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Azure 環境の設計・構築における法務チェック

  • 山崎行政書士事務所
  • 9月11日
  • 読了時間: 7分

— GDPR/国内個人情報保護法の国外移転と、NIST 等セキュリティ指針の実装統合 —

著者:山崎行政書士事務所 クラウド法務・アーキテクチャ支援チーム

発行日:2025-09-11

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要旨(Abstract)

本稿は、Azure 環境の設計・構築フェーズで見落とされやすい法務・コンプライアンス要件を、国外移転(GDPR/個人情報保護法)を軸に、NIST CSF / SP 800-53・ISO 27001/27701などの技術的管理策へ確実に落とし込む方法を体系化する。中心論点は「データ所在地(Data Residency)」「移転根拠(SCC 等)」「共有責任の線引き」「監査可能性(証跡・保存・改ざん耐性)」。リージョン選定/DR(GRS/ASR)やログ保管先の扱い、鍵管理・閉域化・イグレス統制までを実装テンプレートエビデンス化の要領で提示する。

1. 法令→設計→運用の対応付け(総覧)

  • 法令観点

    • GDPR:越境移転は SCC 等の移転ツール+補完措置が基本。Schrems II 以降は実効性の評価(法令・運用実態)まで踏み込む。

    • 国内個人情報保護法(APPI):外国にある第三者提供同意+相手国の制度・受領者の保護措置の情報提供等が要件。

  • 設計観点

    • リージョン/データ配置を要件定義で確定(本番・DR・ログ保存先)。GRS/ASRなど自動複製の行き先まで合意。

    • 暗号化(Key Vault BYOK/CMK)ネットワーク閉域(Private Link)イグレス統制(Firewall/UDR/NAT)、**ログの保持・改ざん耐性(WORM/Immutable)**をポリシー化。

  • 運用・監査観点

    • 記録(ROPA)/DPIA/TIAの定期更新。ログの保存期間・復元性の確認、DR テスト結果の証憑化。

    • SLA はサービスクレジット中心であり、事業継続の実効責任は利用者側にあることを前提に BCP に織り込む。

2. Data Residency と国外移転を前提にした Azure 基本設計

2.1 リージョン/ワークロード配置方針

  • 本番/DR のペア法的リスクと可用性のトレードオフで確定。国内→国内(越境低)か、国内→海外(広域災害耐性高)かを経営判断として記録。

  • ログ保管先のリージョンは業務データと分離しても国外移転の扱いになり得るため、保存場所・保存期間・目的をプライバシーポリシーに明記。

2.2 代表パターンと設計含意

  • 国内本番(Japan East)+国内 DR(Japan West):国外移転リスク低。広域災害想定の残余リスクは事前評価。

  • 国内本番+海外 DR(例:Southeast Asia)DR 切替時の越境をポリシー・契約・同意で明示。データ/ログ/バックアップそれぞれの複製先を設計書に明記し、**補完措置(暗号化・鍵管理)**を強化。

3. 設計に落とす法務チェックの「作業順」

3.1 データマッピングと記録(ROPA)

  • 処理主体/目的/カテゴリ/所在/移転先/保存期間を台帳化。マルチクラウド/SaaS 連携までデータフロー図に落とす。

  • ハイリスク処理(健康情報、位置情報、大規模監視等)は DPIA第三国移転TIA を起案。

3.2 リージョン拘束の技術実装

  • Azure Policy:許可リージョンをテナント標準で強制(後掲テンプレート)。

  • Azure Resource Graph 監視で逸脱デプロイを検出(後掲 KQL)。

  • 閉域化:PaaS はPrivate Link/Private Endpoint、自社からのアクセステストをNSG/Firewall/Service Tagsで縛る。

