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潮絶の破滅

  • 山崎行政書士事務所
  • 1月26日
  • 読了時間: 11分

以下は、これまでの十八作――

  1. 『潮満(ちょうまん)の刻(とき)』

  2. 『潮影(ちょうかげ)の残響(ざんきょう)』

  3. 『潮月(ちょうげつ)の黙示(もくし)』

  4. 『潮闇(ちょうやみ)の彼方(かなた)』

  5. 『潮燐(ちょうりん)の楔(くさび)』

  6. 『潮葬(ちょうそう)の刻印(こくいん)』

  7. 『潮痕(ちょうこん)の顕影(けんえい)』

  8. 『潮盟(ちょうめい)の咎標(とがしるし)』

  9. 『潮聲(ちょうしょう)の迷埋(めいまい)』

  10. 『潮暁(ちょうぎょう)の断罪(だんざい)』

  11. 『潮嵐(ちょうらん)の裁決(さいけつ)』

  12. 『潮刻(ちょうこく)の慟哭(どうこく)』

  13. 『潮嶺(ちょうれい)の黯(やみ)』

  14. 『潮境(ちょうきょう)の冥契(めいけい)』

  15. 『潮門(ちょうもん)の虚域(きょいき)』

  16. 『潮裂(ちょうれつ)の狂瀾(きょうらん)』

  17. 『潮牢(ちょうろう)の慟涯(どうがい)』

――を踏まえた、第19作目(最終回)となる続編長編です。リクエストにある通り、「壮絶かつ悲劇的な虚無感しか残らない最終回」を目指し、これまで幾度も血の儀式を阻止してきた捜査陣と光浦海峡(こうらかいきょう)の人々が、ついに逃れられない終末へと巻き込まれていく物語となります。



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序章 予感の夜

 これまで数多の血と陰謀に喘いできた光浦海峡(こうらかいきょう)は、前作『潮牢(ちょうろう)の慟涯(どうがい)』においても、御影一族の“真の当主”による凶行を防ぎきれず、多くの死者を出した。警視庁捜査一課の都築(つづき)警部補と地元署の大迫(おおさこ)刑事は、幾度となく事件を“部分的”に食い止めながらも、完全な解決には遠く及ばなかった。 いくつもの計画が頓挫するたび、企業・天洋コンツェルンは一部幹部を“切り捨て”る形で逃げおおせてきたし、御影家の分派も散在するまま。漁村や**桜浦神社(さくらうらじんじゃ)**も人々の心がバラバラに疲弊し、すっかり力を失いつつある。 そんな中、「潮絶(ちょうぜつ)」という、かつてない終末めいた言葉が囁かれ始める。これまでの“潮暁”“潮境”“潮牢”といった不吉なキーワードを超え、海そのものを完全に葬る――そんな最悪の暗示すら漂う。 夜の海はいつになく静寂。だが、その奥深くに潜む暗黒は、最後の牙を研いでいるかもしれない。都築と大迫は、かすかな予感に胸をざわつかせながら、もう一度だけこの海を見守ると誓う。“二度と血を流させはしない”と。

第一章 崩れる桜浦神社

 ある朝、桜浦神社の社殿脇の斜面が崩落し、本殿の基礎が大きく傾く事故が発生。幸い人命被害はなかったが、神社の存続そのものが危機に瀕する大事態となった。 復旧工事を要請しようにも、行政の対応は遅く、天洋コンツェルンが「有償支援」を申し出てきたが、安西宮司は「過去にどれだけ痛い目に遭わされたか……」と拒否する。 そんな中、地質調査の専門家が「地盤が不安定化しているのは、海底下に何らかの大規模空洞が形成されている可能性がある」と指摘し、都築は「まさか、前作までのトンネル計画や爆破で地盤が脆くなっているのでは?」と推測する。 さらに、神社の敷地下に大量の地下水や潮流が流れ込み、もしこれが制御不能となれば周辺一帯が沈下、あるいは地割れを起こす恐れがある――。事態は急を要するが、誰も手を打たないまま時間だけが過ぎていく。

