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説2025――D‑STAIR × PEEL × A‑LOG

  • 山崎行政書士事務所
  • 10月3日
  • 読了時間: 7分
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裁量・裁量権の限界・裁量的判断の統制:審査強度の“階段化”、理由づけの“可監査化”、ソフトローの“自己拘束化”

0 要旨(最初に結論)

  • D‑STAIR(Discretion‑Staircase Review):裁量統制を四段階の“審査強度の階段”で運用(①合理性、②適切性、③比例、④高度審査/逸脱・濫用)。どの段に立つかは、保護法益の重要性・不可逆性・代替手段の有無・手続保障の厚み・基準化度を指数化してトリガーで決める

  • PEEL(Purpose–Evidence–Equity–Least‑Restrictive):行政判断の理由づけの最小構成。目的適合、証拠整合、公平・平等、より制約の小さい手段――の4要件をカード化して、裁判所はPEEL欠落を違法性の“目次”として審査する。

  • A‑LOG(Administrative LOGging):理由・証拠・選択肢・逸脱理由を時刻印ログとして保存・公開。ログ不備側に不利推定を働かせ、行政指導・ガイドラインには「遵守か、逸脱なら説明(comply‑or‑explain)」の自己拘束を導入する。

  • 新領域(環境・規制技術・多元的公共利益)では、不可逆性加重アルゴリズム審査(説明可能性×監査可能性×バイアス検査)参加重視の手続審査で、結論統制から“プロセス統制+比例審査”へ重心移動を提案する。

第1章 問題の所在:裁量の二面性と“統制の粒度”

行政裁量は、専門知民主的授権を背景に不可避である一方、権利制約の入口になり得る。近年は、

  • 規制の高度化(環境・バイオ・AI・プラットフォーム)、

  • ソフトロー(通達・行政指導・ガイドライン)への依存、

  • データ行政(スコアリング・自動判断)の拡大、が重なり、「どの強度で、何を根拠に、どう統制するか」が従来より精密に問われている。従来の合理性審査/逸脱・濫用審査だけでは、将来危険・不可逆性・アルゴリズム誤りのような新型のリスクを取りこぼしかねない。山崎説は、統制の強度素材構造化して整える。

第2章 既存理論の整理(極短)

  • 合理性審査:目的との論理的関連の有無・著しく妥当性を欠くか。

  • 適切性審査:事実認定の合理性、考慮要素の正否、重み付けの過誤。

  • 比例審査:目的の正当、適合、必要(より緩やかな手段)、均衡。

  • 逸脱・濫用:裁量の範囲逸脱・目的外使用・明白な不当。

  • 自己拘束・説明義務:行政自らの基準・通達により平等取扱を確保し、逸脱には高度の理由が要る。

  • 限界:審査強度の決め方が不透明ソフトローの拘束力が散在、理由の“証拠”が紙で残らない

第3章 山崎説の中核①:D‑STAIR(審査強度の階段)

3.1 階段の設計

  1. Level 1:合理性(Rationality)明白に不合理か、目的との論理的断絶があるか。

  2. Level 2:適切性(Appropriateness)事実認定・考慮事項の選択・重み付けの妥当性。

  3. Level 3:比例(Proportionality)目的正当→適合→必要→均衡の四段。

  4. Level 4:高度審査/逸脱・濫用目的外・差別的取扱・表現・人格領域など高位の権利が絡む場合に適用。

3.2 DRI(Discretion‑Review Index)で段を選ぶ

DRI=wLL+wII+wAA+wPP+wSS\mathrm{DRI} = w_L L + w_I I + w_A A + w_P P + w_S SDRI=wL​L+wI​I+wA​A+wP​P+wS​S

  • L(Law‑Protected Interest):保護法益の重要度(生命・身体・人格>営業・財産)。

  • I(Irreversibility):不可逆性・回復困難性(環境破壊・営業基盤喪失)。

  • A(Alternatives):実行可能な代替手段の有無。

  • P(Procedural Safeguards):事前聴聞・理由提示・不服申立などの厚み(厚いほど審査強度は緩和)。

  • S(Standardization):基準整備・ガイドラインの明確さ(高いほど逸脱には厳格理由)。

閾値例

  • DRI低:Level 1(合理性)

  • DRI中:Level 2(適切性)

  • DRI高:Level 3(比例)

  • DRI非常に高:Level 4(高度審査)

狙いいつ厳しく見るか事前に透明化し、行政・司法双方の予見可能性を上げる。

第4章 山崎説の中核②:PEEL(目的・証拠・公平・最小制約)

行政の理由づけは、最低限PEELを満たすべきだ。

  1. Purpose(目的):授権法の目的に適合し、目的外使用がないか。

  2. Evidence(証拠):データ・専門知見・実地調査が最新・適切・反証可能か。

  3. Equity(公平・平等)同様事案の平等取扱、逸脱時の説得的理由。

  4. Least‑Restrictive(最小制約)等価な代替でより権利制約の小さい手段はなかったか。

裁判所の運用:PEELのどこが欠落かを判決の“目次”に刻むPEEL欠落+DRI高ならLevel 3~4へ直行。

第5章 山崎説の中核③:A‑LOG(理由の可監査化)と自己拘束

  • 三種のレシート

    • Decision‑Receipt:目的・法令根拠・考慮要素・排除要素・代替検討の記録。

    • Evidence‑Receipt:データの出所・品質・統計手法・反証の扱い。

    • Equity‑Receipt:過去事例との比較・逸脱理由・救済配慮。

  • 不利推定A‑LOGが欠落・改ざん疑いなら、行政の主張に不利な推定

  • 自己拘束(Guideline Ladder)

