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まさかの厄よけ!? 法多山の団子大騒動

  • 山崎行政書士事務所
  • 1月23日
  • 読了時間: 9分


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登場人物

  • 川本 正悟(かわもと しょうご)


    30代前半の会社員。好奇心旺盛だが少しおっちょこちょい。

  • 田中 真紀(たなか まき)


    川本の同僚。しっかり者でツッコミ役。

  • 境内の案内係


    法多山で参拝客を案内する男性。

  • 厄よけ団子屋の店員


    法多山境内にある団子屋さん。

  • 謎のご老人

    境内で不思議な雰囲気を漂わせる人物。


「川本さん、ちょっといいですか?」木曜日の昼下がり、会社の廊下で声をかけてきたのは同僚の田中真紀だ。彼女の口ぶりからして、どうもただ事ではなさそう。

「お、どうした? 仕事の相談ならいくらでも受け付けるよ」川本正悟は胸を叩いてみせる。自身はあまりないが、勢いだけはあるタイプだ。

「仕事の話じゃなくて、今度の日曜に法多山に行かないかって誘いなんです」「ほうたざん? どっかで聞いたことあるな…。何があるの?」「厄よけで有名なお寺ですよ。ほら、私たちの会社、今年創業ちょうど444年ってことで、ちょっと縁起が悪いって社長が騒いでるじゃないですか。『四』が重なるのは不吉だとか何とか……」「へえ、確かに社長が『ウチの会社に厄年が来る!』って大真面目に言ってたな。でもそれで法多山に行くの?」「いや、それだけじゃないです。有名な『厄よけ団子』ってのを食べると厄が落ちるって話で。女性陣で行こうと思ってたら、なんか男性陣からは川本さんならOK出しやすいって……」「俺、社内でどんな評価されてるの!?」

思わぬ扱いに若干ショックを受ける川本だったが、「まあ、せっかくだし行ってみるか」とあっさりOKしてしまう。こうして、日曜の朝に二人は法多山へ車を走らせることになった。

法多山へ到着

「へえ、なかなか広いんだなあ」境内に足を踏み入れると、鬱蒼とした木々に囲まれた参道が続いている。石段もなかなかの数があるようだ。正面には荘厳なお寺の建物が見える。

「着いたはいいけど、どこで団子食べられるんだ?」川本はキョロキョロと見回す。すると、目の前を通りかかった境内の案内係らしき男性がにこやかに声をかけてきた。

「ようこそ法多山へ。こちらでは厄よけのお祓いと、『厄よけ団子』が有名でございます。団子屋さんはお参りを済ませた先の広場にございますよ」「あ、ありがとうございます。…しかしすごい人ですね」日曜日ということもあり、参拝客で賑わっている。特に厄よけ団子を求める行列がちらほら見える。「ちなみに、この石段が厄落としの階段でもあります。ぜひ頑張って登ってくださいね」そう言うと案内係は微笑みながら去っていった。

「うわ、階段がかなりある……」「川本さん、運動不足なんだからいいトレーニングになるじゃないですか」田中は容赦ない。仕方なく川本は気合を入れて一段ずつ登り始めた。

事件は階段の上で

「ぜぇ…ぜぇ…」ようやく石段を登り切った川本は、早くも息が上がっていた。その横で田中は意外とケロッとしている。

「あそこが本堂だね。まずはお参りしとこ?」「そ、そうだな…ご利益あるなら…」川本は汗を拭きながら参拝を済ませる。二礼二拍手一礼、手順通りに厄をはらう気持ちで頭を下げた。

「さて、次はお待ちかねの団子でしょ! どっちだろう?」田中が周囲を見渡すと、少し先に大きな提灯の下がったお店がある。「“厄よけ団子”って書いてある…あそこじゃない?」「うわ、すごい列。みんな狙ってるんだな」覚悟を決めて並ぼうとした矢先、川本の袖をひっぱる人がいた。振り返ると、どこからともなく現れた謎のご老人が不思議な笑みを浮かべている。

「団子を食べるのに、そんなに並ばなくてもいい方法があるんじゃがのう……」「え? そうなんですか?」思わず食いつく川本。田中は「なんか怪しい…」と眉をひそめるが、川本は好奇心が先に立ってしまう。「どうする? ちょっと話聞いてみようよ」「うーん、でも変な勧誘とかじゃないでしょうね…」

しかし川本が聞く前に、ご老人はスタスタと小道の方へ歩き出した。「こんなところで立ち話もなんじゃ。こっちに来たまえ」

秘技・厄よけの裏道?

