Azure Site RecoveryでRTO/RPO/SLAを説明できるか
- 山崎行政書士事務所
- 3 日前
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BCP文書とAzure構成を突合し、「復旧できるはず」から「証跡で説明できるDR」へ
確認日:2026年7月9日対象読者:経営層、情シス担当者、クラウド運用担当者、監査対応担当者、BCP/DR担当者対象領域:Azure Site Recovery、BCP、DR、RTO、RPO、SLA、復旧計画、テストフェールオーバー、監査証跡
結論
Azure Site RecoveryでRTO/RPO/SLAは説明できます。ただし、Azure Site Recoveryを有効化しているだけでは説明できません。
説明できる状態とは、次の3つが一致している状態です。
観点 | 必要な状態 |
BCP文書 | 業務ごとのRTO、RPO、復旧優先順位、責任者が明記されている |
Azure構成 | Azure Site Recovery、復旧計画、ネットワーク、DNS、認証、監視がBCPと一致している |
証跡 | テストフェールオーバー結果、ASRジョブ時間、RPO、承認記録、改善履歴が残っている |
RTO/RPOは経営・業務側の要求です。SLAはMicrosoftが提供するサービス上の約束です。そして、実際に会社が監査や事故対応で説明すべきなのは、**「当社の業務は、どの条件なら、何分で、どの時点まで復旧できるのか」**です。
Microsoft公式では、RPOは災害時に許容できるデータ損失量を時間で測定した最大許容範囲、RTOは障害後に業務を復元できる最大許容時間と定義されています。Azure Site Recoveryについては、Azure VM、オンプレミスVM、物理サーバーなどのレプリケーション、フェールオーバー、フェールバックを管理できるサービスとして説明されています。
理由
BCP文書とAzure構成が一致していない場合、災害時に次のような問題が起きます。
BCP上の記載 | 実際のAzure構成 | 起きる問題 |
RTO 1時間 | 復旧計画未作成、手順は口頭 | 1時間以内に復旧できる根拠がない |
RPO 15分 | ASRのRPO監視なし | データ損失見込みを説明できない |
自動切替 | Azure Site Recoveryのフェールオーバーは手動起動 | 災害時に誰が押すのか不明 |
全システムDR対象 | 一部VMだけASR保護 | 依存サービスが復旧せずアプリが起動しない |
四半期訓練 | テストフェールオーバー履歴なし | 監査で実効性を示せない |
顧客向けSLA 99.9% | アプリ全体の復旧試験なし | Microsoft側SLAと自社サービスSLAを混同 |
Microsoft公式では、Azure Site Recoveryのテストフェールオーバーは、データ損失やダウンタイムを発生させず、実行中のレプリケーションや運用環境に影響を与えずにDR戦略を検証できるものと説明されています。つまり、BCP文書に書いた復旧目標は、机上ではなくテストフェールオーバーで確認する必要があります。
数字で見る:BCP/DR計画とAzure設計の突合で確認すべき15項目
No. | 確認項目 | 確認内容 |
1 | 業務重要度 | どの業務を最優先で復旧するか |
2 | RTO | 業務として何分・何時間以内に復旧する必要があるか |
3 | RPO | 何分・何時間分のデータ損失を許容するか |
4 | ASR保護対象 | BCP対象サーバーがすべて保護されているか |
5 | 復旧計画 | VM起動順序、依存関係、手動作業が定義されているか |
6 | 復旧ポイント | 最新、最新処理済み、アプリ整合性などの選択基準があるか |
7 | ネットワーク | フェールオーバー後のVNet、Subnet、NSG、UDR、Firewall |
8 | DNS | 利用者が復旧先へ接続できる名前解決設計 |
9 | 認証 | Entra ID、AD、証明書、Key Vault、Managed Identity |
10 | データ整合性 | DB、ファイル、アプリ整合性、マルチVM整合性 |
11 | 容量 | 復旧先リージョンのVM SKU・ディスク・IP・クォータ |
12 | 監視 | ASRアラート、RPO監視、Replication Health、ジョブ失敗 |
13 | 訓練 | テストフェールオーバーの頻度、結果、改善履歴 |
14 | 承認 | 災害宣言、フェールオーバー、フェールバック、切戻し承認 |
