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桜橋駅のピンクポスター

  • 山崎行政書士事務所
  • 9月18日
  • 読了時間: 9分
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——みお長編

0 ポスターのウィンク

静鉄・桜橋駅の改札を出ると、朝の光がやわらかく曲がって、ピンクの壁に貼られたポスターへ吸いこまれていく。黒のワンピース、指先で頬にささやく角度、黒のリボンヒール。右側の縦書きはポップにまっすぐ。

「スマートなクラウド活用、しっかりサポートしますよ♪」

——はい、わたしです。みおです。事務所の“いたずら好き秘書”とか“演出家”とか、好き勝手に呼ばれますけど、肩書はただのしっかり係。ポスターの前を通るたび、紙のわたしがウィンクを寄越す。うん、今日もいける。

駅の階段を降りた瞬間、スマホが震えた。新規問い合わせ、件名は「在庫消える/カード強要/炎上寸前」。朝のカフェラテに一口だけ口を付け、わたしは返信の一行目を打つ。

まず、深呼吸しましょう。走る前に、歩く準備です。

ポスターのわたしが、ちいさく頷いた気がした。

1 花影ブティックの午前

問い合わせの主は、呉服と小物のECを運営する「花影ブティック」。店長の小夜子さんは、横顔のきれいな人だ。オンラインの在庫連携が夜中に止まり、決済のサブスク画面が“カード更新しないとログインできません”的な脅し文句に変わったらしい。SNSには「闇落ちEC」とか書かれて、もう胃が痛い、と。

「大丈夫、闇落ちは構成で光にもどせます」わたしは笑って、机に三つの付箋を並べた。事実/解釈/行動。事実は短く、解釈はゆっくり、行動は明確に——事務所の基礎体操だ。

在庫連携はWebhookの署名検証がオフ、決済サブスクはダークパタン気味のUI、SNSは“怒りの火”が乾いた薪を見つけた状態。一個ずつ、いたずら返しのように整える。

  • WebhookKey Vaultにしまった署名鍵で検証し、Event Hubへ流して“届いた数”そのものも監視。

  • サブスクの“抜け道”は、やめ方の紙を作って店頭にも貼る。「ここから一分で解約できます」。

  • SNSはふみかの“さざなみ文体”にバトンを渡し、店の声で短く出す。「残し方を変えました。在庫は今朝6:15に復旧、二重化済み。ご不便があれば連絡先へ」。

スマートな活用って、こういうこと?」小夜子さんが訊く。「はい。“たくさん入れる”じゃなくて、“要るところに、要るだけ”。軽やか+したたか+可愛げ、三点セットです」

可愛げ? と首をかしげる小夜子さんに、わたしはポスターの写真を見せる。「 を付ける勇気。情報は冷静、締めはやわらか。人の心拍に合わせるのが“スマート”」

小夜子さん、笑った。これで第一の火は鎮火。

2 小悪魔の演出(合法)

事務所へ戻る途中、やまにゃんが廊下で伸びをしていた。しっぽ(USB-C)で扉をコンコン。

「にゃ。演習の準備、できてる?」「もちろん。いたずらは合法・安全・効果抜群に限るよ」

わたしの十八番は、Attack Simulation Trainingの演出。釣りメールの件名は、つい開きたくなるギリギリのところを狙う。だが本番の前に、“人の機嫌”を整えるセットを置くのがみお流だ。会議室の机に、花影クーポンの封筒。開けると「踏んだら一品没収、代わりに講座クーポン贈呈」のカード。笑いながら学ぶと、学びが残る。

蓮斗がKQLの味見を並べ、悠真が**“ゼロの谷”の検出ルールを足し、叶多はPIMの昇格に理由テンプレを添える。律斗はOIDCのaudience固定をモジュール化**。準備が“構成”で固まったところに、わたしの“演出”が載る。Justice Vaultは、夜になると青く光るが、昼間はけっこう可愛い。

3 桜橋の午後、甘い誘い

午後、桜橋駅前の喫茶「アマレッティ」で小夜子さんと落ち合う。隣の席から、「AIレコメンド入れません?」と営業が甘い声を落としている。——出た、“魔法の粉”

