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2025――「監査可能性×逆推定×限定基金」モデル

  • 山崎行政書士事務所
  • 9月30日
  • 読了時間: 6分
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AI・自動運転・生成AIの不法行為責任に対する、現場実装と整合する現実解

結論の骨子 可監査性(Auditability)を法的な最低義務として明文化(説明可能性より“検証可能性”)。 重大結果×監査不全×高危険域の三要件で過失を逆推定(準厳格)。 自動運転など高危険用途のみ**「限定基金(ライト)」**で一次救済、内部で求償。 設計者・運用者・データ提供者の負担按分は、**危険寄与(ARC‑lite)×統制(Control)×利得(Benefit)**で数理的に配分。 すぐ動かせるMLOpsベースの実装指針・モデル条項・90日導入ロードマップをセットで提示。

1. 規範原理(2025年に動かせる線)

1-1 可監査性(Auditability)を最低義務化

説明可能性(XAI)の限界を前提に、再現・追跡・検証を可能にする可監査性を義務づけます。

最低要件(「四帳簿+三API」)

  • 四帳簿:①モデル台帳(バージョン/ハイパパラ/学習コードハッシュ)②データ台帳(データ出所・ライセンス・フィルタ記録・データマニフェスト)③運用台帳(デプロイ設定・スローットリング・ガードレール)④事故台帳(インシデント・アラート・是正措置)。

  • 三API:A. 監査API(指定IDの入出力・特徴量・方策を再実行/反事実比較)B. 凍結API(機能降格・停止)C. 是正API(モデル/データ修正の追跡)。

法的効果:帳簿・APIが整っていない場合、後述の逆推定が作動(過失推定/求償時の不利)。

1-2 逆推定(準厳格)の発動条件

次の三要件が同時に満たされるとき、過失を推定(事業者側に反証責任):

  1. 重大結果(死亡/重篤傷害/大規模財産損)

  2. 監査不全(四帳簿欠落、監査API不作動、ログ改ざん等)

  3. 高危険域(下表Tier Aに該当)

1-3 リスク層別(2025年版の現実的区分)

Tier

用途例

基準

責任ルール

A 高危険

自動運転(L3+)/ 医療介入 / 電力・化学制御

生命・重大インフラ

逆推定+限定基金(一次救済)+強制保険

B 中危険

医療支援/ 与信審査 / 雇用選抜 / 物流最適化

権利・生活基盤

過失責任(強化)+逆推定の準用(重大結果時)

C 低〜中

生成AI一般/ 推薦 / カスタマー対応

名誉・プライバシ等

過失責任+可監査義務(逆推定なし)

2. 負担配分――ARC‑lite × Control × Benefit(山崎式)

目的:設計者・運用者・データ提供者の内部求償を予見可能化。

  • ARC‑lite(危険寄与):反事実評価+テレメトリから0〜1で点数化(精密統計が難しい2025年向けのライト版)。

  • Control(統制係数):設計/運用/データ各主体の実効的コントロールの強さ(0.5〜1.5)

  • Benefit(利得係数):収益/コスト削減/市場支配の実益比重(0.5〜1.5)

各主体の負担率 = 正規化∗∗ARC‑lite×Control×Benefit∗∗**ARC‑lite × Control × Benefit**∗∗ARC‑lite×Control×Benefit∗∗

初期値の目安(実装テンプレ)

  • 設計者:ARC 0.4〜0.6 / Control 1.2 / Benefit 1.0

  • 運用者:ARC 0.3〜0.5 / Control 1.1 / Benefit 1.0

  • データ提供:ARC 0.1〜0.3 / Control 0.8〜1.0 / Benefit 0.8〜1.0(監査不全が見つかれば該当主体のControlを+0.2ログ改ざんは**+0.4**)

3. エンジニア視点の実装義務(MLOps 10カ条)

  1. データマニフェスト(出所・ライセンス・除外基準・版)を自動生成しハッシュ固定。

  2. 学習再現(コード・乱数・依存環境)をワンコマンドで再現(Docker/conda-lock等)。

  3. Feature/Embedding ストア版管理PII分離

  4. オンライン監視:①ドリフト指数(DSI)②有害出力率(SAR)③Time‑to‑Intervene(TTI)をダッシュボード化。

  5. 安全ケース(想定危険→緩和策→残余リスク)をPull Request単位で更新。

  6. 機能降格/停止(kill‑switch)を権限管理監査ログ付きで常時有効。

  7. ヒューマン・イン・ザ・ループ:Tier A/Bは閾値超で強制介入(例:信頼度<τで人手レビュー)。

  8. レッドチーム:プロンプト攻撃/データ汚染/対向例を四半期演習

  9. 第三者監査対応:監査APIでサンプル再現反事実比較を実演できる状態に。

  10. 事故対応Runbook:通報→凍結→原因切り分け→是正→再開のSLA(例:T+0/24h/72h)。

4. 具体的ルール(契約・社内規程の雛形)

