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山頂の義時

  • 山崎行政書士事務所
  • 1月13日
  • 読了時間: 5分


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第一章:エキストラの誘い

梶原山公園が、テレビ局の歴史ドラマの撮影地に選ばれたと聞いて、拓海は胸を躍らせた。地元の名所が全国放送に登場するうえ、高校生の自分にもエキストラ募集のチャンスがあるという。歴史好きでもない拓海だったが、学校の友人が「一緒に出ようよ」と誘ってくれたのがきっかけ。気軽な気持ちで応募し、見事合格。北条義時の配下の御家人役に選ばれた。撮影初日、緑の山道を進むと、待っていたのは鎧姿の俳優たちと、大掛かりなカメラクルー。その中で、拓海は「こんなに本格的なんだ」と圧倒される。鎌倉時代の雰囲気を再現したセットが、公園の一角に広がっていた。

第二章:撮影中の発見

エキストラの役割は単純だった。北条義時(主演俳優)の後ろに立って、槍を持って騎馬軍を迎える場面など。拓海はどう動けばいいか分からず、周囲に合わせてぎこちなく演じる。休憩時間、山頂付近を散策すると、小さな岩場の脇に古い碑が建っているのを見つけた。彫刻が風化しかけているが、かすかに「義時」の文字が読み取れ、さらに「告白」という文字が続いている。「義時の告白……?」歴史に詳しくないとはいえ、北条義時は名前くらい知っている。いったい何を“告白”したのか。ピンとこないまま、興味をそそられた拓海は碑の周囲を撮影して資料にしようと考えた。

第三章:碑文の謎

撮影が終わったあと、拓海は図書館に足を運び、梶原山公園の歴史や北条義時に関する文献を漁る。そこで、鎌倉期に義時がいくつかの「改革案」を持っていたとする説があることを知る。しかも、それは頼朝が亡くなった後、御家人たちの内紛が絶えなかった鎌倉で、義時が「鎌倉殿の改革」を思い描いていたが、結局は武士の利害関係に阻まれうまく進まなかった――という話だ。一部の郷土史家の記録によると、義時が駿河国方面にも足を延ばしていた可能性があり、その際に何か“置き土産”を残したかもしれないと推測しているらしい。拓海は、あの碑こそまさに義時が残したものなのかもしれない、と胸を弾ませる。

第四章:山頂に刻まれた告白

再び梶原山公園での撮影が行われる日、拓海はロケの合間を縫って、スタッフに頼み碑の周辺を整備してもらう。苔や雑草を取り除くと、さらに文字が浮かび上がった。そこには、**「吾、鎌倉を守るため新たなる道を示さん」**という、義時らしき書きぶりが断片的に刻まれていた。どうやら、この“告白”は義時が中央での争いを見据え、自分なりに考えた鎌倉運営のアイデアを記したものらしい。「こんなところにわざわざ残すなんて、どういう意図があったんだろう……」撮影の休憩時間に、拓海は想像を膨らませる。もしこれが真実なら、義時という人物は単に政子の弟や執権として権力を振るっただけではなく、自分なりの理想を持っていたのかもしれない。

第五章:過去と現在の重なり

ドラマの撮影では、北条義時が源頼朝の政権を受け継ぎ、御家人をまとめ上げる難しさを演じるシーンが撮られる。俳優の姿を見つめながら、拓海は頭の中で義時の“告白”を重ね合わせる。一方、現代でも、撮影チーム内で意見の対立や利害関係の衝突が起きているのを目の当たりにする。スポンサーや予算の問題、主演俳優のスケジュールなど、ドラマ制作の裏には多くの葛藤があり、それでも作品を完成させようと皆が必死だ。それはまるで、義時が鎌倉幕府を運営しようと奮闘した状況にも通じるように思えた。歴史は時代を超えて、人々の生き様に同じような“選択”や“苦悩”をもたらす――拓海はそんな共感を抱く。

第六章:碑の真実を追う

碑の解読をさらに進めるため、拓海は地元の郷土史家に連絡を取る。すると興味深い話が飛び出す。「その碑は、鎌倉期に北条義時が駿河の武士たちを説得しようとしていた際に、自らの改革案を刻んだ可能性がある。しかし、義時が鎌倉に戻ったあと、ここに来る機会がなかったのか、案は実行されずに終わった。もしかして、義時は鎌倉だけでなく地方の武士たちも巻き込み、いずれは日本全体を見据えた政治をしようと考えていたのではないだろうか……」拓海は胸が躍る。学校の教科書には載っていない、義時の知られざるビジョンがそこにあったかもしれない。

第七章:最後の選択

撮影最終日、ドラマは「義時が御家人たちの対立をしのいで執権の座を確立する」という史実通りの形でクライマックスを迎える。ロケ現場では華やかなフィナーレが撮られ、盛大な拍手が起こる。だが、拓海の心にはもう一つの物語がある。それは、義時が実際にどんな理想を抱え、どんな決断をしようとしたか。誰にも理解されないまま、歴史の教科書には書かれず埋もれてきたかもしれない真実だ。拓海は自分なりに調べた内容をまとめ、学校の文化祭で発表することを決めた。「北条義時は、ただ保守的な執権ではなく、未来を見据えた改革者の側面もあったのではないか」という仮説を掲げる。「思いのほか反響があるかもしれないな……」と期待しながら、拓海は山頂から静岡の街を見下ろす。山並みの向こう、鎌倉時代の面影を想像すると、不思議に自分自身の生き方も重ねて考える。「時代や組織の中で、どう生きるかは自分次第かもしれない……」。こうして**「山頂の義時」**が抱えていた秘密は、また一つの形で現代に甦る。歴史イベントの余韻の中、拓海は夜の帳が下りる公園を静かに後にする。空には満天の星が輝き、まるで義時の決断を見守っていたように感じられるのだった。

(了)

 
 
 

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