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モハーの断崖を舞台にした青春小説

  • 山崎行政書士事務所
  • 1 日前
  • 読了時間: 14分


第一章 旅のはじまり

 幹夫は23歳になったばかりだった。大学を卒業してから東京のデザイン事務所に勤め始めたものの、どこか自分が本当にやりたいこととは違う気がして、思い切って会社を辞めてしまった。幼少の頃から絵を描くのが好きで、絵筆を握っては子どものように喜ぶ自分がいた。けれども今まで、それを「職業」にする覚悟は持てずにいた。

 とある春の朝、幹夫は成田空港のロビーで小さなスケッチブックを膝の上に広げ、窓の向こうに並ぶ飛行機や荷物運搬車を走り描きしていた。旅立ちを前にしても、不安よりも期待が勝っているのか、墨のような暗い色彩は自らの絵にほとんど現れない。キャンバスや大型の道具は持たず、いつでもどこでも描けるようにとサインペンや色鉛筆、パステルを少しだけバッグに詰め込んだだけだった。

 行き先はアイルランド・クレア県のモハーの断崖。友人の勧めでネットの写真を目にしたとき、そこに広がる大西洋と切り立つ石灰岩の岸壁、その上に揺れる緑と海鳥の群れに強い衝撃を受けた。この場所ならば、今の自分が何か大きな変化をつかめるかもしれない。そう直感したのだ。

 シャノン空港に降り立つと、どこか湿度のある風が頬を撫でた。日本ともヨーロッパ大陸とも違う、独特の香りが空気に混じっている。バスでエニスの町へ出て、さらに別のローカルバスに乗り換える。車窓に広がる緑の丘陵と石垣、ところどころに白や黄の小花が咲き乱れ、時折通り過ぎる羊や牛の群れは、まるで絵の具を落としたパレットのように見えた。 幹夫は胸の奥にじんわりと広がる高揚感を覚えながら、バスの揺れに合わせて窓辺に頭を預ける。日本の慌ただしさから遠く離れ、ここでは時間の流れも音の響きもまるで別物のようだった。

 やがて見えてきたのは、青い海とその端にそびえる暗灰色の断崖。その頂には緑の草原が光を受けて輝いていた。バスの終着点、ドゥーリンの小さな村の停留所で降り立つと、ほんのり塩気を帯びた風が吹く。建物は小さく、壁は白やパステル調の色で塗られ、花壇には赤やオレンジの花が植わっている。どこを見ても視線が柔らかい景色に誘われ、そのたびにスケッチブックを取り出したくなる衝動に駆られた。

「ようこそ、ドゥーリンへ。ここは音楽と詩人が集まる、ちっぽけだけど特別な村さ」

 背後から声をかけられて振り向くと、パブの前に座っていた初老の男性が笑いかけていた。そのまま自然と会話が始まり、幹夫は自分が日本から来た画家だと伝える。男性はジムと名乗り、暇を見てはフィドルを弾きに来る地元の音楽好きだと言う。 ジムの存在は幹夫にとっていきなり生まれた心強い縁だった。地図もよくわからず宿も決めていないと言うと、「オコーナーのパブに行ってみるといい。上に安い部屋があるはずだよ」と気さくに教えてくれた。幹夫は礼を言い、まずはそのパブへ向かう。

 小さな路地を抜けると、古い木の扉が出迎えてくれる。看板には「Gus O’Connor’s Pub」とある。中に入ると広いカウンターと丸テーブルが並び、昼間のせいか客はまばらだ。店の女性に尋ねると、いくつか部屋が空いているから見てみるといい、と言われる。案内されたのは2階の屋根裏部屋のような一室。窓からは海と、奥にうっすらとモハーの断崖が見えた。天井は低いがベッドと小机があり、ここでならば充分に絵を描き心を落ち着かせることができそうだ。 幹夫はすぐに宿泊を決め、荷物を降ろした。その日から、彼のアイルランドでの暮らしが始まった。

