説2025――H‑LOOP × PIM × CURE × A‑LOG
- 山崎行政書士事務所
- 10月3日
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行政手続・手続保障論の再設計:参加の“反復ループ”、保障強度の“計量化”、違反時の“救済配線”、そして“監査可能な理由”
0 要旨(結論先出し)
H‑LOOP(Hearing–Link–Output–Open‑Proof):告知→資料アクセス→意見陳述(聴聞・弁明・意見公募)→理由提示→再意見→最終決定・記録開示までの反復型ループを行政手続の標準プロトコルに据える。
PIM(Procedural Intensity Matrix):侵害の重大性・不可逆性・裁量幅・一般抽象/個別具体・情報非対称を指数化し、レベル1~4の**保障セット(通知・意見・聴聞・反対尋問/リスク評価)**を自動割当する。
CURE(Cancel–Update–Remand–Ex‑Nunc):手続違反に対する救済分配表。取消(Cancel)/再手続命令・修補(Update)/差戻し(Remand)/将来効無効(Ex‑Nunc)を、違反の重要性×影響可能性で選択。
A‑LOG(Auditable LOG of Reasons):理由・証拠・代替案・応答を時刻印ログで保存・公開。ログ不備側に不利推定を及ぼし、行政指導にも「遵守か、逸脱するなら説明」の自己拘束を導入する。
第1章 問題の所在:理念は整ったのに、実効性が足りない
行政手続法は、聴聞・弁明の機会・理由提示・命令等の意見公募を備えるが、現場では(1)意見聴取が形式化し、(2)説明が“断片的”で、(3)違反時の救済設計が粗いという三つの段差が残る。さらに、行政指導・勧告・助言といった非拘束的措置が実務を駆動する一方、手続保障の射程が曖昧で、**「事実上の処分」**をめぐる争いが絶えない。加えて、意見公募手続(パブコメ)の法的性格と違反の効果(規範の違法・個別処分への承継)も理論・運用で揺れる。
第2章 基礎整理(最短距離)
個別処分の手続保障:告知・聴聞/弁明・理由提示(到達/具体性)・記録の閲覧・代理援助。
命令等制定の意見公募:案の公示、相当期間の意見提出機会、提出意見・考慮結果の公表。
行政指導:任意性の原則、不利益取扱いとの切り離し、内容・担当・連絡先の明示、書面交付要求権。
救済系:行政不服審査・抗告訴訟(取消・無効確認・差止・義務付け)・国家賠償。弱点は、保障の強度選択が不透明、違反時の効果が一律、指導への手続保障が乏しいこと。
第3章 山崎説の中核①――H‑LOOP:参加の反復ループ
Notice(告知・案公示・争点の可視化)
Access(記録アクセス・根拠資料・影響評価・代替案)
Input(意見提出:書面/口頭、質問権、反論機会)
Reply(応答義務:意見類型ごとに採否・理由)
Revise(案修正/条件付与/影響再評価)
Decide & Reason(具体的理由の提示・代替案比較・均衡判断)
Open‑Proof(A‑LOGの公開/逐語録・差分表・追跡可能なID)→ ループ:重要な反証や新事実が出たら②~⑥を一回転する。形式的一回限りをやめ、争点ドリブンに回す。
実装最小要件(全類型共通)
Issue List(争点リスト):争点名・関係条文・求められる証拠。
Delta Sheet(案の差分表):原案→改定案の差分と理由。
Reply Map(応答地図):意見群→採否・理由・担当。
Clock(SLA):告知→意見→応答の期限と延長基準。
第4章 山崎説の中核②――PIM:保障強度を“計量化”
PII=α⋅重大性+β⋅不可逆性+γ⋅裁量幅+δ⋅一般/個別+ε⋅情報非対称\mathrm{PII} = \alpha\cdot \text{重大性} + \beta\cdot \text{不可逆性} + \gamma\cdot \text{裁量幅} + \delta\cdot \text{一般/個別} + \varepsilon\cdot \text{情報非対称}PII=α⋅重大性+β⋅不可逆性+γ⋅裁量幅+δ⋅一般/個別+ε⋅情報非対称