  • 鍵管理Key Vault(BYOK/CMK)で暗号鍵を域内管理。鍵ローテ・廃棄のSOPを Evidence に。

3.3 ログ・証跡の保存と改ざん耐性

  • Log Analytics / Sentinel の保持+アーカイブを要件化(監査年限・コストを同時設計)。

  • Blob Immutable(WORM/リーガルホールド)で変更不能を担保。監査対象テーブルは保存先と保持年限を台帳に反映。

3.4 DR(設計と責任分界)

  • GRS/GZRS/RA-GRS自動で別地域に複製されるため、移転先の国・地域を説明可能に。

  • Azure Site Recovery(ASR)テスト・フェイルオーバー時も個人データが複製される可能性を社内規程とプライバシーポリシーに明記

  • SLA は補償(クレジット)であり、切替の成否は設計と演習に依存。共有責任モデルを契約に反映。

4. セキュリティ・フレームワークへのマッピング

4.1 NIST CSF 2.0(Govern/Identify/Protect/Detect/Respond/Recover)

  • Govern:データ移転方針・許可リージョン・鍵管理・ログ保全を方針/統制/指標に格納。

  • IdentifyResource Graph+Purviewで資産・データ所在を可視化。

  • ProtectMFA/PIM/RBAC/CMK/Private Link/Firewall

  • DetectSentinel/Defenderの相関ルール(国外からの異常アクセス、エグレス例外)。

  • Respond/RecoverプレイブックDR 手順演習記録を Evidence 化。

4.2 NIST SP 800-53(例示)

  • AC/IA:Azure AD(Entra)+PIM、きめ細かな RBAC、条件付きアクセス。

  • AU:Log Analytics/Sentinel、改ざん耐性は Blob Immutable を併用。

  • SC:転送/保存の暗号化、TLS 1.2/1.3、Private Link。

  • CP:ASR・バックアップ、定期 DR テストの結果保存。

  • RA/PM:リスク登録簿と是正計画(POA&M)を運用。

4.3 ISO 27001 / 27701

  • ISMS(27001)リージョン選定、越境移転、鍵管理、DRを適用宣言書に反映。

  • PIMS(27701):データ主体権利対応(開示・消去)、越境移転の通知・同意、SCC/DPA の整備。

5. 実装テンプレート(上級 SE 向け最小キット)

5.1 「許可リージョン」を強制する Azure Policy(抜粋)

{
  "properties": {
    "displayName": "Allowed locations (Data Residency)",
    "policyRule": {
      "if": { "field": "location", "notIn": ["japaneast", "japanwest"] },
      "then": { "effect": "deny" }
    },
    "parameters": {}
  }
}
プロダクト別の例外(たとえばグローバル固定のサービス)は別ポリシーで許可。テスト/検証用サブスクは「AuditIfNotExists」で監査のみ運用も可。

5.2 配置逸脱の検知(Azure Resource Graph / KQL)

resources
| where type !in~ ('microsoft.resources/subscriptions/resourcegroups')
| project name, type, location, subscriptionId
| where location !in~ ('japaneast','japanwest')

5.3 Sentinel:国外イグレス例外の検出(例)

AzureNetworkAnalytics_CL
| where FlowDirection_s == "Outbound"
| where PublicIPs_d !in (/* 許可済み宛先 CIDR 一覧 */)
| summarize cnt=count() by bin(TimeGenerated, 1h), SrcSubnet_s, DstPublicIPs_s

5.4 Blob 変更不能(WORM)設定の運用要点

  • コンテナ/アカウント単位の Immutable ポリシー保持期間リーガルホールドの発動・解除手順を権限分離して文書化。

  • 監査期間外の早期削除が不可となるため、法的要件と保存コストを合わせて設計。

6. コントラクト&ガバナンス(条項と証跡)

  • DPA(Microsoft)処理者としての約束(GDPR Art.28 等)とEU Data Boundary/データ所在地コミットの参照位置を契約添付に明記。

  • SCC:EU から域外の自社/委託先への移転に適用、**補完措置(技術的・組織的)**を TIA に添付。

  • プライバシーポリシーDR/バックアップ/ログ複製先目的同意の取得・撤回方法。

  • 監査対応パッケージ(Evidence)

    1. ROPA/DPIA/TIA/データフロー図

    2. Policy 定義・割当(許可リージョン等)

    3. 鍵ライフサイクル(CMK)・アクセス権限(PIM/RBAC)

    4. ログ保持・アーカイブ・Immutable 設定

    5. DR 手順・演習結果・SLA 照合メモ

7. よくある落とし穴(チェックリスト)

  • GRS を有効化しているのに複製先の国・地域をポリシー/告知に反映していない。

  • ASR のテスト実データを海外へ複製しうる点の社内合意がない。

  • リージョン許可ポリシーがデプロイの一部にしか効いていない(例外サブスクの野放し)。

  • 鍵管理がクラウド委託側任せで、BYOK/CMK の責任区分が契約に未反映。

  • ログの保存年限/改ざん耐性が監査要件に非整合。

  • SLA を過信して DR を未演習(クレジットは回収できても復旧は別問題)。

8. まとめ(実務指針)

  1. :GDPR/APPI の国外移転を先に評価(DPIA/TIA)

  2. 設計リージョン拘束・閉域化・鍵管理・イグレス統制をポリシー化

  3. 運用保持・改ざん耐性・DR 演習を Evidence 化し継続監視

  4. 契約DPA/SCC/プライバシーポリシー説明責任を形式知化

技術(Azure)と法務(GDPR/APPI)の両輪で、移転リスクを可視化・最小化し、実装可能な証跡を残すことが、クラウド活用の速度と監査対応力を同時に引き上げる。

9. 山崎行政書士事務所のご支援(PR)

「クラウド法務 × 技術設計」を同一チームで完結します。

  • 要件定義〜設計〜Evidence 作成〜監査同席まで一気通貫

  • DPA/SCC/プライバシーポリシーの条項整備と、Azure Policy/Sentinel/ASR 等の実装設計書同じ言語系で統合

  • 既存運用への摩擦最小の移行計画SLO/Error Budgetを含む継続運用設計

初回相談では、移転/保存/DR/監査の 4 軸でリスクを可視化し、90 日で Evidence 一式を揃えるロードマップをご提示します。

—––– ここまでブログ本文 —–––

参照リンク集(べた貼り・Wix 用)


免責:本稿は一般情報であり、法的助言ではありません。最終判断は貴社顧問弁護士等とご相談ください。必要であれば、山崎行政書士事務所が法務ドキュメントと技術設計書の両面で伴走支援いたします。

 
 
 

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