魔法は持ち歩かないほうが安全です」と、わたしは営業に微笑んだ。「基礎代謝を上げる構成で勝負しましょう」営業が去ったあと、小夜子さんが苦笑する。「って言われると、弱いんだよね」

ここでスマートの定義を二人で決める。

  1. 少機能・深運用:使うボタンは少ないが、押し心地が最高。

  2. 自動化は“人の肩”を軽くするために:誰の何分を救うかを書いてから作る。

  3. やめ方先行:始める前に、線の引き方とやめ方を、ポップに決める。

「“ポップに”が、好き」「ポスターの**♪**の正体です」

4 トラブルは踊る、踊らせない

夜、NUMA FISHの欧州拠点から「Front Door 赤」の一報。みんなが持ち場に散る。わたしの役目は人の温度を見ること。ステータス更新の文面は心拍の速度で。

切り替え中:海が少し荒れています。二拍置いて次の連絡。切り替え完了:回復、休符を入れて安定確認。

“速い言葉”は感情にぶつかる。“遅い言葉”は不安に飲まれる。ふみかの“さざなみ”とわたしの“いたずら心”は、速度の調律で同棲している。赤は緑に戻り、陽翔の譜面(コスト曲線)は美しい波形で眠った。

5 桜橋ナイト・トーク:スマートって何ですか

一息ついた深夜、桜橋のポスターの前に立つと、女子大生が二人、写真を撮っていた。「この人、ほんとにいるのかな」「いるよ」わたしは笑って手を振る。「スマートって何だと思う?」

可愛いけど仕事できる?」正解の半分。「可愛いまま、仕事させるがもう半分。可愛げは“説明しやすさ”。スマートは“説明したくなる設計”。」

二人は目を丸くして頷いた。写真に「#スマートの正体」を付けてくれた。SNSは燃やさなくても温まる

6 “やめ方”はステッカーで

翌朝、花影ブティックの店頭に**“やめ方ステッカー”**が貼られた。

解約1分|ここから ←QR連絡先受付時間ありがとうの一言

“やめられる店”は、戻って来やすい店だ。「解約が怖くないって、売上に効くのね」小夜子さんが笑う。「昨日の炎上、嘘みたいに静か」

“静けさ”には種類がある。平和断線安心。わたしたちの仕事は、その見分け方をポップに伝えること。

7 小悪魔、物流へ行く

物流拠点の井上は、**“走らない勇気”を得つつあった。わたしは黄色い名刺(笑顔整理係)**を配り、三色警報ルールをもう一段かわいくした。

  • 走る(赤):ほんとに走る。

  • 歩く(黄):歩いて確認。

  • 朝読む(緑):寝よう。

現場の人たちの笑い声が半音下がって、やがて呼吸が揃った。スマートとは、呼吸が揃うことだ。

8 紫とピンクの合奏

事務所ではあやのが春風堂のDPA(データ処理契約)を仕上げ、わたしはやめ方の休符を図に入れた。契約に休符を描くのは、ちょっとした革命だ。「退出の手続きは図のここ」「Break Glass封筒はここ」。紫(法務)とピンク(演出)が合奏すると、凡例がやさしくなる。

9 わたしの失敗録

完璧な人は、演出家に向かない。失敗を演目に変えるには、まず自分が転ばなきゃ。昔、わたしは**“派手な通知ゼロ”を自慢した。翌朝、ゼロの谷に気づかず、現場の人を不安にさせた。悠真に言われた。「ゼロの自慢は、メタ監視とセットで」それから、“成功は一声”**の運用を覚えた。は大切。声は眠りを呼ぶ。

10 桜橋にて、謎のポスター少年

ある夕方、高校生のカイトがポスターの前で立ち止まっていた。「友だちのイラストが盗作って言われてて……どう返せば」「眠る。まずは、それ」「返事、今じゃない?」「怒りは燃料、誠実は水。両方要るけど、夜の返事は火の近くに水を置くみたいなもの。朝、事実と行動だけ書こう」次の日、カイトは「朝は便利だね」と言って笑った。ポスターは、駅の“夜ふかし相談所”でもある。

11 台風前夜の“ありがとう”