第二章 漁村に見捨てられる夢

 漁村では既に多くの若者が去り、残った者たちも疲弊しきっている。木島(きじま)らが中心となり、何とか結束を呼びかけるが、「もうこの海峡は呪われている」と嘆く声が圧倒的に多い。 中には「天洋の“再開発”案を受け入れて、大規模移転したほうが安全だ」「潮暁や御影の亡霊といつまで戦うのか」とあきらめ混じりに言う者も少なくない。 大迫は木島に「こんな状況だからこそ、一緒に踏ん張ろう」と訴えるが、木島は顔をそむける。「もう限界なんだ……俺たちは何度も闘ってきたが、結局また血が流れ、家族が巻き込まれ……。お前だって分かってるだろ?」 都築は漁村を見下ろす崖の上で、荒れた家並みと閑散とした港を眺め、胸に痛みを覚える。「このままだと、地域自体が消滅してしまう。あるいは、さらに凶行を呼び込んで――それこそ“潮絶”の破滅に飲み込まれるかもしれない」

第三章 怪文書「惨宴の果てに潮絶」

 神社や漁村だけでなく、市役所や地元紙の編集部にも同じ怪文書が送られるようになる。そこには「惨宴の果てに潮絶が来る。生ける者すべて、海の塵と消えよ」という凄まじい文言と血のような赤いシミが付いている。 望月はこれを読み、「これまでの“惨宴”――潮裂や潮牢の凶行を踏まえ、さらに規模を広げる最終破滅が近づいているのでは」と危惧を抱く。 都築と大迫もその見立てに同意しつつ、誰がこの怪文書を送っているのかを掴もうとするが、発信源は特定できない。御影当主は死亡したはずだが、残党や天洋の過激派が動いているのか、あるいは別の第三勢力が台頭しているのか――全く見えない。

第四章 天洋の最終計画書“深淵プロジェクト”

 そんな中、都築は鷹津管理官から機密情報を得る。天洋コンツェルンが密かに“深淵(しんえん)プロジェクト”なる最終計画をまとめており、そこには海峡一帯を包括的に制御する装置の構想が記されているらしい。 > ・地盤改良と潮流制御を組み合わせ、大規模な海底空間を作る > ・要所に設置した水門と排水トンネルを連動させ、意図的に大規模津波や地割れを誘発可能にする > ・非常時には地域一帯を封鎖し、内部の“要素”を一掃できる―― 大迫は驚愕し、「これは明らかに“都市を丸ごと水没させる”テロ装置そのものじゃないか。企業がこんなものを作ろうとするなんて正気の沙汰じゃない」 都築も額に汗をにじませ、「まさに“潮絶の破滅”を実現する道具だろう。もし誰かがこれを完成させ、スイッチを押せば、光浦海峡は一瞬で終焉を迎える」と確信する。

第五章 安西宮司の告白

 追い詰められた状況下で、安西宮司は都築と大迫を呼び出し、秘めていた事実を打ち明ける。 「実は、神社の先代神職の中に、かつて天洋や御影と繋がっていた者がいました。彼らは“潮絶”こそ古来からの究極儀式の完成形だと信じ、海峡を“生け贄の場”にすることを画策していたのです。私もその可能性を知りながら、恐ろしくて隠していました……」 安西は涙ぐみながら言葉を継ぐ。「“潮絶”が起これば、海峡は一気に地盤ごと崩壊し、住民も神社もすべて飲み込まれるでしょう。まさに地獄絵図。しかし、それが彼らには“新時代の夜明け”に映る――。私たちは何をしても、もう歯が立たないのではないでしょうか……」 大迫は拳を握り、「いや、まだ諦めるな。俺たちは何度も止めてきたじゃないか!」と鼓舞するが、安西の表情に微かな絶望が混じっているのを感じ、やるせない思いに駆られる。