第二章 断崖と海鳥たち

 翌朝、幹夫は朝食をとると、断崖行きの徒歩ルートを訊ねた。パブのご主人が「歩いてもいいが、けっこう距離がある。バスもあるけど天気が良いなら歩いてみるのもおすすめだ」と教えてくれる。外は時折霧雨が降る曇り空だったが、アイルランドではこれが「普通」らしく、少しもためらわずに歩き出した。

 村外れから一本道をしばらく進むと、やがて草原の端にそびえる断崖の遊歩道が見えてきた。自然保護のために設けられた柵の脇を通り抜け、丘を登り始めると、突如として視界が開ける。その向こうには荒々しい紺碧の海が広がり、高低差200メートルもの垂直の崖が幹夫の足元から落ち込んでいた。

「すごい……本物だ」

 心の中で思わず呟き、シャツの胸ポケットから小さなスケッチブックを取り出す。鉛筆を走らせるうちに、幹夫の呼吸はいつしか荒くなり、指先が震えだす。断崖の黒い岩肌には潮風に苔むした部分や、風雨で削られてできた無数の亀裂が刻まれ、ところどころ緑の草が揺れている。白い波しぶきは崖の根元を叩き続け、上空には海鳥の群れが旋回していた。

 断崖の縁は危険なため、遊歩道は少し内側に整備されている。それでも柵を越えて身を乗り出す人を見かけるが、嵐の日には強風で飛ばされそうになるという。幹夫は遊歩道の脇に座り込み、波の砕ける音に耳を澄ました。 パステルで海面の深い青を塗り込もうとすると、急に霧雨が強まり、濡れた色がぼやけ始める。しばらくは傘を持つ余裕もなく、絵の具が溶けていくまま放置していたが、やがて雲の切れ間から光が差し込み、スケッチに混ざり合う色彩がかえって幻想的になった。 雨粒と光がつくりだすこの偶然の模様こそ、ここでしか得られないインスピレーションだと、幹夫は心を躍らせる。東京のアトリエでいつも苦心していた「色の混ざり」を、自然がわずか数分で見せてくれるなんて。

 さらに歩みを進めると、建物のようなものが見えてきた。円筒形の塔だった。ガイドブックで見た「オブライエン塔」だと気づく。かつてこの断崖を訪れる客のために建てられた小さな展望台。塔の回りには観光客が多く集まり、写真を撮ったり記念品を買ったりして賑わっている。幹夫はそこからさらに先へ進む道を探した。人の少ない道を見つけると、遠くに老朽化した石の祠のようなものがうっすら見えた。聖ブリジットの井戸がある辺りだろうか。

 歩きながらふと目を崖下に移すと、海面近くに岩が突き出ている。その岩の上には色鮮やかな嘴を持つパフィン(ツノメドリ)が一羽ちょこんと立っていた。風にあおられながらも、岩にしっかり爪を立ててじっと海を見つめている。その姿を見ていると、幹夫は不思議と自分が励まされているように感じた。 なるほど、ここは生き物と自然の力に満ち溢れている。遠く離れた自分をこうして呼び寄せるほどの引力が、この土地にはあるのだ。

第三章 ドゥーリンの夜

 その夜、幹夫はオコーナーのパブでギネスビールとシーフードチャウダーを注文した。昼間に会ったジムがやってきて、「今夜はミュージシャンが集まるから面白いぞ」と声をかけてくる。奥のテーブルにはフィドル、アコーディオン、ティン・ホイッスルを手にした人々が集まりはじめ、ざわざわとした熱気が広がっていった。

