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不純物(H₂S等)・異常状態が CO₂ 配管健全性に与える影響と試験設計

  • 山崎行政書士事務所
  • 10月5日
  • 読了時間: 7分
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――脆化/腐食・減圧冷却・相挙動の多物理場連成を、小型FBR(full‑bore rupture)試験と解析で同定する実務フレーム――

要旨(Abstract)

CCUS の拡大に伴い、CO₂ 配管は純度100%ではない流体(H₂S、H₂O、O₂、N₂、CH₄、NOₓ、SO₂ 等)を気体~液体~超臨界で扱う。これら不純物は、(i) 材料側(一般腐食/局部腐食、SSC/HIC 等の脆化機構、靭性低下)、(ii) 流体側(減圧曲線・音速・Joule‑Thomson 係数 μJT・相変化)、(iii) 運用側(急減圧での極低温・ドライアイス生成、計装凍結)に同時に影響する。本稿は、最新規格の要件(ISO 27913:2024 等)を踏まえ、小型FBR試験×多相熱流体解析×破壊力学を一体化した同定手順を提案する。結論として、組成ウィンドウ(H₂S・H₂O・非凝縮ガス)を明示した上で、RDF(走行延性亀裂)停止確率腐食・脆化余寿命を同一KPIで管理し、実機組成・温度・背圧のばらつきを試験—解析—運用で往復同化することを推奨する。

1. 背景と規格観点(設計の“土俵”をそろえる)

  • CO₂流の品質管理:ISO 27913:2024 は不純物合計≦5 mol%流量・不純物測定流下分岐統合時の品質保証破断停止設計、減圧影響の付属書等を明確化。運用純度は配管健全性のみならず圧送・相安定の観点からも管理対象。

  • 破断制御:RDF 停止は二曲線法(材料曲線 vs 減圧曲線)が実務の基幹。不純物減圧曲線(音速・相変化)を、低温化材料曲線(靭性)を変えるため、連成評価が必須。

  • 脆化・腐食:H₂S を含む湿潤環境ではSSC/HIC 試験(NACE TM0177/TM0284)で材料適格を確認。乾燥 CO₂ では一般腐食は低いが、凝縮水・酸性種の局在で局部腐食が立ち上がる。

2. 影響メカニズムの分解(何が、どこに効くか)

2.1 H₂S(数10–数100 ppmv級も対象)

  • 腐食:微量でも水が共存すれば炭酸系+硫化物系の酸性化で腐食速度が上がり得る。一方でFeS皮膜が形成される条件では平均腐食が低下することもあるが、皮膜不均一→局部化のリスクが増す。

  • 脆化:湿潤条件下ではSSC/HIC 感受性が立ち上がる。実機は硬さ上限制御・溶接金属の水素割れ対策・残留応力管理を含む**“sour”作法**が前提。

  • 流体物性:H₂Sは臨界特性・μJTを変え、減圧冷却の深さ二相領域を変動させる(→温度最低値・ドライアイス生成挙動に寄与)。

2.2 H₂O(凝縮・侵入)

  • 乾燥時は腐食小だが、局所凝縮(絞り・急減圧・低所滞留)や脱水装置トリップ/水スラグ炭酸腐食が立ち上がる。O₂/NOₓ/SO₂の混入で酸性度がさらに上がりpitting/SSCを誘発。

  • 相挙動:水は固相・水和物・氷/ドライアイス共析で流動阻害配管内アイスプラグを引き起こす。

2.3 非凝縮ガス(N₂、CH₄、H₂ 等)

  • 減圧曲線音速・μJT・密度が変わり、減圧“プラトー”の形状が変化。一般にN₂/CH₄の増加μJT低下方向が多く、冷却度合いRDF停止要求靭性がシフトする。

  • 運用:非凝縮ガスが多いと圧送効率低下・圧力損失↑。圧縮・昇圧側の運転点も動く。

2.4 異常状態(急減圧・低温・固相)

  • Joule–Thomson 冷却で**−70 °C級以下まで降温し得る。靭性低下/ボルト・フランジ凍結/計装不作動が同時多発。固相 CO₂ の付着は弁・計装の固着ジェット噴流様相の変化**を招く。

  • 地盤・背圧:埋設・背圧は減圧曲線にも温度回復にも効き、停止余裕を左右。

3. 解析フレーム(多物理場連成)

  1. 流体側実在気体 EOS(PC‑SAFT/Peng‑Robinson 等、バイナリ相互作用係数同定)+HEM(同相平衡)で1D減圧を解き、音速‑圧力曲線温度履歴を取得。μJT相境界は組成掃引で感度化。

  2. 構造側二曲線法で**材料曲線 vmat(p;D,t,靭性)v_{\mathrm{mat}}(p;D,t,\text{靭性})vmat​(p;D,t,靭性)**を作成。低温靭性壁温履歴を反映し、RDF停止は min⁡p[vmat−adec]>0\min_p[v_{\mathrm{mat}}-a_{\mathrm{dec}}]>0minp​[vmat​−adec​]>0 判定。

  3. 腐食・脆化側露点超過確率酸性種分圧から腐食マップ(一般腐食・pitting)とSSC/HIC 感受性を区画化。水の存在形態(微滴/膜/スラグ)で分岐。

  4. 信頼性FORM/MCS停止確率腐食超過確率を評価し、組成・温度・背圧のばらつきに対する安全余裕を定量化。

4. 小型FBR(full‑bore rupture)試験の設計(“安く速く”効くスケール)

4.1 目的

  • 減圧曲線(p–t–相)とRDF開始〜アレスト感度を、不純物×温度×背圧で同定し、解析モデルを係数同定。フルスケール(既往 Spadeadam 等)とのブリッジに使う。

