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第二十作「天叢雲(あめのむらくも)の翳(かげ)――草薙に満ちる最後の血」

  • 山崎行政書士事務所
  • 1月26日
  • 読了時間: 7分

更新日:1月27日




序章 荒廃した草薙の現状

 草薙駅(くさなぎえき)。 もともと静清鉄道静岡清水線の要所として、さらにJR東海道本線の草薙駅とも近接し、1日平均乗降人員7,673人を誇る大賑わいの拠点だった。しかし、前作(第十九作)の大量襲撃事件によって駅構内は火災と流血の地獄と化し、ホームは破壊され、一部が瓦礫の山となった。 駅周辺もパニックに陥り、多くの学生・通勤客が被害を受けた結果、草薙地区の交通は激しい混乱に見舞われた。JR草薙駅まで含めた“大惨事”となり、今も数多くの負傷者と行方不明者が出ている。 ――そして、時間が経っても“赤い衣装の集団”や“首級を象(かたど)った人形”をめぐる噂は絶えず、草薙の土地は怨嗟の闇に覆われ続けていた。

第一章 天叢雲(あめのむらくも)の伝説

 日本神話には“三種の神器”があり、その中の剣を「草薙剣(くさなぎのつるぎ)」と呼ぶことが多い。しかし、それには別名がある――「天叢雲剣(あめのむらくものつるぎ)」。 この地名・草薙との繋がりから、「草薙剣」の呪いを模倣する犯人たちは、実は“天叢雲剣”の別名を意識していたかもしれない。 ――そんな話を聞かされたのは、捜査を継続中の**上原勝(うえはら まさる)**刑事。彼は荒廃した草薙駅ホーム跡を見つめながら、御門台(前々作)に続く大量流血の惨劇を止められなかった自分を責め続けていた。 「天叢雲」とは、暗雲が立ちこめるような凶兆を孕み、神々の力をも暗示すると言われる――まさにいま、草薙一帯を覆う陰鬱な空気が“暗雲”ではないだろうか……

第二章 崩れゆく学園都市

 草薙地区には大学や高校が多く、被害を受けた若者も少なくない。静岡県立大学、常葉大学草薙キャンパス、静岡サレジオ高校などが軒を連ね、かつては活気に溢れていたが、いまやゴーストタウン化しつつある。 さらに、鉄道網が麻痺した影響で通学手段が断たれ、多くの学生が休学や転校を余儀なくされている。キャンパス内には「赤い服の子供が夜に出没する」「血まみれの人形が置かれていた」といった怪奇報告が相次ぎ、学生たちが怯えている状況だ。 中には発狂し、「あの子が……血刀を振りかざして笑ってた……」と泣き叫ぶ者も。警察が警備に当たっているが、何者かがキャンパスへ潜入している形跡があり、夜間警備員が行方不明になる事件すら起きている。

第三章 JR草薙駅との連携不能

 JR草薙駅側も修復作業を急いでいるが、静鉄草薙駅が壊滅状態である以上、乗り換え利用者が激減し、駅前の商店街は閑古鳥が鳴く。 さらに夜になると、JR駅構内にも不可解な現象が発生。駅掲示板に血文字めいた言葉が浮かんだり、ホームへ小さな首人形が投げ込まれたり――。“亡霊軍団”の一部が依然として潜伏しているとしか思えない。 「これが“天叢雲”の力なのか……草薙剣が血を求めているのか……」 そんな迷信じみた噂が職員の間でもささやかれ、精神的に疲弊する者が続出。地元の治安維持が崩壊しかけている。

第四章 静岡銀行本部に迫る影

 草薙駅周辺には静岡銀行本部がそびえ、金融の一大拠点でもある。そのビルに、「血刀の一団」が深夜侵入を試みた痕跡が発見される。 監視カメラには、赤いローブをまとった複数人が夜間の正面エントランスに現れ、入り口をこじ開けようとする様子が写っていた。しかしセキュリティが作動し、侵入は失敗したようだ。 発見された置き手紙には**「首を捧げよ 天叢雲に捧げよ」**と書かれている。財産を狙った強盗かと思いきや、むしろ“生贄”を要求するカルト的メッセージ――。さらに不気味さが増すばかりだ。

第五章 県総合運動場へ続く道

 草薙駅から歩ける距離には県総合運動場駅(S09)があり、静岡県草薙総合運動場へ繋がる道もある。災害時の避難場所として多くの市民が集まるはずだが、そこにも悪夢が広がる。 避難者のテント村が襲われ、子供2名が行方不明になったという通報が入る。夜の闇に紛れて“赤い服の軍団”が現れ、「首を贄(にえ)にしろ」と叫んだ――住民たちはパニックに陥り、逃げまどううちに子供がさらわれた形となった。 県総合運動場駅のホームには血痕が残り、壁には人形の首が串刺しにされた状態で貼り付けられていた。まさに御門台・草薙の惨劇が一歩ずつ近隣に波及しているかのようだ。

