まきえの電波、風を運ぶ — 静岡の野に響くやさしき言葉
- 山崎行政書士事務所
- 2025年1月16日
- 読了時間: 4分

1. まきえと少年の出会い
朝のまだ涼しげな空気のなか、少年・颯太はいつものように小さなラジオを耳にあて、「しぞーか放送」の声に耳を傾けていた。番組のパーソナリティは“まきえ”と呼ばれる女性。
もともと地元のアナウンサーだったという彼女は、今はフリーになり、静岡県内をあちこち巡りながら自然や人々の暮らしを伝えているらしい。茶畑の取材、漁港のインタビュー、山里の祭りレポート……どれも颯太には遠い世界のようでありながら、不思議に身近にも感じられてわくわくした。
ある日、そのまきえが颯太の住む町近くへ取材に来ると告げられた。番組終わりに「皆さんの町で、私を見かけたら気軽に声をかけてくださいね。一緒にこの土地の魅力を発見しましょう」と彼女は言う。颯太は胸を弾ませ、「いつか会えるかもしれない」と胸を躍らせた。
2. まきえの取材、自然と人々の息遣い
それからほどなくして、“まきえ”が取材でやって来た。彼女の姿は思いのほか小柄で、けれど明るい眼差しと柔らかな微笑みが印象的だった。
町内の茶農家さんや地元で盛んに行われる祭りの準備を取材し、インタビューを撮って回るまきえの姿を、颯太は勇気を出してこっそり見に行った。そして、ちょうど取材の休憩中に、彼は意を決して声をかけた。
「……まきえさんの番組、いつも聞いています」
「まあ、ありがとう! 君もこの町の子なのね。静岡の自然、いろんな場所を見てみたいと思わない?」
まきえは嬉しそうに目を細める。颯太は「実は、富士山とか、海とか、ずっと近くにあるのに、あんまりよく知らないんです」と素直に打ち明けた。まきえは「それなら、私もまだ知らないことばかり。一緒に見に行こうか」と、にっこりと笑う。
3. 電波の精や風が囁くシーン
取材先での合間、まきえは小さな丘の上で夕暮れの空を仰ぎ、録音機を胸に抱え込んでいた。遠くには茶畑が連なり、その先には淡いシルエットの山並みがある。風がゆるやかに吹き、マイクの音をさらさらと揺らしている。
どこからか、幻のような声が混じる。
「あなたの声は、この土地の声を伝えている……」
はっとして周りを見回すが、誰もいない。ただ風がさやさやと草の上を滑っているだけ。まきえは少し背筋がぞくりとしたが、なぜか嫌な感じはしない。
一方、同じころ家路につく颯太のラジオには、微妙なノイズが走った。「ざざっ……あなたの声は……」といった断片的な言葉が聞こえ、颯太は思わず立ち止まる。まるで風が電波を通して語りかけてくるかのようだった。
4. クライマックス:富士山の夕焼けレポート
そして迎えた週末の夕方、まきえはついに“絶景ポイント”を探しに丘をのぼることにした。颯太が案内役を買って出る。「ここからだと、富士山がきれいに見えると聞いたんだ」と、地元の人から教わった場所だ。
夕日が傾きはじめると、雲の切れ間から富士山の稜線が赤金色に縁どられ、駿河湾に落ちていく光が茶畑の緑をうっすらと染めている。まきえは録音機を回し、静かな声でレポートをはじめた。
「さて、ここは○○の丘。広がる茶畑の向こうに富士山が浮かび、目の前に大きな夕焼けが……。ああ、風が少し強まってきましたね」
そのとき、マイクが拾う風音の中に不思議なささやきが混じった。
「いつも見守っているよ……」
まきえと颯太は顔を見合わせる。マイク越しで聴こえるはずの単なる風のノイズが、どこか言葉のように感じられた。小さな奇跡に二人は息を呑む。
5. 結末:日常と余韻
翌朝、颯太は駅前で取材機材をまとめているまきえと再会した。彼女は次の取材先へ向かうのだという。
「昨日のあの風の声、録音データを再生したら、ただの風音みたいにしか聞こえなくてね。でも私にはちゃんと“言葉”に思えたんだよね」
まきえは少し切なそうに笑う。「でもそれでいいんだと思う。きっと富士山やこの土地の自然が、私たちに応えてくれただけなのかも」
颯太は頷いて、「僕もそう思います。まきえさんの番組、これからも聴きますね」と言った。
まきえは「ありがとう。この町の声を、私も伝えていくよ」と、優しく手を振る。荷物を抱えたスタッフとともに車に乗り込み、発車していく後ろ姿を、颯太は見送った。
風がそっと吹き、朝日が町を金色に照らしている。遠く富士山は今日も微笑むようにそびえ、まるで「また会おう」と呼びかけているかのようだ。
こうして、小さな電波と風が運んだ奇跡のような出来事は、ふとした瞬間に人々の心を温める物語として静かに息づいている。颯太はいつもの学校へ向かいながら、イヤホンを通してまきえの声を思い出す。
「自然の声を伝える——そんな仕事、素敵だな……」
彼の胸のなかに、春色の山影と風の囁きが優しく響き続けていた。
(了)




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