top of page

説2025――「商号・営業権の多層ガバナンス × 動的商事性(DCI)× 監査可能私法(A‑Private)」モデル

  • 山崎行政書士事務所
  • 10月1日
  • 読了時間: 11分
ree

商号・営業権、商行為概念の拡張と制限――ネット取引・プラットフォーム時代の商人性判定・保管義務の再設計

0 要旨(結論先出し)

  • 商号・営業権は、「名称(識別子)」「評判(レピュテーション)」「顧客・供給網(関係資産)」の三層資産として一体で管理し、登記・表示・プラットフォームID・ドメイン・チェーンアドレス等の多元的ネームスペースを横断保護する。

  • 商人性判定は、旧来の「人(商人)+行為(商行為)」の静的把握ではなく、動的商事性指数(DCI = Scale, Repeatability, Professionalism, Velocity, Network, Information)を指標化してトリガー適用する。

  • 商行為概念は、「ログに外形が現れる反復有償行為」を基軸に拡張し、プラットフォーム・API仲介・スマートコントラクト履行等を明示的に取り込む

  • 送付品保管義務などの“事務管理”は、民法の一般構造(他人のための事務管理)を尊重しつつ、商事では**「商的事務管理(C‑Negotiorum)」の狭い例外帯を設け、ログ・通知・合理費用を条件に最小限の保全義務を肯定する。他方、消費者宛ての送り付けは商事例外の外**とし、無義務・即時処分可の立場を明確化する。

  • 制度設計は、二層法源(Core=民法原理、Ops=商事運用準則)を採り、OpsでDCI閾値・通知SLA・ネームスペース保護・プラットフォームのMoR(Merchant‑of‑Record)責任・“商的事務管理”の運用要件を定期レビューで更新する。

  • キーメッセージ:「特則は“概念”でなく“閾値”で生きる」「名称は紙ではなくIDグラフで守る」「義務は説明ではなくログで証明する」

1 序論:論点の地図

  1. 商号・営業権の私法上位置づけ――営業譲渡・M&A・フランチャイズ・オンラインブランド(ハンドル・ドメイン・アドレス)を跨ぐ同一性の維持

  2. 商人性の判定基準――クラフトEC、SNSライブコマース、プラットフォーム上のセラー、プロトコル主体の自動販売等新型事業をどう捉えるか。

  3. 商行為概念の範囲――販売・仲介・決済・運送に加え、API提供・ランキング・レコメンド・オンチェーン履行は商行為か。

  4. 事務管理義務(送付品保管等)――民法の一般構造で足りるのか、商事特則を置くのか。

  5. 実務の詰まり――名称の多元管理・仮想空間での混同・委託倉庫・置き配・誤配送、ネガティブオプション型詐欺等への横断的対応が未整備。

山崎説は、①名称と営業権の多層ガバナンス、②商人性の動的トリガー(DCI)、③証拠を**ログで基礎付ける(A‑Private)**の三本柱で解く。

2 商号・営業権の多層ガバナンス

2.1 三層資産モデル:Name/Reputation/Relations

  • Name(識別子):商号・ブランド名・ロゴ・ドメイン名・SNSハンドル・プラットフォーム出店ID・ブロックチェーンアドレス(ENS等)。

  • Reputation(評判):レビュー・レーティング・CS対応履歴・返品率・違反点数等の評価データ

  • Relations(関係資産):顧客リスト・メルマガ許諾・サプライヤ管理・API連携・再購入行動。

提案:営業譲渡・事業譲渡・M&Aの目的物として、Name‑Graph(識別子グラフ)とReputation‑Ledger(評判台帳)を明示的に特定

  • Name‑Graph:各ネームスペースのハンドル・登録情報・紐付アカウント・移転手続(プラットフォーム仕様含む)の台帳

  • Reputation‑Ledger:主要KPI(レビュー平均、件数、苦情率、配送SLA達成率等)と移転可否規程を整理。個人情報保護との境界も契約で明確化。

2.2 商号保護の拡張と制限

  • 拡張:混同防止・不正競争規制の射程を、オンライン識別子(ハンドル・ドメイン・アドレス)に準用営業上出所表示として保護。

  • 制限:広汎な独占は参入障壁。地理・業種・プラットフォーム面で相対化し、過剰な差止・譲渡対価要求を抑制。**評判の“過去清算”(譲渡時の悪評消去)**は原則禁止(消費者期待の保護)。