4-1 契約(開発/運用/データ提供)に入れる条項(抜粋)

  • 可監査性条項:四帳簿・三APIの維持義務。不履行は過失推定

  • ログ完全性条項:改ざん時は賠償倍率(1.5〜3.0)

  • ARC‑lite算定条項:寄与推定の指標(事故前後のハザード率、アブレーション比較、A/B停止差)。

  • 停止権限条項:閾値超のとき運用者に停止義務

  • 保険/基金条項:Tier Aは強制保険+限定基金拠出、Tier Bは保険努力義務

  • データ表明保証:出所・権利・品質指標・撤回API。違反時はControl+0.2補正

4-2 社内規程(綱紀)

  • ログ保存期間:Tier A/Bは3年以上、Cは1年

  • KPI:DSI/SAR/TTIの目標値逸脱時の自動エスカレーション

  • 再開審査:事故後は安全ケース差分レビュー経営決裁を必須に。

5. 責任追及と証拠の運用

  • 被害者側:①被害の発生、②当該AIの関与(ログID/モデルID)、③監査APIへのアクセス要求――を示せば立証の門前に到達。

  • 事業者側監査APIの実演で「ARC‑liteが小さい」「ヒト介入で是正した」「データ側の誤り」等を反証。

  • 裁判所/ADR逆推定のチェック(重大結果×監査不全×高危険域)→ARC‑lite按分基金・保険の順で処理。

6. 事例への適用(簡易デモ)

6-1 自動運転(L3)×死亡事故(Tier A)

  • 四帳簿:運用台帳のアラート閾値が未設定→監査不全

  • 重大結果○・監査不全○・高危険○ → 逆推定作動。

  • 限定基金が一次賠償。内部求償はARC‑lite:設計0.5・運用0.35・データ0.15、Control(設計1.2/運用1.1/データ0.9)で按分。

6-2 生成AIの名誉毀損(Tier C)

  • 可監査性○(質問と出力ログ・プロンプト防御あり)。

  • 逆推定×。過失責任で、プロンプト防御・安全更新の有無を中心に過失判断。

  • 被害発生後、該当プロンプトパターンをガードレール更新、モデル台帳へ記録。

6-3 与信スコア誤判(Tier B)

  • ドリフト検知のTTI超過(48h超)で事故台帳記録。

  • 重大結果(大量誤拒否)はあり得るが、監査APIで反事実を提示でき反証成立→逆推定回避

  • ARC‑liteで運用側の介入遅延を上積みし、内部で費用按分。

7. 「限定基金(ライト)」の構造(Tier Aのみ)

  • 拠出:走行距離/運転時間×危険係数。

  • 一次支払:過失未確定でも迅速支払

  • 回帰:事後にARC‑lite×Control×Benefitで加害側連関体へ求償

  • 透明性:四半期ごとに事故統計・払戻率を公開し、保険料率を調整。

8. 90日導入ロードマップ(現場実装)

  • Day 0–30:四帳簿の雛形作成/監査APIのRead‑only MVP実装/kill‑switch常時化。

  • Day 31–60:DSI/SAR/TTIダッシュボード/安全ケースのPR連携/事故Runbook訓練。

  • Day 61–90:契約条項差替(可監査性・停止権・ARC‑lite)/Tier判定と保険見積/ADRフロー整備。

9. 既存見解(A/B)への位置づけ

  • 見解A(過失精緻化)はTier B/Cの主軸として採用。ただし可監査性を法的に最低義務化し、重大事故では逆推定をかける。

  • 見解B(無過失)はTier Aのみ限定採用。全面無過失は採らず、基金ライト+内部求償迅速救済と誘因を両立。

10. ひと言で言えば

「説明できなくても、監査できなければ責任が重くなる。」「重いリスクは、まず基金で救い、その後はARC‑lite×Control×Benefitで“作った・動かした・稼いだ”順に払う。」

付録A:チェックリスト(社内向け)

  •  モデル/データ/運用/事故の四帳簿は稼働している

  •  監査APIで事故IDの反事実再現ができる

  •  DSI/SAR/TTIの閾値とエスカレーションが設定済み

  •  安全ケースがPRベースで更新されている

  •  停止権限Runbookが24/7で回る

  •  契約に可監査性・逆推定・ARC‑lite条項を入れた

  •  Tier判定と保険/基金の準備ができた

※本提案は一般的な法務・技術設計の指針です。個別事案では、適用法令・監督ガイドライン・契約文言・証拠可能性を踏まえて調整してください。

 
 
 

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