのか……?」

第三幕:古い車両とダイヤの盲点

さらに調査を進めるうちに、地元の鉄道マニアが “動態保存の旧型列車” に心当たりがあるという話を教えてくれた。数年前に廃車予定だった古い車両が、静岡県内のどこかに保管されているという噂が流れていたのだ。「廃線跡や工場跡地で、未だに昔の車両を密かに動かしている連中がいる……なんて話があります。もしそれが興津周辺にあるとしたら?」このマニアの言葉を聞いた今井は、直感を確信に変えた。

「それを隠れ蓑にして、誰かが犯罪計画を遂行している可能性がある。もしかすると、その失踪した男性が巻き込まれたのかもしれない」

興津駅を深夜に通過する“亡霊列車”は、公式のダイヤに載らない。つまり、警察や駅側の目を盗んで勝手に旧型車両を走らせている組織がいるということだ。その列車を見た人々は恐怖と戸惑いで、幽霊のように語り継いでしまう。

第四幕:仕組まれた完全犯罪

真の目的は何か。今井が辿り着いた推理は、“密輸” だった。興津駅から少し行けば貨物港もあり、夜間に少量の積み下ろしを行うことは不可能ではない。「古い車両を引き込み線に潜ませておき、夜になったら線路をつないで港まで貨物を運搬する。正規ダイヤにないため発覚しにくい。もし目撃されても“幽霊列車”だと噂されるだけ……」失踪した男性は、この闇の運行に関わる重大な秘密を知ってしまったか、あるいはそれをネタに揺すろうとしたのか。いずれにせよ、彼を抹殺するには深夜の線路を利用するのが最適だった――と今井は見当をつける。

数日後、ついに県警は興津駅近くの側線で夜間の張り込みを実施。時刻は午前1時近く。闇に沈むホームの先、かすかに光が点り、ガタガタと線路を震わせる音が聞こえてくる。見えてきたのは、昭和風の塗装を纏った旧型列車。「やはり……いたぞ、亡霊列車だ」今井が小声で言うと、仲間の刑事たちは一斉に身構える。車両がポイントを変えて本線に滑り込もうとした瞬間、今井たちはライトを浴びせ、武器を構えて飛び出した。

第五幕:亡霊列車の終着

旧型車両には複数の男たちが乗り込み、車内には秘密裏に積まれた荷物があった。コンテナには高額な盗品や密輸品が詰め込まれていた。先頭車両を操縦していたリーダー格の男は、「まさかバレるとは」とうめくように声を漏らす。「暗い夜の線路を、廃車同然の列車で走るなんて、普通は誰も信じやしない。幽霊列車に仕立て上げるのが一番効率的だと思ったんだ……」彼らは興津駅のごく短い停車時間さえ利用しなかった。“通過するだけ” ならダイヤを攪乱しにくい という狙いもある。たとえ目撃されたところで、「え? そんな列車、ダイヤにはありませんよ」と駅員が言えば、誰もが見間違いか幻想と処理してしまう。彼らにとっては完璧な計画だった。だが、失踪した男性を問い詰めた結果、彼らは殺人を犯していたことも露見。深夜の線路を使った犯行と輸送 の全容が白日の下に晒され、警察はこの犯罪グループを一網打尽にする。

エピローグ:噂の後日談

その後、興津駅から“亡霊列車”の目撃談は消えた。夜のホームには、いつもの静かな闇が戻り、駅員たちもようやく胸を撫でおろす。「ダイヤにない列車が走るなんて、そんな馬鹿な話があるものかと思ったが……。結果として列車の正確な運行記録が逆に彼らを追い詰める証拠になったんだな」今井は興津駅の線路脇で、静かにそう呟く。鉄道が誇る時刻表の正確さと、駅周辺のカメラの時系列データが、犯人たちの狡猾な計画にわずかな破綻をもたらし、事件解決の糸口となった。夜の興津駅に今日も列車のヘッドライトが近づき、定刻どおりに停車する。幽霊列車騒ぎは静かに終息し、町には普段どおりの生活が戻った。だが、この駅の線路がかつて“亡霊”を走らせる犯罪者たちの暗躍を支えた事実は、長く語り継がれることになるだろう。

 
 
 

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