カスハラ対策『チャイムの間(はざま)— 学校窓口編』
- 山崎行政書士事務所
- 9月19日
- 読了時間: 6分
登場人物
瀬川(学務主担当):落ち着いた一次対応の要。
高井(教務・副担当):規程・台詞カードに強い。
長谷川(保護者):要求が段階的にエスカレート。
進路主任:最終判断と外部連携(校長・教育委員会・警備)の権限を持つ。
警備員:校内安全の要。
ナレーション:実務ポイントの解説。
シーン1:放課後、学務窓口
長谷川「成績表の元データを今すぐ全部見せろ。答案用紙もだ。部活の顧問の評価理由も書き出せ」瀬川「ご来校ありがとうございます。成績・評価は規程の手順で開示します。ご案内は三択です。①所定の開示請求を提出、②個別面談の予約、③後日書面回答でご提供」長谷川「金は払ってる。今ここで出せ」
🔎 実務ポイント
まず規程内“三択”提示(開示請求/面談予約/後日書面)。
「費用負担=即時・無制限開示」ではないことを平易な言葉で。
応対ログ開始(時刻・要旨・選択肢提示・相手の反応)。
シーン2:他の生徒情報の要求
長谷川「うちの子より点が高い生徒の名前を教えろ。順位表を出せ」瀬川「第三者の個人情報は開示できません。本人分のみ、規程の手順で開示します」長谷川「じゃあ担任の携帯番号を出せ。今から直接かける」
(高井が隣席=二人体制へ)
高井「以降は二人体制で承ります。私的連絡先の提供は行いません。本日の担当IDと代表窓口をご案内します」
🔎 実務ポイント
個人情報保護:他生徒の点数・氏名・順位・家庭状況は非開示。
担当ID運用(名字+ID)で直通番号の要求を遮断。
二人体制で心理的圧迫の分散+記録の正確性を確保。
シーン3:威迫・晒し示唆
長谷川「SNSに書くからな。学校名も晒す。土下座して詫びろ」瀬川「威迫にあたる表現はお控えください。改善がない場合、本日の窓口応対を終了し、書面回答に切り替えます」高井(タイマーを置き、要点メモを読み上げる)「説明は10分で区切ります。現在の選択肢は三択のままです」
🔎 実務ポイント
注意喚起は1回→改善なければ打切り条件を宣言。
時間上限の見える化(10分+選択5分)で長時間拘束を防止。
要点メモ音読で論点を固定し、話題逸脱を抑える。
シーン4:校内撮影と名指し攻撃
長谷川(スマホを向けて)「顔と名札を撮る。フルネームで名乗れ。自宅住所も書け」高井「撮影は校内規程で制限されています。担当は名字+IDでご案内します。個人情報の開示はできません。ご意見は代表窓口へお願いします」長谷川「議員の知り合いに話すぞ」
瀬川「関係の有無にかかわらず、手順は同一です。開示請求/面談予約/後日書面のいずれかをお選びください」
🔎 実務ポイント
校内撮影ルール(許可範囲・掲示の有無)を事前に明文化・掲示。
コネ示唆にも“同一手順”を繰り返し提示。
誤情報訂正窓口(広報・校長室)を別途整備。
シーン5:部活動の“即時処分”要求
長谷川「顧問を今すぐ交代させろ。大会メンバーをうちの子に入れろ」瀬川「部活動の人事・メンバー選考は顧問・部会・校長の所掌です。即時の個別変更はできません。事実確認後、部会・校長に上申します」長谷川「今ここで決めろ!」
高井「本日の窓口応対はここまでです。以降は書面と代表窓口に一本化します」
🔎 実務ポイント
所掌の明確化(窓口で変更できる/できない)。
“一本化”宣言で“上へ繋げろ”を経路統一。
口頭“謝罪文”は作らず、標準の案内文で足並みを揃える。
シーン6:退去要請と安全確保
(声量が上がり、廊下に生徒の列。警備員が控える)
長谷川「納得いくまでここにいる」進路主任(到着)「校内安全管理規程に基づき、退去を要請します。従わない場合は警察に相談します」(長谷川、舌打ちして退去)
🔎 実務ポイント
退去要請の定型文を一本化し、誰が言うかを決める(主任・校長)。
周囲の生徒の安全確保(距離・導線)を最優先。
事後にインシデント報告(時系列・発言・対応・関係者)を作成。
シーン7:落としどころの形成(翌日)
(長谷川が予約票を持参)
長谷川「面談予約をした。答案閲覧はできるのか」瀬川「本人分の写し・閲覧は規程の手順で可能です。評価基準の説明と併せ、後日書面もお渡しします。内容は合意書に記載します」高井「案件番号で追跡し、誤情報訂正窓口も明記します」
🔎 実務ポイント
合意書に:開示範囲/方法(閲覧・写し)/評価基準説明/期日/窓口。
案件番号で履歴を一元管理、再燃を抑制。
説明文は**“やさしい日本語”版**も用意すると衝突が減る。
エピローグ:放課後の共有
高井「台詞カードとタイマー、やはり効きますね」瀬川「人ではなく仕組みで守る。三択・個人情報秘匿・時間境界・撮影ルール・退去要請・書面化——明日も同じ言い回しで」
ナレーション「チャイムの間(はざま)に揺れる感情。秩序は、偶然ではなく設計で守られる。」
— 完 —
付録A:即使える台詞カード(学校窓口版)
冒頭(三択提示)
「本日のご案内は三択です。①所定の開示請求、②個別面談の予約、③後日書面回答」
他生徒情報の要求
「第三者の個人情報は開示できません。本人分のみ規程でご案内します」
威迫・晒し示唆(注意→条件提示)
「威迫にあたる表現はお控えください。改善がない場合、本日の窓口応対を終了し、書面回答に切り替えます」
担任直通・私的連絡先
「担当は名字+IDでご案内します。私的連絡先は提供できません。代表窓口をご利用ください」
撮影要求
「校内撮影は規程で制限されています。撮影はお控えください」
打切り宣言/一本化
「本日の窓口応対はここまでです。以降は書面と代表窓口に一本化します」
退去要請(定型文)
「校内安全管理規程に基づき、退去を要請します。従わない場合は警察に相談します」
付録B:運用チェックリスト(校内整備)
三択メニュー(開示請求/面談予約/後日書面)の1枚シート。
担当ID名札(名字+ID)/私的連絡先非開示。
応対時間上限(説明10分+選択5分)とタイマー常設。
要点メモ様式(日時・要旨・選択肢・注意喚起・打切り宣言)。
校内撮影ルール(掲示・保護者配布)と誤情報訂正窓口。
退去要請フロー(定型文→警備→警察相談)。
案件番号管理(開示・面談・文書の紐付け)。
職員ケア導線(面談・交代・休憩・記録の共有)。
付録C:規程・法令の目安(実務の使いどころ)
個人情報保護法:他生徒情報の非開示、記録の適正管理。
学校教育法・学習指導要領の運用:成績・評価基準の説明責任。
労働施策総合推進法(ハラスメント防止):職員を守る体制義務。
刑法(強要・威力業務妨害・不退去):威迫・居座り時の相談根拠。
校内安全管理規程/校則:撮影制限・退去要請の根拠。
校内広報要領:誤情報の訂正・外部発信の窓口統一。
付録D:導入ロードマップ(2週間)
Week1:台詞カード配布/三択メニュー掲示/タイマー運用開始
Week2:撮影ルール・退去要請定型文の統一/代表窓口一本化
KPI:長時間拘束数/書面切替率/再燃率/職員心理安全性スコア/面談予約→解決率


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