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古都に眠る宝石――国立ローマ美術館の光彩

  • 山崎行政書士事務所
  • 2月3日
  • 読了時間: 4分

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 ローマには数多くの博物館や美術館が点在しているが、その中でも**国立ローマ美術館(Museo Nazionale Romano)**は、古代ローマの遺産を総合的に網羅し、街の歴史を深く感じさせてくれる特別な場所だ。実はこの国立ローマ美術館は、一か所ではなく複数の会場(パラッツォ・マッシモ、パラッツォ・アルテンプス、クリプタ・バルビ、ディオクレティアヌス浴場)に分かれ、古代ローマの多彩な芸術品を展示している。以下は、そのなかの主要な施設を巡るイメージである。

1. パラッツォ・マッシモ・アッレ・テルメの静寂

 まず足を運んだのは、テルミニ駅からほど近いパラッツォ・マッシモ・アッレ・テルメ(Palazzo Massimo alle Terme)。外観は落ち着いた建物だが、一歩中へ入れば、古代ローマの絵画や彫刻、貨幣、宝飾品など多彩なコレクションが出迎える。 紀元1世紀ごろの彫刻が並ぶギャラリーを進むと、巧みな衣のシワや、人物の表情まで緻密に表現された像に目を奪われる。ルネサンスとは違う、古代ローマ人特有のリアリズムが、石の肌や大理石の質感を通じて今も息づいているようだ。

2. 壁画の宝庫――地下室の発見

 さらに奥へ進むと、ポンペイやその周辺地域から移されてきた壁画の展示が目をひく。鮮やかな赤や深い青、緻密な建築風景画(“第二様式”のウォールペインティング)が広がり、古代住宅の洗練された内装を今に伝えている。 中には地下室を模した展示空間があり、そこではまるで古代の邸宅に迷い込んだような感覚にとらわれる。石や漆喰(しっくい)の香りを感じ取ると、遠い昔、これらの壁画を眺めながら暮らしていた人々の息づかいが伝わってくるようで、不思議な郷愁を覚える。

3. 伝説のボクサー像と動く筋肉

 パラッツォ・マッシモでも有名な展示の一つに、「座るボクサー(Boxer at Rest)」 と呼ばれる青銅彫刻がある。試合を終えたかのように疲弊して座り込むボクサーの姿が、痛ましくも力強い表情と筋肉のリアルさで表現されている傑作だ。 近くでよく見ると、頬や耳には試合で受けた傷跡まで緻密に表現されており、青銅の表面に走る傷やくぼみがまるで生々しい。古代の職人たちがいかに高度な技術と観察眼を持ち合わせていたかを、この一体の像が雄弁に物語る。

4. パラッツォ・アルテンプスと神々の宴

 場所を移動して、ナヴォーナ広場の近くにある**パラッツォ・アルテンプス(Palazzo Altemps)**へ。ここは貴族の館だった建物を改装しており、大理石の中庭やバロック風の回廊がエレガントな雰囲気を醸し出す。 展示の中心は、神々や英雄たちの古代彫刻コレクション。ギリシャのオリジナルやローマ時代の模刻が混在し、一つひとつが神話の世界を現実に引き寄せるような迫力を持っている。特に有名なのは、アフロディーテ像やディオニュソスを描いた浮彫などで、その官能的な美しさが訪問者の心をつかんで離さない。

5. クリプタ・バルビ――生活の痕跡

 さらにもう一つ、クリプタ・バルビ(Crypta Balbi)。ここは、古代ローマの劇場跡地から中世、ルネサンス、現代に至るまで、どのように街の地層が積み重なったかを実地に体感できる場所だ。考古学的な発掘作業の現場や当時の生活道具が展示され、過去から未来へと繋がる時の流れをダイレクトに感じられる。 ローマという街は、一つの場所に何層もの歴史が折り重なっており、クリプタ・バルビではその実例を見ることができる。石畳の下に隠されていた中世の路地や、廃墟になった建築の基礎部分が、現代の建物の下敷きになっている様子は、歴史ロマンの極みとも言えるだろう。

6. ディオクレティアヌス浴場の壮麗

 そして最後に、テルミニ駅近くにある**ディオクレティアヌス浴場(Terme di Diocleziano)**の遺跡を利用した展示スペースへ足を運ぶ。かつては古代ローマで最大規模の公共浴場だった場所で、今はその一部が博物館として整備されている。 広大な浴場の跡を見学していると、古代の人々がこの施設でリラックスし、社交の場として賑わっていた様子が想像できる。まるで現代のスパやリゾートの原型を目にするようで、古代都市ローマの先進性と華やかさに感嘆せずにはいられない。

エピローグ

 国立ローマ美術館という名前に集約されるこれらの施設は、古代ローマの芸術や人々の生活様式を多角的に捉える場として、ローマ観光のハイライトの一つでもある。パラッツォ・マッシモ、パラッツォ・アルテンプス、クリプタ・バルビ、ディオクレティアヌス浴場――どれを訪れても、石と大理石に刻まれた古代の息づかいを肌で感じられるだろう。 そこには、彫刻や壁画、遺構が語る無数のストーリーが存在し、過去と現在が混在するローマだからこそ生まれる圧倒的な時空間が広がっている。

(了)

 
 
 

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