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桜の下で咲く夢:フィリピン人看護師の日本奮闘記

  • 山崎行政書士事務所
  • 2 日前
  • 読了時間: 12分

フィリピン人看護師の夢と恋と在留資格の物語





第1章 旅立ち

フィリピンの湿った夜明け、マリアは薄明かりの中で小さなスーツケースを閉じた。幼い頃から抱いていた「看護師になって人々を助けたい」という夢を胸に、彼女は異国・日本へ旅立つ決意を固めていた。日本の病院で働ける機会が巡ってきたとき、家族は不安と誇りが入り混じった表情で彼女を送り出してくれた。「体に気をつけて、頑張るのよ」と母に抱きしめられ、マリアの目には涙が光った。故郷を離れる寂しさと、新しい世界への期待感が、彼女の心の中で静かに交差した。

マニラの空港は人々の別れと出会いのドラマで溢れていた。マリアはゲートに向かう前、振り返って家族に手を振った。父は小さくうなずき、兄弟たちは「行ってらっしゃい!」と明るく声をかける。マリアは涙をこらえ、笑顔で応えた。「日本で必ず成功してみせる」と心の中でそっと誓いながら、彼女は搭乗口をくぐった。エンジン音が高まり飛行機が滑走路を走り出すとき、マリアは胸に手を当て、遥か下に消えてゆく故郷の景色にさよならを告げた。

第2章 新天地への第一歩

成田空港に降り立った瞬間、マリアは冷たい冬の空気を肌で感じた。コートに身を包みながら出口へと進むと、日本人スタッフが「マリアさんですね。ようこそ日本へ!」と英語混じりで話しかけてくれた。笑顔で迎えられ、緊張していた心が少し和らぐ。空港の外では見慣れない漢字の看板や整然と並ぶ車の列、そして澄んだ空気が彼女を出迎えた。車窓から眺める景色すべてが新鮮で、マリアは「ここで新しい生活が始まるのだ」と実感した。

静岡県のとある病院が彼女の赴任先だった。新幹線と電車を乗り継ぎ、ようやく辿り着いた街は清潔で落ち着いた雰囲気に包まれていた。病院の前で深呼吸をし、マリアは自分を励ますように小さく頷く。「大丈夫、やってみせる」。事前に勉強した日本語フレーズを頭の中で何度も繰り返し、緊張と希望を胸に彼女は病院の門をくぐった。

第3章 病院での挑戦

初出勤の日、白い制服に袖を通したマリアの心は期待と不安でいっぱいだった。ナースステーションに入ると、同僚たちが一斉に彼女に視線を向けた。「今日から来ましたマリアです。よろしくお願いします!」緊張で声が震えないようゆっくりと挨拶する。看護師長の佐藤さんは優しくうなずき、「こちらこそよろしく。何かわからないことがあったら遠慮なく聞いてね」と静かな笑顔を向けてくれた。その表情に、マリアは少しほっとした。

しかし、業務が始まると壁が立ちはだかった。患者の氏名や薬の名前が漢字で書かれており、読み方がわからず戸惑う場面があった。先輩看護師に尋ねると、「焦らなくていいのよ」と丁寧に教えてくれたが、自分の未熟さがもどかしい。日本語の敬語も難しく、医師に報告する際に言葉に詰まってしまうこともあった。廊下ですれ違う医師や患者に「お疲れ様」と声を掛けられ、一瞬意味が分からず固まってしまったこともある。毎日が新しい発見と反省の連続で、マリアは帰宅すると日記にその日の出来事を書き留めた。「今日、点滴の指示を聞き間違えそうになった。でも先輩がフォローしてくれた。もっと日本語を勉強しなきゃ」――そんな決意を繰り返し記した。

