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第十九作「草薙に揺れる血刀(ちがたな)――駅を呑む地獄の怨嗟」

  • 山崎行政書士事務所
  • 1月26日
  • 読了時間: 8分

更新日:1月27日




序章 御門台の余波

 前作において御門台駅周辺は大崩壊と凄惨な流血事件に見舞われ、事実上廃駅に追い込まれた。首塚稲荷(くびづかいなり)、血流川(ちながれがわ)、杉道地区など、一帯が呪われた土地として恐れられ、住民の多くが避難する事態となる。 静清鉄道としても、復旧は絶望的と思われたが、路線全体を止めるわけにもいかない。そこで路線の分断を回避するため、御門台駅区間をバイパスする工事を突貫で行い、代替輸送を模索していた。 そうした混乱の中、**草薙駅(くさなぎえき)**が新たな焦点として浮上する。乗降客数が多く、JR東海の東海道本線と最も近い接続駅でもあるこの駅が、路線維持の要となっているからだ。 しかし、誰もが予想しない“新たな血”が、またしても草薙の地へ流れ込むことになる――。

第一章 草薙駅への通告

 ある日の朝、草薙駅の改札脇に一通の封書が置かれているのが見つかった。宛先や切手はなく、ただ「草薙駅」とだけ大きく書かれている。中を開くと、不気味な一文が躍っていた。 「御門台の破滅は終わりではない。次は草薙に血刀(ちがたな)を振るう――」 加えて古い写真が同封されており、そこには崩壊した御門台駅のホーム跡と、血にまみれた人形の首が写っている。背後にはうっすらと小柄な人影が見え、顔はぼやけているものの赤い衣装を着ているようだ。 封書は犯行予告か呪いの宣告か……いずれにせよ、「第二の御門台」として草薙駅が狙われる危険性が示唆される。

第二章 草薙駅の構造と人々

 草薙駅は相対式ホーム2面2線を有し、静岡清水線の中でも利用者が多く、2019年の1日平均乗降人員は7,673人と、全15駅中2番目という賑わいを誇る。 さらにJR東海道本線の草薙駅へも徒歩3分程度と近く、急行や通勤急行が運行されていた時代には停車駅にもなっていた。それだけに、もしここで大規模事件が起きれば、被害は比ではない。 静岡銀行本部、静岡県立大学、常葉大学静岡草薙キャンパス……多くの学生やビジネスマンが利用するこの駅が狙われれば、前作の御門台駅の惨劇をはるかに上回るカタストロフが予想される。

第三章 呪いの転移?

 事件を担当するのは、やはり**上原勝(うえはら まさる)**刑事。 御門台で味わった地獄絵図からまだ回復しきらない彼は、草薙駅に届けられた“通告”を見て暗澹たる思いに沈む。「この血の連鎖はまだ終わっていないのか……」 「草薙(くさなぎ)」といえば、日本神話での草薙剣(くさなぎのつるぎ)にも通じる地名。そこに“血刀”のモチーフが絡み合うと、因縁めいた呪詛が生まれてもおかしくはない――前作の“御門台と景行天皇の行幸”を連想させるように。 「まるで御門台の怨霊が、次の血塗られた舞台をここ草薙に定めたかのようだ」と、上原は一瞬背筋を凍らせる。

第四章 謎の痕跡

 その夜、草薙駅の改札内トイレ付近で、血のように赤い足跡が見つかる。まだ濡れているような生々しさ。だが、周囲に負傷者はいないし、混乱する乗客もいない。駅係員が確認したが、血の出所は不明。 それだけではない。ホームとホームを連絡する踏切付近には、人形の首が一つぽつんと置かれていた。御門台駅で繰り返された“首人形”の再現だ。頭部には小さな刀傷のような切れ込みがあり、そこから赤黒い液体がにじんでいる。 ホームは一時騒然となり、深夜の運行が数分遅れる。上原刑事らが調べに入るも、証拠となる防犯カメラ映像はノイズ交じりで何者かがハッキングした形跡がある。まるで**“首の呪い”**が転移してきたかのようだ。

第五章 草薙剣伝説との符合

 捜査の中、上原は地元の郷土史家から、**「草薙剣(くさなぎのつるぎ)伝説」にまつわる興味深い話を聞く。もともと草薙は神話上の聖剣であり、静岡でも昔から特別な地名として崇敬されてきたが、実際にそれを模した刀を奉納する風習があったという。 ――もし、“血刀”とは「草薙剣」の呪いを模倣するために作られた偽物の剣ではないか。つまり犯人は神話の名を借りて、この駅を“草薙の聖剣が血を求める場所”**にしようとしている可能性がある。 「御門台で崩壊した地獄を、次は草薙の駅で……」 上原は唇を噛む。御門台事件の悪夢を繰り返すかもしれない――それも、利用者数の多い草薙駅でやられたら、被害規模は莫大だ。

第六章 首なき通学路

 草薙駅周辺には学生が多い。静岡県立大学や常葉大学静岡草薙キャンパス、さらには静岡サレジオなど多くの若者が行き交う。 そうした学生たちから相次ぐ証言が上がる。「夜遅く大学から帰宅したら、線路脇で赤い服の子供を見た」「人形の首を抱えて泣いていた」など、まるで亡霊のような存在がうろついているらしい。 さらに、線路沿いの道には、血に染まったような短い刀片が落ちていたとの報告がある。警察が回収して調べた結果、材質は鉄だが素人が自作したような拵えで、刃こぼれや血痕の跡が見られる。 「こんな粗末な刃物を振り回されたら、大勢の学生が危険にさらされる……!」 上原は警戒を強めるも、肝心の犯人像が掴めない。御門台駅で目撃された子供と同一人物(あるいは同一亡霊)なのか、それとも全く別の組織や模倣犯なのか――判然としないまま時間だけが過ぎる。

