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単価引き下げの戦い

  • 山崎行政書士事務所
  • 1月9日
  • 読了時間: 6分



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第一章:静かなSOS

 地方都市の一角、**「杉本(すぎもと)行政書士事務所」には朝から重苦しい空気が漂っていた。 事務所を訪れたのは、地元の小さな製造業――「沢井(さわい)精工」**の社長、沢井勇作(さわい・ゆうさく)とその息子の圭太(けいた)。二人とも肩を落とし、険しい顔をしている。 「……単価を下げられたら、うちは赤字でやっていけません。大手メーカーが一方的に“もっと安くしろ”と言ってきて……」 沢井はそう言って深いため息をつく。ここ数年、地元でコツコツと精密部品を作ってきた会社だが、大手の不当な要求が繰り返され、倒産の危機に瀕しているという。 杉本優子(すぎもと・ゆうこ)は書類の山を脇に寄せながら、じっと沢井の言葉を聞く。「一体どんな圧力をかけられたんですか?」と。 沢井は、申し訳なさそうに書類を差し出した。そこには新しい契約書のコピーがあり、以前より3割近く単価が下げられた内容が記載されている。 「3割も……これは酷いな……」 杉本は唇を噛みしめ、胸の奥で闘志が芽生えるのを感じた。

第二章:下請法の光

 杉本がすぐに思い浮かべたのは、下請法――下請代金支払遅延等防止法。優越的地位を持つ大手メーカーが、下請事業者に不当な単価引き下げを強要するのは違法行為になり得る。 事務所の奥で、補助者の小久保(こくぼ)が法令集を引っ張り出し、「ここっすね、下請法で禁止されている行為に該当するかと」と指で示す。 杉本はそれを見ながら「問題は証拠だね。大手メーカーが“価格交渉”と言い張った場合、こっちが“不当な単価引き下げ”だと立証できるかどうか……」と考えを巡らせる。 すると、沢井の息子・圭太が、古いメールのログを取り出してくる。そこには、「これまでより30%下げられないと取引停止になる」という一方的な文面が。 「これなら、立証できるかもしれない……」 杉本の胸に、不公平な現実と、守るべきものへの強い思いが入り混じる。**「下請法を使って、絶対にこの地域を守ってみせる」**と心に誓う。

第三章:さらに広がる被害

 杉本が資料をまとめつつ地元の商工会に足を運んでみると、同じような問題を抱える中小企業が次々と出てきた。**「うちも同じ大手メーカーから『安くしろ』と言われ続けて困ってるんです」とか、「断れば取引停止と脅されてる」**とか。 まるでドミノ倒しのように、地域全体に大手メーカーの“単価下げ圧力”が波及している事実が浮かび上がる。 商工会の担当者も「正直、力の差がありすぎて泣き寝入りしてる企業ばかりです。過去に何度か訴えようとした会社もありましたが、結局まとまらずに終わってしまって……」と肩を落とす。 沢井精工だけじゃない。同じように困っている会社を数社ピックアップして、杉本は意を決して声をかけて回る。もし複数社で共闘できれば、相手に対応を迫る材料になるかもしれない。

第四章:弁護士との連携

 杉本は複数の下請企業からヒアリングを行い、メールや請求書などの証拠を整理。さらに自分の提携先である弁護士、白石(しらいし)に相談を持ちかける。 白石は重い口調で言う。「これは明らかに優越的地位の乱用かもしれない。下請法にも引っかかる可能性が高い。公正取引委員会に動いてもらうにはもう少し具体的な証拠が必要だが、やれるだけやりましょう」 杉本は決心する。「私が書類を整備し、弁護士の先生が法的措置を検討。複数企業が同じ問題を抱えている事実を集約できれば、大手メーカーに突きつけられる……!」 沢井をはじめ下請企業の経営者たちは不安げだが、杉本の強いまなざしに触発され、少しずつ前を向き始める。

