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Dense/Supercritical CO₂配管の**走行延性亀裂(RDF)**確率論設計

  • 山崎行政書士事務所
  • 10月3日
  • 読了時間: 7分
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――DNV‑RP‑F104/ISO 27913の要求を“確率論”で再解釈し、DWTT・最低板厚・停止策同じ物差しで最適化する――

要旨(Abstract)

Dense/超臨界 CO₂ 配管では、二相化を伴う急減圧波が長いプラトーを持つため、天然ガス配管の延命知見をそのまま適用できない。**走行延性亀裂(RDF)**の設計は、**材料抵抗(DWTT・Charpy 等)減圧波速度(EOS に依存)**の「二曲線法」を拠り所とするが、配合不純物・温度・地中拘束・製造ばらつきの不確かさが大きく、決定論だけでは安全側/経済性のバランスを見落としやすい。本稿は、DNV‑RP‑F104/ISO 27913(最新版)の設計骨子を踏まえ、確率論(FORM/MCS)でRDF停止の信頼度を直接評価するフレームを提示する。結論は、(1) DWTT(せん断面積・分位値)×最小板厚 tmin⁡t_{\min}tmin​ を同時変数として最適化し、(2) CO₂専用の減圧波モデル(実在気体EOS)を使い、(3) 個別線(径・圧力・組成)ごとの信頼性目標 PfP_\mathrm{f}Pf​ を板厚・停止策(クラックアレスタ)に配分するのが、安全側とCAPEX/OPEXの均衡に最短である。

1. 規格の“読み替え”――何を満たせばよいか

  • 目的:RDFを線路長 L にわたって停止できることの実証(解析・試験・実績の組合せ)。

  • 材料指標DWTT(せん断面積%・吸収エネルギ)とCharpy材料曲線(破面進展に対する抵抗速度)に写像。最低せん断面積(例:85%)の運用規定は寸法と温度に依存する「足切り」と捉え、確率論で分位として扱う。

  • 方法論二曲線法(BTCM/MTCM 系)または全応答の数値破壊材料曲線 vmat(p;D,t,靭性)v_\mathrm{mat}(p; D,t,\text{靭性})vmat​(p;D,t,靭性) と減圧曲線 adec(p;T,x)a_\mathrm{dec}(p; T,x)adec​(p;T,x) を比較し、「交点が存在する=停止」。

  • 実務フルスケール試験(Spadeadam 等)と実配管ログがある場合はモデルの当て込みで分散を縮小する。CO₂特有混相減圧プラトー不純物(N₂, O₂, H₂, CH₄, H₂S 等)の影響をEOSで反映する。

2. 物理の要点――なぜ CO₂ は難しいのか

  • 減圧波の“長いプラトー”:Dense/超臨界条件からの破断減圧は液相→二相→気相を横断し、音速相当の波速 adeca_\mathrm{dec}adec​ が広い圧力帯で高止まりする。→ 要求靭性板厚メタンより高めに出やすい。

  • 地中拘束・背圧:埋設・背圧・外気温で材料曲線/減圧曲線の双方が変化。**背圧↑**は停止に有利、低温は一般に有利(ただし鋼の遷移域は別途管理)。

  • 不純物効果:数%のN₂/CH₄臨界特性・相挙動を変え、adeca_\mathrm{dec}adec​ を押し上げも下げもする。**設計組成の“幅”**を持たせるのが確率論の肝。

3. 確率論フレーム(RDF停止の信頼度を直接計算)

3.1 限界状態関数

g=min⁡p∈(0,Pmax)[vmat(p;D,t,Θmat)−adec(p;T,x,Θmix)]g=\min_{p\in(0,P_\mathrm{max})}\Big[v_\mathrm{mat}\big(p; D,t,\Theta_\mathrm{mat}\big)-a_\mathrm{dec}\big(p; T,x,\Theta_\mathrm{mix}\big)\Big]g=p∈(0,Pmax​)min​[vmat​(p;D,t,Θmat​)−adec​(p;T,x,Θmix​)]

