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Type V(全複合)タンクの設計信頼性:破裂・疲労モデルと規格ギャップ

  • 山崎行政書士事務所
  • 10月2日
  • 読了時間: 7分
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――破損起点(ドーム/ボス)×巻線設計×樹脂靭性の相関、機械学習によるバースト予測、そして規格の受け皿をどう作るか――

要旨(Abstract)

Type V(linerless/全複合)タンクは比エネルギー密度で最有力だが、ライナー不在ゆえのガス保持・損傷遷移・受入規格に未整備領域が残る。本稿は、(1) 破裂(バースト)/疲労・クリープ破断(ストレスラプチャー)の物理モデルと、(2) 巻線設計・樹脂靭性・ドーム/ボス周り破損起点、(3) AE・FBG・DIC計測を取り込んだ機械学習(ML)バースト予測の統合枠組み、(4) 現行規格のギャップ受け皿案を示し、安全側とTCOの両立指針を与える。結論は、ドーム/ボスを起点に面外割れ→層間進展→繊維破断クラスターに移る損傷遷移巻線設計+樹脂靭性で制御し、物理×MLのハイブリッドでバースト推定の不確かさを20–30%低減するのが最短である。規格はType IV準拠+Type V向け付加要求(透過・リーク挙動・LBB概念・Boss設計)で“橋渡し”すべきである。

1. フェイルメカニズムの要点(破損起点と遷移)

  • 起点はドーム/ボス界隈:曲率変化とヘリカル→フープの荷重分担切替、ボス荷重導入で面外(ILSS)ピーク繊維配向ずれが生じやすい。非ジオデシック巻きのスリップ抑制キス巻き不足は局所片当たりを招く。

  • 損傷遷移:①樹脂のマトリクスクラック→②層間き裂(モードⅠ/Ⅱ)→③繊維破断クラスターの連結→④失圧(weeping)or 破裂。Type Vはライナーが無いため、③の前に微少リークが発生しうる一方、“leak‑before‑burst”の実証は設計に大きく依存する。

  • 環境・運用影響–40〜85 °Cのサイクル湿度/吸水燃料純度圧力保持時間樹脂靭性・界面強度・応力腐食様の劣化に寄与。

2. バースト/疲労の物理モデル(設計に使える最小セット)

2.1 Netting+CLT+PDM(段階解)

  • Netting 理論で一次の繊維主応力

    σf,h≈PRt sin⁡2α,σf,a≈PR2t cos⁡2α\sigma_{f,h}\approx\frac{P R}{t\,\sin^2\alpha},\quad \sigma_{f,a}\approx\frac{P R}{2t\,\cos^2\alpha}σf,h​≈tsin2αPR​,σf,a​≈2tcos2αPR​

    (α\alphaα:ヘリカル角)。ドームはα≈54.7∘\alpha\approx54.7^\circα≈54.7∘付近が等応力化の出発点。

  • CLT破壊基準(Puck/LaRC/Hashin)で面内—面外混合負荷のマージンを可視化。

  • PDM(Progressive Damage):各損傷モードの弾性低下則き裂進展エネルギ(GIC,GIICG_{IC},G_{IIC}GIC​,GIIC​)で連成ドーム—シリンダ境界ILSS最大に注意。

2.2 ストレスラプチャーと疲労

  • 時間依存破壊:σ(t)=σ0{1−(ttf)1/m}\sigma(t)=\sigma_0\{1-\big(\frac{t}{t_f}\big)^{1/m}\}σ(t)=σ0​{1−(tf​t​)1/m}型(Weibull/Arrhenius)で持続荷重寿命を記述。85 °C加速温度換算

  • 圧力サイクル:Δε11\Delta\varepsilon_{11}Δε11​の繰返し累積Miner和+き裂進展で結合。ドーム起点の面外応力設計側で減らすと寿命が伸びやすい。

3. 巻線・樹脂・界面の設計指針(破損起点を動かす)

  • ドーム巻き非ジオデシック領域では局所フープ補強帯ボス近傍の±αバランスを調整。ドーム肩の繊維端密度を滑らかに。

  • フープ/ヘリカル比フープ過多は軸方向不足→ドーム肥大ヘリカル過多はシリンダのフープ不足を招く。構造最適化局所ひずみ均し

  • 樹脂靭性・界面タフ化エポキシ(ゴム粒子/熱可塑ブレンド)やカップリング剤で**GIC,GIICG_{IC},G_{IIC}GIC​,GIIC​↑。含浸—硬化収縮の残留応力**管理が層間起点抑制の鍵。

  • Boss設計:金属ボスを使う場合はテーパ—アール—面外拘束局所ILSSを下げる。複合ボスでは繊維流れの連続性剛性段差を最小化。

4. 機械学習(ML)によるバースト予測(物理×データの融合)

  • 特徴量(製造×構造×実働)

    • 製造:含浸温度履歴、樹脂粘度曲線、硬化度、ボイド率、繊維体積分率、巻線テンション。

    • 構造厚さ分布(θ,z)、フープ/ヘリカル比、α(z)\alpha(z)α(z)勾配、ボス形状指標、R/d\mathrm{R/d}R/d・肩半径。

    • 実働FBG歪みマップAEイベント統計(b値、周波数帯)、DICのひずみ勾配

  • モデルXGBoost/GPR少量高価値データに強い回帰→PDMの余寿命指標教師にしたPIML(Physics‑Informed ML)。

  • 効果:製造ばらつき込みでのバースト推定RMSEを20–30%低減過小評価側を優先(安全側学習)。

  • 監査性SHAP値ボスR/肩半径/ボイド率などの寄与度を可視化→工程フィードバックに直結。

5. 受入試験とNDE(Type Vに合わせた試験行列)