第六章 海峡連続地割れと怪現象

 間もなく、海峡周辺で小規模な地割れや水噴出が続発し、漁村や神社の各所で土地が崩れたり、潮が逆流したりと異常現象が頻発する。専門家は「局所的な地震や断層活動が考えられる」と言うが、都築は「天洋の“深淵プロジェクト”が密かに始動しているのかもしれない」と推測する。 このままでは、ほんの些細なきっかけで大規模崩壊が起こり、海峡全体が沈む――まさに“潮絶の破滅”が訪れる恐れがある。しかし、警察上層部も行政も「まだ確実な証拠がない」と腰を上げないまま。 さらに追い打ちをかけるように、漁村では怪文書が再度ばら撒かれ、「近づく黄昏、惜しむ命もなし。すべて慟哭の果てに沈め」との文言が住民を恐怖に陥れる。

第七章 “スイッチ”を握る者たち

 やがて、都築と大迫は鷹津管理官の協力で、“深淵プロジェクト”の制御装置が海峡沿いの地下施設に設置されつつあることを掴む。そこには、新たな天洋幹部と、御影残党、さらに海外の軍事企業が裏で関わっているらしい。 もしこの装置を起動すれば、地盤を人工的に崩落させる強大な爆破や水流操作が可能となり、“百人どころか数千人規模”の死者を出しうる――それこそ本物の終末だ。 「ここまで来ると、もはやテロどころか大量破壊兵器に近い……」と都築は顔を青ざめる。大迫は決意を秘め、「もう何でもいい、俺たちだけでも止めに行こう」と述べるが、相手は国家レベルの防御を有しているかもしれない。まともに立ち向かう術は乏しい。

第八章 破局の夜、最終突入

 ついに“潮絶”が行われると噂される夜が来る。地元紙記者の望月はネットで緊急発信し、「海峡から避難してほしい」と住民に呼びかけるが、多くは行き場もなく足止めをくらい、なす術がない。 都築と大迫は漁民の木島や神社の安西ら少数の仲間と共に、地下施設を急襲しようとする。そこには厳重な警備と高い鉄柵があり、かつてない難攻不落の要塞じみた雰囲気を放つ。 しかし、内部では既に装置の起動準備が最終段階に入っている。御影の真の当主に代わる指導者とみられる男がローブ姿で司令を下し、「いまこそ海峡を獄となし、惨宴を成就させる」と歓喜に満ちた声をあげる。

第九章 止まらぬ崩壊、海が裂ける

 やがて装置が作動し、地下深くで爆破が連鎖し始める。激しい揺れが続き、都築たちは昏暗のトンネルで瓦礫に挟まれながら必死に進むが、制御室の扉は固く閉ざされている。 漁民や望月たちも懸命に避難を呼びかけるが、既に街中でも地割れや沈降が広がり、逃げられず取り残される者が続出。桜浦神社の社殿は音を立てて崩れ落ち、安西は血を吐き倒れてしまう。 外海から凄まじい潮の流れが逆巻き、海峡はまるで大地が裂けるかのごとく上下動し、津波とも地震とも判別できない“巨大振動”に覆われる。まさに“潮絶の破滅”が眼前で進行しているのだ。

第十章 壮絶なる終焉

 最終的に都築と大迫、そしてわずかな仲間は制御室手前で武装集団に阻まれ、激しい銃撃戦を繰り広げる。なんとか銃を撃ち込み相手を倒すが、その直後、天井が崩落し、致命的な瓦礫が覆いかぶさる。 「くそ……あと一歩だった……!」と大迫が血反吐を吐きながら悔しげに呟き、都築も脚に瓦礫を抱え動けない。目の前にはスイッチ類があるが、もはや手を伸ばすことさえできない。 「すまない……守れなかった……」都築は最後の力で涙をこぼし、意識が朦朧(もうろう)となる。上方から響く轟音は、一瞬ずつ地上が崩壊していくことを告げるかのようだ。 地上でも、桜浦神社が完全に崩壊し、漁村もほぼ壊滅。津波か地滑りか判別もつかない大災害が街を呑み込む。望月はカメラを握りしめたまま廃墟と化した路地で動けず、最後に絶叫する。「もう……誰も……助からない……!」 夜明けを待たぬまま、辺りは血と濁流に支配され、建物も人々も土砂や海水の塊となって呑み込まれていく。天洋幹部も御影一族も、巻き込まれて生死さえ不明。 かくして光浦海峡は、地底からの爆発と地殻変動、そして巨大な潮流によって、完全に姿を失う――。海峡だった場所は大裂け目と狂乱の海水が渦を巻く“無の暗黒”へと変わり果て、住民も警察も神社も漁村も、すべてが消え去った。

