【クラウド法務】Azure Site Recovery × SLAでトラブルになりやすい3つのポイント― 「Site Recovery SLA」を導入する前に絶対に整理しておきたい責任範囲とBCP要件 ―
- 山崎行政書士事務所
- 2025年12月12日
- 読了時間: 8分
導入:Site Recovery は入れた。でも「SLAとして大丈夫か」は誰も答えられない
Azure 環境の BCP/DR 対策については、ドキュメントや技術ブログが充実しており、Azure Site Recovery(ASR)の構成方法やレプリケーション設定、フェイルオーバー手順など、“技術的な情報” は探せば一通り見つかります。
しかし、全国の情シス・IT部門の方から相談を受けていると、次のような声を非常によく耳にします。
「Site Recovery 自体は構築できたが、RTO/RPO や SLA としてどう説明すべきか整理できていない」「ベンダー任せで ASR を入れた結果、障害時にどこまで保証できるのかが社内で共有されていない」「営業資料では ‘高可用性・DR対応’ と書いているが、Azure Site Recovery の構成と自社の SLA が本当に噛み合っているか不安」
本記事では、「Site Recovery SLA × クラウド法務」 という視点から、全国の製造業・IT企業の案件で実際に見えてきたよくある落とし穴と、実務で使える整理方法をご紹介します。
1. Site Recovery 導入時に、現場で実際に組まれている構成イメージ
まずは「技術構成の事実」をざっくりと言語化しておきます。多くの企業での Azure Site Recovery を用いた DR 構成 は、次のような全体像になっています。
保護対象(プライマリ側)
オンプレミスの Hyper‑V / VMware / 物理サーバ
もしくは Azure 上の本番 VM(例:Japan East)
レプリカ先(セカンダリ側)
Azure の別リージョン(Japan West / Southeast Asia 等)
オンプレ → Azure、Azure → Azure のパターン
ASR 設定
Recovery Services コンテナー
レプリケーションポリシー(目標 RPO・コピー頻度・アプリ整合性の有無)
計画/非計画フェイルオーバーの手順
テストフェイルオーバー用ネットワーク・テスト計画
運用まわり
レプリケーション状態を Azure Monitor / Log Analytics で監視
一部は運用ベンダーがアラート一次対応を担当
ここまでは“技術構成図” として整理されていることが多い一方で、
この構成で達成できる現実的な RTO/RPO はいくつなのか
それを前提にした Site Recovery SLA(社内/取引先向け)をどう定義するか
障害時に「誰が・どこまで・どの時間内に」対応するのか
といった “SLA・責任” の図が存在しないケースがほとんどです。
ここまでは技術構成。ここからが「クラウド法務」の話になります。
2. 全国の案件で見えてきた「Site Recovery SLA上の落とし穴」3選
代表的なものを3つだけ挙げると、次のようなパターンです。
① 「ASRがある=このRTOで保証できる」と思い込んでいる
技術的にはOK
ASR で本番 VM を別リージョンにレプリケーション
テストフェイルオーバーも導入時に一度だけ実施済み
SLA・法務的にはNGになりうる点
実際の復旧時間は
障害検知
判断・社内調整
ベンダー作業着手
フェイルオーバー実行
アプリ/業務確認まで含めると 設計値より大幅に長くなる ことが多い
にもかかわらず、営業資料や取引先SLAでは「4時間以内に復旧」などと謳ってしまい、ASR 単体の性能と “サービスとしての復旧時間” を混同 している
② Microsoft の SLA と自社の Site Recovery SLA を同一視している
技術的にはOK
Azure の SLA ドキュメントを参照し、「ゾーン冗長/リージョン冗長ならこれくらいの可用性」と理解している
契約的にはNGになりうる点
Microsoft の SLA は「Azure プラットフォームとしてのサービス可用性」 を対象にしたもの
自社アプリ・ネットワーク・運用ミス・設定誤りなど、自社側の要因は一切カバーしない
それにもかかわらず、「Azure が 99.9% だから、うちも 99.9% と約束できる」と考えてしまうと、現実以上の責任 を負う Site Recovery SLA を組んでしまうリスクがある
③ ベンダー責任分界と Site Recovery SLA の関係が曖昧
技術的にはOK
ベンダーが DR 設計・構築・運用を担当しており、技術的な資料は揃っている
法務・運用的にはNGになりうる点
運用委託契約において、
DR 切替判断を誰が行うのか
フェイルオーバー作業を誰が実行するのか
復旧時間に対してベンダーがどこまで責任を持つのかが 明文化されていない
結果として、障害時に「Site Recovery 自体は動いていたのに、そもそも誰がスイッチを押すのか決まっておらず復旧が遅れた」という状況になり、SLA 違反とも免責とも言い難いグレーなトラブル が起こりうる
3. Site Recovery × クラウド法務で、まず押さえるべき3つの整理軸
技術構成をいじる前に、最低限、次の3つを紙に落としておくとその後のベンダー調整・社内説明が格段に楽になります。
① 「クラウドSLA/ベンダーSLA/自社Site Recovery SLA」を切り分ける
1枚の表の中で、次の3層を分けて整理します。
クラウド事業者(Microsoft)のSLA
対象:Azure プラットフォーム(コンピュート/ストレージ等)の可用性
内容:月間稼働率・サービスクレジットの条件 など