15 | 証跡 | BCP、Azure構成、ASRジョブ、KQL、承認記録の保管 |
1. まずRTO/RPO/SLAを分けて説明する
RTO、RPO、SLAは混同されやすい言葉です。経営層向け資料では、最初に分けて説明する必要があります。
表1:RTO/RPO/SLAの違い
用語 | 意味 | 誰が決めるか | Azureで確認するもの | 注意点 |
RTO | 何時間以内に業務を復旧するか | 経営・業務部門 | ASRジョブ時間、復旧計画、起動確認時間 | ASRジョブ時間だけでは業務RTOにならない |
RPO | どの時点までのデータ損失を許容するか | 経営・業務部門 | 最新復旧ポイント、RPO、復旧ポイント履歴 | RPOに定義済みSLAはない |
SLA | サービス提供者の約束 | Microsoftまたは自社 | Microsoft SLA、自社顧客向けSLA | MicrosoftのSLAと自社アプリSLAは別 |
Azure Site RecoveryのRTOについて、Microsoft公式FAQでは、仮想マシンフェールオーバーのRTO SLAは1時間であり、多くの場合は数分でフェールオーバーすると説明されています。一方で、RPOについては、ゾーン間DRの公式FAQで「RPOには定義されたSLAがない」と説明されています。
2. 図で見る:BCP文書とAzure構成の関係
図1:BCPからAzure Site Recoveryまでの突合フロー
BCP / BIA
業務影響分析
│
▼
業務ごとのRTO / RPO
│
▼
システム重要度分類
Tier 1 / Tier 2 / Tier 3
│
▼
Azure設計
ASR / Backup / PaaS DR / DNS / Network
│
▼
復旧計画
起動順序・手動作業・Runbook
│
▼
テストフェールオーバー
実測RTO / 実測RPO / 課題
│
▼
BCP文書へ反映
承認・証跡・改善履歴重要なのは、BCP文書からAzure構成へ落とすことです。逆に、「Azure Site Recoveryを設定したのでBCPは大丈夫」という順番では、経営判断や監査説明に耐えません。
3. Azure Site Recoveryで保護できる範囲
Azure Site Recoveryは、主に仮想マシンや物理サーバーのDRを管理するサービスです。
Microsoft公式では、Site RecoveryはAzure VMのリージョン間レプリケーション、Azure Extended Zonesからリージョンへのレプリケーション、オンプレミスVM、Azure Stack VM、物理サーバーのレプリケーションを管理できると説明されています。
表2:Azure Site Recoveryで整理すべき対象
対象 | ASRでの扱い | BCP突合ポイント |
Azure VM | Azure VM間DR対象 | 保護対象VM一覧とBCP対象システムが一致するか |
VMware VM | AzureへのDR対象 | アプライアンス、帯域、認証、依存関係 |
Hyper-V VM | AzureへのDR対象 | レプリケーション頻度、ネットワーク |
物理サーバー | AzureへのDR対象 | OS、エージェント、復旧後の運用 |
SQL Server on VM | VMとして保護可能 | DB整合性、Always On等との役割分担 |
Azure SQL Database | ASR対象ではなくPaaS側DR | Geo-replication、Failover Group等を別途設計 |
Storage Account | ASR対象ではない | 冗長化、Backup、Immutable、復元手順 |
Key Vault | ASR対象ではない | バックアップ、Soft Delete、Purge Protection |
DNS / Front Door / Firewall | ASR対象ではない | 復旧先切替・ルール・証跡を別途設計 |
MicrosoftのWell-Architected Frameworkでは、IaaSではAzure Site Recoveryを使ってフェールオーバーと復旧を自動化し、PaaS製品については各サービスのDR機能を理解して復旧手順に含める考え方が示されています。
4. RTOは「ASRジョブ時間」だけではない
Azure Site Recoveryのジョブ時間は重要です。しかし、会社が説明すべき業務RTOは、ASRジョブ時間だけではありません。
図2:業務RTOの内訳
障害発生
│
├─ 検知時間
├─ 影響確認
├─ 災害宣言・承認
├─ ASRフェールオーバー実行
├─ VM起動
