デパート外商の暗部
- 山崎行政書士事務所
- 2025年2月2日
- 読了時間: 8分

序章──華やぎの奥に潜む暗部
煌びやかな店内。ショーウィンドウに映える最新ファッションや宝飾品。そして、満面の笑みを浮かべて客を迎えるスタッフたち。 しかし、そんな「おもて」の奥では、外商部と呼ばれる特殊部隊のようなセクションが、常に“数字”をめぐる熾烈な闘いを繰り広げている。 彼らは、一般客が知ることのない「VIPサロン」や「特別室」で、富裕層や企業経営者、資産家などに商品を売り込むプロ中のプロだ。 それだけなら通常の営業とも言えるが、ある種の外商たちは、顧客の財布をこじ開けるためなら手段を選ばない。ときに法のグレーゾーンを踏み越えそうになりながら、「詐欺ギリギリ」の手口で迫るのである。
第一章──ノルマに追われる外商マン
1. 架空の「限定商品」
「いやあ、今回のコレクションは当百貨店だけの完全限定品ですよ。世界で十本しか作られていないんです」 そう嘯(うそぶ)きながら、外商部員の佐原は、指先で宝飾時計のケースをコンコンと叩く。目の前で座る顧客は、会社経営で急成長を遂げたばかりの神田。高級品に弱い“成金”と噂される人物だ。 しかし実のところ、そうした「限定品」の多くは、実際には追加生産の予定があったり、在庫を抱えている倉庫が存在したりする。卸先のブランドも本当の数量を明かさず、口裏を合わせるのは珍しくない。 「世界限定〇点」――それは富裕層の購買欲を煽るには魔法の言葉だ。だが、客が国際的なブランド情報に詳しくない限りは、“ウソ”がバレる可能性は低い。 佐原は、期間限定のノルマ達成のため、客を信頼させるような言葉を次々と並べ立てる。 「いま仕入れたばかりで、まだ店頭にも出しておりません。神田さまだけに特別に見せてるんですよ」 神田が食いつけば、その売上が佐原の“ランキング”を大きく押し上げる。そうなれば、デパートからの“ボーナス”や“海外研修”といったインセンティブが確定的となるわけだ。
2. 「残り一個」のカラクリ
時には「もう在庫が残り一個しかない」と焦らせ、購買を煽ることも多い。だがそれは、同じく外商部の別の倉庫にいくつも眠っている“はず”の在庫だったりする。 「ま、バレなきゃいいんだよ」 そう呟きながら、佐原は同僚にコソッと指示を出す。 「どっちの倉庫にも在庫があるのを客に知られないように“管理表”いじっとけ」 社内システム上では“一点限り”と表示されているが、それは都合よく“書き換え”が行われただけ……というのが実態だ。
第二章──有名人を利用した“権威づけ”
1. 架空の「セレブ御用達」
外商部には、顧客の耳目を引くための“定番フレーズ”がいくつもある。 「こちらは有名女優の○○さんもこっそり愛用してまして……」 「先日、某経営者ランキング一位の△△氏がまとめ買いされたんですよ」 こういった“権威づけ”は、ビジネス書で言うところの基本テクニックにすぎない。だが問題は、その中身がほとんどデタラメだったりすることだ。 ――女優が本当に使っているかどうかなど、客は確かめようがない。仮にその芸能人がSNSなどで商品を見せたとしても、事実との整合性を調べる人はごく少数だ。 実際は「そのブランドがプレスリリースとして出した広告モデルだった」というだけ、あるいは「一度イベントで手に取っただけ」なんてケースもある。 顧客をその気にさせるため、**“嘘も方便”**がまかり通っている。
2. 自称「専属スタイリスト」の闇
外商が自分を“専属スタイリスト”と称して、顧客のファッションコーディネートに口を出すケースも増えている。「一流ブランドに精通したプロが、トレンドを取り入れて提案します」と謳えば、客はカリスマ的なサービスを期待する。 しかし実際は、ブランド側から「古い在庫をなんとか売り切ってくれ」と依頼されることもある。売れ残りのジャケットやバッグを、言葉巧みに「今季のマストバイ」「ヨーロッパでも流行の兆し」と仕立て上げる。 「いやぁ、この色が今年のパリコレでも注目ですよ」などと言われると、顧客は「そうなのか」と信じてしまう。もちろん実際のコレクション情報とは無関係なことがほとんどだ。
第三章──顧客情報の違法すれすれ収集
1. 顧客のクレジットスコア操作
外商の独自クレジットには、社内ブラックボックスと呼ばれるシステムが存在すると囁かれている。正式には「VIP顧客ステータス管理」と呼ぶらしいが、実態は顧客がどこまで買い支えられるかを示す“内部格付け”に等しい。 「こっちは資産数十億円のオーナー。既に別の百貨店でも大量に買ってるけど、未払いトラブルはあるか?」 「こっちは医師免許持ってるって言うけど、実態は借金まみれらしいぞ?」 デパートが個人情報をどこから仕入れるのかは疑問だが、裏ではプライバシー保護法のギリギリをかいくぐるようなルートで、金融機関や不動産業者、場合によっては探偵まがいの人物との繋がりを使うこともある。 「賃貸契約の審査情報と照らし合わせて、この客に本当に金があるかどうか探れ」 そんな指示が飛び交うのが現実だ。
