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ヨウジヤマモト 2025-26年秋冬コレクション 技術的・哲学的考察

ヨウジヤマモトの2025-26年秋冬コレクションは、技術的な巧みさと深遠な哲学を兼ね備えた作品集となっています。以下では、素材・縫製・デザインといった技術的側面と、色彩・美学・時代背景・ジェンダー観などの哲学的側面から、このコレクションを詳細に考察します。

技術的考察

1. 素材 (Fabrics)

  • ウールコレクションの多くを占めるのは厚手のウール生地です。ウールの持つ保温性と質感が、冬の寒さに備えると同時に、重厚なシルエットを形作っています。特にキルティング加工されたウールジャケットやコートは、ボリューム感とテクスチャーで存在感を放ちます。

  • レザーレザー素材も随所に使用されています。例えば、オフショルダーのコルセット風トップやアクセント部分にレザーが取り入れられ、ウールとの異素材ミックスで視覚的コントラストと機能性を両立させています。レザーは剛性があり形状を保持するため、鋭いパワーショルダーやコルセットの構造を支えるのに適しています。

  • シルクや合成素材明示的な記述は少ないものの、コレクション内の流れるようなドレープや光沢から、シルクやサテン、ハイテクな合成素材(例えばネオプレーン)も使われていると推測されます。柔らかく流動的な生地は、硬質なウールやレザーとの対比で、衣服にリズムと奥行きを与えています。

  • その他の素材いくつかのルックでは、ツイード生地に虹色の繊維を織り交ぜたものも見られました。ツイードは伝統的な素材ですが、そこにカラフルな繊維を混ぜることで、クラシックとモダンの融合を演出しています。また、裏地に紫のキルティングを施したコートでは、裏と表で異なる素材感を楽しめる仕掛けになっています。

2. 縫製技術 (Construction & Tailoring)

  • 高度なテーラリング山本のコレクションは、熟練したテーラリング技術に支えられています。特に、リバーシブル仕様のコートは高度な縫製技術の賜物です。裏表で着用できるため、縫い代を巧妙に隠し、どちらの面でも美しく見えるよう計算された縫製が必要となります。

  • 結び・ノッティング技術今季のテーマの一つに「Ties and Tethers(結びつきと繋がり)」があり、実際に紐を結ぶテクニックがルックに取り入れられています。コートの前合わせを紐で結んだり、ベルトを複雑に絡めることでシルエットを変化させたりと、結び目自体がデザインかつ機能として機能しています。このような結びの技法は、日本の伝統衣装(例えば帯の結び方)から着想を得ているとも考えられ、視覚的にも哲学的にも「人との絆」や「身体との対話」を象徴しています。

  • 丁寧で頑丈な縫製山本の服は長く愛用できることを志向しており、縫製は非常に頑丈です。厚手のウールコートやレイヤードされた衣服でも、動きに耐えうる縫い目と補強が随所に見られます。例えば、重ね着されたレイヤー同士を連結する箇所や、大きなポケットを支えるステッチなど、見えない部分にもこだわりが感じられます。

  • 手仕事の風合い山本耀司の哲学として、完全な機械生産では出せない不完全さの美があります。縫製でも敢えてステッチを表に見せたり、不規則なステッチワークを施すことで、手仕事の温かみや「わびさび」に通じる風合いを出しています。これにより、工業製品的な冷たさではなく、服に“人間味”が宿っています。

3. デザイン手法 (Design Techniques)

  • 非対称デザインと解体主義ヨウジヤマモトの象徴ともいえる非対称デザインは、今季も健在です。ジャケットやスカートの裾は左右で長さが違ったり、生地のレイヤーがアシンメトリーに配置されています。また、一部の衣服は解体と再構築の手法を取っています。例えば、伝統的なテーラードジャケットの要素(襟やラペル)をわざと崩した配置にしたり、ドレスを上下で分割して別の服と組み合わせたようなデザインがあります。これらは解体再構築 (デコンストラクション) の手法で、衣服の持つ意味や形状を再定義しようという試みです。

