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説2025――「電子占有×コントロール実力×層別公示」モデル

  • 山崎行政書士事務所
  • 9月30日
  • 読了時間: 6分
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デジタル資産/NFT/暗号資産の私法上の位置づけに対する、セキュリティ実装と整合する現実解

要旨(3行)民法85条(有体物)を改変せず、所有権の客体を拡張しない。ただし、技術的「コントロール」(秘密鍵・MPC・マルチシグ・プロトコル権限)に裏づけられた**電子占有(e‑possession)**を認め、限定的対世効(追及・差止)を付与する。さらに、**層別公示(Layered Notice)コントロール強度指数(CSI)**で保護の厚みと取得者保護を調整する。

1. 問題設定:85条の壁と「コントロール」をどう法化するか

  • 民法85条は「物=有体物」。データやオンチェーン記録を所有権の客体に直ちに引き上げる理論は採りにくい。

  • 暗号資産は秘密鍵の管理者に処分権限の排他性が設計上収斂する一方、トークン化“証券”等は人に対する権利の記録という構造が本質。

  • NFTは唯一性・追跡可能性を持つが、所有権そのものを直ちに観念するのは困難というのが通説的理解。

帰結:所有権の拡張ではなく、技術実装に即した準物権的保護を合目的に構成する。

2. 中核命題(独自提案)

命題1:所有権の拡張はしない。ただし電子占有限定的対世効を付与

  • 電子占有(e‑possession)=「適法に構成された鍵(単独/MPC/マルチシグ等)により、当該アドレスから有効署名を発し、移転・凍結・回復等の実力支配を行える状態」。

  • 法的効果

    1. 追及(Tracing)――オンチェーンの可視性を根拠に不当利得返還を求める射程を限定的に認める。

    2. 差止(Injunction)――周辺支配主体(カストディアン、マーケット、ブリッジ、オラクル等)に対する凍結・回復関数の作動請求。

  • 否定:所有権の拡張・新設はしない(85条の枠内維持)。

命題2:**コントロール強度指数(CSI)**で保護を段階化

  • CSI(0〜3)=セキュリティ設計の総合点。

    • 0:単独ホット鍵・管理者鍵残存・自由アップグレード

    • 1:HSM/MFA/タイムロック

    • 2:MPC/マルチシグ(t/n)+ハードウェア鍵+オンチェーン遅延

    • 3:権限焼却不可変スマコン地理分散監査ログ/アラートSLA

  • ルール:CSIが高いほど電子占有の推定が強化され、取得者保護(善意無重過失)とのバランスを取りやすくする。

命題3:**層別公示(Layered Notice)**で善意無重過失を実装

  • 第1層:チェーン記録(移転履歴・確定性)

  • 第2層:アドレスラベル・凍結イベント(取引所・ブリッジ公表)

  • 第3層:セキュリティ通報(脆弱性・CVE・ガバナンス投票結果)→ 取得者が最低限の層別チェックを履践すれば善意無重過失の推定。未履践なら重過失推定の余地。

3. セキュリティエンジニア視点:コントロールの分解と過失評価

(A) 暗号学的コントロール:鍵管理(MPC/マルチシグ)、HSM、タイムロック――電子占有の中核(B) プロトコル権限:アップグレード権・回収/凍結関数・DAO投票――準占有の厚み(C) 社会的コントロール:取引所・ブリッジ・オラクル・インデクサ――差止の到達点

過失の物差し(例)

  • 鍵:NIST系指針に沿うCKMS、MPC/マルチシグ導入、鍵・権限の地理分散。

  • コントラクト:権限焼却、不可変化、アップグレード時のタイムロック、監査ログ。

  • 運用:アラートSLA、インシデントRunbook、凍結・降格プロシージャ。

4. 類型別の位置づけ(結論マップ)

類型

典型例

山崎説の位置づけ

保護の核

備考

ネイティブ資産

BTC/ETH

電子占有(強)

追及+差止

秘密鍵の排他制を重視。

スマコン資産

ERC‑20/721

電子占有+準占有

追及+差止

管理者鍵・回収関数の有無で強弱。

裏付/代表型

ステーブル/RWA

債権中心

債権・信託・約款

「人に対する権利」の記録が本質。

ブリッジ/ラップ

WBTC 他

債権・準占有

契約・不法行為

ブリッジ破綻リスクを強調。

NFT(固有トークン)

アート/会員権

電子占有(弱)+準占有

追及(限定)+契約

所有権観念は慎重、利用許諾で補強。

5. 救済デザイン(運用できる設計)

  1. 追及:オンチェーン追跡による不当利得返還。善意保護は層別公示の履践を前提に限定。

  2. 差止周辺支配主体(取引所・ブリッジ・オラクル・マーケット)への凍結・回復関数作動請求。

  3. 保全:CSIが低い場合は緊急凍結の優先。

  4. 損害算定最終性(kブロック)確定時点価格×回復不能分。

  5. 責任配分:鍵管理不備・権限設計の過誤・ガバナンス不備に応じて、設計者/運用者/ブリッジ運営の過失比を按分。

6. 取得者保護(善意無重過失)の具体基準

購入前チェック(最低限)

  • アドレス・トランザクションに盗難フラグ/ミキサ痕跡がないか。

  • コントラクトの権限状況(アップグレード可否・回収関数)。

  • 裏付/代表型ならソルベンシー開示・監査報告の確認。→ 履践で善意推定、未履践で重過失推定の余地。

7. ルール化ツール(条項と社内基準)

契約に埋め込む条項(例)

  • 電子占有推定:「当該アドレスからの有効署名は電子占有の推定を生じる」。

  • CSI誓約:「発行体/カストディアンはCSI≧2を維持・変更時は通知」。

  • 差止協力:「適法な命令・ADR判断に基づく凍結・回復関数の作動に協力」。

  • ブリッジ開示:「裏付資産量・監査・停止条件・アラートSLAの開示」。

社内セキュリティ基準(抜粋)

  • MPC/マルチシグ+HSM+地理分散、権限焼却・タイムロック、監査ログ、24/7アラート。

  • インシデントRunbook(凍結→切り分け→回復→再開)。

8. 反論への応答

  • 物権化を主張:85条の硬直とデータ一般への波及を回避。山崎説は所有権は拡張せず電子占有に限定的対世効

  • 債権・準占有で十分:契約関係の外縁(鍵窃取・高速転売)で迅速な追及・差止が不可欠。濫用は層別公示+CSIで抑制。

  • 技術的巻戻し困難周辺主体への差止を一次救済とし、回収関数のある場合のみ限定ロールバック

9. 90日導入ロードマップ

  • 0–30日:CSI診断、MPC/マルチシグ導入、権限棚卸・タイムロック設定、盗難フラグ接続。

  • 31–60日:利用規約に電子占有推定・差止協力・CSI条項を追記、ブリッジ契約に凍結SLA。

  • 61–90日:ADR整備(オンチェーン証拠)、Runbook訓練、監査ログの可監査性検証。

10. 位置づけ(既存見解との関係)

  • 見解A(物権的把握志向)の「排他・追跡可能性」は電子占有として取り込み、限定的対世効に翻訳。

  • 見解B(債権・準占有志向)の慎重さは維持しつつ、周辺差止と公示基準で即効性を補う。

  • ネイティブ資産とトークン化資産の本質差(鍵の排他制 vs 人に対する権利の記録)を前提に二段構えで整理。

参考URL(順不同・本文中にリンクを置きません)

 
 
 

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