ご老人の後をついて境内の脇道へと入ると、表の喧騒が嘘のようにひっそりとした空間が広がっていた。杉の木立が風に揺れて、葉ずれの音が心地いい。

「こんな場所あったんだ…」川本が感心していると、ご老人が口を開く。「実はのう、長年ここで参拝者を見守っておるが、あの団子屋の行列に並ばずに済む裏ワザを見つけたのじゃよ」「ほ、本当ですか!? ぜひ教えてください!」「ただし……代わりに私の話を少しだけ聞いてもらえぬかのう」「話……ですか?」田中と顔を見合わせる川本。だいぶ怪しいが、列をすっとばせるとなると魅力的だ。

「若いの、何もむずかしい話じゃない。昔話のようなものじゃよ。まあ、いいから腰をおろしておくれ」そう言ってご老人は小さな木の椅子を二つ差し出してくる。いつの間にそんなものが……と田中は目を丸くする。

団子が繋ぐ不思議な縁

「この法多山の厄よけ団子はの、今では観光名物じゃが、昔はもっと地味でな。甘さも今ほどじゃなかった。だが、不思議なことに食べると本当に厄がとれたように感じる人が多かったんじゃ」「へえ、やっぱりお寺のご利益ですかね?」「そうじゃなあ。だがのう、大事なのは“気持ち”じゃよ。皆が『食べて厄を落とそう』と思って食べれば、それだけで厄を跳ね返す力になる」ご老人は優しい目で語り続ける。

「私も若い頃、大きな失敗をして落ち込んどった。そしたら友人が法多山に連れてきてくれたんじゃ。そこで食べた厄よけ団子があまりにも旨くてな、何だか涙が出た」「涙!?」川本が驚くと、田中も小さく頷く。

「そう。甘い団子なのに、不思議と涙がでるくらい心が軽くなった。そしたら翌日からうまくいくことが続いてな。そりゃ、単なる偶然かもしれんが、私にとっては“団子が厄を取り去った”ようにしか思えなかったのじゃよ」ご老人は微笑むと、スッと立ち上がった。

「さて、話はこれくらいじゃ。さあ、これを持って行くがいい」そう言って、なぜか厄よけ団子の割引券を2枚差し出してきた。

「え、あ、ありがとうございます! でもこれを使えば早く買えるとか……?」「そう、券を持ってる参拝者には店員さんが優先的に売ってくれるかもしれない。もちろん状況によるが、行列はショートカットできる可能性が高いわい」なんだその“可能性”って曖昧な条件は。と田中は心の中で突っ込むが、そんなことより早く並ぶのは勘弁だ。

「すみません、助かります。じゃあ早速行ってみますね」川本と田中は深々と頭を下げる。しかし顔を上げると、ご老人の姿がもう見えない。「え? どこ行ったの?」「うわ、いきなり消えた…なんか、神出鬼没すぎて逆に怖いんですけど」

本当にショートカットできるのか?

再び表の道に戻り、団子屋の行列に近づく二人。相変わらずすごい人だ。「こりゃ1時間待ちかもな……」「うう…お腹減った。どうする? 本当に割引券で優先してもらえるのかな」「わからん。まあダメ元で行ってみるか」

意を決してお店の前まで行くと、スタッフが「最後尾はこちらですー」と叫んでいる。その声に従いかけた川本だったが、思い切って厄よけ団子の店員らしき女性に声をかける。

「すみません、あの、これ使えますか?」そう言って差し出したのは例の割引券。「法多山・特別割引券」と書いてあるが、印刷状態はやたら古めかしい。誰がどう見ても骨董品級。