 やがて一人の男性がリーダーの合図を出すと、楽器たちが一斉に陽気なジグを奏で始める。軽やかな旋律とリズムが空気を震わせ、客たちは自然と手拍子を打ち、あるいは踊り出す。周りを見ると、観光客らしき若者も混ざって思い思いに体を揺らしていた。 幹夫はその真ん中で、耳を奪われ、心が跳ね回っているのを感じた。ここまで開放的に音楽を楽しむ場所は、日本でもそう多くはない。ビールを飲みながら耳を澄ませていると、隣に座った若い女性が話しかけてきた。「絵描きさんなんだって? ジムがそう言ってたわよ」 彼女はキャスリーンと名乗った。地元のアートクラフトショップで働きつつ、自分でも絵を描いているという。幹夫が日本から来たことを知ると、彼女は嬉しそうに目を輝かせた。「ねぇ、私の働いてるギャラリーに明日来てみない? きっと気に入ると思うわ。ここには色んな画家さんや写真家さんの作品が集まってるの」

 心地よい音楽に包まれながら、幹夫はキャスリーンとアイルランドの芸術文化のこと、日本の生活のことなどを語り合う。酔いが回るにつれ、幹夫は心の奥に抱えていた不安や孤独をぽつりぽつりと吐き出した。仕事を辞めてここまで来たものの、これからどう生きていけばいいか分からない。画家としての才能があるのかも疑問だ。 キャスリーンはじっと耳を傾けた後、やわらかな声で言った。

「モハーの断崖はね、どんな気持ちで見つめてもきっと受け止めてくれるわ。嵐の日は嵐の日の、晴れの日は晴れの日の顔をするように、人を包み込む力があるの。あなたがここへやって来たのは、きっと偶然なんかじゃない。みんなそうよ。私もあなたも、あの断崖に呼ばれてきたんだと思う」

 幹夫は胸が熱くなり、言葉を詰まらせた。目頭が少し熱くなり、パブのにぎやかな音楽や笑い声がいつもより遠くに感じられる。彼は深く息をつき、キャスリーンに感謝しながらビールを飲み干した。まるで喉の渇きだけでなく、心の渇きも潤されたようだった。

第四章 バレンの光と聖井戸

 翌日、キャスリーンが働くギャラリーを訪ねた幹夫は、店先に飾られた断崖やバレン高原の絵を目にして、その豊かな色彩に驚いた。灰色の岩だらけの高原なのに、なぜこんなに鮮やかな花々が描かれているのか。キャスリーンは「これはバレンの春から初夏の姿なのよ。石灰岩の割れ目にたくさんの花が咲くの」と教えてくれた。 幹夫は何点かの作品を見て回り、画家ごとにまったく異なるアプローチがあることに刺激を受けた。ある作品は静かに沈む夕日の光をバレンの岩に反射させ、金色のグラデーションを描き出している。別の作品では不穏な嵐の雲を背景に、石の割れ目に咲く小さな花が強調されていた。

「私も昔は、無機質な石灰岩の風景なんて興味がなかったの。でもバレンを歩いているうちに、見えないところに命が溢れていることに気づかされるの」 キャスリーンはそう言いながら、奥の棚から一冊のノートを取り出す。スケッチや詩が書き留められており、その中には絵のモチーフとなる言葉が並んでいた。「たとえば、孤独や荒涼に感じられる場所ほど、人間の心は何かを見出そうとするでしょう? 私もこの土地でそうやって自分を見つめ直してきたの。あなたの絵もここで、きっと新しい何かが描けるはず」

 幹夫はキャスリーンの言葉を胸に、翌朝ひとりでバレン高原へ向かった。村からバスを乗り継いで薄灰色の台地に近づくと、まるで月面のような不思議な景観が広がりはじめる。石灰岩の地面にはところどころ割れ目があり、その溝の奥に赤紫色や黄色の小花がひっそりと顔を出している。 歩を進めるうち、幹夫は空気が澄み渡っていることに気づいた。乾いた風が髪を揺らし、靴底からは石の硬さと粒子のざらつきを感じる。夜明けの光が岩肌を柔らかく照らし、まるで水彩の彩度を上げるように、この大地に微細な陰影を与えているのだ。