2.3 営業権の相続・分割・フランチャイズ

  • 営業権=集合財産として、Name/Reputation/Relations部分分割可能とする契約工法を推奨。

  • フランチャイズでは、名称の共用評判KPIに基づく再許諾・解除定量化プラットフォームIDの共有は**リスク(連帯違反点)**が高く、サブID発行KPI分離を標準化。

3 商人性判定――動的商事性指数(DCI)

3.1 定義

DCI=wSS+wRR+wPP+wVV+wNN+wII\mathrm{DCI} = w_S S + w_R R + w_P P + w_V V + w_N N + w_I IDCI=wS​S+wR​R+wP​P+wV​V+wN​N+wI​I

  • S(Scale)取扱高・総売上

  • R(Repeatability)反復頻度・契約標準化度

  • P(Professionalism)専門資格・専従人員・業務システム

  • V(Velocity)約定~引渡/決済のスピード

  • N(Network)プラットフォーム依存・多面市場性

  • I(Information)相手方に対する情報優位

趣旨DCIが閾値θ以上なら**「商人性」推定**。B2Cでは消費者保護規範が優先するが、事業者(B)相手には商事特則(通知SLA、利息補正、帳簿提供義務等)を自動付加

3.2 運用イメージ

  • SNSで月100件以上販売・同一SKU・返品ポリシー運用・決済システム利用 → R↑、P↑、V↑、N↑ → 商人性推定

  • フリマ単発売却・非反復・個人保有の処分 → DCI低 → 商人性否定

  • プロトコル(自動販売スマコン)やDAOによる反復供給 → P・V・N↑ → 商人性認定し、運営者(鍵・資金・ガバナンス権)にMoR責任を按分。

4 商行為概念の拡張

4.1 定義の軸:「ログに外形が現れる反復有償行為」

商行為とは、対価獲得目的で反復・職業的に行われ、取引ログ・履行ログ・決済ログ外形が現れる行為。

4.2 具体化

  • 販売・代理・仲介(従来)。

  • APIとしての販売(在庫・価格・配送のAPI提供)。

  • ランキング・レコメンド販売(広告+検索優遇=市場形成行為)。

  • スマートコントラクト履行(オンチェーン納品・条件付き決済)。

  • データ供給・モデル提供(生成AIの推論API課金は商行為)。

制限個人の非反復活動コミュニティの非営利供給商行為から外す(DCI低帯)。

5 「送付品保管義務」等――事務管理をどう位置付けるか

5.1 原則(民法Core)

事務管理は、他人のためにする意思で他人の事務を管理した者の費用償還責任を定める一般構造。「送り付け商法」的な一方的送付は、受領者に保管義務を生じさせないのが基本原則である(消費者保護上、受領者の無義務を強く確認)。

5.2 商事の狭い例外帯――商的事務管理(C‑Negotiorum)

B2Bの誤配送・クロスドック・共同倉庫など、物流ネットワークの即時性が要求される局面では、次の四条件を満たす範囲で最小限の保管義務を「商事特則(Ops)」として肯定する。

