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登録日: 2024年3月16日

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2026年5月17日20
君を守るために、時刻表を殺した
※作中の列車番号・時刻は架空です。 一 十八番線の死者 東京駅十八番線のホームには、夜が降りても昼の白さが残っていた。 蛍光灯に磨かれた床、ホームドアの銀色、車体の腹を滑る青い帯。東海道新幹線は、どこまでも清潔だった。人間の汗も、怒りも、秘密も、発車ベルが鳴ればすべて置き去りにされるように見えた。 警視庁捜査一課の佐伯遼は、その清潔さが昔から嫌いだった。 列車は時刻通りに来る。時刻通りに開く。時刻通りに人を運ぶ。けれど人間の心だけは、どうやっても時刻表に載らない。 最初の遺体は、名古屋駅に到着した「こだま七二一号」の多目的室で見つかった。 被害者は葉山宗一郎、六十三歳。都内の小さな福祉法人の理事長で、京都の児童養護施設で長く施設長を務めていた男だった。胸に細い注射痕がひとつ。抵抗の痕はない。苦しんだ顔でもなかった。眠りの底で、突然呼吸を奪われたような死に顔だった。 遺体の胸ポケットには、折り畳まれた一枚の紙片が差し込まれていた。 東海道新幹線の時刻表の切り抜き。 東京発、品川発、新横浜発、小田原、熱海、三島、静岡、浜松、名古屋、京都、新大阪。...

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2026年5月17日9
終電のない新幹線
東海道新幹線の東京駅二十三番線から、その夜最後の「のぞみ」が出ていった。 赤い尾灯が闇に吸い込まれると、ホームは一瞬で巨大な抜け殻になった。さっきまで人の声、キャスターの音、駅弁の袋の擦れる音で満たされていた空間から、熱だけが残っている。発車標の文字は黒く沈み、広告の光は半分だけ落とされ、天井の蛍光灯は水槽の底のような薄い青を床へ落としていた。 終電後の駅には、独特の時間がある。 一日は暦の上では零時に終わる。だが駅の夜は、終電が出たあとも終わらない。シャッターが降り、清掃員が黙々とモップを滑らせ、駅員が巡回簿に時刻を書き込む。始発前のホームに朝刊の束が運ばれ、白い手袋の指が点呼表をめくる。そのころ人間の頭は、昨日と今日と明日の境目を見失う。 刑事の三枝透は、その境目に立っていた。 彼は三晩眠っていなかった。瞼の裏には、発車標の赤い数字が焼きついている。二十三時五十九分。零時〇分。零時一分。数字は鋭いはずなのに、疲労の中では水のように滲み、意味を失っていく。 最初の遺体は名古屋駅で見つかった。 午前零時五十四分。東海道新幹線の下りホーム、十六号車付近の閉鎖された待合室の裏。被害者...

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2026年5月17日20
乗客全員が同じ夢を見た
一 雨の七号車 東海道新幹線は、雨の日ほど静かに見える。 窓の外では、街の灯りが水に溶け、線路脇の看板も、工場の煙突も、遠いマンションの窓明かりも、すべてが一本の長い絵の具になって流れていく。時速二百八十キロで走る車内には、しかし奇妙なほど日常がある。コンビニの袋を膝に置いた会社員。眠る赤ん坊を抱いた母親。ノートパソコンの光に顔を照らされる男。車内販売で買ったコーヒーの紙カップを両手で包む老女。 その夜、のぞみ三〇八号、七号車もそうだった。 東京行き。新大阪を出たときから雨は強く、京都を過ぎるころには窓が黒い鏡になっていた。車内の天井灯がそこへ映り、乗客たちの顔が、現実より少し白く、少し疲れて見えた。 七号車十一番E席に座っていた倉田俊明は、名古屋を過ぎてから急に咳き込みはじめた。 最初は、誰もそれを事件だと思わなかった。喉に何かが引っかかったのだろう。風邪かもしれない。水を飲めば治まる。乗客たちは、それぞれの小さな世界から顔を上げ、そしてまた戻ろうとした。 だが倉田の咳は、すぐに音を変えた。 乾いた咳ではない。喉の奥で何かが泡立つような、聞いている者の胸の内側まで濡らすような音...

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