 スケッチブックを広げ、幹夫はリズムをつかむように素早く鉛筆を走らせる。岩の形、割れ目の深さ、そこに咲く花のかたち。線を重ね、微妙な色味を重ねていく。時間がどれだけ経ったのか分からなくなるほど、幹夫は集中していた。 気づくと日が傾きかけ、遠くに羊飼いの女性と犬の姿が見える。手を振ると、向こうも笑顔で手を振り返してきた。何か言葉を交わしたわけではないが、人の存在にふと安堵を覚え、幹夫は自分がこの地の一部になったような錯覚を覚える。

 翌日、モハーの断崖の南端にある聖ブリジットの井戸を訪れた。かすかな水音が響く石の祠には数多くのロザリオや写真、衣服の切れ端などが捧げられ、訪れた者たちの祈りが重なっている。 幹夫はそのひんやりとした空気の中で、井戸の水に指先を浸しながらそっと目を閉じた。東京を離れ、自分が画家になろうとしていること。その先にどんな未来があるのか分からなくても、描くことだけはずっとやめられなかった。井戸の奥からゆるやかに流れる水音は、まるで母親の胎内の鼓動のように幹夫を包む。

「きっと大丈夫だ」 初めてそう思えた。井戸の暗がりに差し込む光が、小さな虹を作りながら壁を照らしている。自然が、祈りが、人々の営みが重なり合うこの地で、幹夫は確かなぬくもりを受け取った。

第五章 風の中で

 数週間が過ぎたころ、幹夫はすでに何冊ものスケッチブックを描ききり、新しい画材を買い足さねばならなくなっていた。パブの屋根裏部屋では、床や机の上に彼の絵と下描きがあふれている。その絵には、断崖の波しぶきやバレンの石灰岩、霧雨に濡れたドゥーリンの路地、夜のパブで踊る人々の姿が生き生きと描かれ始めていた。

 キャスリーンはその絵を見て「あなたの中で、きっと何かが芽生えているわね」と微笑む。幹夫自身も、それまでと違う手応えを感じていた。自分の描きたいものを描いているという実感。東京のアトリエで、仕事の指示や商業的なテーマに合わせようとしていた自分ではなく、素直に心が動いた風景をそのまま描いている。

 ある夕暮れ、幹夫は再び断崖へ向かった。西に沈む太陽が海面を徐々にオレンジ色に染めはじめ、断崖の輪郭が浮かび上がる。風はまだ冷たいが、頬に当たるその冷気が心地よい。 ゆっくりと遊歩道を歩き、ハグズ・ヘッドと呼ばれる南端までたどり着く。崖の先端に立つと、遥か彼方へ向かって広がる大西洋の上に、淡紅色の空が混ざり合うように溶け落ちていく。 ふと、崖の岩肌に「老婆の横顔」と呼ばれる部分があるのを思い出す。伝説の魔女マールが落ちたとされる場所――恋の執念で追いかけた英雄クー・フーリンに逃げられ、崖下の荒海に散った。 幹夫はその話を思い浮かべながら、岩の上に色を落としてみる。自分の抱えていた想いや迷いも、霧雨に溶け込んでしまえばいい。断崖はどんな感情でも受け止めて、また新しい一歩を踏み出させてくれる。

 日が沈み、海の向こうにわずかな明かりが名残のように残る。幹夫はスケッチブックを閉じて深呼吸した。雨上がりの冷たい風が髪とシャツを揺らす。まるで大きな自然が彼を軽やかに抱いているようだった。

第六章 さらなる道へ

 翌日、キャスリーンが「よかったらバレンのアートカレッジを見に行かない?」と誘ってくれた。そこではアーティスト・イン・レジデンスを受け入れており、滞在しながら制作できるという。幹夫は興味をそそられた。もっと長く、この地で創作を続けたいという思いが募っていたからだ。

