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カスハラ対策『静かな待合 ― クリニック編』

  • 山崎行政書士事務所
  • 9月19日
  • 読了時間: 6分


登場人物

  • 朝霧(受付):落ち着いた一次対応の要。

  • 村上看護師:線引きが明確。状況判断が早い。

  • 日野院長:最終判断と外部連携(地域連携室/警備/警察相談)の権限。

  • 葛西(来院者):要求が段階的にエスカレートする。

  • ナレーション:実務・法令の解説。

シーン1:午前の待合、受付前

葛西「診断書を今日中に出せ。会社に提出がある。最優先にしろ」朝霧「ご事情は承知しました。診断書は医師の診察と所定手続きが必要です。本日は①通常の診察後に受付、②緊急性が高ければトリアージで判断、③後日受取の三つからご案内します」葛西「金は払う。だから今すぐだ」

🔎 実務ポイント

  • 最初に**規程内の選択肢“3つ”**を提示(即時不可を先に言わず、枠を見せる)。

  • 「お金を払う=規程外の即時対応」ではない。医師の裁量・手順が先。

  • 記録開始(要点メモ・時刻・発話の要旨)。

シーン2:プライバシーの線引き

葛西(声量を上げて)「あの患者の名前を教えろ。先に通しただろ。知り合いなんだ」朝霧「個人情報はお伝えできません。受付順と緊急度でご案内しています」葛西「院長の携帯番号を出せ。直接話す」

(村上が受付横に寄る=二人対応へ)

村上「以降のやり取りは二人体制で承ります。個人情報と院内直通番号の提供はできません。ご案内は代表番号と本日の担当IDです」

🔎 実務ポイント

  • 個人情報保護(患者氏名・連絡先・診療情報は非開示)。

  • 担当ID運用(名字+ID)。直通や私物連絡先は一切出さない

  • 二人対応で心理的圧迫の分散記録の正確性を上げる。

シーン3:要求の“吊り上げ”

葛西「診断名をこの場で言え。それがあれば会社は動く」朝霧「診断名の口頭即時開示は行っていません。医師の診察・同意・文書でお渡しします」葛西「SNSに書くぞ。ここは対応が遅いってな」

村上「威迫にあたる表現はお控えください。改善がない場合は本日の受付応対を終了し、書面でのご案内に切り替えます」

🔎 実務ポイント

  • 脅し・晒しが出たら一度だけ注意喚起以降は書面化宣言の順。

  • 口頭即時の診断名開示は誤伝達リスク。**書面(医師確認済)**が原則。

  • 応対タイマー(説明10分+選択5分)で長時間拘束を防ぐ準備。

シーン4:薬の“即時変更”要求

葛西「薬を強いものに変えろ。前の病院では出してくれた」村上「処方の変更医師の診察が必要です。薬剤の安全性相互作用を確認します。救急該当の症状があれば優先トリアージに回します」葛西「今すぐ渡せ! それができないなら院長を出せ

(院長が合流。受付前で距離を保ちつつ)

日野「院長の日野です。直ちに強い薬を渡すことはできません。①診察で適正判断、②症状の増悪があれば救急案内、③本日の可及的最短での診断書受付—この三点でご提案します」

🔎 実務ポイント

  • 医行為の裁量は医師に一元化。受付・看護は枠と流れのみ案内。

  • 強い薬の“即時交付”は安全・法令上のリスク診察→処方の順を死守。

  • 救急基準を掲示・説明できるようトリアージ基準票を常備。

シーン5:長時間居座りへの対応

葛西「納得いくまでここから動かない」日野「本日の受付応対は10分で区切ります。説明事項の要点メモをお渡しします。以降は書面と代表窓口で承ります」(タイマーを置き、要点を読み上げる)

葛西「謝罪文を書け。それで考えてやる」村上「謝罪文の個別作成は行っておりません。ご案内文書を後ほどお渡しします」

🔎 実務ポイント

  • 時間境界の見える化(タイマー+要点メモ)。

  • 個別謝罪文は“再燃の核”になりやすい→標準の案内文で足並みを揃える。

  • 以降の連絡は本部(代表窓口)一本化

シーン6:威迫の再燃と退去要請

葛西(低い声で)「通報されたくなかったら、今すぐやれ」日野「威迫に該当します。施設管理権に基づき、退去を要請します。従わない場合は警察へ相談します」(待合の視線が集まる。院長、警備へ通報。葛西は舌打ちして退去)

🔎 実務ポイント

  • 退去要請の台詞は定型文で全員が同一運用。

  • 周囲の患者の安全確保(距離・導線確保)が最優先。

  • 事後にインシデントレポート(時系列・発言・対応・関係者)を作成。

シーン7:静けさの戻った受付

朝霧「手が震えました…」村上「二人対応と台詞カード、よく守れました」日野「人ではなく仕組みで守る。三択・個人情報秘匿・時間境界・書面化・退去要請——今日のログを医療安全委員会に共有します」

ナレーション「記録は、医療の安全文化を支える骨組み。静けさは、偶然ではなく設計の産物だ」

 —

付録A:即使える台詞カード(受付・看護・医師)

冒頭(三択提示)

  • 「診断書は医師の診察と所定手続きが必要です。①本日診察後に受付、②緊急性があればトリアージ、③後日受取の三つからご案内します」

個人情報要求が出たら

  • 個人情報はお伝えできません。対応は代表番号本日の担当IDで行います」

威迫・晒し示唆が出たら(注意喚起)

  • 威迫にあたる表現はお控えください。改善がない場合、本日の受付応対は終了し、書面のご案内に切り替えます」

処方の即時変更要求

  • 処方変更は医師の診察が必要です。症状が強ければ救急基準で優先判断します」

退去要請(定型文)

  • 施設管理権に基づき、退去を要請します。従わない場合は警察に相談します」

付録B:クリニック運用チェックリスト

  • 三択の標準メニュー(診断書・処方・紹介状など)を1枚に。

  • 担当ID運用(名札:名字+ID/直通・私物連絡先は非開示)。

  • 応対時間上限(説明10分+選択5分)とタイマーの常設

  • 要点メモ様式(日時・要旨・選択肢提示・注意喚起・打切り宣言)。

  • 退去要請フロー(定型文→警備→警察相談)。

  • インシデント共有(医療安全委員会でのレビュー、職員ケア)。

付録C:法令・ガイドライン(参照の目安)

  • 個人情報保護法:患者情報・職員情報の秘匿、記録の適正管理。

  • 労働施策総合推進法(ハラスメント防止措置):職員を守る体制整備。

  • 労働安全衛生法:心理的負荷対策(交代・面談・配置配慮)。

  • 刑法(強要・威力業務妨害 等):威迫・長時間居座り時の警察相談の根拠。

  • 医療法・診療録管理:医師の裁量・診断書発行手順・記録の厳格管理。

  • 院内規程(診断書・処方・紹介状・救急基準)患者向け平易版の掲示が有効。

付録D:導入ロードマップ(2週間)

  • Week1:三択メニュー・台詞カード配布/二人対応の練習/タイマー運用開始

  • Week2:退去要請定型文の統一/インシデント共有とメンタルケア導線整備

  • KPI:長時間拘束の件数/書面切替率/再燃率/職員心理安全性スコア

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