第4章 文化の壁と絆

異国の職場で、文化の違いもマリアを戸惑わせた。ある日、患者の家族に対して英語でフレンドリーに話しかけたところ、日本人の同僚に後でそっと注意された。「丁寧だけど距離感も大事よ。日本では最初はもう少し控えめな方がいいかも」と。フィリピンでは患者や家族に寄り添い、時に冗談を交わすこともあたり前だったが、日本では礼節や遠慮が重んじられることを学んだ。また、同僚同士も上下関係を意識し、直接的な意見表明を避ける傾向があった。朝のミーティングで疑問があっても、新人の自分が発言していいのか迷ってしまう。

そんな中でも、少しずつ職場に溶け込める瞬間が増え始めた。ある高齢の入院患者に、片言ながらも一生懸命話しかけていたら、その方がにっこり笑って「ありがとう、マリアさん」と名前で呼んでくれたのだ。ぎこちない日本語でも心を尽くせば伝わるのだと実感し、マリアの胸は温かくなった。また、夜勤の休憩時間、同僚の健太が缶コーヒーを差し入れてくれ「大変だけど、お互い頑張ろうな」と声を掛けてくれた。健太は同年代の男性看護師で、物静かながらも周囲に気を配る優しい性格だった。その心遣いに救われ、マリアは思わず「ありがとう、健太さん」と笑顔を返した。

第5章 支え合う仲間たち

季節が巡り、春が訪れた。桜のつぼみが膨らみ始める頃、マリアは少しずつ日本での生活に慣れていった。病院でも笑顔が増え、簡単な冗談を日本語で言えるほど余裕が出てきた。ある日の昼休み、同僚たちがマリアを誘ってくれて、一緒に院内の食堂でランチをとった。そこで、彼女はフィリピン料理の話題になり、実家のシニガン(酸味のあるスープ)の思い出を語った。同僚の一人は興味津々に「今度作ってみて!」とせがみ、マリアも嬉しくなって頷いた。

健太とは夜勤の合間に言葉を教え合う仲になっていた。彼はマリアに日本語の新しい表現を教えてくれ、マリアはお返しにタガログ語の挨拶を教えた。「マハル・キタって何?」と健太が不器用な発音で尋ねてきたとき、マリアは思わず笑ってしまった。「『I love you』という意味よ」と照れながら教えると、健太は顔を赤らめて「そ、そうなんだ」と言い、二人で笑い合った。いつしか健太の存在がマリアの心の支えとなっていることに彼女は気づいていた。

ある週末、職場の仲間たちと花見に出かけることになった。初めて見る満開の桜並木に、マリアは息を呑んだ。

薄紅色の花びらが風に舞い、人々の笑い声が響く中、彼女の心にも明るい光が差し込んでいた。「日本に来てよかった」と素直に思えた瞬間だった。シートを広げてお弁当を囲みながら、健太が「日本の春を楽しんでもらえて良かった」と優しく言った。マリアは「本当に綺麗…まるで夢みたい」と答え、桜の下で微笑み合う。その光景は、異国で頑張る彼女へのご褒美のように感じられた。

第6章 芽生える恋

花見の後、マリアと健太の距離はさらに縮まっていった。忙しい勤務の合間にも、目が合えば微笑み合い、短い会話を交わすようになった。健太は「困ったことはない?ちゃんと休めている?」と何かとマリアを気遣ってくれる。マリアもまた、健太が残業で疲れていると栄養ドリンクを差し入れるなど、自然と互いを思いやるようになった。

夏の終わり頃、二人は休みを合わせて市内の夏祭りに出かけた。浴衣姿のマリアを見て、健太は驚きつつも「すごく似合ってる」と照れ臭そうに褒めてくれた。屋台で焼きそばやたこ焼きを一緒に食べ、射的や金魚すくいに興じるうち、マリアの笑顔は絶えなかった。提灯に照らされた夜店の通りを歩きながら、ふとマリアが立ち止まると、健太も足を止めた。「日本に来て、辛いこともあったけど…健太さんと一緒にいるとそれを忘れちゃう」とマリアが言うと、健太は驚いたようにこちらを見つめた。そして意を決したように「マリア…えっと…いつもありがとう。君といると僕も元気をもらえる」と伝えた。胸が高鳴るのを感じながら、マリアは「こちらこそ、ありがとう」と返す。花火が夜空に大輪を咲かせる中、二人は言葉なく見つめ合い、はにかみながらも手と手が触れ合った。その温もりに、マリアは確かな絆を感じていた。