├─ ネットワーク / DNS切替
├─ アプリ起動確認
├─ DB整合性確認
├─ 利用者向け案内
▼
業務再開表3:RTO構成要素
RTO構成要素 | Azureで確認するもの | 証跡 |
障害検知 | Azure Monitor、Service Health、Sentinel | アラート履歴 |
災害宣言 | BCP手順、承認者 | チケット、会議記録 |
ASR起動 | Failover Job | ASRJobs |
VM起動 | VM状態、Boot diagnostics | Azure Activity Log |
ネットワーク復旧 | VNet、NSG、Firewall、Public/Private IP | 構成図、疎通試験 |
DNS切替 | DNS Zone、Traffic Manager、Front Door | DNS変更履歴 |
アプリ確認 | URL、API、DB接続 | 動作確認記録 |
業務再開判断 | 業務責任者の承認 | 完了報告 |
Microsoft公式では、ASRの復旧計画はVMのフェールオーバーと復旧をオーケストレーションし、依存関係を定義し、手動アクションも含めて自動化できるものとして説明されています。また、復旧計画のRTOを確認するにはテストフェールオーバーを行い、Site Recoveryジョブで所要時間を確認するとされています。
5. RPOは「最新を選べばよい」ではない
RPOを最小化したい場合、Azure Site Recoveryでは復旧ポイントの選択が重要です。
Microsoft公式では、Latest、つまり最低RPOの復旧ポイントを選ぶと、Site Recoveryサービスに送信済みのすべてのデータを処理してから復旧ポイントを作成するため、RPOは低くできます。一方で、未処理データの処理が入るため、RTOは高くなると説明されています。Latest processedは、処理済みの最新復旧ポイントを使うためRTOを低くできます。
図3:RPOとRTOのトレードオフ
Latest processed
│
├─ RTO:短い
└─ RPO:処理済み最新時点
Latest / Lowest RPO
│
├─ RTO:長くなる可能性
└─ RPO:より低くできる可能性表4:復旧ポイント選択の判断表
復旧ポイント | 優先するもの | 向いている場面 | 注意点 |
Latest processed | RTO短縮 | 業務再開を急ぐ | 直近未処理データは含まれない可能性 |
Latest / Lowest RPO | RPO最小化 | データ損失を抑えたい | 処理待ちがあるとRTOが伸びる |
Latest app-consistent | アプリ整合性 | DB、業務アプリ | アプリ整合性スナップショット設定が前提 |
Custom | 特定時点復旧 | 障害前時点へ戻したい | 単一VMでの利用に限定される場合あり |
Multi-VM processed | 複数VM整合性 | 多層アプリ | マルチVM整合性設計が前提 |
6. 復旧ポイントの間隔と保持期間をBCPと突合する
Azure Site Recoveryの一般FAQでは、クラッシュ整合性復旧ポイントは5分ごとに作成され、アプリケーション整合性復旧ポイントは最短1時間ごとに作成できると説明されています。また、既定のレプリケーションポリシーでは復旧ポイント保持が1日、アプリ整合性スナップショットなしで作成されるとされています。
表5:BCP要求とASR設定の突合
BCP要求 | ASR設定で見るもの | 判定例 |
RPO 5分以内 | クラッシュ整合性復旧ポイント、RPO監視 | DB整合性が必要なら別検討 |
RPO 1時間以内 | アプリ整合性復旧ポイント頻度 | SQL等はアプリ整合性を確認 |
3日前へ戻したい | 復旧ポイント保持期間 | Managed Diskなら最長15日が目安 |
ランサムウェア前へ戻したい | ASRだけでなくBackup/Immutable | ASRは長期バックアップではない |
データ損失ゼロ | 計画フェールオーバー、同期技術 | ASRの非同期DRだけで満たせるか要検証 |
ASRの一般FAQでは、Managed Diskで使用できる最古の復旧ポイントは15日、Unmanaged Diskでは3日と説明されています。復旧ポイント保持を増やすと追加のストレージコストが発生する点も示されています。
7. ASRのSLAと自社SLAを混同しない
Azure Site RecoveryのSLAは、Microsoftが提供するSite Recoveryサービス上の約束です。しかし、自社が顧客や経営層へ説明するSLAは、アプリ全体の可用性・復旧性です。