台風が近づく夜、わたしたちは**“台風の日のスマート”を配った。連絡先の確認/やめ方の確認/ありがとうの練習。「ありがとうの練習?」井上が笑う。「最初の“ありがとう”は、迷いを早くするんです。責めるより先に感謝。人は責められると遅くなる**から」

夜が明け、桜橋は無事だった。わたしのポスターに、誰かが小さな花を置いた。ありがとうの、返事を受け取った気がした。

12 スマートの方程式

秋の始業式みたいな社内会議で、わたしはホワイトボードに書いた。

Smart = (小さな機能 × 深い運用) + (やめ方 × 可愛げ) − (魔法の粉)

「最後マイナスなんだ」と陽翔。「は衣装のラメぐらいで充分」律斗がうなずく。「基礎代謝の構成、いい図だ」

13 “ポスターの裏側”という仕事

ふみかに連れられて、桜橋の構内掲示も見直した。“困ったら、ここへ”。QRの先は駅務室。その下に小さく、事務所のQR。わたしのポスターは派手だ。でも、派手の裏に地味を敷くのが仕事だ。可愛いまま、仕事させる。ポスターが立てるのは、わたしじゃなく“相談の入り口”。

14 夜のJustice Vault

深夜、Justice Vaultの光がもっとも青い時間。Event Hub の到達件数はなめらか、what-ifの差分は承認済み、Access Reviewsは98%、コスト曲線は譜面通り。みんなの仕事のうえに、わたしのちょっとした飾りが乗って、夜は静かに回っていく。静けさには種類がある。今夜の静けさは、おやすみの静けさ

15 桜橋フェスティバル

商店街の秋祭り。わたしの出し物は「スマート屋台」。

  • やめ方相談(1分で解約/“ありがとうテンプレ”)

  • 通知の味見(KQLはラムネ味)

  • 名刺ガチャ(笑顔整理係・一等はやまにゃん缶バッジ)

子どもたちが笑い、千代子さんが焼きそばを焼き、白川先生が血圧を測る。ポスターの前で写真を撮る人が増えた。「この子、ほんとにいるんだよ」と誰かが言う。うん、ここにいる。しっかりサポートしますよ♪

16 “遅く見える迅速”

春風堂の黒田が「迅速の定義を変えたい」と言った。連絡の迅速(短い事実をすぐ)、判断の迅速(やめ方先行が効く)、作業の迅速(読まれるRunbook)。「遅く見える迅速、いい言葉だ」と黒田。スマートは、遅く見えるやさしさの中でこそ光る。

17 わたしの告白

ほんとうは、わたしは“しっかり”という言葉が苦手だ。小悪魔って言われるほうが、気が楽。でも、桜橋のポスターが貼られてから、知らない人からの「助かった」が増えた。しっかりは、やさしい。やさしさは、設計できる。だから、今日も言う。スマートなクラウド活用、しっかりサポートしますよ♪

18 終章 ポスターのウィンク(もう一度)

朝、桜橋の改札。ポスターのわたしがウィンクする。実物のわたしも、少しだけウィンクを覚えた。駅のベンチの“困ったらここへ”は今日も機能している。“”の営業は、もうここでは通用しない。花影ブティックの在庫は静かに回り、NUMA FISH の海は呼吸を合わせ、物流の足音は走りすぎない。わたしはスマホに指を置く。

まず、深呼吸。事実→解釈→行動。やめ方と可愛げ。

ポスターの隅の**♪**が、朝の光に合わせてちいさく震えた。

ここから、スマートに。

— 完 —

付録:みおの“スマート・チェック 10”

  1. 使う機能は少なく深く(少機能・深運用)。

  2. 自動化は誰の何分を救うかを書いてから。

  3. やめ方は先に決め、図に休符を描く。

  4. 通知は成功一声/失敗は明確、ゼロはメタ監視で。

  5. OIDC は audience 固定、what-if+人間承認

  6. Access Reviews は習慣、PIMは理由テンプレ必須。

  7. 広報は心拍の速度、文章はさざなみで。

  8. 監査は読者、凡例にDPA/責任分界を。

  9. “粉”より基礎代謝粉は衣装のラメ

  10. 可愛いまま、仕事させる——スマートの正体。


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