  • 構造的シルエットとレイヤリングコレクションにはボリューム豊かなシルエットが多く見られます。厚手のコートやジャケットは肩幅を誇張しつつも、ウエスト部分で絞りを効かせるなど、オーバーサイズでありながら人体の動きに沿った構造になっています。レイヤリング(重ね着)も特徴的で、長短様々な丈のアイテムをレイヤーして奥行きを出しています。たとえば、ロングコートの下にチュニック丈のトップスとワイドパンツを重ね、裾から異なるテキスタイルが覗くスタイリングなど、レイヤーごとの素材感や色の違いを楽しめるようになっています。

  • ドレーピングと動き柔らかな生地を使ったドレーピング技術も目を引きます。身体の周りを布が舞うように巻きつき、歩くたびに揺れ動くドレスやスカートは、職人技のパターンカッティングによるものです。特に、ショー開幕で登場したパフボールスカートは、生地をたっぷり使い丸みを帯びたシルエットを作りながらも、ウエスト部分で巧みにタックを寄せて動きを出すデザインでした。このような布使いは、山本が得意とする布そのものの造形であり、直線的なパターンから立体的な形状を作り出すカッティング技術が伺えます。

  • 特殊なパターンカッティング従来の西洋式パターンにとらわれず、自由な発想で布を裁断している点も特徴です。日本の伝統服(和服)のように、直線裁ちでありながら立体的に見せる技法や、布の「間(ま)」を活かす設計がなされています。例えば、一見すると余白にも思える生地の垂れ下がり部分が、歩行時にはエレガントな揺らめきを生み、静止時には彫刻的なシルエットを形作る、といった具合です。このような前衛的パターンによって、服は単なる身体の覆いではなく、空間と一体化した造形物となっています。

4. 構造的特徴と機能的ディテール (Structure & Functional Details)

  • リバーシブル構造前述したリバーシブルコートは、構造的特徴の一つです。表側は漆黒のコートながら、モデルがそれを脱いで裏返すと鮮やかな紫のキルティングが現れる演出が、フィナーレで観客を沸かせました。この二重構造は、単なるデザイン上のギミックに留まらず、「一つの服に二つの顔(内なる自分と外なる自分)」という哲学的なメッセージも帯びています。

  • ユーティリティディテール山本は実用性も重視するデザイナーであり、今回のコレクションでも機能的なディテールが取り入れられています。特に、メンズのルックではカーゴパンツのような大きなレッグポケットや、複数のポケットが付いたジャケットが登場し、ファッションと機能の融合を見せました。大ぶりのフラップポケットやジッパー付きポケットは、装飾として視覚的リズムを生むと同時に、実際に手を温めたり物を収納したりといった実用的役割も果たします。

  • ボタン配置と留め具コレクション全体に目立つボタンは少なく、前開き部分を重ねて着流すスタイルが多く見られました。しかし、要所では特徴的な留め具が使われています。例えば、トグルボタン(ダッフルコートに見られる留め具)や、インダストリアルなバックルがアクセントとして配置され、クラシックとモダン、東洋と西洋の意匠がミックスされています。リバーシブルコートでは、裏表両方から留められる特殊なスナップボタンや共布の紐が使われており、どちらの面でも美観を損なわない工夫が凝らされていると考えられます。

  • 解体的レイヤリング構造的にユニークだったのは、「服を着崩す」提案です。モデル同士がランウェイ上で互いの服を脱がせたり着せ直したりするパフォーマンスがあり、そこで衣服のレイヤー構造が明らかになりました。コートの下に仕込まれたジャケット、さらにその下のベストやシャツと、何重にも重ねられた装いを、一枚一枚剥がすことで、まるで洋服の解剖を見ているかのような演出です。これは観客に服の構造を意識させ、単に完成形を見るのではなく、レイヤーごとのデザイン意図を想像させる巧みなショープランニングでした。

  • メッセージ性のあるディテール技術的側面と哲学的側面の架け橋として、衣服に直接記されたテキストメッセージも注目されます。いくつかのコートには「Despair is the conclusion of the fool(絶望は愚か者の結論)」や「Sadness and suffering are the flowers of life(悲しみと苦しみは人生の華)」といったフレーズがプリントされていました。これらはデザイン上の装飾であると同時に、着る人・見る人へのメッセージになっています。このタイポグラフィの装飾は、1990年代の山本コレクションでも見られた手法ですが、現代においてより直接的に哲学を伝えるディテールとして蘇らせています。

哲学的考察

1. 色彩や形状の象徴性 (Symbolism of Colors & Shapes)

