RFPの“クラウド利用条件”は嫌がらせじゃない
- 山崎行政書士事務所
- 3 日前
- 読了時間: 10分

――発注者の事情を知ると、提案がラクになる
「RFPに“クラウドは日本国内リージョン限定”とか “外国に個人データを出しちゃダメ”って書いてあるけど、 こんなの現実的じゃないよ…嫌がらせか?」
クラウド案件のRFPを見た受注側から、そんなため息が漏れる場面、よくあります。
使えるクラウド事業者が限定されている
データ保管場所にやたらこだわっている
再委託や海外拠点を細かく聞かれる
「マルチテナントは原則禁止」みたいな条件がさらっと書いてある
受注側から見ると、“縛り”にしか見えないかもしれません。
でも、発注者側の社内を見ていると、あのクラウド利用条件は決して嫌がらせではなく、
「発注側の社内事情+法律+監査」の結果しかたなく、ああいう書き方になっている
ということが分かってきます。
今回は、
RFPに出てくる“クラウド利用条件”はどこから生まれているのか
受注側として、どう読めばいいのか
どう提案に落とせば「分かっている会社」に見えるのか
を、発注者視点+クラウド法務の視点で整理してみます。
1. RFPに出てくる「クラウド利用条件」って、具体的には何?
まずは、よくある“クラウド利用条件”をざっくり分類してみます。
よく見る条件の例
データ保管場所・国外移転系
「個人情報は日本国内のデータセンターで保管すること」
「国外のクラウド環境に個人データを保存しないこと」
「海外への第三者提供・委託が発生する場合は事前承諾」
クラウド事業者・サービス種別の指定
「パブリッククラウドは◯◯社のみ利用可」
「SaaS利用時は、当社が承認したサービスに限る」
「マルチテナントSaaSは原則不可、別テナント・専用環境を要望」
アクセス・認証まわり
「ID連携(SSO)必須」
「すべての管理者アカウントで多要素認証必須」
「外部からのアクセスはVPNまたはゼロトラスト基盤経由」
再委託・運用体制
「運用・監視の再委託先を開示すること」
「海外拠点によるオフショア開発・運用は原則不可」
「再委託先の変更には事前承諾を要する」
ログ・監査・インシデント対応
「アクセスログを◯年間保管すること」
「インシデント発生から◯時間以内に一次報告」
「監査・説明要求に応じること」
受注側からすると、
「そこまで指定されると、うちの標準クラウド構成がそのまま出せない…」
と感じる項目ばかりかもしれません。
でもこれ、発注側の「気分」ではなく、かなり具体的な事情から出ていることが多いのです。
2. なぜ発注者は、あえてクラウド利用条件を細かく書くのか
発注者側の事情を、大きく4つに分けてみます。
① 個人情報保護法・業界ガイドラインのプレッシャー
個人情報保護法の改正
マイナンバー・医療情報・金融情報などのガイドライン
海外クラウド利用に関する注意喚起
このあたりを受けて、発注企業の個人情報保護担当・法務・監査部門は、
「個人データがどこにあって、誰が見られるのか」「委託なのか、第三者提供なのか、国外移転なのか」
を、これまで以上にハッキリさせざるを得なくなっています。
その結果、
「個人データを海外リージョンに置くのは、現時点では社内承認が通らない」
「マルチテナントSaaSに預けると、説明・監査が大変すぎるので原則NG」
といった社内ルールが先にできあがり、それがそのままRFPに流れ込んでいるわけです。
② 監査・親会社・金融機関からの要求
上場企業・金融系・大企業グループでは、
親会社のガバナンス
グループ全体のセキュリティ基準
監査法人からの指摘
などから、
「クラウドはここまで」「この条件を満たしていないベンダとは契約しない」
という**“最低ライン”**が決まっていることが多いです。
RFP担当者自身も、本当は柔軟にやりたいものの、
「ここを緩めると、あとで監査に怒られる」
のが分かっているので、あらかじめ条件として明記せざるを得ない、という事情があります。
③ 過去の事故・ヒヤリハットの“反省”