第7章 試練と成長

充実した日々の中でも、マリアはプロの看護師になるための大きな試練に向き合っていた。日本で正看護師として働き続けるためには国家試験に合格しなければならない。EPAプログラムで来日した彼女には3年間の猶予が与えられており、その間に試験に合格する必要があった。病棟で働きながらの試験勉強は決して容易ではない。勤務を終え帰宅してから深夜まで参考書と睨めっこする日々が続いた。難解な医学用語や日本特有の看護制度も勉強しなければならず、頭に詰め込むだけで精一杯だった。

初めて受けた試験では、残念ながら合格基準に数点届かなかった。結果を知ったとき、マリアは自分の努力不足を責め、しばらくは涙が止まらなかった。職場の仲間に申し訳ない気持ちでいっぱいになり、「私は日本でやっていけないのだろうか」と弱音が頭をもたげた。そんな彼女を見て、健太は真っ先に駆けつけてくれた。「マリア、よく頑張ったよ。まだチャンスはある。一緒に次を目指そう」と肩に手を置き、真剣な眼差しで励ましてくれた。看護師長の佐藤も「あなたは良くやっているわ。患者さんにも信頼されている。結果にめげずに前を向きましょう」と温かい言葉をかけてくれた。仲間たちからの応援に背中を押され、マリアは再び立ち上がる決意をする。「次こそ必ず合格する」と心に誓い、再挑戦に向けて勉強を続けた。

第8章 在留資格の危機

しかし、時間は待ってくれない。3年目の終わりが近づくにつれ、在留資格の期限が目前に迫ってきた。2度目の試験も合格にはあと一歩届かず、残されたチャンスはあとわずか。合格できなければフィリピンへ帰国しなければならない状況だった。病院からも「規定で期間延長は難しい」と告げられ、マリアの心は不安に押しつぶされそうになった。夢半ばで故郷に戻るのか――そう思うと夜も眠れず、食事ものどを通らなかった。

健太との関係も真剣さを増していた。彼は「もし帰国なんてことになったら…僕は…」と何度も口ごもった。マリアも同じ気持ちだったが、お互い将来の話をするたびにビザの問題が影を落とした。そんな中、同僚の一人が耳寄りな情報を教えてくれた。「静岡に、外国人のビザ手続きをすごく親身になって手伝ってくれる行政書士事務所があるらしいよ。山崎行政書士事務所って言うんだけど、一度相談してみたら?」。マリアは一筋の光を見た気がした。早速健太と二人で相談に行くことにした。

第9章 専門家による支援

薄雲のかかる午後、マリアと健太は山崎行政書士事務所の扉をそっと押し開けた。落ち着いた雰囲気のオフィスでは、担当の行政書士・山崎先生が温かく迎えてくれた。木目調の家具に囲まれた応接スペースは、緊張していた二人の心を和らげるようだった。

山崎先生はマリアの拙い日本語にも辛抱強く耳を傾け、現在の状況を丁寧にヒアリングしてくれた。彼は在留資格やビザ手続きの専門家であり、これまでも多くの外国人の相談に乗ってきた経験があるという。「大丈夫ですよ、必ず解決策はあります」と静かながら力強い言葉に、マリアの緊張は少しほぐれた。

