説2025――「動的商事性(D‑Commerciality)× 監査可能私法(A‑Private)× 二層法源(Core/Ops)」モデル
- 山崎行政書士事務所
- 10月1日
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民商分立・民商統一を超える私法体系論:商法は“誰のために・いつ・どこで”特則たり得るのか
0 要旨(先に結論)
対立の芯:民商統一論は一般私法の一貫性・可読性・教育的簡素を求め、民商分立論は商取引の速度・反復性・専門性・ネットワーク外部性という現実の摩擦に応答する。
山崎説は、二項対立を**「いつ商法が特則として発動すべきか」という発動条件の定式化**で架橋する。
提案:
動的商事性(D‑Commerciality)テスト――商取引の事実属性を数値で判定し、閾値超過時にのみ商法特則が作動するトリガー型。
監査可能私法(A‑Private)――“説明”より**“検証”。ログ・版管理・通知証跡を私法の共通証拠基盤とし、商事特則の多くをエビデンス規範**へ翻訳。
二層法源(Core/Ops)――Core(民法総則・債権総論/各論)は統一、Ops(運用準則)として商法一般部を可変の運用レイヤに位置付ける。Opsは数年ごとに機能レビューし、テクノロジ変化に追随。
標語:「特則の存続は“概念”でなく“閾値”で決める。」「商法は法典の第2階層=運用準則(Ops)として呼び出す。」「民法の原理はCoreに据え、商事はA‑Privateで“検証可能な取引”へ。」
1 問題の射程:民商分立・統一のレガシーから現代の摩擦へ
1.1 歴史的配置(極小史)
大陸法系は19世紀に民法(一般)/商法(特則)を人(商人)と行為(商行為)で切り分けた。商法は職業性・反復性を仮託に、**迅速性(短期時効・通知厳格)・流通性(有価証券)・担保性(商事留置・先取)**で差別化。
日本は会社法の独立(2005)・民法債権法改正(2020)で一般契約法の現代化を果たしたが、商行為編は**“必要な差”の棚卸し**が未了。
現代の加速器:電子商取引・プラットフォーム・スマートコントラクト・即時決済。速度・スケール・観測性が、旧来の「商人/非商人」より遥かに実務差を生む。
1.2 なぜ今“体系論”か
教育・実務コスト:二重体系の並行運用は実務・教育のコストを上げる。
テクノロジの波:電子契約・ログ・署名・台帳が証拠規範を刷新し、「商人の帳簿」や「書面通知」の置換可能性を高めた。
国際整合:CISGやデジタル・コンテンツ適合の潮流に民法が接近し、商事売買の独自条項の存在価値が相対化。
2 論点の地図:何を統一し、何を特則として残すか
2.1 統一に馴染む領域(Coreへ吸収)
契約成立・解釈・債務不履行・損害論:民法改正で契約一般原則が整い、商事特則の多くは重複。
適合性概念:物的瑕疵→**適合(conformity)**へ収斂。デジタルも同様(機能・真正・相互運用)。
時効:改正で基本統一。商事短期時効の独自価値は縮小。
2.2 特則として“残すべき核”
流通・信用装置:有価証券・電子記録移転・倉荷・船荷・流通担保。即時性・対抗要件の簡易化は一般法へ吸収困難。
商人の“職業的注意義務”:善管注意義務の上乗せ(専門性・反復性・情報優位に基づく)。
迅速確定ルール:通知・検査・異議の短期集中(ただしログ依拠で運用)。
市場規律との結節:取引所・清算・決済に関わる規律と私法の同期(期限の厳格・差金決済の安全網)。
3 山崎説の中核①:動的商事性(D‑Commerciality)テスト
3.1 発動基準の数式化
商法特則の適用は肩書(商人)でも契約類型でもなく、取引の物理で判定する。
DCI=wSS+wRR+wPP+wVV+wNN+wII\mathrm{DCI} = w_S S + w_R R + w_P P + w_V V + w_N N + w_I IDCI=wSS+wRR+wPP+wVV+wNN+wII
S(Scale):取引規模(対価総額・回転率)
R(Repeatability):反復性・継続性(年間件数・定期性)
P(Professionalism):専門性(ライセンス・専門スタッフ比率)
V(Velocity):履行スピード(約定~決済の時間、即日化度)
