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ミカン畑の「時間の果実」

  • 山崎行政書士事務所
  • 1月23日
  • 読了時間: 5分

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静岡市の郊外、なだらかな丘に広がる古いミカン畑があった。地域の人々はそこを「時の畑」と呼んでおり、かつて栄華を極めた時代の名残や、数多くの人々の手で丁寧に育てられた歴史が、畑全体に染みこんでいるようだ――と囁かれていた。

アルバイトの青年と不思議なミカン

 康介(こうすけ)という青年は、大学の休みを利用してこの古いミカン畑でアルバイトをしていた。収穫の手伝いや畑の手入れをしているうちに、ここに流れる穏やかな空気に惹かれ、いつの間にか畑のことをもっと知りたいと思うようになっていた。

 ある日、夕暮れの畑でひとり作業をしていたとき、康介はひときわ大きなミカンの木の根元で、黄金色に光るような実を発見する。よく見ると、他のミカンよりも少し透きとおるような艶をしており、不思議な香りを放っていた。

康介「こんな色のミカンがあるのか……? まるで太陽を閉じこめたみたいだな。」

 好奇心に駆られた彼は、それをひとつそっと摘み取り、思いきって口に含んだ。すると、甘酸っぱい果汁が舌の上で弾けた瞬間、頭の中でふわりと浮遊感が広がり、まるで意識が飛ぶように世界が歪んだ――。

時を超えた記憶

 気づくと、康介は見覚えのない景色の中に立っていた。そこは同じミカン畑らしき場所だが、遥か昔の時代を思わせる。道も舗装されておらず、人々は着物のような衣装を纏い、手作業で畑を耕している。

 そこでは笑い合う農家の家族、行き交う馬車、そしてどこからか聞こえる昔の方言――すべてが、いま自分が知る時代とは違う。「これは……過去の静岡市……?」と困惑しながら、康介はまるで映画のセットに放り込まれたような気分になる。

過去の農家の声「この丘の土は火山灰まじりで、ミカンがよく育つんじゃよ。昔からこの地の人々の努力と愛情で、甘い実が実るんだ……。」

 その言葉を聞いた瞬間、光が溢れるように視界が白くなり、再び意識が朦朧とした――。

ミカンの木が見てきた時代

 次に目を覚ますと、また同じ場所らしいが、今度は少し近代の雰囲気を感じる。木々は昔ほど多くないが、どこかで機械の音が聞こえる。農家の人々が車を使ってみかんを運んでいる様子が見える。地元ブランドを立ち上げようと意気込んでいる話が耳に入るが、その一方で「若者が減って困る」という嘆きもある。

農家の声(近代)「この土地のミカン、もっと多くの人に知ってもらえればいいのに……。でも時代が変わって、大規模化が進むから、ここみたいな小さな畑は苦しいんだ。」

 またしても光が弾け、時が進むかのように風景が切り替わる。短時間にいくつもの時代の畑を目の当たりにし、康介は頭が混乱しつつも、「ああ、このミカンの木はずっと人々の営みを見てきたんだな」と痛感する。

現実へ戻る

 急に頭が軽く痛み、ふっと視界が白んでいくと、いつの間にか康介は元の畑、夕暮れの風が吹き渡る現代の静岡へ戻っていた。周囲には誰もいないが、落ち葉を踏みしめる音が妙にリアルに響き、さっきまでの不思議な旅が幻だったのかと疑うほど。

 けれども、口の中にはまだ少しあの不思議なミカンの余韻が残っている。その香りと、見たこと聞いたことの全てが、まるで現実と同じくらい鮮明な記憶として心に刻まれていた。

康介「このミカンの木には……時を超えた記憶が宿っていたんだ。ぼくは、その記憶の断片を見た……。こんな経験、信じてもらえないかもしれないけど、伝えなきゃいけない……。」

農園の歴史と自然の大切さ

 翌日から、康介はアルバイト先の古いミカン畑を一層丁寧に見回り、農家の人にも「ここの木は、いろんな時代を見てきたんですね」と話し出す。最初は「何を言ってるんだ」と笑われたが、やがて興味を示す人も現れ、畑の過去の写真や記録を探してみることに。

 その中から分かったのは、昔はこの土地がすごく賑わっていたこと、戦中戦後の厳しい時代を乗り越えてきたこと、そして時代ごとにやり方を変えながら、代々の人々がミカンを守ってきたという事実だった。今の経営難を嘆くばかりではなく、過去から学んで未来へつないでいく意志が必要なのだと分かってくる。

康介「ミカンの木は、こんなにも人の歴史を見つめてきたんだ。そして何度でも復活してきた……ぼくたちが本気で守ろうとする限り、きっと再生できる気がする……。」

新しい挑戦

 こうして康介は地元の仲間や農家の人たちと議論し、新しい取り組みを始めることになった。例えば、昔ながらの手間ひまをかける農法を見直したり、観光客向けの体験型イベントを企画したり、SNSやイベントで美味しいみかんをアピールしたり……。

 最初は大変だったが、歴史と自然を融合させた独自ブランドが少しずつ認知され、人々の関心を集めるようになる。康介は「ミカンの木が見てきた過去を大事にしながら、未来を作るんだ」と、粘り強く企画を進めた。

“時間の果実”との再会

 しばらくして、畑に活気が戻りはじめ、木々も生き生きとした葉を茂らせる季節になると、康介はまたあの不思議な実――「時間の果実」に出会う。夕暮れの斜光が差しこむ中、古い木の奥の枝に黄金色の実がぽつんと揺れている。

 今度は迷わず手を伸ばし、口に含む。しかし今回は意識が飛ぶことはなく、穏やかな暖かさを身体に感じるだけだ。だが、そのぬくもりから過去の記憶もほんのり伝わってくるようで、「この木が見てきた歴史は、まだまだ続いているんだ」という希望を感じる。

康介「この果実はやっぱり、俺たちの思いに応えてくれてるんだな。そして、どんな時も、未来を信じてる……。」

結び――ミカンの木が語る歴史

 こうして“時間の果実”を味わった青年は、ミカン畑が抱える長い歴史と自然の大切さを学び、自分たちの未来への行動に踏み出した。その動きが周囲に広がり、やがて地域全体のミカン産業に活気を取り戻すきっかけにもなっていく。

 
 
 

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