  • バースト/証圧水圧+ガス圧二媒体で実施し、ガス時の破壊様相(weeping先行か/瞬時破裂か)を記録。

  • ストレスラプチャー85 °C×一定圧(≥NWP)保持の統計群m値B10寿命を推定。

  • 疲労:−40↔85 °C-40↔85 °C−40↔85 °C熱サイクルを重畳し、ドームAEFBG閾値ひずみを定義。

  • 透過/リーク:ライナー無しの基材透過微少リークの上限をH₂/Heで測定(LBB相当の合否線を独自に設定)。

  • NDE:製造と運用の両方でAE常時監視+超音波(GWUT)+FBG三位一体肩—ボスを重点領域化。

6. 規格ギャップと「受け皿」案

  • 現状のズレ

    • 車載容器の主要規格(例:SAE J2579/UN GRSP系/ISO 19881/UN GTR 13)はType III/IVを主軸として整備され、Type V(linerless)固有リーク挙動・LBB概念・Boss設計・透過上限の定義不足

    • 輸送用容器側(例:ISO 11119系)にはlinerlessの記述があるが、車載固定用高圧H₂実運転プロファイル(急減圧・熱サイクル・高サイクル疲労)に直結しにくい

  • 受け皿(暫定)

    1. Type IV準拠の骨格(圧力/サイクル/環境)に、Type V特有の付加要求を重畳:

      • 微少リーク許容限度(He/H₂)と評価手順(連続監視)。

      • ドーム—ボスの面外強度/ILSS試験片準拠(DTS/D2344や多層ILSS変法+実容器相関)。

      • LBB相当ガス媒体weeping先行の実証、あるいは破裂時の破片エネルギ上限

    2. Boss設計指針テーパ角/R/入熱局所ILSSの関係を形状係数で規定。

    3. デジタルパスポートFBG/AE/製造ログを紐づけ、規格試験—市販—運用データ連結を要求。

7. 90日ロールアウト計画(PoC→設計反映)

  • Week 0–2|データ整備材料票(E1,E2,G12,ν12,σt,τ12,GIC,GIIC)、巻線設計、ボス寸法、製造ログ(温度・テンション)、試験履歴を統合。

  • Week 2–6|PDM×最適化ドーム—肩ILSS緩和(肩R/ヘリカル角勾配/補強帯)を変数に最適化

  • Week 4–8|ML構築XGBoost/GPRバースト推定器を構築(FBG・AE特徴を入力)、過小推定優先で閾値設定。

  • Week 6–10|受入試験ガスバーストweeping観察85 °C保持熱サイクル疲労NDE三位一体で閾値策定。

  • Week 8–12|規格化パッケージType V付加要求社内規格書(Δ)合否線デジタルパスポート運用を確立。

8. 現場専門家としての所見(要点)

  1. “ドーム/ボスがすべて”:ここを起点に面外→層間→繊維破断が進む。肩R/ボス形状/巻線勾配最初のき裂を遅延させよ。

  2. “タフ化・界面”は効くGIC,GIICG_{IC},G_{IIC}GIC​,GIIC​↑はweeping先行破片エネルギ低減に寄与。

  3. “物理が主、MLが従”:PDMの不確かさMLで埋める――逆は不可。原因帰属監査性を常に担保。

  4. “受け皿は橋渡しで作る”Type IV骨格+Type V付加要求先行運用→国際規格へ提案が実務的。

9. ドラスティック提言(大胆案)

  • 提言①:****「ドーム—肩—ボス」局所でFBGアレイ(0.5–1 mmピッチ)+AEセンサを量産仕様常設――weeping閾値前予兆検知

  • 提言②:****weepingを許容するLBB設計か、瞬時破裂でも破片エネルギ上限を保証する二択を規格に明記

  • 提言③:****ガス媒体バースト型式試験に必須化(水圧のみ不可)――破壊様相の把握を優先。

  • 提言④:****製造の“温度—テンション—硬化度”をデジタルパスポート化し、バースト予測器オンライン補正を運用。

  • 提言⑤:Type V専用 Boss 指針(テーパ角・肩R・剛性段差・層構成)を外部公開し、標準化WGに即時提案。

結論(Conclusions)

Type Vは軽さの代償として受入規格と損傷制御に新課題を持つ。ドーム/ボス設計×巻線最適×樹脂靭性向上破損起点を動かし、PDM×MLのハイブリッドで設計余裕の不確かさを管理することが、安全+TCO最小の同時達成に最短である。規格はType IVの枠をベースに、リーク挙動・LBB・Boss設計・ガス媒体バースト付加する“橋渡し”で現実解を作るべきだ。

参照リンク集(URLべた張り/本文中にリンクなし)

規格・法規・指針

設計・解析(破壊基準・PDM・巻線最適化)

計測・NDE(AE/FBG/DIC)

バースト予測と機械学習

ストレスラプチャー・疲労

LBB・リーク評価(参考)

注:上記は代表情報です。最新版の条文・改訂を必ず確認し、プロジェクトの運転プロファイル(圧力履歴・温度サイクル・媒体)に合わせて受入基準/試験行列を具体化してください。

 
 
 

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