RDF停止 ⇔ g>0g>0g>0。ここで**Θmat\Theta_\mathrm{mat}Θmat​=DWTT/Charpy 由来パラメータ、Θmix\Theta_\mathrm{mix}Θmix​**=組成・EOSパラメータ。

3.2 不確かさ(推奨の確率モデル例)

  • DWTT せん断面積ベータ分布(0–1 区間)。合否要件(例:85%)は下側分位で管理。

  • DWTT/Charpy エネルギ対数正規(製造ヒート間・ロット内分散を分離)。

  • 板厚 ttt公差+腐食許容を含む三角分布または正規

  • EOS/混相減圧組成 xxx のばらつき(トリミング正規)→adeca_\mathrm{dec}adec​ の応答面に写像。

  • 外的条件地温・背圧・土被り季節シナリオで確率重み付け。

3.3 信頼度評価

  • FORM/SORM:高速に設計点と感度(寄与度)を取得。

  • MCS:EOS 組込みの二曲線を直に比較(10⁵〜10⁶ サンプルで安定)。

  • 目標値:線路・環境に応じ**PfP_\mathrm{f}Pf​ 目標(例:10⁻⁴〜10⁻⁵/年・km 級)を設定し、β\betaβ** 指標(信頼性指数)で監視。

4. DWTT↔板厚の“同時最適化”――設計変数の束ね方

  • 決定論の落とし穴:板厚だけを上げると材料曲線は有利になるが、CAPEX↑・溶接入熱↑・冷間曲げ性↓。DWTTを上げるだけでは製造コスト↑・供給リスク

  • 同時最適化の要領

    1. 設計点(径 DDD, 最高運転圧 PmaxP_\mathrm{max}Pmax​, 温度 TTT, 組成レンジ)を固定。

    2. ttt と DWTT分位(例:P₅値)を設計変数にし、Pf≤P_\mathrm{f}\lePf​≤ 目標を満たすParetoを探索。

    3. 停止策(スチール/複合アレスタ、外被補強、背圧設計)を第3変数に追加すると厚みと靭性の要求を同時に緩められる。

  • 実務目安大径(≥508 mm)×高圧では、DWTT せん断面積 85%(最低)を分位(P₅)管理し、ttt は強度+RDF停止の双方で決まる“上位制約”になりやすい。

5. CO₂専用「二曲線」の作り方(再現性の出る手順)

  1. 減圧曲線 adec(p)a_\mathrm{dec}(p)adec​(p)実在気体 EOS(純 CO₂ は Span‑Wagner、混合は GERG/PR 等)+同相平衡(HEM)で1D減圧を解き、波速‑圧力曲線を作る(温度・混合・初期圧の掃引)。

  2. 材料曲線 vmat(p)v_\mathrm{mat}(p)vmat​(p):DWTT/Charpyの実機相当補正(拘束・温度・寸法)と口径・板厚の効果を入れた改良 BTCM/MTCMを使用。フルスケール試験があれば係数同定で信頼区間を縮小。

  3. 交点解析vmat(p)v_\mathrm{mat}(p)vmat​(p) と adec(p)a_\mathrm{dec}(p)adec​(p) の最小差を取り、停止の“余裕”(m/s)を指標化。

  4. RDFリスク地図:D,t,PmaxD,t,P_\mathrm{max}D,t,Pmax​ の平面に停止/非停止の境界を引き、感度(DWTT 分位・組成・温度)を重ねて運用窓を可視化。

6. 受入・運用:RDFを“走らせない”ための実務

  • 仕様化DWTT 85%(P₅)かつエネルギ最小分位板厚 t≥tmin⁡(強度, RDF)t\ge t_{\min}(\text{強度, RDF})t≥tmin​(強度, RDF)停止策の有無(間隔・形式)を仕様票に明記。

