契約書の死角
- 山崎行政書士事務所
- 2025年1月7日
- 読了時間: 5分

第一幕:奇妙な契約書の到来
ここは、小さな雑居ビルの三階にある**「東堂行政書士事務所」。表札は目立たないが、中を覗けば所長の東堂(とうどう)雅樹**がバタバタと書類を整理し、机周りを散らかしまくっている。 「ぅわー! もう締め切りが今日なのに、まだ印鑑押してもらってないじゃん!」 などと叫びながら右往左往している、その足元には大量の契約書や行政関係の書類が散乱。 そんな喧騒の中、ドアをドンドンと叩く音がした。バタバタ中の東堂が慌てて応対すると、そこに現れたのは中小企業の営業部長、**真田(さなだ)**だ。血色の悪い顔をして、やけに大きな封筒を抱えている。
「あ、あの……東堂先生、これ、見てほしいんです。取引先から送られてきた契約書なんですけど……なーんか嫌な予感がして……」
はじめは「契約書ね。まぁちょちょいと読むだけでしょ」くらいの感覚だった東堂。しかし封筒を開けて中身を一瞥した瞬間、「……え、これ、分厚すぎません?」と思わず声を漏らす。
「はい。相手がやたら条項を増やしてきて、それに署名押印しろって急かしてるんです。しかも“期限は明日まで”とか言われて……」
東堂は嫌な汗が背中をつたうのを感じながら、契約書をめくった。めくってもめくっても続く謎の条項。これがただものではないと直感するまでに、三秒もかからなかった。
第二幕:契約書のワナ
夜になっても事務所の灯りは消えない。東堂はハアハア言いながら書類を片っ端から読み込み、付箋をペタペタ貼りまくっている。 「営業停止条項? 違約金1000万円!? なんだ、この『全社財産を担保とする』って……! こんなに苦いコーヒー飲んでも、口の中がまだ甘く感じるくらいエグいぞ……」 じっくり条文を追うと、どうやらこの契約書は中小企業を事実上“乗っ取る”ための悪徳契約らしい。契約一つで会社の資産や経営権をゴッソリ奪われる可能性が高い、まさに恐怖の書。 そこへ真田がビクビクしながら聞いてくる。
「先生、やっぱりヤバイんですか? これ署名しちゃうと……どうなるんでしょう?」「どうなるって……そりゃあもう……会社が相手企業のものになっちゃいますよ!」
真田は青ざめ、「ど、どうしよう、社長は『相手を怒らせたくない』とか言ってて、明日までには押印しろって……」 東堂は手の中の書類を思わずグシャッと掴み、「うちの社長は見えてないな、この死角を……!」と叫んだ。
第三幕:社長と激突!?
翌日、早朝にもかかわらず、真田は東堂を引き連れて自社のオフィスへ急行。そこでは腹巻が似合いそうな体格の田沼(たぬま)社長が「んー、面倒くさいからハンコ押しといてよ」と寝ぼけ眼で応じている。 東堂が咳払いして契約書を広げる。
「社長! この契約書、サラッと見たらダメですよ。第18条とか、第26条とか、第39条とか……おかしな条文だらけです! 判子押したら地獄ですよ!」「な、なんだよその地獄って……そんなに大げさな」
田沼社長は“まさか書類ごときでそんな大変なことに”と半信半疑。しかし東堂がページを指差しながら詳しく解説すると、社長の顔は見る間に青くなっていく。 「いっけねぇ! こんなの本気でサインしたら、うちのビルも特許も全部あっちのもんじゃないか!」 社長は椅子から転げ落ちそうになりながら叫ぶ。真田は「だから言いましたよ〜」と隣で嘆息。
第四幕:相手企業との攻防
その日の午後、相手企業の担当者(怪しげな笑みを湛える部長・木島と名乗る)が、サインをもらうためにやってきた。 会議室では木島がグイグイと契約締結を迫る。
「いやぁ、この契約書、念入りに作りましてね。もしご不安なら、今すぐ署名を取り下げることもできなくは……いや、やっぱダメですね。ほら、うちは明日から海外出張があるので時間がないんです」
やたら“時間がない”を繰り返し、脅しのように追い詰める木島。しかしそこへ東堂がニヤリと笑って口を開く。
「なるほど、確かに念入りな契約書でした。ですが、法が認める契約自由の原則にも限界がありまして。第XX条の営業停止条件や第YY条の全社財産担保って、公序良俗や消費者契約法にも抵触するおそれが大いにあるんですよね〜」「え? ……公序良俗……何それ……?」
木島はキョトンとした目をしつつも、内心焦りを滲ませる。東堂はさらに畳み掛ける。
「あ、あと第39条の“異議を述べない限り全権を放棄したものとみなす”条文。これって最高裁の判例でも無効とされた事例がありますよね? 弁護士さんにも確認されてます?」
木島の顔がみるみる赤くなり、声が裏返る。
「い、いや、うちの法務部が作ったやつだから大丈夫なはず……ううん、でもちょっと……」
圧倒的に押され始めた木島。その背後に見えない法務部がやっちまった感を漂わせている。
第五幕:契約の逆転劇
結局、東堂は契約書の不当条項をひとつひとつ指摘し、法的根拠をもって「これじゃ無効ですよ」「こっちも無効の可能性大です」とバンバン突き崩す。 木島はもう冷や汗ダラダラ、「そ、それじゃ、ウチがこの契約書を少し修正して……」などと苦しい言い訳に奔走。しかし、東堂は逃しはしない。
「そこもダメです。改正○○法で追加規定があるので、そもそもそこは書き直すだけじゃ無理ですよ。……あっ、こんなところにも不当条項入ってますね。いやぁ、これ作った人、どんだけ欲張りなんですか?」
見事なカウンターの嵐に、木島は「も、申し訳ありません! 一度持ち帰らせていただきます!」と大量の紙を抱えて退散。 田沼社長と真田は呆気にとられたまま、拍手喝采。「先生、あんたすごいよ! さっきの木島さん、青ざめてましたもん!」
第六幕:痛快フィナーレ
後日、相手企業から改訂版の契約書が送られてきたが、それはすっかり大人しい内容に修正され、乗っ取り計画もへったくれもない普通の取引契約となっていた。 田沼社長と真田は、これで安心して取引できると喜び、東堂の事務所に菓子折りを持ってお礼にやって来る。
「いや〜、先生のおかげっす。あんなヤバい契約にサインしてたらと思うと、ゾッとするわ。いやホント、“夜の帝王”どころか、うちの会社が闇に沈むとこだったよ!」「いやいや、私の仕事ですから。でも法を理解しているかどうかで、運命は大違いですよ。契約書の死角は怖いんです!」
東堂は照れ隠しに眼鏡をクイッと直し、せっかくもらった菓子折りを抱えてニコニコ。 ふとスマホを見れば、別のクライアントから“変な契約書が来たから助けて〜”というメッセージが。東堂は苦笑しつつも、心の中で**(また闘いが始まるな……でも、それが俺の天職だ!)**と拳を握る。
こうして、悪徳契約の巧妙なワナは、東堂の法の知恵と熱い正義感によって見事に打ち砕かれたのであった。 めでたし、めでたし。




コメント