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「橙色の月」とミカンの妖精たち

  • 山崎行政書士事務所
  • 1月23日
  • 読了時間: 5分


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 静岡市の山あいには、古くからミカンの木々が里山の景観を彩ってきました。しっかり枝を張る木々と甘酸っぱい香りを放つ実。その光景を見ながら育った少年・**晴太(はるた)**は、毎年ミカンが色づく季節が大好きでした。

 しかし、近年は天候不順や土壌の疲れから収穫量が落ち、木々もなんだか元気がないように見える。そんな農家の苦労を手伝いながら、晴太は「このままではミカンがなくなってしまうのでは?」と不安を抱え始めていました。

オレンジ色に染まる夜

 ある秋の夜、晴太は家の庭先で雑誌を読みながらウトウトしていると、ふと風が止み、辺りがしんと静まり返りました。見上げれば、いつもより大きく見える満月が、鮮やかなオレンジ色を帯びているのです。

晴太「なんだろう……月がこんな橙色なんて、珍しい……。」

 寝ぼけたまま庭を出て、近くのミカン畑へ歩み寄ると、その光に照らされてミカンの実がぼんやりとオレンジの輝きを増しているようにも見えました。

妖精たちの集会を目撃

 やがて、どこからともなく細い鈴のような音色が風に乗って聞こえ、晴太は音を頼りにミカンの木の下を覗きこみます。すると驚くべき光景が――。枝葉の間から、小さな人型の妖精たちがふわりと宙を舞い、まるで集会のように何かを話し合っているのです。

 妖精たちは、まるでミカンの実を模したようなオレンジ色の衣を纏い、ぼんやり光を放ち、楽しげながらも少し焦りを含む声で囁いています。

妖精A「今年は土が荒れて、木が実を十分につけられないかもしれない……。」
妖精B「しかも天候が異常続きで、蜜の甘みが薄くなりそうだ……。どうにか守ってあげたいのに、人間は気づいてくれない……。」

 その声を聞いた晴太は思わず「そんなことないよ。ぼくはミカンを守りたい」と口を挟んでしまいました。すると妖精たちはぎょっとして振り返り、空気が一瞬止まる。

妖精たちとの対話

 妖精の長らしき存在が、葉の上にそっと腰かけ、静かに晴太を見つめます。

妖精の長「人間の子よ、なぜ我らの声が聞こえる?ここは“橙色の月”が昇る夜にだけ現れる、ミカンの妖精たちの集会の場……。もしあなたが本気でミカンを守りたいのなら、わたしたちの話を聞いて手を貸してほしい。」

 晴太は胸を高鳴らせながら、「ぜひ力になりたい!」と声を大にして答えます。妖精たちは少し安心した顔を見せ、「実は近ごろの環境や人間の行動で、ミカンの木々が弱り、蜜の味が薄れ、収穫量も下がっている。これは人間にも影響があるはず……」と続けました。

晴太「たしかに、地元の農家さんもみんな困ってる。いったいどうすればいい?」

木々を護るための行動

 妖精たちは、いくつかの「人間が協力できること」を教えてくれます。

  1. 土を大事にする: 農薬や化学肥料の使いすぎを控え、地力を高めるために堆肥など自然に優しい方法を取り入れる。

  2. 雑草や生き物との共存: 虫や小動物が豊かな土壌を支えることもあるので、全てを排除せずバランスを保つ。

  3. 地域を巻き込む活動: SNSや学校を通じて、若い世代にもミカン畑の大切さを知ってもらい、みんなで収穫体験や植え替えイベントを企画する。

 こうした提案に、晴太は目を輝かせて「ぼくもやりたい! みんなで守ろう」と決意を固めます。すると妖精たちは「それでは、あなたはわたしたちの伝達役。風に乗せたい思いを、人々に広めてほしい」と口々に言います。

妖精の長「“橙色の月”が昇る夜には、また会えるかもしれない。それまでに、どれだけ人間が行動できるか……。どうかお願いしますね。」

仲間との協力と山の変化

 翌日、晴太は友達や家族に話をしてみます。最初は「そんな妖精が現れるわけないだろう」と笑われたり、「夢でも見たんじゃないの?」と冷やかされたり。けれど、近隣の農家の人々は「確かに最近ミカンがうまく育たなくて困っている」という声が多く、少しでも試してみようと賛同してくれる人が現れます。

  • 土作り教室を開き、有機肥料の作り方を学ぶ

  • 地元の学校で「ミカンの木を守ろう」というワークショップを開催

  • 収穫祭イベントで、地元産ミカンの試食や農家との交流を進める

 こうした取り組みが進むにつれ、少しずつ木々が元気を取り戻し、葉や枝に勢いが戻っていくのを感じる。まるで妖精たちが喜んでいるかのように、夜風がやさしくミカン畑を揺らす。

再び昇る“橙色の月”

 数ヶ月後、また満月の夜がやってきた。晴太は畑の真ん中で空を仰ぐと、今回は一段と大きくオレンジ色に染まった月が昇り始めている。まるで「さあ、あなたはどこまでやれたの?」と問いかけるように見えた。

 虫の音がやみ、木々がそよそよと揺れると、またもや妖精たちが姿を現す。柑橘の香りとともにオレンジ色の光が畑を照らし、妖精たちはあちこちで小さく踊るように舞う。

妖精の長「ありがとう、晴太。あなたがみんなを巻き込んでくれたおかげで、木々は息を吹き返し、今年は実も甘くなりそうだわ。」

 晴太は照れつつも、「いや、まだまだ課題は多いよ。でも、ちょっとだけ希望が見えた」と答え、微笑む。

未来へと続く絆

 こうして、ミカン畑は少しずつ活気を取り戻し、農家たちにも笑顔が戻る。満月の夜にだけ現れる**「橙色の月」**は、まるでそっと見守るように毎月巡ってくるが、それを本気で感じ取れるのは、自然を思いやる心を持つ者だけなのかもしれない。

 晴太は農業高校への進学を考え始め、「いつか自分が本格的にミカンを育て、自然と人との架け橋を作りたい」と新たな夢を抱くようになった。妖精たちも、夜の風に乗って「あなたならきっとできる」とささやいているよう。

晴太「この土地で、ぼくが木を守り、木がぼくたちを育ててくれる――そんな関係をずっと続けられたら、きっと橙色の月は、これからも明るく輝きつづけると思うんだ。」

結び――夜空に舞うオレンジの奇跡

 もしあなたが静岡市の山あいで、満月の夜に外を歩くことがあれば、ぜひミカン畑をのぞいてみてほしい。もしかすると、その木々の陰で、小さな妖精たちが集会を開き、風に乗ってあなたの思いを聞いてくれるかもしれない。柔らかなオレンジ色の月光が地面を染めるころ、自然と人間を結びつけるその光景は、静かに胸を温めてくれることだろう。

 橙色の月は、ミカンの香りとともに、今日も夜空を彩りながら、未来への希望をそっと照らしている。

 
 
 

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