プロローグ 行政書士の影と光

冷たい雨が降り注ぐ夜、主人公の田中颯太（たなかそうた）は、小さなオフィスの片隅で黙々と書類に目を通していた。彼の机の上には、クライアントから預かった膨大な書類の山。家族経営の工場が直面する閉鎖の危機を救うための補助金申請の案件だった。

ふと立ち止まり、窓の外を見る。雨に濡れた街灯がぼんやりと光り、颯太の心を過去へと引き戻した。

彼が行政書士を目指したのは10年前。大学を卒業し、一般企業に就職するも、利益だけを追い求める働き方に疑問を感じていた。そんなとき、偶然耳にしたのが「行政書士」という職業だった。

「行政書士って何だろう？」

調べるうちに、彼は行政書士が人々の生活を支える重要な役割を担っていることを知る。会社設立の手続き、相続問題のサポート、外国人のビザ申請――すべての業務が、クライアントの人生や未来に直接関わるものであると。

しかし、彼が行政書士を本気で目指すきっかけとなったのは、父の死だった。

父の経営していた小さな建設会社が突然の事故で大きな損害を受け、倒産の危機に陥ったときのこと。手続きに不慣れな母は、書類の不備を指摘されるたびに疲弊し、家族は崩壊寸前だった。

そんなとき、一人の行政書士が現れた。

「田中さん、これから必要な書類はすべて私がサポートします。」

彼の助けによって、父の会社はなんとか整理を終え、母も生活を立て直すことができた。その行政書士の姿は、颯太にとって希望そのものだった。

「困っている人を助ける仕事がしたい。」

そう誓い、颯太は仕事を辞め、猛勉強の末に行政書士の資格を取得した。

しかし、理想と現実の間には大きな壁があった。独立後、彼が初めて直面したのは、クライアントからの厳しい視線と、行政書士という職業への無理解だった。

「行政書士って弁護士や税理士とは何が違うの？ 本当に役に立つの？」

それでも、彼は一つひとつの案件に全力で向き合った。時には深夜まで書類を作成し、時には行政機関との交渉に奔走する。そうして少しずつ信頼を得ていく中で、颯太は行政書士という職業が持つ「光」と「影」の両面を知るようになる。

光――クライアントが感謝の言葉をくれる瞬間。彼の助けで前に進むことができたと笑顔で話してくれるとき。

影――法律の限界や制度の壁に阻まれ、どうにもならない現実を突きつけられるとき。

それでも颯太は、自分が選んだこの道を信じていた。

今夜も雨の音を聞きながら、彼は新たなクライアントの未来を支えるため、ペンを握りしめる。

「まだやれる。」

心の中でそうつぶやき、彼は再び書類に向き直った。

この物語は、一人の行政書士が多様な依頼に立ち向かい、人々の人生を支えながら自身も成長していく軌跡である。そしてそれは、私たちが知らない「行政書士」という職業の本質を描き出す旅でもある。