『Ivory Room — ラグジュアリー・ブティック編 V』
- 山崎行政書士事務所
- 9月21日
- 読了時間: 7分
登場人物
朝比奈(ストアマネージャー):やわらかな口調で線引きを徹底。
真柴(セールスアソシエイト):一次応対。誠実・丁寧。
西園(来店客):要求が段階的にエスカレート。
本社CS/法務(音声):窓口一本化と広報・法務連携。
館(モール)警備:共用部の安全担当。
ナレーション:要点補足。
シーン1:インボイス(適格請求書)“書き換え”要求
西園「会社名を今日の取引に後付けして。登録番号も適当に入れて。日付は先週で」真柴「適格請求書(インボイス)は実際の取引に即した正確な記載が必要です。日付・相手先・登録番号の改変はできません」
🔎 法令・ガイドライン要点
消費税法・インボイス制度:適格請求書発行事業者の登録番号/取引年月日/相手先等の真実記載義務。事実と異なる記載は不可。
会計・税務実務:追記・訂正は適正な訂正手順(訂正伝票・再発行)でのみ可。
シーン2:BNPL/分割払いの“その場承認”圧
西園「分割で今すぐ切っといて。審査は後で」朝比奈「割賦販売法に基づき、事前の与信・書面交付が必要です。審査前の提供はできません」
🔎 法令・ガイドライン要点
割賦販売法:個別信用購入あっせん・包括信用購入あっせんは加盟店の本人確認・与信確認・書面交付義務。
不正防止:名義貸し・なりすましの高リスク→審査未了の提供不可。
シーン3:ライブ配信の許可なき撮影
西園(スマホを掲げ)「今、店内から生配信する。スタッフも映るから協力して」真柴「他のお客様のプライバシー保護のため撮影は制限しています。個人が識別される映像は同意制です」
🔎 法令・ガイドライン要点
個人情報保護法/肖像権(判例上の人格権):識別可能な画像・音声は個人情報に該当し得る。無断公開はリスク。
施設管理権:撮影禁止・制限は掲示+統一台詞で運用。
シーン4:BOPIS(EC購入→店頭受取)での本人不一致
西園「ECで友人名義で注文した。いま自分が受け取る」朝比奈「店頭受取は本人確認が前提です。注文者・受取人の一致または事前委任が必要です。委任なし受渡しはできません」
🔎 法令・ガイドライン要点
個人情報保護・不正受渡防止:本人確認・委任状等の真正性確認が必要。
内部統制:受け渡しログ/身分証種別/照合手順を定型化。
シーン5:着用済み“ワードロービング”の返品
西園「いちどだけ短時間使った。香水は付いたけど未使用だ。全額返金して」真柴「使用・汚損がある場合は返品対象外です。品質不良であれば修理・交換で承ります」
🔎 法令・ガイドライン要点
消費者契約法:任意返品権は法定されていない(店頭購入)。店の返品ポリシーに従う。
衛生・品質管理:使用痕・臭気は再販売不可→返品除外を事前掲示。
シーン6:返金の“別カード・別口座”指定
西園「購入時とは別のカードに即時返金して。現金でも可」朝比奈「カード会社規約により**返金は原則“同一決済手段”**です。別カード・現金への返金はできません」
🔎 法令・ガイドライン要点
カード会社加盟店規約:チャージバック不正・資金洗浄防止の観点から同一手段へ返金が原則。
会計実務:資金トレーサビリティ保持。
シーン7:高額宝飾の品位表示と「誤表示」主張
西園「K18って書いてあるのに色が薄い。虚偽表示だ。値引きしろ」真柴「品位刻印・品質表示は試験結果・規格に基づいています。誤認の恐れがあれば表記の再点検・是正を行いますが、表示を理由とする値引きはできません」
🔎 法令・ガイドライン要点
景品表示法:優良誤認表示の禁止。
家庭用品品質表示法・業界公正競争規約(宝飾)(実務目安):品位の根拠資料を保有・提示。
シーン8:セルフ試着室のバイオメトリクス誤解
西園「鏡が顔を記録してるなら全部消せ。今日中に」朝比奈「当店はバイオメトリクスを取得していません。防犯カメラ映像は安全管理目的・保存期間限定で運用し、開示は所定手続で本社窓口が対応します」
🔎 法令・ガイドライン要点
個人情報保護法:要配慮個人情報/生体情報の取得時は利用目的の明示・安全管理が必要。
CCTV運用:目的限定・保存期間・アクセス権限を規程化・掲示。
シーン9:イベント日(先行販売)での入場制限
西園「今からでも入れろ。整理券なしで限定品3点よこせ」真柴「イベント日は整理券・入場制限・購入上限を事前告知のとおり運用します。順番制でご案内します」