重大性:生命・健康・自由>営業・財産。
不可逆性:環境破壊・人格的信用の毀損など回復困難度。
裁量幅:基準の明確性・評価の自由度。
一般/個別:規範(命令等)か個別処分か。
情報非対称:行政に偏在するデータ・専門知。
PII→保障レベル
Level 1(基礎):通知+意見書提出+理由提示。
Level 2(拡充):記録閲覧・口頭意見/質疑・応答義務(類型別)。
Level 3(強化):口頭審理(聴聞)・証人聴取/反証の機会・代替手段比較の義務。
Level 4(最強化):公開聴聞・独立審査官・クロスレビュー(第三者評価)・将来効の設計を前置。
運用指針:不可逆×広裁量×高非対称ならLevel 3–4、可逆×低裁量ならLevel 1–2。
第5章 山崎説の中核③――CURE:違反時の救済配線
二軸テスト:①目的侵害性(保障目的に照らす重要度)、②影響可能性(手続が結果に影響し得た合理的蓋然性)
将来効無効(Ex‑Nunc):社会的混乱回避のため期日以降無効化。
部分取消/条件付適用:違法部分を切断し、遵守条件を付して運用継続。
承継理論(命令等→処分):命令等のパブコメ欠缺は、規範の違法性の程度×処分の依存性に応じ、処分取消の理由に承継し得る(高侵害×高依存なら承継肯定)。
第6章 山崎説の中核④――A‑LOG:監査可能な理由
Decision‑Receipt:目的・根拠条項・考慮要素・排除要素・代替案・均衡判断。
Evidence‑Receipt:出所・手法・限界・反証の扱い・更新日。
Reply‑Receipt:意見→採否→応答文・担当・時刻。
Hearing‑Record:逐語録・提出資料・質問と答え。
公開ルール:結論と同時公開が原則。非公開部分は最小限定+黒塗り理由。訴訟では、A‑LOG不備側に不利推定(説明機能の失敗)を及ぼす。
第7章 論点Ⅰ:意見公募制度の法的性格と違反の効果
性格:拘束的手続(制定権限の民主的正統性・予見可能性の担保)。
違反類型:
形式欠缺(期間不足・公示不備・資料未掲示)
実質欠缺(応答義務の不履践・差分不提示・影響評価なし)
効果(CURE配線):
重大×影響性高:規範の将来効無効化+再手続命令。
中間帯:部分無効(特定条項)+差戻し。
軽微:追完義務(意見の遡及反映・追加応答)。
処分への承継:当該規範に機械的拘束される処分なら承継肯定、裁量余地が広く独自理由で補える場合は承継限定。
救済の型:取消だけでなく、差止・義務付け(再手続命令)・確認を併用、将来効や条件付適用で社会的連続性と適法性を調和。
第8章 論点Ⅱ:行政指導・勧告・助言型措置の手続保障
SPI(Soft‑law Pressure Index):反復性×依存度×不利益示唆×代替可能性で事実上の強制性を点数化。閾値超は**「事実上の処分」として抗告訴訟対象**に。
最小保障(MPG):
内容書面交付(目的・根拠・任意性・担当)
理由提示(PEELの骨組み)
撤回・見直し窓口(苦情・担当長)
A‑LOG(時刻印ログ保存)
Comply‑or‑Explain:ガイドライン逸脱時は具体的理由をEquity‑Receiptに記載。平等原則の自己拘束を実装。
第9章 論点Ⅲ:説明義務・反論機会の強度
PEEL標準(目的・証拠・公平・最小制約)を個別処分にも命令等にも横断適用。
説明の深さはPIMレベルに比例:Level 3–4なら代替案比較表・被害最小化策・均衡の理由まで要する。
反論機会は**事前型(聴聞・弁明)+事後型(異議・再審査)**の二重化。不可逆性が高い場合は事前重視。
第10章 デジタル化:手続保障の“実装”
e‑Hearing:オンライン聴聞・逐語録自動生成・発言者認証。
Open‑Docket:審理ファイルの匿名化公開・差分追跡。
意見公募プラットフォーム:**メタデータ(論点タグ)**で応答自動集計、全意見と応答のマッピングを公表。
監査API:A‑LOGを外部監査・司法へ安全共有。
第11章 救済と訴訟設計の実務(ヒートマップ)
取消訴訟:PIM高×A‑LOG欠落→CURE:Cancel/Ex‑Nuncを主張。
差止訴訟:不可逆性×手続欠缺→保全厚く。