  1. 相手が商人(DCI高)であり、誤配送・誤指図であることがログで明白

  2. 受領者に過大な負担がなく(通常保管スペース内・危険物でない)、短期(原則72時間)の仮保管で回収可能。

  3. 即時通知(2時間〜当日内)を標準様式(テンプレ)で送付。

  4. 合理費用(保管・取り扱い・通知)が必ず償還される(上限あり、レート表)ことが規範化されている。

これ以外(とくにB2Cの送り付け)は無義務受領者は自由処分可。“商的事務管理”はB2Bのネットワーク維持のための狭義の例外である。

5.3 プラットフォーム・物流者の責任

  • プラットフォームMoRは、誤配送時の回収手配SLA(例えば48〜72時間)と費用償還APIを提供。

  • 倉庫・配送委託契約では、誤配送時の保管・返送フロー保険・免責証跡形式先付けする。

  • ログなき請求否認推定(A‑Private:監査可能私法)。

6 A‑Private(監査可能私法)――証拠インフラを先に作る

  • Consent‑Receipt(同意レシート):申込み・承諾・変更の画面ハッシュ+時刻印。

  • Delivery‑Receipt(引渡レシート):実納品・e‑Delivery(鍵移転)・サイン・置き配写真、イベントログ。

  • Remedy‑Receipt(救済レシート):不適合通知・是正対応・回収・返金の時系列。

  • Name‑Graph/Reputation‑Ledger:識別子・評判の台帳。

  • 提出義務DCI高帯ではログ提出が推定抵触の解除条件提出なき主張弱い

7 プラットフォーム時代の商人性・商行為の再配線

7.1 三階層の当事者

  1. セラー(在庫・商品説明・価格決定の実体)

  2. プラットフォーム(検索・レコメンド・決済・レビュー・配送連携)

  3. MoR(Merchant‑of‑Record)(領収書・返金・充当を握る記録上の販売者)

原則MoR ≠ 常にプラットフォームだが、統制(C)×便益(B)×役割(R)が高い側に一次責任を傾斜。

  • 不適合:一次はセラー、ただしレコメンド誘導・虚偽レビュー黙認返金裁量が大きいプラットフォーム/MoR連帯的に。

  • 名称混同:プラットフォームはハンドル衝突の防止偽装出店の監査停止措置SLAを負う。

  • 評価データReputation‑Ledgerの**“適法な可搬性”**(譲渡・分割・匿名化)を契約で整備。

8 条文化の叩き台(モデル)

第1条(定義)商行為とは、対価獲得を目的とし反復継続して行われ、その外形が取引・履行・決済の電子的記録により検証可能な行為をいう。商人とは、動的商事性指数(DCI)が政令の定める閾値以上である者をいう。

第2条(商号・営業権の多層保護)商号その他の識別子は、オンライン識別子を含む。営業譲渡の目的物にはName‑Graph及びReputation‑Ledgerを含めることができる。混同のおそれのある識別子の使用は差止めることができる。

第3条(監査可能私法の原則)当事者は、申込み、承諾、引渡し、救済に関する電子的記録を保存し、裁判所又は準司法機関の求めに応じ提出しなければならない。

第4条(通知・検査SLA)商人相互の取引において不適合の通知期間は、政令で定める短期期間とする。ただし当事者がこれと異なる定めをしたときはこの限りでない。

第5条(商的事務管理)商人相互の誤配送その他ネットワークの円滑維持のためやむを得ない場合で、(一) DCI高帯、(二) 即時通知、(三) 短期保管、(四) 合理費用の償還の条件を満たすときは、相当の範囲で仮保管義務を負う。消費者に対する送り付けは本条の適用外とする。

第6条(プラットフォームの責任)プラットフォームがMoRとして取引記録を管理する場合は、返金・回収・苦情処理について一次的な義務を負う。セラーのみがMoRであるときは、プラットフォームは名称混同防止及び違法出品排除の注意義務を負う。

第7条(見直し)DCIの係数及び通知SLAは、三年ごとに実務・技術の状況を踏まえ見直す。

9 運用ガイド(実務者向けチェックリスト)

9.1 Name‑Graph(識別子台帳)

  • 商号・ブランド名・ロゴ

  • ドメイン/SNSハンドル/マーケットプレイスID

  • ブロックチェーンアドレス(署名鍵の保管・承継)

  • 出店プラットフォームの譲渡規約(ID移転可否・承継条件)

9.2 Reputation‑Ledger(評判台帳)

  • レビュー平均/苦情率/返品率/配送SLA達成率

  • 違反点数・停止履歴

  • データの可搬性(匿名化・個人情報境界)

9.3 DCI自己診断

  • 年間取扱高・反復件数・決済~引渡時間

  • 専従スタッフ・業務システム

  • プラットフォーム依存度・情報非対称→ θ以上なら商人性前提で契約とログ体制を強化。

9.4 商的事務管理テンプレ(B2B)

