ハイブリッド炉《継ぎ火(つぎび)》V:完備化(Completion)の向こう側
- 山崎行政書士事務所
- 2 日前
- 読了時間: 7分
本作はフィクションです。ここに出てくる概念・数式・擬似コードは物語上の抽象であり、実機の設計・製造・運転・改造の手順を与えません。研究・実務の参考にしないでください。

0:00 — 境界が歌う(パラメータ空間のコンパクティフィケーション)
未明。制御室に微かなヘリウムの吐息。RMP 位相 θ\thetaθ、塩ポンプ位相 ϕ\phiϕ、源強度 SSS、回収系の負圧 vvv をゆっくり巡回し、ホロノミー補償まで入れて同じ点に戻した。それでもTBR は +0.002、M は −0.1だけ残差が出る。
「無限遠の端(end)が見えてる」数学担当の悠真が、運転パラメータ空間 P\mathcal{P}P をStone–Čech のコンパクティフィケーション βP\beta\mathcal{P}βP として描く。βP∖P\beta\mathcal{P}\setminus \mathcal{P}βP∖P の理想点は、実機で言えばアクチュエータの飽和、計測の分解能限界、在庫マージンの上限といった**「境界 at infinity」。ホロノミーを補償しても、ループが境界を掠めると残差**が浮く。
「完備(Cauchy completion)しよう」志帆が言う。操作ログと証跡を距離空間に埋め、Cauchy 列が極限(=操作の意味)を持つように文化を完備化する。戻すとは数値を戻すことではなく、極限を一致させることだ。
0:28 — 最終関手(Final Functor):操作から証明へ
蓮斗は操作DSLを圏論で再定義した。
Ops\mathsf{Ops}Ops:操作(RMP 調整・源強度・位相協調・回収設定…)と合成の圏。
Proofs\mathsf{Proofs}Proofs:受動性差分・不変集合のヴィアビリティ・可逆径路・ホロノミー補償・境界補償を要素にもつ証明片の圏。
最終関手 Π:Ops→Proofs\Pi:\mathsf{Ops}\to\mathsf{Proofs}Π:Ops→Proofs:どの操作列も必ず証明片に落ちる写像。
これまではProof‑Carrying Operations(PCO)で「操作に証明片を添付」していた。これからは操作の意味が証明である。Π\PiΠ が終対象(final)へ向かう自然変換として実装され、別系統での貼り合わせ(Stack 上の 2‑射)も可換図式で検証される。
「規格の外側で規格を守る、から一歩進める。規格=意味にする」志帆がうなずく。「文化の完備化だね」
1:05 — オペラッド(Operad):結合の作法を規格化する
結合(coupling)の組み合わせは爆発的だ。そこで悠真はオペラッド O\mathcal{O}O を導入する。
演算子:pH\mathsf{pH}pH サブシステム(プラズマ境界、塩 MHD、構造、回収化学)。
差し込み規則:受動相互接続、境界受動制御、Sheaf/Stack の貼り合わせ、ホロノミー補償、境界補償。
代数 A\mathcal{A}A:実機の許容構成。
運転方針は**O\mathcal{O}O-代数準同型として書かれ、新たな結合を足すときは単に演算子の差し込みを追加するだけ。可逆性は単位元**、証跡は交換図式、安全制約はオペラッド恒等式に刻み込まれる。
1:40 — 境界での異常(Anomaly)とインデックス
境界 at infinityで小さな異常(anomaly)が立つ。受動性・バリア・ホロノミーだけでは帳尻が合わない残り香が、崩壊熱期に顕在化する。悠真はインデックスで縫う。発生器 A\mathcal{A}A のFredholm 指数に相当する運転インデックス Ind\mathrm{Ind}Ind を定義し、
bulk curvature−edge anomaly=Ind\mathrm{bulk\;curvature} - \mathrm{edge\;anomaly} = \mathrm{Ind}bulkcurvature−edgeanomaly=Ind