MicrosoftのSLAページでは、Microsoft Online ServicesのSLAはMicrosoftの稼働時間や接続性に関するコミットメントを説明するものとされ、最新版・過去版のSLAがダウンロード可能とされています。
図4:SLAの範囲を分ける
Microsoft側SLA
├─ Azure Site Recoveryサービス
├─ Azure VM
├─ Storage
├─ Network
└─ Microsoft Online Services SLA
自社側SLA
├─ アプリケーション復旧
├─ DB整合性
├─ DNS切替
├─ 利用者接続
├─ 業務再開判断
└─ 顧客・取引先への説明表6:説明で避けるべき表現
避けるべき表現 | 理由 | 正しい表現 |
ASRがあるので1時間で業務復旧できます | 業務復旧にはDNS、DB、認証、確認作業が含まれる | ASRのVMフェールオーバーRTOと、業務RTOを分けて管理します |
RPOは保証されています | RPOに定義されたSLAはありません | RPOは復旧ポイント実績とテスト結果で説明します |
DRは自動です | ASRのフェールオーバーは既定で自動ではありません | 災害宣言後、承認手順に従い手動または自動化で起動します |
VMが起動すれば復旧完了です | アプリ・DB・DNS・認証確認が必要 | 業務再開判定までをRTOに含めます |
Azure Site Recoveryの一般FAQでは、フェールオーバーは自動ではなく、ポータルのクリックやPowerShellで開始すると説明されています。自動化する場合は、検知・判断・起動の設計が必要です。
8. BCP文書とAzure構成の突合マトリクス
表7:BCP/DR突合マトリクス
BCP文書の項目 | Azureで確認する項目 | 証跡 | 判定 |
対象業務 | 対象VM、PaaS、依存サービス | システム台帳 | 一致 / 不一致 |
復旧優先順位 | Recovery Planのグループ順序 | 復旧計画画面 | 一致 / 不一致 |
RTO | Test Failover Job Duration | ASRJobs | 達成 / 未達 |
RPO | Last RPO、復旧ポイント時刻 | ASRReplicatedItems、Recovery Points | 達成 / 未達 |
復旧先 | Target region、Target VNet | ASR設定、構成図 | 一致 / 不一致 |
ネットワーク | VNet mapping、NSG、Firewall | IaC、Activity Log | 一致 / 不一致 |
DNS | Traffic Manager、Front Door、Private DNS | DNS変更履歴 | 一致 / 不一致 |
認証 | AD、Entra ID、Key Vault | 権限設計書 | 一致 / 不一致 |
DB整合性 | アプリ整合性、DB側DR | テスト結果 | 一致 / 不一致 |
承認者 | 災害宣言、フェールオーバー承認 | チケット、会議ログ | 明確 / 不明 |
訓練頻度 | Test Failover履歴 | ASRJobs、訓練報告書 | 達成 / 未達 |
改善管理 | 課題、期限、担当 | DR改善台帳 | 管理 / 未管理 |
9. 復旧計画は「起動順序」を説明するために使う
多層アプリケーションでは、VMを一斉に起動すればよいわけではありません。DB、認証、バックエンド、フロントエンド、バッチ、監視の順序が必要です。
Microsoft公式では、Azure Site Recoveryの復旧計画は、マシンを復旧グループにまとめ、フェールオーバー後の起動順序を定義でき、最大100個の保護インスタンスを1つの復旧計画に追加できると説明されています。また、依存関係をモデル化し、RTO削減のため復旧タスクを自動化する用途が示されています。
図5:三層アプリの復旧順序
Group 1
└─ Domain Controller / DNS / 基盤サービス
Group 2
└─ Database / File Server / Queue
Group 3
└─ API / Middleware
Group 4
└─ Web Frontend / Load Balancer設定
Group 5
└─ 監視確認 / 業務確認 / 公開切替表8:復旧計画設計表
グループ | 対象 | 確認内容 | 手動/自動 |
Group 1 | AD/DNS/基盤 | 名前解決、認証 | 手動確認 |
Group 2 | DB | DB起動、整合性確認 | 手動+スクリプト |