第七章 JR草薙駅との連動

 異様な事態は、ついにJR東海の草薙駅にも波及する。夜間に駅構内の掲示板がハッキングされ、「血刀が草薙を断つ」「首を差し出せ」といったメッセージが表示される。 JRと静鉄それぞれのシステムは別だが、何者かが両方に侵入し、同時多発的な恐怖を演出しているのか――。 改札周辺には血塗れの人形がぶら下げられ、「首級納めよ」などという札が貼り付けられるなど、まさに御門台事件と似たカルト染みた手口にJR職員たちも騒然。警察は対策本部を設置し、草薙エリア全体を厳戒態勢とするが、犯人や黒幕は掴めない。

第八章 大規模襲撃

 そして、ついに最悪の夜が訪れる。JR東海の草薙駅と、静鉄の草薙駅がほぼ同時に襲撃されるのだ。 夕方のラッシュ時、静鉄草薙駅ホームに大量の人形の首が投げ込まれ、乗客がパニックを起こす。間髪入れず、どこからともなく赤い衣装の者たち(子供か大人か判別不能)が走り込み、刃物や棍棒を振り回して乗客を次々と斬りつけ、血が飛び散る。 同時刻、JR草薙駅の方でも改札口に似たような集団が乱入し、無差別に人形の首をばら撒き、刃物で脅す。多数の学生やサラリーマンが巻き込まれ、絶叫と混乱が渦巻く。 その姿はまるで“亡霊軍団”。顔は仮面や赤い布で隠され、一人ひとりが“首塚”や“草薙剣”を象徴するような言葉を叫ぶ。「ミカドの刃がここを断つ!」「血を求めよ!」――街は阿鼻叫喚の巷と化す。

第九章 草薙の最期

 警官隊が出動し、JR東海や静鉄の職員も必死に防衛するが、複数の死傷者が出る。さらには、この混乱に乗じて駅構内で火災が発生。とくに静鉄草薙駅の改札付近とホーム間の踏切は大きく損傷し、上りホームが炎と煙に包まれる。 JR草薙駅側も列車が緊急停止するなど大パニック。多くの学生が線路へ逃げ出し、逃げ場を失う。襲撃者たちの狙いは何なのか――これ自体が“血刀”の最終儀式なのかもしれない。 やがて消防隊が駆けつけ、犯人集団の一部を取り押さえるが、首謀者とおぼしき“赤い子供”や複数の仮面人物は姿を消す。駅は大破壊され、黒煙が夜空を覆う。 草薙駅は、かつての御門台駅以上の血と惨劇を生んだ末に、崩壊へ向かった。

 夜が明けたとき、ホームは廃墟のように燃え尽き、床は血で赤黒く染まり、改札口は瓦礫が散乱。JRと静鉄の乗客数は壊滅的に減り、地元は再び大きな傷跡を抱えることになる。

終章 地獄の刀、未だ折れず

 こうして、「草薙剣」の名を模した“血刀”が草薙駅を地獄へ陥れた。大規模襲撃の背後にある黒幕も、詳細な正体はわからない。御門台駅で崩壊した“首塚”勢力の残党なのか、あるいはさらに巨大なカルト組織なのか――謎は深まるばかり。 地元新聞は「草薙駅の惨状――ふたたび鉄道を血に染めた狂信者たち」と大々的に報道。世間はショックと恐怖で息を呑む。静清鉄道は御門台駅に続き草薙駅までも致命的破壊を受け、完全復旧が危ぶまれる。 主人公である上原刑事は、崩れ落ちたホームの横で力なく膝をつき、焼け焦げた赤い人形の首を拾い上げる。「なぜ、ここまでの惨劇が繰り返される……?」 答えは見えない。遠くでサイレンが鳴り響き、昇る朝日に駅の廃墟の影がくっきり映し出される。まるで草薙剣が人々を断ち切っていくかのように。 ――こうして草薙駅は、壮絶な血と炎に包まれ、さらなる恐怖と悲しみのどん底を示す場所となった。 もう誰も、安全な未来を想像できない。地獄の刀は、まだ折れていないのだ。

 (第十九作・了)

あとがき

「草薙に揺れる血刀(ちがたな)――駅を呑む地獄の怨嗟」は、御門台駅の崩壊を経て、今度は草薙駅が凄惨な襲撃を受けることで、シリーズがさらに巨大な惨劇へ発展していく様子を描きました。JR東海草薙駅と静鉄草薙駅が隣接し、多くの利用客が行き交う要衝であるがゆえに被害も甚大。地元学生や通勤客が血刀の集団に襲われ、火災やパニックが起きる――まさに西村京太郎風「鉄道サスペンス」の枠を超えたカルト的ホラーへと昇華しています。草薙剣の神話に絡め、「草薙」は“剣”を象徴する地名だという点を取り入れ、“血刀”を振るう亡霊や集団が駅を破滅させる演出となっています。前作との共通モチーフである“首”“赤い服の子供”“人形”などが新たな攻撃手段として展開され、より恐怖を深めるストーリーになりました。もし次回作があるなら、草薙駅同様に利用者数の多いその他の拠点駅(例えば県総合運動場駅や新静岡駅)までも連鎖的な惨劇が及ぶのか……。あるいは、この血の怨念をついに誰かが止めるのか――いずれにせよ、シリーズは尚も暗い道を進み続ける可能性を残しています。

 
 
 

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