  • 黒 (Black)「黒の詩人」と称される山本耀司にとって、黒は単なる色以上の意味を持ちます。「黒は控えめでありながら同時に傲慢でもある」という彼の言葉が示すように、黒は自己主張と謙虚さという相反する特性を併せ持つ特別な色です。今回のコレクションでも主要色は黒で、一見抑制されたモノトーンですが、その陰影によって布の質感やフォルムが際立ちます。黒は背景にも主役にもなり得る色であり、山本はそれを巧みに操ることで、静かながら強烈な視覚体験を生み出しています。

  • 紫 (Purple)黒一色の世界に突然現れる深い紫は、今季のキーカラーとして非常に印象的です。紫は歴史的に高貴さや神秘の象徴とされてきました。フィナーレでモデルたちが黒いコートを裏返し、その裏地の紫が一斉に姿を現した瞬間、観客はまさに驚きと高揚を感じました。また、紫がミステリー、洗練、調和といった意味をもち、コレクションに感情的な深みを加えていると指摘されることも多いです。黒(静)と紫(動)のコントラストは、視覚的な美だけでなく、「表に見せる顔」と「内に秘める思い」という二面性のメタファーにも感じられます。

  • 形状・シルエットシャープなパワーショルダーや構築的なシルエットは強さや防御を表し、一方でドレープやカーブしたラインは優美さや流動性を象徴しています。山本の服はしばしば彫刻に例えられますが、それは形状そのものがメッセージを語るからです。例えば、過度に大きなコートは人を包み込むシェルターのようであり、これは「女性の身体を守りたい」という彼の思いとも通じます。また、不規則な裾やアシンメトリーなカッティングは、西洋的な完璧さへのアンチテーゼであり「不完全の美」を讃えています。このように、色も形も全てが何らかの象徴や物語を秘めているのが山本のデザインなのです。

2. デザイナーの美学 (Yamamoto’s Aesthetic Philosophy)

  • アンチファッション (Anti-Fashion)山本耀司は「ファッションを通じてアンチファッションを成し遂げたい」と公言しているように、流行や商業主義に背を向け、自らの美学を追求してきました。彼のコレクションには流行りの派手さや装飾性は少なく、タイムレス(時代を超越)な魅力があります。毎シーズン微妙に変化しつつも、一貫したテーマ(黒、オーバーサイズ、アシンメトリーなど)が通底しており、それが逆に強烈な個性=ブランドアイデンティティを形成しています。これは、消費を煽る大量生産・大量消費のファッションシステムへの静かな抵抗でもあり、長年着られる品質と飽きの来ないデザインを両立させることで、「消費されない服」を作ること自体がアンチファッションの実践と言えるでしょう。

  • 侘び寂びと不完全の美山本の美学には日本の伝統的価値観である「侘び寂び」が色濃く反映されています。完璧なシンメトリーや過剰な装飾を避け、傷やほころび、経年変化に美を見出す感性です。実際、「汚れたり朽ちたりしたものに美を感じる」という趣旨の言葉も残しています。この思想は、デザインにも表れています。新品でもどこか使い込まれた風合いの生地、断ち切りっぱなしの裾や、洗いをかけて色落ちさせた黒など、完成しすぎない状態をあえてデザインすることで、服は着る人の生活や時間と共に変化し、完成されるアートとも言えます。

  • 反消費主義と持続性近年ファッション界で重要視されるサステナビリティ(持続可能性)の潮流に対し、山本耀司は早くから共鳴する姿勢を持っていました。先述のアンチファッション思想とも通じますが、スローファッションの体現者と言えます。コレクションごとに掲げたテーマや技術を使い捨てにせず、次のシーズンに熟成させて発展させる傾向が見られ、2025-26年秋冬でも過去の山本デザインを彷彿とさせる要素が散見されます。これは「洋服を育てる」感覚に近く、ファストファッション的な刹那性とは一線を画します。

  • ミニマリズムと前衛山本の服作りは、一見すると装飾を排したミニマルな印象を与えます。しかし、そのミニマリズムは哲学的な奥行きを備えた前衛性です。色を絞り、形を突き詰めることで、かえって観る者に本質を問いかけるデザインになっています。装飾に頼らず新たな美を創造する挑戦こそが彼の美学の核心であり、それゆえ、静かな大胆さがあります。目立とうと主張しなくとも、そこにあるだけで圧倒的な存在感を放つ。そうしたバランス感覚が山本耀司独自の美学を支えています。