 カレッジは古い塔城を改装した建物で、少人数制のアトリエがいくつもあり、世界各地から集まった画家や彫刻家がそれぞれ作品を制作していた。静かに集中する空気が流れ、ときおり窓の外に目をやれば広大なバレンの風景が広がっている。 幹夫はここのディレクターに自分のスケッチを見せ、これまでの思いを正直に話した。するとディレクターは「あなたの絵には、筆先に素直な魂が宿っているように見える。もし興味があれば、短期でもレジデンスに参加してみては?」と提案してくれた。

 幹夫の胸は熱くなった。いつかプロの画家としてやっていけるかは分からないが、ここまで来てようやく、自分の進む道をほんの少し開きかけている気がする。 ドゥーリンへ戻り、そのことをキャスリーンやパブのジムに話すと、みな自分のことのように喜んでくれた。ジムは演奏仲間を呼んで、幹夫の新たな旅立ちを祝い、夜遅くまで音楽とダンスの輪が続いた。幹夫はパブの片隅で、賑わう人々の姿を夢中でスケッチし続ける。暗い店内でも、彼の目には不思議なほど色鮮やかな情景が見えていた。

第七章 嵐のあと

 ところが数日後、突然の嵐が西の海から吹き荒れた。大粒の雨が断崖を叩きつけ、海は鉛色に煙り、風が宿の窓を鳴らす夜が続いた。観光客は少なくなり、地元の人々も外には出ず、パブに人影もまばらだ。 幹夫は屋根裏部屋でシグニチャーペンと水彩を交えた絵を描いていた。窓の外に見えるのは激しい雨と風に揺れる街灯だが、彼の頭の中にはこの嵐の先に広がるいつもの景色があった。嵐がやんだあと、断崖はどんな顔を見せるだろう。そんな期待に胸を躍らせながら、筆を走らせる。

 翌朝、ようやく雨脚が弱まった頃、幹夫は着替えを済ませて外へ出た。雨の滴が草葉を伝い、道端の小さな水たまりに自分の姿が映る。北の空にはまだ灰色の雲が残っているが、南からは明るい光が差し込んできていた。 歩を進めるごとに、空はみるみる開け、断崖の方へ近づくと雲間から濃い青の海が見えてくる。昨日までの嵐が嘘のように、晴れ渡る空にはカモメが飛び交い、断崖の草原が陽光を受けて黄金色にきらめいている。荒波が残した白い泡が岩肌のあちこちに渦を作り、幹夫は息を飲んだ。

 まるで、自然が新しいキャンバスを用意してくれたかのように、濡れた大地と新しい光が目の前に広がっている。幹夫は一歩踏み出し、断崖の道を進んだ。 その足取りには、もはや迷いはなかった。アイルランドに来た日から心のどこかで感じていた不安が、この嵐の翌朝の空気とともに洗い流されたように思える。「僕はこれでいいんだ。ここで描きたい、ここでしか描けない絵がきっとある」

 青い海と緑の断崖。幹夫は背負っていた荷物を一度地面に下ろし、顔を上げて深呼吸をする。まばゆい日差しが目を細めさせ、まるで祝福のように体全体を照らしていた。遠くで人の笑い声が聞こえ、海鳥の鳴き声が弾む。 幹夫は胸を張って、もう一度歩き出す。きっとこの先にも、想像を超えた風景と出会い、自分自身を描き続けていくだろう。バレンの岩に咲く小さな花のように、ささやかでも確かな命の輝きをキャンバスに刻みたい。その気持ちが今、彼の全身を優しく駆け巡っていた。

 ――モハーの断崖に砕け散る潮騒と、いつか見た魔女の伝説。どこまでも広がる荒野に潜む、根強い花の命。音楽と人々の声が絶えず満ちるパブの夜。 それらすべてが、今の幹夫の糧となり、新しい一歩を踏み出す翼となっている。大西洋の風が彼のシャツを大きく膨らませながら、さらに遠い空へ誘おうとしていた。

―――完―――

 
 
 

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