Group 3 | API | DB接続、環境変数 | Runbook |
Group 4 | Web | URL応答、証明書 | Runbook |
Group 5 | 切替 | DNS/Traffic切替、業務確認 | 承認後実行 |
復旧計画では、異なるグループは順番に実行され、同一グループ内のマシンは並列にフェールオーバーされます。
10. Runbookで「手作業の抜け」を減らす
DRで失敗しやすいのは、VM起動後の作業です。
VM起動後に必要になりやすい作業 | 例 |
IP/DNS切替 | Public IP、Private DNS、Traffic Manager |
証明書確認 | Key Vault、TLS証明書 |
アプリ設定 | Connection String、環境変数 |
監視設定 | Alert、Action Group |
Firewall/NSG | 復旧先通信許可 |
利用者案内 | 公開URL、運用連絡 |
業務確認 | ログイン、検索、登録、帳票、API |
Microsoft公式では、Azure Automation RunbookをRecovery Planに追加でき、手動介入が必要な基本タスクを自動化し、複数ステップの復旧を単一操作に近づけることができると説明されています。Runbookはフェールオーバー時やフェールバック時に実行できます。
11. 復旧先の容量は「ベストエフォート」として説明する
RTOを経営層に説明するとき、復旧先リージョンの容量も重要です。
Microsoft公式FAQでは、Site RecoveryチームとAzure容量管理チームは十分なインフラ容量をベストエフォートで計画すると説明されています。一方で、Site Recoveryは復旧リージョンの容量を保証するものではなく、さらに確実なコンピュート容量が必要な場合はCapacity Reservationが推奨されています。
表9:容量設計レビュー
項目 | 確認内容 |
VM SKU | 復旧先リージョンで同一SKUが使えるか |
vCPUクォータ | フェールオーバー時に必要なコア数があるか |
ディスク | Target diskの種類、性能、暗号化 |
IP | Private IP、Public IP、Load Balancer |
Capacity Reservation | 重要VMで必要か |
Reserved Instance | DR側の費用最適化に使うか |
テストフェールオーバー | 実際にVM作成できるか |
12. テストフェールオーバーは四半期単位で見直す
DR計画は、1回作って終わりではありません。
Microsoft公式の復旧計画ページでは、フルフェールオーバー前にアプリのテストフェールオーバーを完了すること、アプリがスムーズに復旧するまで複数回テストすること、アプリと依存関係は頻繁に変わるため各アプリのテストフェールオーバーを四半期ごとに実行することが推奨されています。
表10:DR訓練で確認する項目
項目 | 確認内容 |
実測RTO | Test Failover開始から業務確認完了まで |
実測RPO | 使用した復旧ポイント時刻 |
起動順序 | Recovery Planどおりに起動したか |
DNS | 利用者が復旧先へ接続できるか |
認証 | ログイン、権限、証明書が正常か |
DB | 整合性、トランザクション、アプリ接続 |
運用 | 監視、バックアップ、ログ、通知 |
例外 | 手動対応、未自動化、未保護リソース |
改善 | 次回までの担当・期限 |
13. 監視と証跡はAzure Monitor Logsで残す
Azure Site Recoveryは、監視・証跡を残せるように設計すべきです。監査で重要なのは、「訓練しました」ではなく、いつ、誰が、どのRecovery Planで、何分かかり、どのRPOだったかを示すことです。
Microsoft公式では、Azure Monitor LogsとLog Analyticsを使い、Site Recoveryの正常性、レプリケーション状態、テストフェールオーバー状態、イベント、RPO、データ変更率を監視できると説明されています。
表11:保存すべきログ
ログ | 用途 |
ASRJobs | フェールオーバー、テストフェールオーバー、再保護などのジョブ履歴 |
ASRReplicatedItems | レプリケーション正常性、フェールオーバー準備状況、RPO計算時刻 |
AzureActivity | Recovery Services Vault、ASR設定変更 |
AzureDiagnostics | 旧形式・診断ログ |
