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タイムスリップ夫の逆襲!? 〜坂口あやめの悲喜こもごも〜




坂口あやめは老舗出版社「米星社(こめぼししゃ)」の文芸編集者。周囲からは「活字命のワーカホリック女」とうわさされるほど仕事熱心だ。しかし、こと恋愛に関してはさっぱりツキがない。先週も婚活パーティーで某経営コンサルタントに「君の職場の社名、なんか“まずそう”だね」と失礼極まりないコメントを受けてドン引きしたばかりだ。

 そんなツキのないあやめが、ここ数日間、トレンチコート姿の怪しい中年男に尾行されていた。出社しようと家を出れば、向かいの電柱からひょっこり顔を出し、ランチに向かおうとオフィスを出れば、遠巻きに紙袋で顔を隠して付いてくる。その挙動不審ぶりは、もはやSNSで「闇組織のスパイ疑惑」として拡散してもおかしくないレベルだ。

 しかしある日、あやめが思い切って「ちょっと! あなた何者ですか!」と詰め寄ると、その中年男は振り向きざまに、「やっと気づいてくれた! 君が僕を知らないはずはないんだが…ま、いろいろあってね」と、やたら含みのある薄笑いを浮かべた。そして衝撃のひと言を口にする。「実は10年後の未来から来た、楓井裕作(かえでい・ゆうさく)です。君の…未来の旦那さまだ」

 当然、「何言ってんだコイツ!」と逃げ腰になるあやめ。仕事のしすぎで脳が疲れたのか、マッチングアプリでとんでもないおじさんを引き当てたのか…。一瞬いろんな可能性を考えるが、翌日も翌々日も、トレンチコート中年・裕作は「ブキミな尾行&いきなり説教」を繰り返す。しかも言うことがさらに怪しい。

「いいかい、あやめ。僕たちは10年後、ものすごい勢いで離婚するんだ。財産分与で泥沼、家庭内のWi-Fiパスワードすら教え合わないほど仲が最悪になるんだよ。だから今のうちに、君と僕が結婚しない未来を作らなきゃいけないんだ!」

 確かに家のWi-Fiパスワードを夫婦で隠し合うとはよほどだ。あやめは一瞬、「もしかして本当に未来の夫…?」と疑い始める。が、それ以上に「なんでわざわざ過去に戻って結婚を阻止しようとするの?」という疑問も頭に浮かぶ。裕作の説明によれば、「離婚のショックでどん底な僕が、タイムマシン開発会社にヤケクソで投資したら奇跡的に成功。気づいたら実験台にされてた」という斜め上をいく展開らしい。

 ところが、そんな裕作のストーカーまがいの画策もむなしく、あやめは運命の出会いを果たしてしまう。それは、出版社の新規取引先としてやってきたばかりの30歳のライター・楓井裕作(同姓同名の現在版)。未来の裕作と比べると若々しく、どこか頼りなさげで、でも無邪気に笑う姿が「とんでもなく愛らしい!」とあやめのハートを鷲づかみにしたのだ。

「僕、デビュー作は“親バカ日記”のシリーズなんですけど、実は結婚したことも子どももいなくて……。だけど、将来は明るい家庭が欲しいなって思ってるんです」

 きらきらした瞳でそう話す現在の裕作に、あやめの妄想は爆発。「数年後には私との幸せな新婚生活…うふふ…それともやっぱり財産分与とWi-Fiパスワードをめぐる大バトル…?」と頭がごちゃごちゃになりながらも、頬が熱くなるのを止められなかった。

 一方、未来の裕作は「まずい! まさに今、その運命的出会いが成立した瞬間だ!」と焦りに焦り、ありとあらゆる手を使って二人の接近を阻止しようとする。ランチに誘おうとする現在裕作のスマホを悪意あるアプリで遠隔操作して強制シャットダウンしたり、「あの男はタダで原稿を書く守銭奴だ!」と意味不明な噂を社内に流したり。しかし、どれも裏目に出てしまい、現在裕作が「どれだけトラブルが起きてもあやめさんに会いたいんだ!」とますます燃え上がる原因に。

 そしてとある晩、あやめの自宅前にそろい踏みした二人の裕作——すなわち「怪しげ中年トレンチコートVer.」と「爽やか若手ライターVer.」が鉢合わせしてしまう。

「ええい! 昔の僕、そこをどきたまえ! 我々が結婚しても不幸になるだけだぞ!」 「いや、確かに将来どうなるかは怖いけど、僕はあやめさんと一緒にいたいんだ!」

 夜の住宅街に中年と青年が同じ顔でバチバチやりあう光景は、近所の犬たちが思わず一斉に遠吠えを始めるほどシュールだ。慌てて仲裁に入るあやめは、勢い余って未来の裕作にビンタしてしまう。

「ごめんなさい! でも、あなたの言っていることは理解できないわけじゃない。だけど今の私は、やっぱり今の裕作さんを好きになっちゃったの!」

 すると、中年トレンチコートの裕作はズルリと膝から崩れ落ち、肩を震わせた。しかし、よく見ると号泣でも怒りの震えでもなく、なぜか嬉し泣きのようだった。

「……実はさ、過去のあやめに会ってみて、忘れてた気持ちを思い出してしまったんだ。僕にも、こんなに真っすぐなところがあったんだなあって」

 うっかり自己救済してしまった未来の裕作。「じゃあ、結婚阻止はどうするんだ?」というあやめの問いには、「ま、これも運命ってやつかな」と、ひどくあっさり達観している。タイムスリップという壮大な計画が、まさかの“自分探し”の旅になってしまったのだ。

 こうして、あやめと現在の裕作は無事(?)結ばれる道を歩み始めた。未来の裕作は「やっぱり人は、学ばないといけないんだな」としみじみつぶやきながら、再びどこかの時空へと帰っていった……らしい。   ところが数日後、あやめが部屋の掃除をしているとクローゼットの奥で発見したのは、例の中年トレンチコートと同じ柄のコート。しかもポケットには「Wi-Fiパスワード:U_&_A-forever」と書かれた紙切れが!   ——未来は変わったのか、それとも変わっていないのか。それは神のみぞ知る…というより、今宵もトレンチコートの男があやめをどこかで見守っているのかもしれない。ともかくあやめは今日も元気に出社し、仕事に恋にと忙しく駆け回る。いつの日か、また奇妙な未来夫が現れても慌てないように、社内Wi-Fiのパスワードをこっそり変えておくのを忘れずに——。

(了)

 
 
 

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