現場で実際にあったインシデントや「ヒヤリ」が、そのままRFPの条件になることもよくあります。
過去に退職者アカウントが生きていて問題になった
海外拠点のベンダーからのアクセス経路が把握できていなかった
ログがすぐ消えるSaaSを使っていて、事故調査で困った
こういう経験をすると、
「次のシステムからは、ここだけは絶対条件にしよう」
という形で、かなりピンポイントな“クラウド条件”が生まれます。
④ 誰かが「リスクを引き受ける」ための根拠が欲しい
最後に、発注側の決裁プロセスの事情があります。
新システムを入れるとき、情報システム責任者や個人情報保護管理者が、「このリスクなら受け入れ可能」と判断して決裁します。
そのときに、
クラウド事業者はどこか
海外移転があるか
ログ・監査はどうなっているか
障害・漏えい時の対応はどうか
といった材料がないと、“責任を引き受ける”判断ができないのです。
だから、RFPの段階で
「こういう条件なら、そのリスクは受けられます」
という“線引き”をしておきたい。それが、クラウド利用条件になっています。
3. 受注側が誤解しがちな3つのポイント
発注側の事情が分かると、RFPのクラウド利用条件を見たときの受け止め方も変わってきます。
よくある誤解を3つだけ。
誤解1:
「“日本国内のみ”と書いてある=海外要素は一切ダメ」
現実には、
業務データ・個人データの保管は日本リージョン限定
ただし、クラウド事業者の運用上のログやメタデータまで完全にゼロにはできない
というケースがほとんどです。
にもかかわらず、受注側が
「海外要素が少しでも入るので、御社条件には合いません」と即ギブアップ
あるいは、逆に「全部国内です」と言い切ってしまい、後で矛盾が出る
という両極端な対応をしてしまうことがあります。
発注側が知りたいのは、
「どのデータが」「どの程度」「どんな目的で」海外に行くのか「それに対して、どんな契約・対策になっているか」
であって、
すべてゼロ
すべてNG
という単純な話ではないことが多いのです。
誤解2:
「マルチテナント禁止=専用環境でないと絶対ダメ」
RFPに「マルチテナント利用は原則不可」と書かれていても、
個人情報を扱うコア部分だけ専用環境に
それ以外はマルチテナントSaaSを利用
リスクが高い部分については追加の契約・監査・設定でカバー
という折衷案が通ることもあります。
ところが、
受注側が標準SaaSプランだけしか提案しない
あるいは、「専用構成にしたらこの価格です」とだけ出して終わり
という提案になってしまうと、発注側からすれば「選択肢がない」状態になってしまいます。
誤解3:
「再委託の制限=海外オフショアが嫌いなだけ」
再委託・海外拠点利用の制限は、
個人情報保護法上の委託・第三者提供
業界規制での“委託先管理”
情報漏えい時の説明責任・監査のしやすさ
といった事情から来ています。
発注側としては、
「どの会社が」「どの国で」「何の作業をしているのか」
が追える構造になっていれば、絶対に海外はダメ、というわけでもありません。
にもかかわらず、
実態として海外メンバーが関わっているのに、それを隠して提案
逆に、「一切関わらせない」前提で無理な見積もりをして自滅
というケースも少なくありません。
4. RFPのクラウド利用条件を「読み解く」コツ
受注側としては、RFPの条件を見て即「あきらめる/無視する」のではなく、
「この条件は、何を守りたい結果なのか?」
を読み解くところから始めると、提案の幅が広がります。
コツ1:
「守りたいもの」を言葉にしてみる
個人情報を海外に出したくないのか
業務継続性を確保したいのか
監査対応をシンプルにしたいのか
再委託先の数を増やしたくないのか
条件から逆算して、
「このRFPを書いた人たちは、何を一番怖がっているのか」
を仮説でいいので言葉にしてみると、提案の組み立て方が変わってきます。
コツ2:
「A案(完全準拠)+B案(現実的オプション)」の2段構えにする
A案:RFP条件に可能な限り忠実に従った構成
B案:一部条件を緩める代わりに、別の対策でリスクを下げる構成
