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Type IVタンクのポリマーライナー透過・ブリスター対策:分子動力学 × 加速試験

  • 山崎行政書士事務所
  • 10月2日
  • 読了時間: 6分
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――温度・圧力依存の溶解/拡散係数を MD で同定し、70 MPa 相当の実機スケール加速試験と往復検証PA/PEEK+ナノフィラーのガスバリア改質も定量比較――

要旨(Abstract)

Type IV(CFRP+ポリマーライナー)水素タンクでは、水素の溶解・拡散に伴う透過(パーミエーション)と、急減圧時のブリスター/ライナー損傷が主要リスクである。本稿は、2–12 MPa、−10–110 °C、H₂ 5–40 mol%の運用窓を想定し、(i) MD(GCMC+MD)で溶解係数 S(T,P)S(T,P)S(T,P) と拡散係数 D(T,P)D(T,P)D(T,P) を同定、(ii) 70 MPa級クーポン~実容器の加速試験でパラメータ反推定妥当化を行う“モデル—試験往復”を提示する。さらに、PA/PEEK母材に対するグラフェン/クレイ等のナノフィラー、およびEVOH等のバリア層の効果を透過率 P=D ⁣⋅ ⁣SP=D\!\cdot\!SP=D⋅S とブリスター指標で比較し、**規格適合(例:GTR 13/ISO 19881 の透過上限)**を満たしつつ、製造性と寿命を両立させる設計筋道を示す。

1. 背景と設計要件

  • リスク像:ライナーを通過した H₂が界面空隙/層間欠陥に蓄圧→急減圧内外圧差が立ち、ブリスター/デボンディングが発生。

  • 規格窓タイプ承認の透過上限(例:GTR 13 の55 °C・1.15×NWP条件、ISO 19881 のNWP・常温条件)を満足し、70 MPa充填急減圧にも耐えること。

  • 材料選択:実用ライナーはHDPE/PA6/PA11/PEEKが中心。PA系/EVOHはバリア性に優れるが吸湿加工窓の管理が鍵。HDPEは成形性は良いがH₂バリアが相対的に低い

2. 物理モデル(拡散–溶解—透過の骨子)

  • 状態方程式:H₂は高圧で実在気体フガシティ f=ϕ(P,T) Pf=\phi(P,T)\,Pf=ϕ(P,T)P を用い、平衡濃度 c=S(T,P) fc=S(T,P)\,fc=S(T,P)f。

  • 拡散:Fick 第1法則 J=−D(T,P) ∇cJ=-D(T,P)\,\nabla cJ=−D(T,P)∇c。

  • 透過率定常で Pperm(T,P)=D ⁣⋅ ⁣SP_{\mathrm{perm}}(T,P)=D\!\cdot\!SPperm​(T,P)=D⋅S。薄膜厚み LLL なら J≈Pperm (fin−fout)/LJ\approx P_{\mathrm{perm}}\,(f_{\mathrm{in}}-f_{\mathrm{out}})/LJ≈Pperm​(fin​−fout​)/L。

  • 急減圧時の在庫:平衡時のポリマー内貯蔵量 NH2=S f VpolyN_{\mathrm{H2}}=S\,f\,V_{\mathrm{poly}}NH2​=SfVpoly​。減圧時間 τ↓\tau_{\downarrow}τ↓​ に対し、拡散緩和時間 τD≈L2/(π2D)\tau_{D}\approx L^{2}/(\pi^{2}D)τD​≈L2/(π2D) が大きいほど過飽和が残りやすい。

3. MD による D,SD,SD,S 同定フロー(GCMC+MD)

  1. アモルファスモデル構築:PA6/PA11/HDPE/PEEK をCOMPASS/PCFF等で密度化(NPT)。

  2. フガシティ整合:所定 P,TP,TP,T の**fff** を熱物性コードで算出し、GCMCで吸着等温線→S=∂c/∂fS=\partial c/\partial fS=∂c/∂f

  3. 拡散係数 DDD:H₂の MSD から Einstein 関係で D=lim⁡t→∞⟨∣Δr∣2⟩/6tD=\lim_{t\to\infty}\langle|\Delta r|^{2}\rangle/6tD=limt→∞​⟨∣Δr∣2⟩/6t。