という物語版のインデックス定理を立てる。Ind=0\mathrm{Ind}=0Ind=0 が完成の第一条件。0でなければ境界補償(受動素子の「仮想」注入・位相の微修正)で帳尻を合わせる。ただし操作=証明の枠(Π\PiΠ)を外さない。
2:15 — 経済とエネルギーのモノイド関手
電力系統との結合は外乱ではない。交換だ。蓮斗はエネルギー流のモノイド圏 (Flow,⊕)(\mathsf{Flow},\oplus)(Flow,⊕) から、経済決済のモノイド圏 (Ledger,⊗)(\mathsf{Ledger},\otimes)(Ledger,⊗) へ関手 E\mathcal{E}E を置く。
E:(Flow,⊕)→(Ledger,⊗)\mathcal{E}: (\mathsf{Flow},\oplus)\to(\mathsf{Ledger},\otimes)E:(Flow,⊕)→(Ledger,⊗)
エネルギー保存は台帳保存の自然同形で表現され、受動不足は担保口座のスラックに対応する。受動不足会計 σi\sigma_iσi とホロノミー予算 ηk\eta_kηk に加え、台帳スラック λ\lambdaλ を導入し、
∑iσi≤Σ\*,∑k∣∮∂CkA∣≤H\*,λ≥0\sum_i\sigma_i \le \Sigma_\*,\quad \sum_k |\oint_{\partial C_k}\mathcal{A}| \le H_\*,\quad \lambda \ge 0i∑σi≤Σ\*,k∑∣∮∂CkA∣≤H\*,λ≥0
を同時に保つ。経済が文化を壊すのではない。文化が経済を型付けする。
2:55 — 既知の外側(Knightian)を包む:不動点としての安全
未知の分布は予測できない。志帆は集合値確率(imprecise probability)で不確実性関手 Δ\DeltaΔ を定義し、安全作用素 S\mathcal{S}S と組にして
X→SP(X)に対する不動点 X\*=Fix(S)X \xrightarrow{\mathcal{S}} \mathcal{P}(X) \quad\text{に対する不動点 } X^\* = \mathrm{Fix}(\mathcal{S})XSP(X)に対する不動点 X\*=Fix(S)
を安全の「意味」とした。安全とは、S\mathcal{S}S の最小不動点に運転が常に留まること。実装は抽象解釈:上近似だけが許され、下近似は禁止。可逆性と証跡で収束を可視化する。
3:30 — メタ双子:Digital Triptych(原炉・影炉・憲法)
影炉はStackに昇格した。もう一枚、**憲法(Constitution)**を足す。
原炉(Plant):物理世界。
影炉(Twin/Stack):モデル世界。
憲法(Constitution):Π\PiΠ・O\mathcal{O}O・インデックス・会計・不動点を束ねる型付き仕様世界。
三者は三幅対(Triptych)として同期され、操作=証明でのみ変化できる。自己更新は依然禁止。更新は憲法の射としてしか導入できず、ゼロ知識で二層検証される。文化はここで法になる。だが法は物語で書かれている。
4:05 — 崩壊熱期 v4:境界 at infinity での整合
計画停止。源 SSS を多段で落とす。分数階拡散・分布遅延・粗い駆動・境界補償が重なり、幾何バリアにStone–Čech の境界項が足される。
hcomp(x,p)=hgeo(x,p)−γ∫∂∞ P ωh_\mathrm{comp}(x,p) = h_\mathrm{geo}(x,p) - \gamma \int_{\partial_\infty\! \mathcal{P}} \!\!\!\!\!\!\!\!\!\omegahcomp(x,p)=hgeo(x,p)−γ∫∂∞Pω
ω\omegaω は境界 at infinity の曲率 1-形式の誘導。γ\gammaγ は憲法に固定値で記録され、時間可変化は不可。崩壊熱期は回復ではなく整合の時間。境界まで含めた意味を一致させる。