という2案を出すのもひとつの手です。
例:
A案:日本リージョン専用/専用環境/フルマネージド
B案:一部マルチテナント利用+厳しめのアクセス制御+追加ログ+年次報告
こうしておくと、発注側も
「A案は理想だが高い。B案はリスク説明を聞いたうえで採用可能か」
という**“選択の議論”**ができるようになります。
コツ3:
「条件そのもの」を疑うより、「条件の背景」を聞いてみる
質疑応答の場などで、
「この条件は守れません」と突き返すよりも、
「この条件で一番気にされているポイントはどこでしょうか?」
と、背景を聞いてみると、案外「ここさえ守ってくれればOK」という“真の条件”が見えてくることもあります。
もちろん、すべての発注者が丁寧に教えてくれるわけではありませんが、少なくとも
「発注側の事情を理解しようとしているベンダー」
として、印象はまったく変わります。
5. やってはいけないRFPクラウド条件への対応
逆に、これは危ない…という対応パターンも整理しておきます。
NGパターン1:
「大丈夫です」「問題ありません」だけで押し切る
条件を読んでいるのか読んでいないのか分からない
何がどう「大丈夫」なのか説明がない
後から構成や契約を見たら、全然条件を満たしていなかった
発注側としては、一番不安になるパターンです。
NGパターン2:
条件を完全スルーして“いつもの構成”だけ提案
提案書が、会社標準のクラウド構成のコピペだけ
RFPに書いてある条件との関係が何も説明されていない
「うちはいつもこの構成なので」という気持ちは分かりますが、発注側からすると
「この会社、RFPちゃんと読んでるのかな…」
という印象になります。
NGパターン3:
後出しで「実は海外拠点で運用しています」
提案時には国内だけのように書いておき、
契約や実装の段階で「実は海外拠点も関わります」と判明
これは、発注側法務・情シスからすると完全にアウトです。
最悪、案件そのものが白紙に戻る
その後の別案件でも声がかかりにくくなる
というリスクがあるので、「どこまでなら海外が関わるのか」は最初から正直に出したほうが、結果として話が早いことが多いです。
6. 山崎行政書士事務所がお手伝いできること
山崎行政書士事務所では、発注側・受注側の両方のクラウド案件に関わってきた経験を活かして、
RFPに書かれているクラウド利用条件を「法律・ガイドライン・発注者社内ルール」の観点から読み解くサポート
受注側が出す提案書について、クラウド構成・データ保管場所・再委託・ログ・インシデント対応などの説明パートを、発注者に伝わりやすく書き直すお手伝い
RFP条件に対して
A案(条件完全準拠)
B案(現実的オプション+リスク説明)をどう設計するかの整理メモ作成
その内容と整合したクラウド利用規程・情報セキュリティチェックシート・契約条項案の整備
などを行っています。
「RFPのクラウド条件を読むと、いつも『うちの標準構成じゃムリだ』で思考停止してしまう」
「正直に実態を書いたほうがいいのは分かるけど、どう表現すれば発注側に伝わるのか分からない」
という受注側の会社さんに対して、発注者の“中の人目線”も踏まえた現実的な落としどころ探しを一緒にお手伝いできます。
静岡県内のシステム開発会社・クラウドベンダーの方で、実際のRFPや提案書の現物を見ながら整理したい、というご相談も歓迎です。
RFPのクラウド利用条件は、決して受注側をいじめるための“嫌がらせ”ではなく、
「発注側が社内や法律と折り合いをつけるための、ギリギリのライン」
であることがほとんどです。
その事情を少しだけ理解してもらえれば、条件を「壁」として見るのではなく、
「発注側が本当に守りたいポイントを当てにいくヒント」
として使えるようになります。
その視点を提案書に織り込める受注会社は、クラウド時代の案件でも**“長く付き合いたい相手”**として選ばれやすくなります。





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