  4. 温度・圧力依存:Arrhenius/Barus 近似

D(T,P)=D0 exp⁡ ⁣(−Ea/RT) exp⁡ ⁣(−αP),S(T,P)=S0 exp⁡ ⁣(−ΔHs/RT) g(P)D(T,P)=D_0\,\exp\!\big(-E_a/RT\big)\,\exp\!\big(-\alpha P\big),\quad S(T,P)=S_0\,\exp\!\big(-\Delta H_s/RT\big)\,g(P)D(T,P)=D0​exp(−Ea​/RT)exp(−αP),S(T,P)=S0​exp(−ΔHs​/RT)g(P)

材料別に回帰。5) ナノフィラー/バリア層:グラフェン/クレイの高アスペクト比曲路(tortuosity)で P/P0≈1/(1+λαϕ)P/P_0\approx 1/(1+\lambda \alpha \phi)P/P0​≈1/(1+λαϕ)(Nielsen/Bharadwaj型)を初期値に、MDの自由体積/配向で補正。

4. 70 MPa 相当の加速試験設計(クーポン→実容器)

(A) クーポン透過(タイムラグ法)

  • 膜厚 LLL=0.5–1 mm定常フラックスタイムラグ tL=L2/6Dt_L=L^2/6DtL​=L2/6D を取得→DDD、**SSS**を分離。

  • 温度3水準(−10/20/85 °C)×圧力3水準(2/7/12 MPa)でパラメトリック回帰

(B) 吸蔵–急減圧(RDP)

  • 70 MPaまで昇圧・等温保持(3τD3\tau_D3τD​ 以上)→所定レートで減圧(例:0.05/0.2/1.0/5.0 MPa·s⁻¹)。

  • AE/超音波3Dプロフィロ/CTブリスター閾(有無・寸法・位置)を定義。

(C) 実容器

  • ライナー単体円筒CFRP被覆へ段階拡張。温度サイクル(−40↔85 °C)と急減圧を組合せ、規格透過上限との相関を取る。

(D) 逆同定(ベイズ)

  • クーポン/実容器の透過・ブリスター有無を尤度に、MDの D,SD,SD,S 先験を更新逸脱界面欠陥密度弾性低下に配分。

5. ブリスター指標と合否線

  • 無次元指標

BRN≡τDτ↓⋅ceqccrit(τD ⁣= ⁣L2/π2D,  ceq ⁣= ⁣Sf)\mathrm{BRN}\equiv \frac{\tau_D}{\tau_{\downarrow}}\cdot\frac{c_{\mathrm{eq}}}{c_{\mathrm{crit}}} \quad (\tau_D\!=\!L^2/\pi^2D,\ \ c_{\mathrm{eq}}\!=\!S f)BRN≡τ↓​τD​​⋅ccrit​ceq​​(τD​=L2/π2D,  ceq​=Sf)

BRN≥1リスク顕在化BRN≤0.2安全側

  • 設計線:ターゲット温度帯で**D,SD,SD,S** を取得→許容減圧レート

(dPdt)max⁡ ⁣≈ ⁣P0τD⋅ccritceq\left(\frac{\mathrm{d}P}{\mathrm{d}t}\right)_{\max}\!\approx\! \frac{P_0}{\tau_D}\cdot\frac{c_{\mathrm{crit}}}{c_{\mathrm{eq}}}(dtdP​)max​≈τD​P0​​⋅ceq​ccrit​​

で設定(材料×厚み×温度ごとに運用 SOPへ反映)。

6. 材料・改質の実務比較(定量目安)