  • 検査:DWTT は温度管理・トリッピング防止の工程管理で分散を抑える。現場切板 DWTTや**落重遷移線(NDTT)**でロット差を監視。

  • 停止策スチール/複合アレスタRDF停止確率を桁で低減しうる。布設制約(溶接・外径増)とのTCOで採否判断。

  • 運用組成管理(不純物の上限・変動幅)と背圧・温度の監視をRDFデジタルツインに同化し、季節で β\betaβ を再評価。

7. 典型ケースの“相場観”(保守側の設計値)

  • Dense CO₂(大径×高圧)天然ガス同等の Charpy 要件では不足リスク。DWTT分位の引上げまたは板厚+アレスタ二段建てが現実的。

  • 不純物 2–5 mol% 混入adeca_\mathrm{dec}adec​ のプラトーが変わり、要求 DWTT/ttt が**±数十%**動き得る。→ 組成レンジを確率入力に。

  • 埋設・背圧背圧 0.2–0.5 MPaの“微差”でも停止余裕が可視的に増加。→ ベント設計・地盤剛性の寄与を見逃さない。

8. 現場専門家としての所見(要点)

  1. “二曲線+確率論”が本線:CO₂は決定論の余裕が小さい。不確かさを正面から扱い、PfP_\mathrm{f}Pf​ で合否を決める。

  2. DWTTは“分位で交渉”平均値ではなくP₅やP₁₀で仕様化し、板厚・停止策Paretoで折衝する。

  3. EOSと実証の“二本立て”実在気体の減圧計算を外さず、フルスケール/Spadeadam 系の当て込みでモデル信頼区間を狭める。

  4. 停止策の費用効果は大アレスタ間隔を最適化すると、ttt とDWTTの要求が“段”で下がる。CAPEXのバランス取りに効く。

9. ドラスティック提言(大胆だが実務的)

  • 提言①|“RDF信頼度 KPI”を設計票にPfP_\mathrm{f}Pf​ または**β\betaβ** を明文化し、DWTT(P₅)×ttt×停止策3変数で承認する文化へ。

  • 提言②|“組成レンジで受入”:規格の要求に運用組成の幅(例:N₂, CH₄, O₂ の上限・変動)を明示し、RDFモデルの入力に連携。

  • 提言③|“最小板厚の上下限”強度側 tmin⁡,σt_{\min,\sigma}tmin,σ​ とRDF側 tmin⁡,RDFt_{\min,\mathrm{RDF}}tmin,RDF​ を並記し、小外径補強・外被代替設計も許容。

  • 提言④|“フルスケール 1 本”:線種ごとに1 回の全長試験(または同等の実証)を係数同定に使い、運用中は確率更新する。

  • 提言⑤|“規格ギャップの埋め方”ISO 27913/DNV‑RP‑F104の骨格を守りつつ、RDF確率評価DWTT分位管理停止策の信頼度配分社内標準化し、順次 WG へ提案。

結論(Conclusions)

CO₂配管の RDF 設計は、材料抵抗(DWTT・Charpy)と混相減圧(EOS)の二曲線を、確率論で束ね直して判断すべきである。DWTT 分位×板厚×停止策同時最適化し、組成・温度・背圧の不確かさを入れた**PfP_\mathrm{f}Pf​** 満足設計へ移行することで、安全側とCAPEX/OPEXのトレードオフを透明化できる。フルスケール実証の当て込みでモデルの幅を狭め、運用中のデータ同化信頼度を維持する――これが Dense/超臨界 CO₂ 時代の実務解である。

参照リンク集

注:上記は代表情報です。適用時は、対象線路の径/板厚/圧力/温度/組成レンジDWTT・Charpy のロット分布背圧・地盤拘束を最新のデータで同定し、**信頼度目標(PfP_\mathrm{f}Pf​/β\betaβ)**を合意の上で設計してください。

 
 
 

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