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静岡駅前・エレガンスストア物語:新作イベント/偏屈・咲山さん接待大作戦

  • 山崎行政書士事務所
  • 9月20日
  • 読了時間: 5分
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――年に一度の新作イベント。VIPタイムの最初の枠に現れたのは、筋金入りの“こだわり派”として名を馳せる 咲山(さきやま) さん。担当は――なぜかいつも通り三浦さんである。店長いわく「天使の耐性」が決め手らしい。――

第一幕 開幕3分で心が折れかける受付

受付カウンター(静かな弦楽器のBGM。春色のディスプレイ。名札には「咲山 様」)

咲山「ふむ。照明がまぶしい。バッグの色を正確に見たいので色温度いくつ?」

三浦「光は……あったかいです!(満面)」

(清水が後方からスッ……とタブレットを差し出す)

清水「3500Kです。必要ならスポットを4000Kに切替可能。」

咲山「それは最初に言ってほしい。」

三浦「最初に言いたかったんですが、言葉が“あったかい”に先着されまして……(にへら)」

(宮本店長、小声で)店長「“先着”は人に対して使おうね。」

第二幕 天然プレゼン、秒で綻び、なぜか刺さる

新作テーブル前クロコでもパイソンでもない、今年の顔・“春色カーフの折マチ”を前に。

三浦「こちら、持つだけで花見に連れてってもらえた気持ちになります!」

咲山「私は花粉症だ。」

三浦「じゃあ、窓越しに花見みたいな……(弱々しい笑顔)」

咲山「(無言でルーペを取り出す)ステッチのピッチは? 左右で誤差があると気になる。」

(清水、またもスッ)清水「2.8mm ピッチ、許容差±0.1。今回のロットは安定しています。」

三浦「触り心地は“春の犬”です。」

咲山「春の犬……?」

三浦「冬を越してやわらかい毛並みになった犬です。撫でると“ふわっ”って(手のひらスリスリ)」

(なぜか咲山、口元がゆるむ)

咲山「……例えは雑だが、悪くない。」

(杉山、背後で拳を握る)杉山(小声)「今の“春の犬”は、確かに良かった。」

第三幕 偏屈十箇条、発動

咲山「私は偏屈十箇条がある。一、ショルダー穴は偶数個。二、バッグは単体自立すること。三、立てた時の重心が中央±5mm。四、ファスナー終端が袖に触れぬこと。五、金具の反射率は——」

三浦「反射率は“きらきら程度”で、太陽にかざすと幸せが増えます!」

咲山「幸せは定量化できない。」

(清水がまたも神補足)清水「鏡面ではなくサテン仕上げ。反射は控えめです。」

咲山「うむ。では穴の偶数は?」

三浦(即答)「四つです!」清水(耳打ち)「五つです……」三浦「五つです!」咲山「偶数ではない。」三浦「“ゼロ”も数に入れれば偶数っぽい……(小声)」(清水、即座に穴の追加可能オプションを提示)

清水「工房で1箇所追加可能。納期は2週間、費用は——」

咲山「対応力は認める。」

第四幕 飲み物事件と“無音の説得”

ラウンジ(ケータリングのミニスイーツとドリンク)

三浦「おすすめは“桜ほうじ茶ラテ”です! 春の犬みたいな甘さで——」咲山「私は無糖しか飲まない。」

(清水、走る→無糖の玉露を瞬時に確保)清水「抽出温度70度、40秒。渋味は控えめです。」

咲山「仕事が早いのは良い。」

(沈黙。弦楽器BGMが小さくフェード)

三浦「……(静かに微笑む)」咲山「話さないのか?」三浦「“無糖”って、静けさが好きなのかなって思って、静かにしてました。」(咲山、わずかに目を丸くする)

咲山「ふむ。」

第五幕 試すのは“商品”か“担当”か

VIPルーム(清水が照明を4000Kにセット、騒音計アプリで環境40dB、完璧)

咲山「私は反論されるのが嫌なのではない。言い切られるのが嫌なのだ。『絶対似合う』『間違いない』。世の中に絶対は少ない。」

三浦「じゃあ、私は“たぶん”って言います。たぶんこのバッグは、咲山さんの“春の犬”です。」

(沈黙のあと、咲山がフッと笑う)

咲山「言葉は不思議だな。たぶん、悪くない。」

(ここぞとばかりに杉山が燃えるのを、店長が手で制す)

店長(目で合図)「今回は“無音の説得”で行こう。」

第六幕 ラストテスト:重心±5mmの攻防

テーブル(咲山、水平器を鞄から取り出す。どれだけ持ち歩くのか)

咲山「中央からのズレ、±5mm以内と言った。計測する。」

(三浦、なぜか自分の息を止める。清水は固唾、杉山は祈るポーズ)

咲山「……3mm。合格。」

(全員、心の中でガッツポーズ。三浦は声に出した)

三浦「ヨッシャ——ッ!」

咲山「声量は**±5dB**で頼む。」

三浦「はい(小声)……たぶん。」

クライマックス 偏屈の正体

咲山「最後にひとつだけ。最初に君が“春の犬”と言った瞬間、私は買う気になっていた。」

三浦「え?」

咲山「私は毎晩、保護犬を散歩させている。春に毛並みが変わる感じが、あの一言で脳裏に蘇った。理屈ではない。だが、私にとっては十分な根拠だ。」

(静寂。三浦の目が潤む)

三浦「……じゃあ、たぶんこのバッグは、咲山さんの春の相棒です。」

咲山「領収書は咲山企画で。色違いも取っておこう。」

(清水、秒で在庫確保。杉山、小さく握り拳。店長、微笑む)

エピローグ 反省会(という名の祝勝会)

スタッフルーム

杉山「“春の犬”一本で押し切るなんて……。情熱の私、完敗。」

清水「いや、あれは偶然の必然。こちらの数値の裏打ちも効いてた。良いコンビネーションだったわ。」

店長「偏屈ってね、こだわりの言語が違うだけなんだよ。三浦さんは“たぶん”という翻訳機を使った。見事だった。」

三浦「翻訳機、たぶん電池切れ気味です……(ぐったり)」

(ドッと笑い)

清水「次回は“夏の猫”でいこうか。」

杉山「それ、可愛い。私が120%に仕上げる!」

店長「猫は気まぐれだから“±5mm”では収まらないよ?」

三浦たぶん、なんとかなります……!」

――こうして、新作イベントの“偏屈・咲山さん”接待は、静けさと比喩と±5mmで華麗に決着。エレガンスストアの春は、今日も少し笑い多めに、更けていく。

(終)

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