  • 母材PA6≲PA11≪HDPEの順にバリア良(同温同圧)。PEEKはバリア/耐熱に優れるがコスト・加工が制約。

  • EVOH サンドイッチPA/EVOH/PA共押出透過 1/数~1/10へ。吸湿で劣化するためPAで挟み乾燥・封水設計を組み込む。

  • ナノフィラー(3–5 wt%)GNP/グラフェン/モンモリロナイトで**PPP 30–60%低減**が実測・MDで整合。過剰充填は凝集→効果低下。

  • CFRP側の寄与熱可塑 CFRTP スキン薄膜 ALD/SiOₓライナー外表に積層すると曲路効果で透過をさらに抑制(製造コストとトレード)。

7. 統合最適化:規格適合×寿命×製造性

  • 規格GTR 13/ISO 19881透過上限(例:46 mL h⁻¹ L⁻¹ at 55 °C・1.15×NWP、6 mL h⁻¹ L⁻¹ at NWP・常温)をモデルで先読みし、試験で封じ込め

  • 製造共押出/ロト成形温度窓残留応力界面空隙の主因。タイレイヤ(MAH変性)の接着仕事を実測し、急減圧 RDPブリスター閾を確認。

  • 寿命充填サイクル×温度サイクル損傷—透過連成はデジタルツインオンライン同化し、RUL許容減圧レート季節で可変に。

8. 90日ロールアウト(モデル—試験往復)

  • Week 0–2:対象タンクの材料票/厚み/成形条件を確定、MDセルを構築(PA/PEEK/HDPE/EVOH+候補フィラー)。

  • Week 2–6タイムラグ透過(2/7/12 MPa、−10/20/85 °C)→D,SD,SD,S 回帰。GCMC+MDで温度圧力依存を補完。

  • Week 4–870 MPa 吸蔵–急減圧(RDP)をクーポン/小型ライナーで実施、BRN合否線と許容減圧 SOPを作成。

  • Week 8–12実容器透過・急減圧の受入、NWP・55 °C条件の規格透過を検証。ベイズ更新で最終 D,SD,SD,S を確定。

9. 現場専門家としての勘所

  1. “透過を下げる”と“急減圧に強い”は同方向SSS と**DDD** を下げれば、在庫拡散遅れの双方が低減。

  2. “材料×厚み×減圧レート”の三角形で設計:厚み増は透過を減らすが**τD\tau_DτD​ 増で急減圧に不利。材料選定とレート制御**で折衷。

  3. EVOHは“水”が天敵サンドイッチ+乾燥管理でバリア維持。

  4. フィラーは“3–5 wt%の分散”が命:過充填=凝集=曲路消失

  5. 界面設計(密着/空隙抑制)がブリスターの第一防波堤

10. ドラスティック提言(大胆案)

  • 提言①HDPE単層の新規採用を原則停止PA6/EVOH/PA6三層共押出標準仕様とし、グラフェン3–5 wt%を内層PAに添加。

  • 提言②急減圧 SOP を“BRN制御”へBRN≤0.2を満たす最大減圧レート温度別に規定(BMS/充填機にプロファイル実装)。

  • 提言③ALDバリア(SiOₓ/Al₂O₃ 20–50 nm)の点検用薄膜外表に追加し、寿命末期の透過ドリフト非破壊で監視。

  • 提言④製造 QA微小空隙監視(超音波/赤外サーモ)を常設、界面空隙密度RDP合否先行KPIへ格上げ。

  • 提言⑤モデル—試験—運用一気通貫:MD—実験—規格試験—運転ログを単一データモデルで回し、更新型の許容減圧線を配信。

結論(Conclusions)

MD で D,SD,SD,S を温度・圧力依存で同定し、70 MPa 相当の加速試験逆同定する“往復法”は、規格透過急減圧耐性を同時に満たす材料—構造—運用の最短ルートである。PA/EVOH/PA+ナノフィラー多層・高曲路アプローチと、BRN に基づく減圧プロファイルを組み合わせれば、透過低減ブリスター抑止製造性を保ったまま実現できる。

参照リンク集(URLべた張り/本文中リンクなし)

ブリスター・ライナー損傷(機構/事例)

透過・MD(PA/HDPE/PEEK ほか)

材料比較(実測・レビュー)

バリア改質(EVOH・グラフェン/クレイ等)

規格(透過上限・適用枠)

試験・実装(70 MPa・承認/妥当化)

注:規格の数値・条件は改訂され得ます。最終設計では最新版の原文で適用条件(温度・圧力・燃料品質)を必ず照査してください。

 
 
 

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