緑地の昼寝――都会とカモのあいだ
- 山崎行政書士事務所
- 3 日前
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原っぱの音は、街の音よりも腰が低い。スクーターのエンジンが一度だけ鳴っても、クローバーの葉のあいだに吸い込まれて、すぐに草のざわめきへと戻っていく。木の根元では白いアヒルが首を丸くたたみ、斑の羽のカモたちは嘴で地面を掃くようにして草の芽や小さな虫を拾っている。採餌と休憩が、振り子のようにゆっくり行き来する。
一羽が身づくろいを始める。背の付け根から油を嘴に受け取り、羽先へと丁寧にのばす。防水のための大事な仕事だ。別の一羽は、体を丸めて片方の目だけ細く開けたまま、風の匂いを測っている。群れの時間には、眠ることと見張ることが重なっていて、誰かが休めば、誰かが世界を見ている。
橙の脚が、白い小花のじゅうたんをそっと踏む。移動するときの歩幅は短く、草むらでは跳ねずに滑るようだ。人間の時間が直線で進むのに対して、彼らの時間は輪を描く。食べて、整えて、眠り、また食べる。その単純さが、都市の中心でささやかな秩序を保っている。
ベンチでは年配の夫婦が静かに会話し、通り抜ける子どもが指で数えては羽の模様を確かめる。犬を連れた人はリードを短く持ち、足取りをゆるめる。ここには、境界の礼儀が息づいている。野生と都市のあいだをやわらかく区切るのは、柵ではなく、速度と距離の感覚なのだろう。
やがて太い幹の影が伸びて、原っぱの色が少し深くなる。カモたちは輪の中心へ集まり、羽の間に顔をうずめる。微かな寝息のような吐息が草を揺らし、昼の暑さが一段落する。目を凝らすと、地面のわずかな起伏にあわせて胸が上下し、群れ全体が同じ呼吸を共有しているように見える。都会のなかで、もっとも静かなメトロノームだ。
歩道に戻ると、街のテンポがふたたび速くなる。けれど耳のどこかに、草むらの低い音が残っている。野生との良い出会いは、たいてい無言で、短い。だからこそ記憶の奥で長く鳴り続けるのだと思う。次にここを通るときも、私は同じ歩幅で、同じ距離を保とう。あの小さなメトロノームの針を乱さないように。
観察メモ(静かな共生のために)
近づきすぎず、驚かせない。走らない・追わない。
パンなどの給餌は控える(栄養が偏り、健康を損なう)。
犬はリードを短く、子どもには「見る距離」を教える。
羽づくろい・昼寝・採餌のリズムを壊さないよう、立ち止まって静かに眺める。
都市の緑地は、私たちの休憩所であると同時に、彼らの生活そのものだ。同じ場所を使う者どうし、音量と歩幅を少しだけ合わせれば、平和な午後は長持ちする。
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