N(Network Externality):プラットフォーム性・多面市場度
I(Information Asymmetry):相手方に対する情報優位
閾値(θ):DCI ≥ θの場合に商事特則が自動発動(または推定発動)。θは業種別・市場別ガイドで設定(毎年見直し)。B2Cでは消費者保護が上位、B2BではD‑Commercialityが強く効く。
3.2 適用効果(例)
通知期限:一般は「相当期間」、DCI高なら短期確定(例:5営業日)。
検査義務:DCI高で検査の高度化(サンプリング・ログ提出)。
利息・遅延損害金:DCI高で市場金利+α(合意なき最低利率)。
表明保証の密度:DCI高で黙示の専門家保証を推定。
立証責任:DCI高で帳簿・ログの提出義務を広く(提出なき否認は弱く評価)。
効果:**“商法特則を残す/消す”の静態議論から、“いつ発動させるか”**の動態議論へ。
4 山崎説の中核②:監査可能私法(A‑Private)
4.1 証拠法の再編(紙→ログ)
Consent‑Receipt:申込み・承諾・変更の画面ハッシュ+時刻印。
Delivery‑Receipt:引渡し・危険移転・検査のタイムライン。
Remedy‑Receipt:不適合通知・是正対応の記録。
Books & Records:商人帳簿の現代版=トランザクション・ログ+監査証跡。改ざん検知・保存年限(原則3年、DCI高で5年)。
4.2 ルール効果
“主張立証の転換”:ログを提出できる側に有利な推定。
“民商横断の安全港”:A‑Private準拠は善管注意義務の実行証明(BJR補強)。
“特則の翻訳”:商事の「通知・検査・帳簿規律」をログ義務として一般私法へ還元。
“教育効果”:学部の契約法教育にログ証拠を織り込み、私法=検証規範という視座を定着。
5 山崎説の中核③:二層法源(Core/Ops)
5.1 Core(統一私法)とOps(運用準則)の区分
Core:民法総則・債権総論/各論・不法行為・不当利得・物権の一般原理。安定・抽象・長寿命。
Ops(Commercial Operations Code):「商法一般部」を運用準則集として編み直す。D‑Commercialityの閾値・通知SLA・ログ要件・対抗要件の簡易化等、短サイクルで改定。
5.2 Opsの統治
改定頻度:3~5年レビュー(テクノロジ・国際標準に追随)。
関与主体:法務省・経産省・金融庁+実務家・学識による常設レビュー会議。
法源位階:政省令・指針・準則を束ね、裁判所の参照基準に。Coreが負けるのではなく、OpsがCoreを具体化。
6 商行為規定と契約一般原則の整合(統一設計のひな型)
7 “何を残すか”の厳格基準(存続テスト)
存続テスト=三問:
一般原理で代替不能か?(代替可なら統一)
D‑Commercialityの高帯でのみ合理性があるか?(YesならOpsへ)
ログ化で置換できないか?(置換可なら特則を証拠規範化)
例:運送・海商・有価証券は①で残す。商事利率は②③でOps化。“商人の通知厳格”は③でログSLAとして翻訳。
8 商法を独自体系とみる立場への応答
懸念①:商事のスピードが殺される→ Ops化+DCIトリガーでスピードに比例して厳格に。一律化の方がむしろ速度を殺す。
懸念②:商慣習の柔らかさが失われる→ Coreは抽象、Opsは柔構造。慣習はOpsの証拠源として位置づけ、ログ化で誤用を防ぐ。
懸念③:流通法の核心(証券法理)が希釈→ 証券・運送・海商は独自章をOps内で堅持。対抗要件・善意取得はCoreの物権原理と整合化。
9 商法を民法の特則とみる立場への応答
懸念①:特則の乱立が原理を掘る→ Opsのレビュー+存続テストでサンセット運用。特則のコロニー化を防ぐ。
懸念②:教育が複雑化→ Core/Opsの二層負荷は、「原理(Core)→適用(Ops)」の学習順で統制。数式(DCI)とログ(A‑Private)が学習の物差しになる。
10 実務設計:条文化の叩き台(モデル)
第1条(目的)本法は、私法の一般原理(Core)に基づき、商事取引の実務に適応した運用準則(Ops)を定め、民商の統一と機能的特則の両立を図る。
第2条(動的商事性)商事特則は、取引の規模・反復性・専門性・速度・ネットワーク外部性・情報非対称の指標(DCI)が定める閾値以上の場合に適用する。