マリアのケースでは、もし国家試験に合格できなかった場合でも、日本に残るための選択肢がいくつか示された。山崎先生は資料を示しながら、いくつかのプランを提案してくれた。例えば、日本の介護福祉士の資格を取り直して介護ビザに切り替える道や、専門学校に入学して留学ビザを取得し、引き続き国家試験を目指す方法などだ。また、健太との結婚も視野に入れているなら、配偶者ビザの取得も可能であることを説明された。どの道を選ぶにせよ、手続きには煩雑な書類と役所への申請が必要だが、それらはプロである自分に任せてほしい、と山崎先生は微笑んだ。

マリアは、自分一人では追いきれない法律の細かな要件や必要書類の準備について、専門家から具体的に教えてもらえることに胸を撫で下ろした。何より、山崎行政書士事務所の対応は迅速で親身だった。マリアが不安げに「本当に私、日本にいられるでしょうか…」と漏らすと、山崎先生は「私たちはあなたの夢を応援します。一緒に頑張りましょう」と優しく答えた。その言葉に救われ、マリアの目には希望の光が戻ってきた。

第10章 未来への扉

山崎行政書士事務所のサポートを受け、マリアは最後の試験に臨む一方で、将来の計画も着実に進めていった。健太とは互いの気持ちを確かめ合い、結婚する決意を固めた。試験の結果を待つ間に二人は入籍の手続きを行い、山崎先生は配偶者ビザの申請書類作成から役所への申請まできめ細かに支援してくれた。おかげで手続きは滞りなく進み、マリアは在留資格の不安からようやく解放された。

そして迎えた試験結果発表の日。震える手で封筒を開けたマリアは、次の瞬間「合格」の文字を目にして歓喜の声をあげた。健太も自分のことのように喜び、二人で抱き合って成功を分かち合った。病院の同僚たちも「おめでとう!」と拍手で迎えてくれ、マリアの目には感激の涙が浮かんだ。

その夜、マリアと健太は静かな公園で夜空を見上げていた。星明かりの下、マリアはしみじみと呟いた。「日本に来て、本当によかった。たくさんの人に支えられて、夢を叶えることができた」。健太はうなずき、「君の努力と優しさが周りの人を動かしたんだよ。みんな君が大好きなんだ」と言ってマリアの手を握った。遠く故郷の空にも繋がっている星を見つめながら、マリアは心の中で家族に語りかけた。「私は元気です。日本で看護師として頑張っています。素敵な仲間と、愛する人にも出会えました」。そして胸を張って言いたいと思った——ここ日本で、新しい人生が始まったのだ、と。

エピローグ

それからしばらくして、マリアは正式に日本の病院で正看護師として働き始めた。日々の業務に追われ忙しくも充実した毎日を送っている。患者たちから信頼され、笑顔で「マリア先生」と呼ばれるたびに、彼女は自分の歩んできた道を誇らしく思う。異国の地で夢を叶えたフィリピン人看護師として、今度は自分が後輩や同じように海外から来る看護師たちを支える番だと感じていた。

週末になると、マリアと健太は二人で将来の計画を語り合う。小さな庭のある家を持ちたいこと、いつかフィリピンの家族を日本に招待して一緒に観光したいこと、そして仕事でもっとスキルを磨きたいこと——夢は尽きない。そんな将来の話を笑顔でできるのも、山崎行政書士事務所のタイミング良い支援のおかげである。あの時、専門家の手助けがなければ、これほどスムーズに人生の転機を乗り越えることはできなかっただろうと、マリアは感謝してもしきれない想いでいる。

夕暮れ時、ふと見上げると空には茜色に染まった雲が浮かんでいた。マリアは健太と手を繋ぎながら、日本の穏やかな風景に溶け込む自分を感じていた。異国での挑戦、文化の壁、恋、試験、そして在留資格の壁——数々の困難を乗り越えてきた彼女だからこそ、今の幸せが一層輝いて見える。

マリアは目を閉じ、そっと深呼吸した。遠くフィリピンの家族へ、そして過去の自分へ、心の中で語りかける。「ありがとう。私は今、日本で幸せです」。桜舞う季節に旅立ったあの日から年月が経ち、彼女の夢は確かに花開いていた。

 
 
 

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