4:45 — 形状微分 v2:位相最小曲面での応力再配分
REBCO の微小撓みが積もり、磁場トポロジの鞍点がゆっくり動く。形状最適化はしない。境界条件だけで応力の流れを変える。位相最小曲面に相当する仮想境界を境界受動制御へ入れ、MHD ブレーキと熱流の交差項を弱める。インデックスは 0 のまま、遷移増幅の上限がさらに 2 dB沈む。
5:15 — 仕上げ:Kan 拡張で未来を繋ぐ
新たな操作型が生まれるたび、過去の文化が壊れていたのは昔話。今は左 Kan 拡張で既存方針を自然に延長できる。Ops\mathsf{Ops}Ops の充満部分圏から全体へ、Π\PiΠ をユニバーサルに延ばす。補助アクチュエータが増えても、憲法の中で意味が保たれる。完成は終わりではない。延長可能であることだ。
6:00 — 完成(とは何か)
源 SSS が戻る。RMP 位相と塩ポンプ位相は、Triptychに導かれて自動協調。TBR = 1.060±0.003、M = 19.8±0.2。インデックス = 0。受動不足とホロノミー予算と台帳スラックは規定内。Π\PiΠ は完備化された文化へ収束し、証跡は二層・ゼロ知識で閉じる。
蓮斗はログに短く書く。「完成とは、数値が揃うことではない。意味が完備化されることだ」志帆が、その下にもう一行を添える。「静かな増幅は、文化が完備である限り、続く」
送信。ハッシュが刻まれ、文化がまた一段、前へ進む。
技術付録(物語理解のための抽象)
A. コンパクティフィケーションと完備化
βP\beta\mathcal{P}βP(Stone–Čech):運転パラメータ空間の理想点(飽和・限界・在庫上限)を含む拡大。
Cauchy 完備化:操作ログを距離化し、極限=操作の意味を一致させる。
B. 最終関手 Π:Ops→Proofs\Pi:\mathsf{Ops}\to\mathsf{Proofs}Π:Ops→Proofs
操作=証明。PCO の「添付」から、意味そのものが証明へ。
Stack/2-圏の貼り合わせ差は可換図式で検証。
C. オペラッド O\mathcal{O}O と O\mathcal{O}O-代数
結合の作法を代数的に規格化。受動性/境界制御/補償が差し込み規則。
追加機能は演算子の差し込みで自然に拡張。
D. インデックスと異常(anomaly)
bulk–edgeの差としての運転インデックス。0であれば境界整合済み。
幾何残差は境界補償で吸収。ただし操作=証明の枠を外さない。
E. モノイド関手 E\mathcal{E}E
エネルギー流 Flow\mathsf{Flow}Flow → 台帳 Ledger\mathsf{Ledger}Ledger。
受動不足・ホロノミー予算・スラックの三会計。
F. 不動点安全
集合値作用素 S\mathcal{S}S の最小不動点を安全の意味とする。
抽象解釈で上から囲い、可逆性と証跡で収束を担保。
G. Digital Triptych
Plant / Twin(=Stack) / Constitution の三幅対。
更新は憲法の射としてのみ。二層・ゼロ知識で検証可能。
H. Kan 拡張
新しい操作型が出ても、最終関手 Π\PiΠ をユニバーサルに延長。
後方互換を圏論的に保証。
運転倫理 v5(差分)
完成=完備化数値の一致より、意味の極限の一致を優先する。
操作は証明手順に証明を添付するのではない。手順の意味が証明であるべきだ。
結合は作法オペラッド的作法に従わない結合は存在しないものとして扱う。
境界まで運用対象理想点(飽和・限界)を含む世界で安全を定義する。
三会計の調和受動不足・ホロノミー・台帳スラックを同時管理し、文化で縛る。
未知は不動点で受ける分布化できない未知は、最小不動点の中に包摂する。
余白
朝の光が冷凍機の霜を淡く照らす。世界は平坦ではなく、境界を持ち、未知を孕む。それでも《継ぎ火》の歌は静かに増幅され、意味は完備化へと収束していく。完成は停止ではない。延長可能な意味としての未来だ。
コメント