第五幕:大手メーカーとの初交渉

 下請企業連合(仮)を結成した一同と、杉本、弁護士の白石は、大手メーカー**「中原エレクトロ」の本社を訪れる。 会議室で対応に出たのは、冷たい目をした担当役員真壁(まかべ)。彼は書類を斜めに見ながら「下請先って大げさですよ。これ、ただの価格交渉です。ウチは厳しい市場競争の中にあって……」などとさらりと流す。 しかし、杉本は気迫を漲らせて「交渉とは言え、度を越した強要は下請法違反ですよ。こちらに証拠もございます」と言い、メールや通話録音の一部を提示する。 真壁が顔をこわばらせ、「これは……」**と動揺を見せる。そこへ白石が追い打ち。「ご存知のように、公正取引委員会がこの手のケースには厳しい姿勢です。放置すれば大事になるでしょう」 場の空気が凍りつき、やがて真壁は苦い顔のまま、「……わかりました。上と相談します」と押し切られる形で交渉終了となる。

第六幕:逆風とさらなる苦悩

 だが、その後も中原エレクトロ側はあの手この手で説得を図ろうとする。**「我が社と取引したいなら、多少のコストダウンは受け入れてもらわないとね」と、電話で淡々と脅しに近い言葉を発する。 下請企業の中には「うちも将来の取引がなくなったら困るから、あまり強く出たくない」という弱気な声も。 沢井も例外ではない。「やっぱりこのまま交渉を続けて、もし取引停止されたら……ウチは明日にも倒産ですよ……」と顔を青ざめる。 そんな状況で杉本も焦りを感じるが、ここで尻込みしてはすべてが水の泡だ。「大手メーカーに屈しないで。私たちがちゃんと手続きを踏めば必ず道はあります」**と力説し、何とか士気を保とうとする。

第七幕:地域全体を守る

 ある日、下請の1社から「支払い遅延で従業員に給料払えなくなりそうだ」との悲鳴があがった。そこが倒れれば、地元工場ネットワーク全体が連鎖倒産しかねない。 杉本はこの事態を重く受け止め、弁護士白石を伴って再度大手メーカーに乗り込むが、真壁は「そんなのウチの知ったことじゃない。業績厳しいんですよ」とまた取り合わない。 しかし、下請企業連合が一致団結して公正取引委員会への申し立てを決め、地元メディアにリークしたところ、大手メーカーの横暴が明るみに。社会的批判が高まり、SNSでも炎上気味に。 結果、中原エレクトロの社長が動かざるを得なくなり、急遽“下請企業への支払い改善策”を発表。真壁らは厳重注意を受ける形で引き下がる。

最終章:笑顔が戻る町工場

 数日後、沢井精工をはじめ多くの下請企業が、**「単価引き下げは従来レベルに戻し、遅れた分もまとめて支払う」**という合意案を受け、ほっと胸を撫で下ろす。 沢井は杉本に深々と頭を下げ、「先生、本当にありがとう。みんな救われましたよ」と涙ぐむ。その横では沢井の息子・圭太が、「これで工場の新設備も買えるかも!」と未来に希望を抱く姿が印象的だ。 杉本は「私ひとりの力じゃありません。皆さんが声を上げてくれたからこそ、勝ち取れたんですよ」と柔らかく微笑む。 町には少しずつ活気が戻り、連携して物づくりを再開する工場たちが生き生きと動き始めた。下請法の力と、行政書士・弁護士ら専門家のサポートを受けた地域の中小企業たちが、再び歩み出したのだ。

エピローグ

夕暮れ時、杉本は事務所で書類を整理していた。窓から入り込む風が、少し温かい気配を運ぶ。「これが、私の仕事の醍醐味だな……」ふと思い返すのは、多田や沢井らの笑顔、そして“下請法”という武器で不正と闘った日々。外から聞こえる町工場の機械音が、まるで新しい未来を告げるファンファーレのように感じられた。社会の歪みを法によって正す――それは大変な道のりだが、人々の笑顔がその先に待っていると信じられる限り、彼女は筆を握り、書類をまとめ続ける。――“単価引き下げ”という落とし穴を乗り越えた先に、地域の希望が確かに息づいているのだから。

 
 
 

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