Service Health | Azure側障害の確認 |
チケット | 災害宣言、承認、作業履歴 |
DR訓練報告書 | 業務確認、課題、改善計画 |
ASRJobsテーブルには、Failover、Test failover、Reprotectionなどのジョブ、DurationMs、Status、OperationNameなどが含まれます。ASRReplicatedItemsには、ReplicationStatus、FailoverReadiness、LastRpoCalculatedTime、LastSuccessfulTestFailoverTimeなどが含まれます。
KQL例:テストフェールオーバーの所要時間確認
ASRJobs
| where TimeGenerated > ago(180d)
| where OperationName has "Test"
| project TimeGenerated, VaultName, OperationName, SourceFriendlyName,
Status, DurationMinutes = round(DurationMs / 60000.0, 2),
ResultDescription
| order by TimeGenerated descKQL例:保護対象のレプリケーション状態確認
ASRReplicatedItems
| summarize arg_max(TimeGenerated, *) by ReplicatedItemUniqueId
| project TimeGenerated, VaultName, ReplicatedItemFriendlyName,
ReplicationStatus, FailoverReadiness,
PrimaryFabricName, RecoveryRegion,
LastRpoCalculatedTime, LastSuccessfulTestFailoverTime
| order by ReplicatedItemFriendlyName asc14. ASRの費用もBCPに入れる
DR設計では、費用も経営判断の材料です。
Microsoft公式の価格ページでは、Azure Site Recoveryは保護インスタンス数に基づいて課金され、保護された各インスタンスは最初の31日間無料と説明されています。また、最初の31日間無料であっても、Azure Storage、ストレージトランザクション、データ転送、復旧VMのコンピュートなどの料金が発生する可能性があると説明されています。
表12:DR費用の説明項目
費用項目 | 内容 |
ASRライセンス | 保護インスタンス単位 |
レプリカディスク | 復旧先に保持するディスク |
復旧ポイント | スナップショット相当の保持コスト |
データ転送 | リージョン間レプリケーション |
Cache Storage | レプリケーション用 |
テストフェールオーバー | 起動したVMのコンピュート費 |
実フェールオーバー | 復旧先VM、ディスク、ネットワーク費 |
監視 | Log Analytics、アラート |
運用 | 訓練、Runbook、手順書、監査対応 |
15. BCP/DR突合台帳テンプレート
表13:BCP/DR計画とAzure設計の突合台帳
項目 | 記入例 |
管理番号 | DR-2026-001 |
対象業務 | 受注管理システム |
重要度 | Tier 1 |
業務RTO | 60分 |
業務RPO | 15分 |
復旧優先順位 | 1 |
対象Azureリソース | VM3台、SQL VM、Key Vault、Private DNS |
ASR保護対象 | VM3台 |
ASR対象外依存 | Key Vault、DNS、Firewall、Storage |
復旧先リージョン | Japan West |
Recovery Plan | rp-order-prod |
起動順序 | AD/DNS → DB → API → Web |
復旧ポイント方針 | 最新処理済み。DBはアプリ整合性確認 |
災害宣言者 | 情報システム部長 |
フェールオーバー承認者 | 経営層、業務責任者 |
テスト頻度 | 四半期 |
最終テスト日 | 2026-06-30 |
実測RTO | 42分 |
実測RPO | 7分 |
未解決課題 | DNS切替手順をRunbook化 |
次回改善期限 | 2026-09-30 |
16. RACI:誰が何を決めるのか
表14:BCP/DR運用RACI
作業 | 経営層 | 情シス責任者 | Azure基盤 | アプリ担当 | セキュリティ | 業務部門 | 監査/規程 |
