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華麗なる散策路――ウィーン、グラーベンの物語

  • 山崎行政書士事務所
  • 2月6日
  • 読了時間: 3分

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1. 石畳の朝

 ウィーンの中心部、**シュテファンプラッツ(Stephansplatz)**から少し歩くと、白い石畳の広場へと続く一筋の道に出る。それが グラーベン(Graben)――歴史あるショッピングストリートとして有名だ。朝早く、まだ観光客も多くない時間帯に訪れると、連なった建物のファサードが薄オレンジ色の朝日を浴び、どこか優雅な静けさを漂わせている。 この通りをゆっくり歩けば、古いルネサンス風の建物やバロック様式の外観が軒を連ね、ウィーンが長い歴史の中で育んできた文化と経済の痕跡を感じ取ることができる。

2. 黄金色のペスト記念柱

 グラーベンの中央を歩き進むと、見る者の眼を一瞬にして奪うのが、**ペスト記念柱(Pestsäule / Dreifaltigkeitssäule)**だ。金色の彫像や雲を模した白い装飾がいくつも重なり、まるで天と地をつなぐ塔のようにそびえ立っている。 17世紀のペストの流行を鎮めようと建立されたこの柱は、バロック芸術の極致ともいえる装飾を纏(まと)い、かつての惨禍を乗り越えたウィーンの祈りを象徴している。朝の柔らかい光が金箔に当たると、柱全体が静かに燃えるような輝きを放ち、通行人の足を止めさせる。

3. カフェとブティックの賑わい

 やがて午前の時間が進むと、グラーベン沿いのブティックやカフェが次々にオープンし、道行く人々で賑やかさを増していく。ガラス張りのショーウィンドウには最新のファッションが並び、ヨーロッパ独特のエレガンスと近代的なスタイルが一体となって外を彩る。 香ばしいコーヒーを提供する小さなカフェでは、テラス席に腰を下ろしてスイーツを楽しむ人々の笑い声が聞こえ始める。ガイドブックを広げた観光客、ビジネスの合間の休息を取る地元民、芸術大学生らしき若者が混じり合う光景は、ウィーンが持つ国際的な多彩さを象徴しているかのようだ。

4. 高級ジュエリーとソーセージスタンドの対比

 グラーベンはウィーン随一の高級商店街でもあるため、宝石店のキラキラしたショーケースや一流ブランドのボディラインが美しいマネキンが飾られている。その合間には、ささやかな地元の屋台もあり、ソーセージやレバーケーゼ(Leberkäse)などを売るスタンドが道端に陣取っている。 ビジネスマンが高級スーツ姿で屋台のソーセージをかじり、飲み終わったビール瓶を近くのゴミ箱に捨てる姿は、ウィーンらしい“高貴と庶民”の混合文化を想起させる。どちらにも共通しているのは、美味しいものに対する素直な喜びだ。

5. 夕暮れと夜のライトアップ

 夕方が近づくと、グラーベン全体はオレンジ色の夕陽に包まれ、建物の外壁がやわらかな金色に染まる。店先にはライトアップが施され、華やぎを増したショーウィンドウが人々を誘い込む。 夜になると観光客も多くなり、街灯が石畳を照らし、ペスト記念柱の金色の彫像がライトアップによって幻想的に浮かび上がる。時折、ストリートミュージシャンがバイオリンやアコーディオンを奏で、ウィーン特有のワルツやクラシックの旋律がグラーベンに優雅に流れている。

エピローグ

 ウィーンのグラーベン(Graben)――バロックの気品と近代的な洗練が調和した歩行者天国。朝の静寂から昼の喧騒、そして夜のロマンチックなライトアップまで、1日のうちにドラマチックな変化を見せる。 建物を飾る美しいレリーフや、中央にそびえるペスト記念柱、そして路地に漂うコーヒーの香りが、ウィーンの歴史と気品をそっと伝えてくれる。もしこの通りを訪れるなら、心ゆくまで石畳を踏みしめ、歴史の息づかいや文化の豊かさを五感で感じ取ってほしい。きっとウィーンらしい優雅な記憶を胸に刻むことになるだろう。

(了)

 
 
 

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