第3条(監査可能性)当事者は、申込み・承諾・引渡し・通知・是正の各過程を改ざん検知可能な方法で記録し、一定期間保存する(A‑Private)。
第4条(適合性)売買その他の給付契約の履行は、適合性(機能・真正・相互運用)により評価する。DCIが高い場合、検査・通知のSLAを適用する。
第5条(証拠と推定)ログの不存在又は改ざんが疑われる場合、当該当事者の主張は不利に解釈することができる。
第6条(見直し)本Opsは少なくとも三年ごとにレビューし、テクノロジ・国際標準・商慣習の変化を反映する。
11 具体論点へのあてはめ
11.1 商事連帯・保証
Core:連帯の一般原理。
Ops:DCI高で連帯推定/求償の迅速化を設定。ただし保証人保護(個人)には消費者強行規定を上位に。
11.2 表見代理・権限濫用
Core:表見代理の一般理論。
Ops:DCI高で外観形成のログ(名刺・メール・プラットフォーム権限)が外観要件として重みを増す。
11.3 荷送り・運送・保険
Core:危険負担原理。
Ops:e‑Delivery/トークン化船荷証券等の対抗・善意取得を具体化、海商・保険の独自性を温存。
11.4 時効・除斥
Core:原則統一。
Ops:DCI高で**短期除斥(例:価格差損の請求)**を設定、証拠散逸を防ぐ。
12 デジタル時代の「商行為」概念の更新
商行為=ログに現れる反復的・有償的・市場形成的行為。
典型例:APIを介した代理・決済・保管・配送、スマートコントラクトのデプロイ/運用、プラットフォームのレコメンド販売。
Opsで行為目録を更新し、民事一般原理とデジタル実務の橋渡し。
13 比較法の含意(極短)
ドイツ:商法が商人主義の外殻を維持。山崎説は**人基準→機能基準(DCI)**へ。
フランス:商事裁判所の伝統。山崎説はOpsレビューで柔構造を再現。
英米:UCC/Restatementの機能的統一。山崎説はCore統一+OpsでUCC的運用。
14 批判的検討と限界
数値化への懸念(恣意的重み):公表係数・業界別ガイド・年次レビューで民主化。
ログ格差(中小事業者の負担):A‑Private最小構成(メール・PDF・タイムスタンプ)を無償で提供する公的基盤で緩和。
裁判所の適応コスト:専門部×テクニカルアドバイザの常設化、ダッシュボード型証拠提出で運用負荷を軽減。
15 導入ロードマップ(12か月)
Q1:DCI暫定係数・業界別ガイド、A‑Private最小仕様(時刻印・ハッシュ・保存年限)を公表。
Q2:Ops草案(通知SLA・検査テンプレ・利率補正・ログ提出義務)をパブコメ。
Q3:モデル条項を商慣行団体に配布、試行事件で運用。
Q4:レビューのうえOps1.0を施行、Coreは不動。教育カリキュラムをCore→Ops順に刷新。
16 結語――民商対立から“呼出型特則”へ
民商分立・統一の争いは、静止画だった。現代の私法は、速度・規模・反復・ネットワークが作る動的な摩擦に応答しなければならない。山崎説2025は、
発動条件を数式化(D‑Commerciality)し、
証拠をログへ移し(A‑Private)、
商法を運用準則(Ops)に落とす(二層法源)ことで、「いつ特則か」を透明にし、「なぜ特則か」を検証可能にし、「特則の賞味期限」を管理する。
特則は“理念”ではなく“閾値”で生きる。これが、統一と分立の往復運動を止揚する、2025年版の私法体系論である。
付録A DCI評価シート(簡易版)
取引総額(年):□
年間件数:□
契約の標準化度(0–5):□
決済スピード(時間):□
プラットフォーム依存(0–5):□
相手方との情報格差(0–5):□→ 合計得点:□ θ=… 発動:Yes/No
付録B A‑Private最小要件
署名:電子署名 or 送信元認証
時刻印:TSA or ブロックチェーン時刻
保存:3年(DCI高で5年)
形式:PDF+JSONメタ(ハッシュ)
付録C Ops(例示)
通知SLA:受領後5営業日(DCI高)
検査:サンプリング計画のログ化
利率補正:無合意→基準金利+150bp
証拠提出:ログの差分提出義務(改版履歴)
善意取得:電子記録移転権利の対抗要件(ハッシュ+登録)





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