業務重要度決定 | A | C | I | C | C | R | C |
RTO/RPO決定 | A | R | C | C | C | R | C |
ASR設計 | I | A | R | C | C | I | C |
復旧計画作成 | I | A | R | R | C | C | C |
DNS/ネットワーク切替 | I | A | R | C | C | I | I |
テストフェールオーバー | I | A | R | R | C | C | C |
災害宣言 | A | R | C | C | C | C | I |
フェールオーバー実行 | I | A | R | C | C | I | I |
業務再開判定 | A | C | C | C | I | R | I |
証跡保存 | I | A | R | C | C | C | R |
BCP改訂 | A | R | C | C | C | C | R |
R:実行責任、A:説明責任、C:相談先、I:共有先
17. BCP/DR突合で見つかる典型的なギャップ
表15:ギャップと是正策
ギャップ | 影響 | 是正策 |
BCP対象サーバーがASR未保護 | 復旧できない | 保護対象台帳を作成しASR設定 |
復旧計画がない | 起動順序が属人化 | Recovery Plan作成 |
RTOが実測されていない | 経営説明不能 | テストフェールオーバーで測定 |
RPO監視なし | データ損失説明不能 | Azure Monitor Logsで可視化 |
DNS切替が手作業 | RTO超過 | Runbook化・手順化 |
DB整合性未確認 | 起動後に業務不可 | アプリ整合性・DB側DRを確認 |
復旧先容量未確認 | フェールオーバー失敗 | クォータ・Capacity Reservation検討 |
PaaSがASR対象外 | アプリ全体が復旧しない | PaaSごとのDR手順を追加 |
訓練記録なし | 監査で弱い | 四半期テストと報告書 |
フェールバック手順なし | 元に戻せない | Reprotect/Failback手順整備 |
18. BCP文書に入れるべきAzure項目
表16:BCP文書への追記項目
項目 | 記載内容 |
対象システム | Azureリソース名、業務名、所有者 |
復旧目標 | RTO、RPO、優先順位 |
復旧先 | リージョン、VNet、Subnet、DNS |
ASR構成 | Vault、Replication Policy、Recovery Plan |
復旧ポイント | 選択基準、アプリ整合性、マルチVM整合性 |
起動順序 | グループ、依存関係、手動アクション |
切替 | DNS、Front Door、Traffic Manager、Firewall |
監視 | Azure Monitor、ASRアラート、Log Analytics |
承認 | 災害宣言、実行者、承認者 |
訓練 | 頻度、方法、証跡、改善 |
フェールバック | 再保護、切戻し、業務確認 |
例外 | 未保護リソース、代替策、期限 |
19. 規程文サンプル
第○条(Azure Site Recoveryを利用したBCP/DR管理)
1. 当社は、Azure上またはオンプレミス上の重要システムについて、
業務影響分析に基づきRTOおよびRPOを定義し、BCP/DR台帳に記録する。
2. Azure Site Recoveryを利用するシステムについては、
対象VM、復旧先リージョン、復旧計画、復旧ポイント方針、
ネットワーク、DNS、認証、監視をBCP文書と突合する。
3. Azure Site RecoveryのRTO SLAは、当社業務全体のRTOを保証するものではない。
当社業務RTOは、障害検知、災害宣言、フェールオーバー、VM起動、
DNS切替、アプリ確認、業務再開判断までを含めて管理する。
4. RPOについては、定義済みSLAに依存せず、
Azure Site Recoveryの復旧ポイント、RPO監視、テストフェールオーバー結果により確認する。
5. 重要システムについては、少なくとも四半期ごとにテストフェールオーバーを実施し、
実測RTO、実測RPO、課題、改善期限、承認者を記録する。
6. 復旧計画、フェールオーバー、フェールバック、例外対応、手順変更は、
変更管理手続に基づき、承認および証跡を残す。20. 経営層向け説明資料の1枚テンプレート
表17:経営向けDR比較資料
項目 | 現状 | 目標 | 差分 | 対応方針 |
対象業務 | 受注管理 | Tier 1 | 重要 | 最優先復旧 |