ベンダー(運用・構築)の SLA/責任範囲
監視・一次対応・DR 設計・テストフェイルオーバーの頻度 など
自社として対外的に約束する Site Recovery SLA
RTO/RPO
復旧不能時の対応(代替手段・サービスクレジット・賠償上限)
障害情報の開示・報告期限
この3つを “ごちゃ混ぜにしない” ことが、SLAトラブルを避ける第一歩です。
② RTO/RPO・ASR 設定値・業務影響をひとつの軸にまとめる
技術側の前提
レプリケーション頻度(RPO)
フェイルオーバーに要する作業時間
テストで実測した復旧時間(RTO)
業務・契約側の前提
そのシステムが止まると、どの業務・どの取引先にどれだけ影響するか
取引先との契約・社内 BCP で要求されている復旧時間
これらを合わせて、「この ASR 構成なら、このレベルまでなら Site Recovery SLA として約束できる」というラインを決めていきます。
③ フェーズ別の責任分界(設計/平常時/障害時/訓練)
Site Recovery SLA を設計するうえでは、フェーズごとに「誰が・どこまで・いつまでに」を切り分けることが重要です。
設計フェーズ
どのシステムを ASR 対象にするか
RTO/RPO のターゲット値を誰が決めるか
平常運用フェーズ
レプリケーションエラーへの対応
テストフェイルオーバーの頻度と実施者
障害・災害フェーズ
DR 切替の判断を誰が行うか(経営/情シス/ベンダー)
フェイルオーバー作業を誰が実行するか
復旧後の動作確認・業務確認を誰が担当するか
訓練・改善フェーズ
年何回・どの範囲で訓練を行うか
結果を Site Recovery SLA/BCP にどう反映させるか
このフェーズ別責任分界を、契約書・運用設計書・BCP計画に落とし込む ことで、「ASR はあるのに役割が決まっていない」状態を避けられます。
4. ケーススタディ:製造業A社(売上1,000億円、拠点10カ国)の場合
実際に当事務所でご相談を受けた事例の一つをご紹介します(業種等は匿名化しています)。
業種:製造業(BtoB)
売上規模:約1,000億円
拠点:日本本社+欧州・アジア計10カ国
テーマ:Azure Site Recovery 導入済み環境における Site Recovery SLA の再設計
課題の整理
数年前に ベンダー主導で ASR を導入し、技術構成自体は稼働している
BCP計画書には「基幹システムは4時間以内に復旧」と記載があるが、
実際の ASR 設定
ベンダーの運用体制(夜間・休日)を踏まえると 達成可能か誰も説明できない
取引先向け SLA でも「4時間以内」を前提としており、障害発生時の責任・賠償リスクに経営層が不安を抱いていた
当事務所の支援内容(抜粋)
ASR 構成と実測復旧時間の棚卸し
テストフェイルオーバーを実施し、実際の復旧時間・手順・ボトルネックを整理
クラウドSLA/ベンダーSLA/自社SLAの三層整理
Microsoft の SLA
ベンダーの運用委託契約
自社が取引先に提示している SLAを 1 枚のマトリクスにまとめて可視化
現実的な Site Recovery SLA 案の策定
実測値と業務影響を踏まえ、サービスランク別(標準/プレミア)に分けて RTO を再設計
それに応じた賠償・免責条項案も作成
契約・BCP文書・社内説明資料のアップデート
取引先向け約款・個別契約の改定案(Site Recovery SLA 部分)
監査・親会社向けの説明スライド
営業・情シス向けの QA 集 を作成
結果として
Site Recovery SLA に関する “技術と契約のギャップ” が解消され、「この構成ならこのレベルまでは責任をもてる」というライン を経営層と共有できるようになった
取引先への説明も整理され、「ASR があるから大丈夫」ではなく、前提条件と限界を含めた透明性の高いSLA説明 に切り替えられた……といった声をいただいています。
5. Site Recovery 導入済み企業が、今すぐ確認しておきたいチェックポイント
自社で検討を進める際のチェックリストとして、次の項目を挙げておきます。
□ Azure Site Recovery の構成(対象システム・リージョン・レプリケーション設定)が 1枚の図で説明できる
□ 各システムの RTO/RPO・ASR設定値・実測復旧時間 が整理されている
□ Microsoft の SLA/ベンダーの運用SLA と、 自社が外部に約束している Site Recovery SLA を明確に分けて説明できる
□ 障害・災害時の フェイルオーバー判断者・実行者・業務確認者 が文書化されている
□ BCP計画書・取引先との契約・営業資料のあいだで、 「約束している復旧レベル」と「実際にできる復旧レベル」が一致している
「すべて自信を持って YES と言える企業」は、全国的に見てもまだ多くありません。
6. 全国からのご相談について
山崎行政書士事務所では、Microsoft Azure / Site Recovery / Backup 等の技術構成と、SLA・契約・BCP/DR・監査対応をセットで整理する「クラウド法務支援」 を行っています。
Site Recovery を導入しているが、SLA・責任分界・賠償条件があいまいで不安が残っている
BCP計画書や取引先SLAと、ASR の実際の構成・ベンダー契約の内容が噛み合っているか確認したい
監査・親会社・大口取引先からの質問に、技術と契約をセットにしたストーリーで答えられるようにしたい
といったお悩みがあれば、オンライン(全国対応) にて初回のご相談を承っております。
👉 ご相談フォームはこちら
👉 お問い合わせの際に、「Site Recovery SLA の記事を見た」 と書いていただけるとスムーズです。





コメント