  • 誤配送記録(送り状・写真・時刻)

  • 即時通知フォーム(宛先・期限・回収方法)

  • 仮保管の条件(期間・場所・危険物除外)

  • 費用レート(1日×○円/人件費×○円)

10 ケースで見る適用

10.1 個人クリエイターのライブ販売(毎週実施)

  • DCI:R↑P↑V↑N↑ → 商人性推定

  • 商行為:ライブ告知・カート決済・配送連携はログに現れる商行為。

  • 商号・営業権:ハンドル名の保護、レビュー台帳の承継(法人化時)。

  • 保管義務:B2C誤配送→無義務(消費者保護)。B2B中継所の誤配送→C‑Negotiorumで短期保管。

10.2 マーケットプレイスでの偽ブランド出店

  • 商号保護:識別子混同の差止。

  • プラットフォーム責任:停止SLA・検索除外・返金API。MoRであれば一次責任。

  • 評判:偽出店の悪評は正当なセラーのレッジャーから切離し、プラットフォームのオペレーション評価へ加算(予防誘因)。

10.3 DAOプロトコルの自動販売

  • 商人性:ガバナンス鍵・資金・報酬配分者に商人性按分

  • 商行為:スマコンの履行は商行為

  • 事務管理:誤送付トークンはオンチェーン回収関数(技術的救済)を優先

11 批判への応答

  • 「数式化(DCI)は恣意的」→ 係数・閾値は公開レビュー年次統計で調整。不透明な“総合考慮”より予見可能

  • 「商的事務管理は送り付け商法を助長」B2B限定・四条件厳格費用償還前提短期保管のみで、B2C無義務を正面から確認。

  • 「名称保護の過剰」相対化(プラットフォーム面・地理・業種)と評判の不可消去で、独占の膨張を抑制。

12 導入ロードマップ(12か月)

  • 0–3か月:DCI暫定係数/通知SLA案/Name‑Graph標準様式を公表。

  • 4–6か月:主要プラットフォームでMoR表示返金API識別子衝突防止を試行。

  • 7–9か月:商的事務管理の業界協定(物流・EC)締結。

  • 10–12か月:Ops1.0施行、係数校正、判例・ADRのフィードバックを反映。

13 結語――「名称はIDで守り、商人性は閾値で決め、義務はログで証明する」

商法の強みは、現実の摩擦へ速く・反復的に応答することにある。商号・営業権Name/Reputation/Relationsの三層で守り、商人性DCI動的トリガーで透明に判断し、商行為ログに外形が現れる反復有償行為として拡張し、事務管理B2Bの狭い例外帯にとどめ、消費者への送り付けは無義務を貫く。この**「A‑Private × DCI × 二層法源」**は、民商分立・統一の古い対立を越えて、実装可能な商法を提示する。特則は理念ではなく閾値で息をし、権利は紙ではなくログで守られる。――それが山崎説2025の答えである。

付録A DCI自己診断シート(抜粋)

  • 年間取扱高(S):□□万円/年

  • 年間反復件数(R):□□件/年

  • 専従者・システム(P):有/無(内容)

  • 約定~決済・引渡時間(V):□□時間

  • プラットフォーム依存(N):□(低)~□(高)

  • 情報非対称(I):□(低)~□(高)→ 合計:□□点 θ=□□ 商人性推定:Yes/No

付録B 商的事務管理テンプレ(通知フォーム例)

  • 誤配送識別子(送り状番号、SKU)

  • 受領日時/場所/写真

  • 仮保管可能期間(最大72h)

  • 回収連絡先/引取希望時間帯

  • 費用レート(保管/人件費)

  • 返送・廃棄条件(危険物除外)

付録C Name‑Graph作成チェック

  • 商号/ブランド名(日本語・英語)

  • ロゴ・意匠の権利状態

  • ドメインリスト(WHOIS情報)

  • SNSハンドル(移転可否・手続)

  • マーケットプレイスID(譲渡条件)

  • ブロックチェーンアドレス(鍵管理・承継手順)

――以上。

 
 
 

コメント


bottom of page