    1. 法令基準(最上位・拘束)

    2. 命令・規則

    3. 通達・ガイドライン(Comply or Explain

    4. 事務連絡・FAQ(参考)上位からの逸脱ほど厳格理由を要求。3の逸脱はPEELのEquityで重く審査。

第6章 類型別適用

6.1 環境規制(予防原則×適応的管理)

  • DRIIが高くなりがち → Level 3(比例)が基本。

  • PEEL運用:代替手段の比較(場所変更・時間帯制限・排出枠)を定量化

  • 救済条件付適用/将来効取消で社会的混乱と不可逆性を調和。

6.2 規制技術(アルゴリズム・スコアリング)

  • A‑LOG:モデル仕様・学習データ・評価指標・誤差・バイアス検証の監査ログを保存。

  • PEELEvidenceに**モデル説明可能性(XAI)**を含める。

  • DRI:人権・差別リスクが高い場合はLevel 4へ。

6.3 多元的公共利益の調整(都市計画・プラットフォーム規制)

  • VRI/DRI:配分・専門性が高い→原則Level 2。ただしP(手続保障)が薄いときはLevel 3

  • 参加の代替:意見公募・説明会・反対意見への応答義務をA‑LOGで可視化。

第7章 行政指導・ソフトローの統制

  • SPI(Soft‑law Pressure Index)連続性(繰り返し性)×依存度(実質必須性)×制裁示唆(不利益言及)×代替可能性(低いほど高点)。SPIが閾値超なら、事実上の処分として抗告訴訟の対象に。

  • Comply or Explain:ガイドライン逸脱はDecision‑/Equity‑Receiptに理由を具体記載。

  • 平等原則自己拘束違反Equity欠落として違法の方向に強く働く。

第8章 救済デザイン(統制の“出口”)

  • 部分取消・条件付適用:違法部分を切断し、遵守条件を付す。

  • 将来効判決:一定期日に効力を失わせ、移行期間を確保。

  • 差止の暫定保全I(不可逆性)重視で迅速。

  • 義務付け+期限:基準の再設定・再評価を期限付き命令

  • 対話的リメンド:再度の理由提出を命じ、PEEL充足を条件に適法性を判断。

第9章 実務チェックリスト

9.1 行政庁向け(A‑LOG実装)

  • 授権条項・目的・考慮要素のテンプレ化

  • 代替手段比較表(費用・効果・権利侵害最小)。

  • 過去事例対照表(同様/相違、逸脱理由)。

  • アルゴリズム運用ならモデルカード・監査ログ。

9.2 裁判所向け(D‑STAIR適用)

  • DRI採点→階段選択。

  • PEEL欠落の特定→審査の焦点化。

  • 救済メニュー(部分取消・条件付適用・将来効)から最適解を選ぶ。

9.3 当事者(原告)側

  • PEELに沿った主張立証(目的外・証拠欠落・不平等・過剰規制)。

  • A‑LOGの不備を具体的に摘示し、不利推定を主張。

  • 代替案を提示して必要性・均衡で攻める。

第10章 反論と応答

  • 「指数化は恣意的」:係数・閾値は公表・レビュー。D‑STAIRは推定規範で、最終判断は裁判所の総合衡量

  • 「行政の迅速性が損なわれる」A‑LOGの標準化前処理を軽くし、救済の将来効・条件付で政策の連続性を確保。

  • 「専門的判断に司法が踏み込みすぎ」:専門性の高い分野はLevel 2中心、ただし権利高侵害/不可逆性ではLevel 3–4に上げる可変設計が防波堤。

結語

裁量統制の鍵は、いつ強く見るか(D‑STAIR)、なにを理由と証拠の核にするか(PEEL)、どう検証可能性を担保するか(A‑LOG)に尽きる。新領域ほど結果の正否よりプロセスの透明性と比例の丁寧さが効く。“階段化された強度 × 構造化された理由 × 監査可能な記録”――これが2025年版の裁量統制の実装可能解である。

参照リンク集

日本国憲法(e‑Gov法令検索)https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=321CONSTITUTION

行政事件訴訟法(e‑Gov法令検索)https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=336AC0000000139

行政手続法(e‑Gov法令検索)https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=406AC0000000088

行政不服審査法(e‑Gov法令検索)https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=426AC0000000068

総務省・行政評価局(行政指導・ソフトロー関連資料の参照口)https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/hyouka/index.html

個人情報保護委員会(アルゴリズム・AIと行政の指針参照口)https://www.ppc.go.jp/

裁判所 裁判例検索(一般)https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/search1

(実務適用にあたっては、各法令・指針の最新改正・運用通知を必ず原典で確認してください。)

 
 
 

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