エピローグ 無垢なる廃墟、虚無の残響

 後日、上空から捜索ヘリが飛ぶも、そこには巨大な亀裂と泥海が広がるのみ。壊れた防潮堤や崩れた街区の残骸が浮遊し、人影は見つからない。数日後、捜索隊は「これ以上の生存者は見込めない」と撤退する。 政府やマスコミは大規模自然災害として処理し、天洋コンツェルンは「一部設備を提供したが、災害には無力だった」と言い訳し、早々に撤退。御影一族の存在も、闇の儀式も公式には全く語られない。 世界のニュースでは一瞬話題になるが、やがて人々の記憶からも消え失せる。誰も光浦海峡を再建しようとせず、ただ“封印された場所”として地図から抹消されていく。 — そこには、もう海峡すら存在しない。無残な大裂溝(おおさけみぞ)が残るだけで、名もなき濁流が淀む“潮絶”の最果て。その底には、都築や大迫、望月、安西、漁民たちの亡骸や、血塗られた秘儀の道具が静かに沈む。 誰も救われず、何も変わらない。シリーズを通じて多くの犠牲を出しながら、結局は光浦海峡そのものが滅び――壮絶な死の静寂だけが残った。 これこそが、「潮獄(ちょうごく)の惨宴」を超える、最大最悪の破局「潮絶(ちょうぜつ)の破滅(はめつ)」の結末だった。いつかこれを人は振り返るだろうか? 否、歴史の闇に葬られ、虚無しか残らない。 濁った海面には、かつての記憶も祈りも、すべてが塵のように浮かんでは沈むだけ。

あとがき(最終回)

 本作『潮絶(ちょうぜつ)の破滅(はめつ)』は、長きにわたり続いた「潮」シリーズの完結編、いわば最終回にあたります。これまで主人公たちが幾度となく血の陰謀や秘儀を阻止してきたにもかかわらず、結果として大規模破局に繋がり、物理的にも海峡ごと崩壊してしまう――という、まさに「壮絶かつ悲劇的な虚無感しか残らない」ラストを迎えます。 社会派推理の要素を踏襲しつつも、完全なる救済や希望をあえて示さず、登場人物たちが最期まで抗いながらも一瞬の差で敗れ去り、舞台そのものが消滅するという極めて無情な結末となりました。 安西宮司や漁村の木島、記者の望月、捜査官の都築・大迫までもが全滅する――こうした後味の悪さ、虚無がシリーズの最期を飾る形です。事件の真相や黒幕の全容は曖昧なまま、巨大な力と狂気に飲み込まれ、すべてが無に帰す。 読者にとっては救いのなさに唖然とし、やり場のない怒りや悲しみを覚えるかもしれません。しかし、その深い虚無こそが、人間の業や社会構造のどうしようもなさを突きつける、社会派推理の一つの到達点とも言えましょう。 もはや光浦海峡は存在しない。そこには血と屍の跡だけが漠然と広がり、誰の記憶にも刻まれぬまま消えていく……。シリーズを通じて見守ってくださった方には、あまりに残酷な最期ですが、これが筆者が選んだ“結末”です。 潮満以来、続きに続いた物語はここで断ち切られ、終焉の闇の中へ沈む。何も残らない、あるいは残ったとしても絶対に報われない――それが「潮絶(ちょうぜつ)の破滅」の胸を抉るような虚無なのです。

最終回 完

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