4.2 試験体と条件

  • 配管:DN100–150(4–6″)、長さ ≥ 60 m、材質 API 5L(sour対応 WPS)、校正欠陥で破断開始を確実化。

  • 初期状態20–25 MPa液相/超臨界、初期温度 5–25 °C、背圧は 0.1–0.3 MPa のレンジ。

  • 組成マトリクス(例)

    • ベース:CO₂ 99.5%(乾燥)

    • H₂S:50 / 200 ppmv(乾燥/50 ppmv H₂O 付与)

    • 非凝縮ガス:N₂ 2 / 5 mol%、CH₄ 2 mol%

    • 酸化性不純物:O₂ 100 ppmv、SO₂ 100 ppmv(湿潤条件で限定実施)

  • 安全:二重遮断・遠隔起爆、散水・換気、固定・携行 CO₂ 検知、立入管理を徹底。

4.3 計測

  • 高速圧力(管内軸方向 10 点以上、≥10 kHz)、壁温/ガス温(埋込熱電対+IR)、ひずみ・AE/FBG(アレスト判定)、高速可視化(噴流・固相挙動)。

  • 採気:ベント流の組成トレース(GC/FTIR)で相・μJT実測裏付け

  • 成果物a_{\mathrm{dec}}(p)T_{\min}(x,t)アレスト距離固相生成の空間分布

4.4 データ→モデル同定

  • EOS係数気液平衡固相生成閾値ベイズ同化低温靭性低下は DWTT/Charpy の温度依存で補間。運用レンジ外挿はフルスケール既往結果で拘束。

5. 腐食・脆化の試験設計(“sour×dense CO₂”の二重条件を再現)

  • 自動クローズドオートクレーブ超臨界 CO₂(10–25 MPa)にH₂S 0–500 ppmvH₂O 0–500 ppmvO₂/NOₓ/SO₂ 微量を付与。温度 20–80 °C静・流動を切替。EIS/重量減で一般腐食、表面分析で皮膜性状を同定。

  • SSC/HIC:NACE TM0177/TM0284 を濃度・pH設計して実施(材料別:母材/溶接金属/熱影響部)。硬さ・残留応力硫化物皮膜との相関を明確化。

  • 温度サイクル−60~+40 °Cでの熱衝撃を繰返し、低温靭性皮膜剥離→局部腐食の連成を評価。

  • 評価指標腐食率(mm/y)pitting発生率SSC/HIC 合否低温靭性低下量組成・水分の関数で地図化。

6. 設計・運用への落とし込み(“仕様×制御×監視”)

  1. 組成ウィンドウ:ISO 27913 を基に不純物上限合計≦5%水分露点酸化性種の**“運用窓”**を明記。背圧/温度レンジと対で承認。

  2. RDF停止の信頼性二曲線+確率論目標 PfP_{\mathrm{f}}Pf​(例:線路・年・km あたり)を定義し、DWTT分位×t_{\min}×アレスタの三変数で達成。

  3. 乾燥・酸性種管理脱水・硫黄系除去バイパス検出インライン分析計(FTIR/近赤外)で露点・H₂S/O₂をモニタ。閾値超過で圧力・温度の自動デレーティング

  4. 極低温対策ベント向き・保温・アイスシェッド低温靭性を満たすフランジ/ボルト仕様計装ヒートトレース

  5. 溶接・材料sour 対応 WPS硬さ上限制御水素割れ対策。必要に応じて内面コーティング/CRA クラッドを局所適用。

  6. 運用 KPIRDF 停止確率T_{\min} 余裕露点違反 0 件腐食余寿命組成逸脱の検出→対応時間

7. ドラスティック提言(即効性のある打ち手)

  • 提言①|“組成連動デレート”の自動化:H₂S・H₂O・非凝縮ガスのオンライン計測をSCADAに直結し、終圧・背圧・温度下限自動再設定

  • 提言②|“小型FBRの型式試験”義務化:新規ライン/混合組成変更時は小型FBR 1本係数同定用に施工。紙上評価→実証を最短で回す。

  • 提言③|“二曲線×腐食”の統合KPIRDF停止余裕(m/s)と腐食余寿命(年)を同一ダッシュボードで日次更新。

  • 提言④|“sour”作法の内製:材料・溶接・硬さ・残留応力・水素管理をISO 15156 流儀で内規化、**CO₂専用の補正(低温・減圧)**を追記。

  • 提言⑤|“季節プリセット”夏冬の地温・背圧μJT冷却露点が動く。季節ごとに運用プリセットを切替、違反ゼロを堅持。

結論(Conclusions)

CO₂ 配管の健全性は、不純物×相挙動×低温冷却多物理連成で規定される。H₂S・水分・非凝縮ガスは、腐食/脆化だけでなくRDF停止に直結する減圧曲線も変える。小型FBR試験組成感度を短期同定し、実在気体解析×二曲線×腐食・脆化試験を往復させれば、設計—運用—監視を貫く信頼性設計が実現できる。鍵は、組成ウィンドウの明示オンライン計測の自動デレートRDF×腐食の統合KPIである。

参照リンク集

規格・総合

フルスケール/FBR・減圧

不純物の物性影響(μJT・相境界・運転点)

H₂S・腐食/脆化

拡散・安全・周辺

注:現地適用では、対象配管の組成レンジ(平均+最大偏差)温度・背圧・地温脱水・除硫設備のトリップ統計DWTT/Charpy・硬さ・WPSを収集し、本稿の小型FBR+オートクレーブ試験で係数同定→二曲線+腐食・脆化モデルに同化してください。最終判断はRDF停止確率腐食・脆化余寿命統合KPIで行うのが実務的です。

 
 
 

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