RTO | 不明 | 60分 | 未測定 | テストフェールオーバーで測定 |
RPO | 不明 | 15分 | 未監視 | RPO監視を有効化 |
DR方式 | VM単位ASR | アプリ単位復旧 | 復旧計画なし | Recovery Plan作成 |
DNS切替 | 手動 | 15分以内 | 手順未整備 | Runbook化 |
DB整合性 | 未確認 | アプリ整合性 | 検証不足 | テスト時確認 |
訓練 | 年1回未満 | 四半期 | 不足 | 訓練計画作成 |
証跡 | バラバラ | 監査提示可能 | 不足 | 台帳・KQL・報告書 |
21. 山崎行政書士事務所としての支援領域
Azure Site Recoveryの導入は、単なるクラウド設定ではありません。BCP、DR、監査、経営判断、契約、委託先責任、証跡管理と直結します。
山崎行政書士事務所では、Azure技術支援とクラウド法務・ガバナンス支援を一体で行います。
領域 | 支援内容 |
Azure技術支援 | Azure Site Recovery設計、Recovery Plan、テストフェールオーバー支援 |
BCP/DR突合 | BCP文書とAzure構成の差分整理 |
RTO/RPO整理 | 業務RTO/RPO、ASR実測値、復旧ポイントの説明資料 |
監査対応 | ASRJobs、ASRReplicatedItems、訓練報告書、承認証跡整理 |
規程整備 | BCP規程、DR運用規程、クラウド変更管理規程 |
経営説明 | 費用対効果、復旧優先順位、投資判断資料 |
契約・委託管理 | 運用委託、SLA、責任分界、報告様式整理 |
行政書士業務の範囲を踏まえ、個別紛争対応や訴訟代理など弁護士領域に属する事項は切り分けたうえで、企業がクラウドを安全に利用するための規程整備、契約関連資料、監査説明資料、運用ルール整備を支援します。
まとめ
Azure Site RecoveryでRTO/RPO/SLAを説明することは可能です。ただし、説明できるのは、Azure Site Recoveryの設定がBCP文書と一致し、テストフェールオーバーで実測され、証跡として残っている場合です。
重要なのは、次の5点です。
重要ポイント | 内容 |
RTO/RPO/SLAを分ける | MicrosoftのSLAと自社業務RTOは別 |
BCPとAzure構成を突合する | 文書・構成・手順・証跡を一致させる |
復旧計画を作る | 起動順序、依存関係、Runbookを定義する |
テストフェールオーバーで測る | 机上ではなく実測RTO/RPOで説明する |
証跡を残す | ASRジョブ、KQL、承認、改善履歴を保管する |
BCP文書とAzure構成が一致していなければ、災害時に「復旧できるはず」は通用しません。必要なのは、復旧できる設計、実測された訓練結果、監査で説明できる証跡です。
Azure Site Recovery設計、RTO/RPO/SLA整理、BCP/DR計画とAzure構成の突合、監査対応資料の整備は、山崎行政書士事務所へご相談ください。
出典・確認日
確認日:2026年7月9日
出典 | 確認した主な内容 | 表示日・公開日 |
Microsoft Learn:ディザスターリカバリーのためのアーキテクチャ戦略 | RTO/RPOの定義、IaaSではASRでフェールオーバーと復旧を自動化する考え方 | 2025年11月20日 |
Microsoft Learn:About Azure Site Recovery | ASRの保護対象、Azure VM・オンプレVM・物理サーバー等のレプリケーション | 2026年6月4日 |
Microsoft Learn:Azure VM disaster recovery FAQ | ASRのRTO SLA、復旧計画、復旧ポイント、容量、Capacity Reservation | 2025年7月25日 |
Microsoft Learn:Site Recovery general FAQ | フェールオーバーは自動ではないこと、復旧ポイント、クラッシュ整合性、アプリ整合性、保持期間 | 2025年6月13日 |
Microsoft Learn:Zone-to-zone disaster recovery | RTO SLAはSite Recovery全体と同じ、RPOに定義済みSLAはないこと | 2025年2月12日 |
Microsoft Learn:テストフェールオーバー | 本番に影響せず、データ損失やダウンタイムなしでDR訓練を検証できること | 2025年10月31日 |
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