「あら、ずいぶん前のバージョンの割引券ですね……ん? ここに“店員はなるべく優先して差し上げるべし”って書いてあるわ」店員は目を丸くしながら、周りのお客さんにもわかるように声を張る。「すみませーん、この方たち、特別券お持ちなので少しだけ先にご案内しますねー」「ええええ!?」周りの人たちがざわつくが、店員が割引券に書かれた説明を読み上げると、何となく「あー、そういうのがあるんだね」という空気に。「じゃあこちらへどうぞ!」店員の誘導で、二人は行列のかなり前方へ。信じられないくらいスルスルと進んでいく。

厄よけ団子との対面

結局、ほんの数分で団子を受け取ることができた二人。「あれ? こんなにすんなり買えるとは…」「うわー、いい香り! ちょっとお茶も付いてくるんだよね?」「はい、こちらお茶もご自由にどうぞー」店員が笑顔でお茶のポットを差し出す。炊き立ての香ばしいお茶と、みたらしの甘いタレがかかった団子の香りが最高の組み合わせだ。

二人はイートインスペースのような場所に腰を下ろし、まずは一口。「…うまっ!」口に入れると、ふんわりした団子の柔らかさに甘辛いタレが絡んで、思わず顔がほころぶ。

「いや、これはヤバいわ。まじで美味しい……」川本はあっという間に二串を平らげ、田中を見やる。「どう?」「確かにこれはクセになりそう。甘さがくどくないからパクパクいけちゃうね」二人は満足感に浸りながら、ふと「あのご老人は何者だったんだ?」と首をかしげる。「もしかしたら、本当に神様か仏様の化身だったりしてね」「はは、そんなバカな。あ、でもあの人のおかげでめっちゃ楽に買えちゃったんだよな。ありがたい……」

まさかの厄よけパワー

参拝も団子も堪能した二人は、その帰り道、偶然境内の売店でおみくじを見つけた。「せっかくだから引こうよ」「うん、厄を払った後に大吉引いたら最高だな」

結果、川本は見事に“大吉”! 田中は“中吉”だったが、「まあ悪くないわね」と満足そうだ。「まじかー、大吉かあ。なんか今日はすごくツイてるな」「厄よけ団子のパワーでしょ、これ」「だな。あ、そうだ。厄よけ団子、お土産にも買って帰ろう」

エピローグ

駐車場へ向かう帰り道、再びあの謎のご老人の姿が。「わっ! いた!」二人が慌ててそちらを振り返ると、ご老人は静かに手を振っている。「今日は楽しめたかな?」「はい、本当にありがとうございました!」「うむ。厄は払えたようじゃな。大吉も出たみたいだしの」「えっ、なんで分かるんですか!?」思わず驚く川本。ご老人はクスリと笑って言った。

「若いの、くれぐれも油断するでないぞ。厄というのは食べただけで全部は消えん。大事なのは、自分で前に進む意志じゃよ」そう言って、ご老人は参道の向こうへフラリと消えていった。

「やっぱり普通じゃないよね……」田中は呆気にとられた顔をしている。「まあ、不思議だけど……今日は厄がすっと消えたような気がするよ。疲れたけど、なんか心が軽い」川本はそう言うと、手に提げたお土産の厄よけ団子を見つめる。そして思わず笑みがこぼれた。

「なんかさ、全部食べ終わったら、また来たくなる気がする。変だよな?」「うん。でも、なんだか分かるなあ……。この団子、魅力あるもんね」

あの甘じょっぱいタレの味わいと柔らかな団子の食感、それからよくわからないけれど背後で支えてくれるような不思議な力。二人は法多山をあとにしながら、ふと振り返る。そこにあるのは緑に囲まれた静かな境内――。

「次はみんな誘ってまた来よう! 創業444年の厄なんて一気に吹き飛ばしてやるさ!」川本が元気よく声を上げると、田中は笑って頷いた。「そうですね。うちの社長も絶対喜ぶと思う!」

そして車に乗り込み、法多山を後にした二人の姿を見届けるように、吹き抜ける風が杉林をさらさらと揺らしていた。

厄を払い、心を軽くする――。法多山の厄よけ団子は、ちょっとした不思議とともに、彼らの明日をほんの少しだけ照らしてくれたようだ。

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