第六章 終末の列車

 そんな中、静清鉄道は辛うじて運行を維持している区間で、夜間の警備を強化。だが、ある晩に「草薙駅ホーム上で車両が勝手に動き出した」と連絡が入る。 そもそも草薙駅は甚大な被害を受けており、ホームは使用不能に近い状態。にもかかわらず、何者かが遠隔操作で車両を移動させようとしているらしい。 上原刑事が駆けつけると、ホーム端に停まっている車両が微かにライトを点灯し、屋根から赤い垂れ幕が垂れ下がっている。そして垂れ幕には「天叢雲の剣、ここに血を満たす」と大きく書かれていた。 まるで亡霊の“最終列車”のようだ。もしこれが暴走すれば、駅の残骸をさらに破壊し、人々を巻き込みかねない――警官隊が必死にブレーキ操作を抑え、どうにか動きを封じる。

第七章 首謀者の影

 一連の事態を受け、警察内部ではついに外部組織(自衛隊など)との連携が検討され始める。御門台・草薙の騒乱を鎮めるには、もはや通常警備では不可能だ。 捜査の結果、“赤いローブ集団”には複数のリーダー格が存在し、「首塚稲荷」の残党や、御門台崩壊後に流入した謎のカルト信者が混在している形跡が浮上。彼らは**“天叢雲”**という言葉を合言葉に、草薙駅を第二の大惨事の拠点にしようとしているらしい。 だが、まだはっきりとした首謀者は見えない。かつての“赤い子供”の亡霊なのか、それとも大人が扮しているのか――判別が難しく、黒幕まで辿りつけないまま、混沌だけが深まる。

第八章 静岡県立大学敷地での惨劇

 夜、草薙キャンパスのある静岡県立大学の敷地内で、新たな惨劇が起きる。学生数名が無残な形で倒れており、首付近に深い切り傷を負って出血多量で命を落としていた。 現場には“赤い小型刀”の破片が複数散乱し、辺りには首人形が大量に並べられている。まるで何かの儀式を連想させる光景。壁には血文字で**「草薙剣に捧ぐ」**と大書されていた。 大学内はパニックに包まれ、学生たちは一斉に避難。もはや草薙地区の教育機関は機能停止状態だ。捜査当局も大規模包囲網を敷くが、肝心の犯人集団は捕まらない。

第九章 最後の奔流

 翌日、深夜に突入すると、草薙駅近くの踏切周辺で大規模な爆発音が起きる。何者かが仕掛けた爆薬または発煙筒のようなものが同時多発的に炸裂し、駅周辺を火の海に変えた。 警官たちが懸命に消火活動を試みるが、すでに駅舎やホームの残骸は火に包まれ、周囲の建物にも延焼しそうな勢い。真っ赤な炎が闇夜を照らし、人々の悲鳴が木霊する。 「またか……! どこまでやる気なんだ!」 上原刑事は絶望に吠える。いつの間にか背後から奇襲を受け、ローブ姿の大人が棍棒で殴りかかってくる。上原は気絶寸前になりながらも反撃し、相手を取り押さえようとするが、突如としてそいつは「天叢雲よ、血を吸え!」と叫び、ナイフを自分の喉に当てて自刃してしまう。血が飛び散り、上原の視界が赤く染まる。

終章 草薙の地獄、その果て

 日の出までに、草薙駅はほとんど全焼し、再び多数の死傷者を出した。JR草薙駅側も被害を受けたが、混乱の範囲こそやや小さいものの、こちらも乗客や職員が恐怖でパニックに陥り、駅の運用継続が困難な状況。 もはや草薙は“草薙剣(天叢雲)”にまつわるカルト組織の攻撃によって完全に打ちのめされ、列車の運行も停止状態。日本神話に名を借りた血塗られた惨劇が、またここに生まれてしまった。 上原刑事は夜明けに意識を取り戻し、崩れたホームを呆然と見つめる。炎の残り香と血の臭いが混ざり合い、そこはまるで地獄の光景。駅の床には、人形の首とともに「草薙駅――終焉」の文字が血で描かれていた。 ――こうして、草薙駅は御門台駅同様に壊滅の一途を辿り、草薙地区を支えていた鉄道の要所は消滅に近い形で幕を下ろした。血刀(ちがたな)はなお折れず、地獄の続きはどこか別の地へと拡大していくのかもしれない。

 (第二十作・了)

あとがき

「天叢雲(あめのむらくも)の翳(かげ)――草薙に満ちる最後の血」は、前作「草薙に揺れる血刀(ちがたな)」の直接的続編として、草薙駅を舞台にさらなる惨劇が繰り返される様子を描きました。御門台駅に続き、草薙駅までもが大規模な炎と流血の末に破壊され、多くの死傷者を出す結末です。「草薙剣=天叢雲剣」の神話とリンクする形で、赤い衣装の亡霊的集団や首人形のモチーフが、よりカルト色の濃い方法で駅を地獄へ誘います。こうして、静岡清水線の主要駅が相次いで崩壊するという、シリーズ史上でも最大級の破局を迎えました。次回作がもしあるとすれば、先に述べたJR草薙駅や他の中核駅、さらには静岡の中心街や新静岡駅方面へ影響が広がる可能性があります。しかし、この血塗られた連鎖を誰かが止めるのか、それともさらなる地獄絵図が待ち受けるのか――「恐怖と悲しみのどん底」へ沈んだ静清鉄道の物語はまだ先行きが見えないまま、闇に呑まれていくばかりです。

 
 
 

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