2. 家族構成や弱みを駆使
顧客の家族構成や趣味、交友関係は、上質な営業ツールになる。 「奥様が誕生日なんですよね? それなら、こちらのパールネックレスも一緒にいかがです?」 さらに裏では、「この夫婦、最近険悪らしい。奥様に関する話題を避けた方がいい」「あの企業の二代目息子は学歴コンプレックスがあって、ブランド品で見栄を張りたがる」などの“裏情報”まで共有される。 ここまで徹底的に個人情報を収集できるのは、外商という立場で家庭の中まで踏み込めるから。ときには個人の家に入り込んで衣料品のフィッティングを手伝ったり、収納状態をチェックするフリをして財産の規模を推測したりもする。
第四章──詐欺まがいの受注テクニック
1. 一旦キープ“仮受注”の裏事情
外商部には「仮受注」という慣習がある。客が「検討する」と言っただけで、「その場では決定していないにもかかわらず」受注扱いで社内システムに入力してしまうのだ。 「後からキャンセルになったらどうするんですか?」と若手が聞いても、先輩はヘラヘラと笑うだけだ。 「当たり前だろ? とにかくイベント期間中に“数字”を積み上げなきゃ、こっちが怒られるんだから」 もちろん後からキャンセルが確定すると、数字は下がる。だがその時点で上司のチェックは終わっており、責任を厳しく追及されることは少ない。決算やキャンペーン集計の期日をずらし、一時的に“高成績”を演出するのだ。 顧客が後日「そんな高額商品、頼んでない」と揉めても、「手配が進んでいて今さら引き返せないんですよ」と責め、無理やり買わせようとする例すらある。 ――これこそ、詐欺紛いの商法と言わざるを得ない。
2. “二重価格”で得するのは誰か
よくあるのが、表向きの定価とは別に「特別価格」を設定して客に提示する手法。 「これは本来500万円なんですが、外商のお得意様なので“社外秘”ですが400万円にいたします」 一見、顧客が得しているように見える。ところが実情は、仕入れ原価が200万円程度だったりもする。つまり、最初から相場とかけ離れた“高値”の定価を設定しておき、“外商割引”を見せかけて実は通常より大きく儲けるというわけだ。 さらに悪質なのは、それでもまだ顧客が渋る場合。 「もうひと声、350万円くらいで買えませんか?」 と客が言えば、「上司に掛け合ってみます」と一芝居打った後で「特別にOKが出ました。これ以上は本当に無理です」と落とす。この“ごり押し値引き”シナリオまでが、外商部によくある“テンプレ”なのだ。
第五章──“被害者”なのか、それとも“共犯者”なのか
1. 富裕層の虚栄心につけこむ
こうした半ば詐欺じみた取引が成立してしまう理由は、顧客側にも“弱み”があるからだ。 たとえば、**「誰も持っていない限定品を自慢したい」**という虚栄心、「複雑な支払いスキームを駆使して節税したい」という後ろ暗さ、「会社経費で落としたい」というグレーな意図――。 外商マンたちは、その心理を見抜いている。だからこそ「社外秘」「限定」「裏ルート」といった言葉を散りばめれば、相手が自発的に“美味しい話”と思って飛びついてくるのだ。 結果、「外商」も「顧客」も、グレーを共有して“ウィンウィン”に見える構図になる。だからこそ、なかなか被害者が声を上げない。むしろ“納得して買っている”場合も多い。
2. 後に残るしわ寄せ
しかし、グレーな手口はいつか崩壊する。大量に買い込んだ顧客が後から冷静になって「こんなに不必要なものを契約させられた」とクレームを出せば、トラブルに発展しやすい。 特に、法人名義で購入した品が実は個人利用だった場合、税務調査などで引っかかれば大問題になる。そこで客が責任回避に走り「外商にそう誘導された」と主張すれば、外商側も不正共謀の疑いをかけられる。 こうして、顧客と外商が互いに責任をなすり合う泥沼化は、過去にも例がある。表沙汰にならないよう、多額の“示談金”をデパートが用意して収束させるケースすら存在するという。
終章──闇は続いていく
華々しいデパートの外商部。その実態は、**「詐欺まがい」と「虚栄心」「欲望」「隠蔽」**が渦巻く闇の世界とも言える。 もちろん、すべての外商マンが違法スレスレの行為をしているわけではない。誠実に接し、顧客を本当に満足させようとする者もいる。 しかし一方で、成績を取れない者は生き残れないという厳しい現実が、外商マンたちの背中を押し、グレーゾーンへと手を伸ばさせる。顧客側もまた、“後ろ暗い下心”を抱える者ほど、そうした誘惑に乗りやすい。 こうして、誰もが“ウィンウィン”だと思い込み、長らく続いてきた構造は、やがて大きな破綻を迎えるのか――それとも、巧妙に糊塗されながら今後も存続するのか。 真実は、豪奢に飾り立てられたVIPサロンの奥で、いまだ密やかに呼吸を続けている。背を向けて通り過ぎる常連客も、笑顔を浮かべる外商マンも、その息づかいを知りながら、今日もなお金と名声を求めて手を取り合うのだ。





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