義務付け訴訟:再手続命令を明示的に請求(Update/Remand)。
不服審査:A‑LOG提出命令を申立て、PEEL空白を具体的に指摘。
国家賠償:重大手続違反+結果損害→過失推定(A‑LOG欠落)を構成。
第12章 モデル条項・様式(抄)
(H‑LOOP憲章)「当庁は、告知・資料アクセス・意見提出・応答・修正・理由提示・記録公開を一体の反復過程として運用する。重要な反証が提出されたときは、必要な限度で手続段階を再開する。」
(意見公募応答条項)「提出意見は論点群に分類し、各群ごとに採否と具体的理由を公表する。原案からの変更は差分表で示し、変更なしの場合も維持理由を記載する。」
(行政指導の最小保障)「行政指導は任意であり、指導不応諾を理由とする不利益取扱いは行わない。相手方の請求があれば、内容・目的・根拠・担当を記載した書面を交付する。」
(A‑LOG公開)「結論と同時にDecision‑/Evidence‑/Reply‑Receiptを公開する。非公開部分は範囲を最小化し、その理由を付す。」
第13章 反論と応答
「指数化は恣意的」:PIMの係数・閾値を公表・年次レビュー。裁判所は推定規範として参照し、個別事情で上げ下げできる。
「手続が重くなる」:重要/不可逆の事件だけ強化(Level 3–4)。その他はテンプレ化で軽量運用。
「行政指導にまで負担」:SPI閾値超のみ強化。通常の助言はMPGの書面化で足りる。
「違反で直ちに無効は過剰」:CURE配線で将来効・部分無効・差戻しを使い分け、公共性と適法性の均衡を取る。
結語
手続保障は、条文の羅列ではなく運用プロトコルで生きる。H‑LOOPで参加を一回限りから反復型へ、PIMで保障強度を見える化し、CUREで違反時の出口を設計、A‑LOGで説明を証明に変える。結論:「反復・計量・配線・証明」――これが2025年の行政手続の最小仕様である。
参照リンク集
行政手続法(e‑Gov法令検索)https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=406AC0000000088
行政事件訴訟法(e‑Gov法令検索)https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=336AC0000000139
行政不服審査法(e‑Gov法令検索)https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=426AC0000000068
行政機関の保有する情報の公開に関する法律https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=411AC0000000042
意見公募手続(e‑Govパブリックコメント)https://public-comment.e-gov.go.jp/
個人情報保護(行政機関個人情報保護法・個情法)https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=415AC0000000057
総務省 行政評価局(行政手続・指導等の運用資料)https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/hyouka/index.html
裁判所 裁判例検索https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/search1
神戸大学デジタルアーカイブ(行政法・手続保障論の論考参照口)https://da.lib.kobe-u.ac.jp/
一橋大学 HERMES‑IRhttps://hermes-ir.lib.hit-u.ac.jp/
京都大学 KURENAIhttps://repository.kulib.kyoto-u.ac.jp/dspace/
北海道大学 HUSCAPhttps://hdl.handle.net/2115/





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