🔎 法令・ガイドライン要点
施設管理権/安全配慮:入場制限・列整理は群集安全のため合理。
独禁法の観点:選別的販売は差別的・恣意的でない明確基準が望ましい。
シーン10:長時間拘束と“上に繋げ”要求
西園「納得いくまで話す。役員を出せ」朝比奈「説明は10分で区切ります。要点は①インボイスは改変不可、②分割は審査前提供不可、③撮影は同意制、④店頭受取は本人確認、⑤使用品返品不可、⑥返金は同一手段、⑦品質表示は根拠資料、⑧CCTVは目的限定です。以降は書面と本社CSに一本化します」(タイマーを置き、要点メモを読み上げる)
🔎 法令・ガイドライン要点
労働施策総合推進法(カスハラ防止):二人体制・時間上限・書面化で従業員保護。
一本化:“上に繋げ”はCS/法務へ固定。
シーン11:退去要請と共用部安全
西園「帰らない。土下座して詫びろ」朝比奈「館の管理規約/店舗管理規程に基づき、退去を要請します。従わない場合は警備・警察に相談します」(館警備が同席。動線確保。西園は退去)
🔎 法令・ガイドライン要点
施設管理権:秩序維持のための退去要請は適法。
刑法(強要・威力業務妨害・不退去):継続時の相談根拠。
事後:インシデントレポート(時系列・発言・対応)を記録。
シーン12:落としどころ(後日・本社CS経由)
西園(メール)「ECの返品はECで進める。店頭受取は本人委任状を用意する。品位表示の資料も見たい」本社CS「ありがとうございます。EC返品フロー、店頭受取の本人確認・委任要件、品質表示の要点資料を合意書に記載します。CCTV開示は本人確認後に所定手続で対応します」
🔎 法令・ガイドライン要点
合意書:条件・期限・窓口の明確化/再燃抑止のため**“できる・できない”を平易に明文化**。
案件番号管理:履歴一元化で再燃対策。
エピローグ:クローズ後のふりかえり
真柴「三択+タイマー+一本化、今回も効きました」朝比奈「人ではなく仕組みで守る。三択提示・時間上限・書面化・一本化・退去要請・法令根拠の即答。明日も同じ台詞で」
— 完 —
付録A:即使える台詞カード(ラグジュアリー店舗・第5作)
冒頭(枠=三択で固定)
「本日のご案内は三つです。①ポリシー内の交換、②返金(条件適合時)、③修理・メンテ受付」
インボイス
「日付・相手先・登録番号の改変は不可です。適正な再発行手順で対応します」
BNPL/分割
「与信・書面交付前の提供は不可です」
撮影・配信
「撮影はプライバシー保護上制限。同意のない公開はご遠慮ください」
店頭受取(BOPIS)
「本人確認/委任状が必要です」
使用品の返品
「使用・汚損がある場合は返品不可(品質不良は修理・交換)」
返金手段
「**返金は原則“同一決済手段”**です」
品質表示
「表示は根拠資料に基づきます。必要に応じて再点検します」
打切り/一本化/退去
「説明は10分で区切り→書面とCSに一本化」
「施設管理規程に基づき退去を要請します」
付録B:現場チェックリスト(法令×運用)
掲示:返品・交換/撮影・配信ポリシー/購入上限・イベント整理券/店頭受取の本人確認/インボイス案内
人:担当ID名札(名字+ID)/私物連絡先の非開示/二人体制切替の合図
決済:分割・BNPLの審査完了必須/同一手段返金運用
CCTV:目的限定・保存期間・アクセス権の掲示/開示申請様式
品質表示:宝飾品位・素材比率の根拠資料セット
BOPIS:受渡しチェックリスト(氏名・注文番号・身分証・委任状)
記録:要点メモ(日時・要旨・注意・終了宣言)/保存期間・アクセス権限
一本化:CS・法務・広報の訂正窓口を即提示できる台詞統一
付録C:参照法令・指針(実務での使いどころ)
消費税法(適格請求書等保存方式/インボイス制度)
割賦販売法(個別・包括信用購入あっせん/書面交付・本人確認)
個人情報保護法(撮影・CCTV・開示請求)
消費者契約法(店頭購入の返品ポリシー位置づけ)
景品表示法(宝飾・品質表示の優良誤認防止)
カード会社加盟店規約(同一手段返金)
施設管理規程(撮影・入退店・退去要請)
(参考)遺失物法/独占禁止法(価格・イベント運用の公平性)


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