3. 時代背景との関連 (Context of the Times)

  • ポストパンデミックの影響2025年という時代背景を考えると、近年のコロナ禍(パンデミック)の影響は無視できません。孤立や社会分断を経験した後の時代において、コレクションテーマ「Ties and Tethers(結びつき)」は象徴的です。ランウェイでモデル同士が服を着せ合うシーンや、結び目を使ったデザインには、人と人との再結束、絆の再確認というポジティブなメッセージが込められています。また、ゆったりしたシルエットや心地よい素材使いは、パンデミックを経て重視されるようになった心身のリラクシング(癒し)や機能的日常着のトレンドともリンクし、山本の哲学を貫きつつも現代の人々の感情に寄り添う姿勢が垣間見えます。

  • ミニマリズムの潮流現代社会では過剰な情報や物質から距離を置くミニマリズム志向が広がっています。山本耀司の美学(黒を基調としたシンプルさ、装飾の削ぎ落とし)は、この潮流と親和性が高いです。時代を超越するタイムレスな魅力は、まさに過剰な消費に疑問を呈する時代が求めるものでしょう。

  • 環境意識の高まりファッション業界では持続可能性が重要視されるようになり、多くのブランドがエコフレンドリー素材や生産背景の透明化に取り組んでいます。山本耀司も大量生産・大量廃棄へのアンチテーゼとして長寿命の服を作り続けており、流行に捉われないデザイン姿勢自体が、過剰生産を戒めるメッセージと取ることができます。過去を大切にし、伝統を継承しながら未来を考えるというデザイナーの姿勢は、使い捨てにしない「受け継ぐファッション」と響き合います。

  • 社会・文化的文脈2025年当時の社会問題や文化的動向ともシンクロする部分があります。コートに記された「絶望は愚か者の結論」などのフレーズは、世の中に漂う閉塞感へのアンチテーゼとも読み取れます。また、モデルの多様性にも配慮し、あらゆる背景を持つ人を包摂するという姿勢は、現代社会における多様性とインクルージョンの要求と合致しています。

4. ジェンダー観やアイデンティティの表現 (Gender & Identity)

  • ジェンダーレスなデザイン山本耀司の服は古くからジェンダーレスと評されてきました。女性に対しては露出を抑え身体を布で包むスタイルが多く、一方で男性にはスカート風パンツやレースを取り入れるなど、男女の境界を衣服で溶かす提案を行ってきました。2025-26年秋冬コレクションでも、ウィメンズにはメンズライクなジャケットやブーツが、メンズにはスカート状のパンツが見られ、ジェンダー観を相対化する山本らしいアプローチが継続されています。

  • 女性をエンパワーする服山本の哲学には「女性を守る」という明確な意思があり、露出を控えたコートや広がりのある服で女性の身体を包み込むようにデザインしています。これは女性性を否定するのではなく、むしろ女性に自律的な選択の自由を与えるという考え方に基づいています。コレクションでも、布に身を包んだモデルたちは強く独立した存在に見え、まさに「着る人が主役で、服は黒子」という山本流の価値観を体現しています。

  • アイデンティティのキャンバス山本耀司の服は「着る人のパーソナリティを映し出すキャンバス」とも言われます。シンプルでありながら独特の存在感を持つ服は、ジェンダーを含むあらゆるアイデンティティを着る人が自由に投影できる余地を残しています。男性がロングスカートを穿くことで生まれる新たなマスキュリニティ、女性がオーバーサイズのジャケットを羽織ることで表現する意志的なフェミニニティなど、固定観念にとらわれない自己表現を可能にしています。

  • モデル起用と演出2025-26年秋冬ショーでは、男女のモデルが互いの服を脱がせたり着せ直したりする演出が注目を集めました。これはセクシュアルな演出というよりも、服の構造を理解させるパフォーマンスであり、同時にジェンダーや役割分担の境界を曖昧にする意図が感じられます。モデルの多様性(年齢・体型・民族性)にも配慮されており、そうした多様な要素が合わさって「ヨウジヤマモトの人間観」を象徴していると言えるでしょう。

総括 (Conclusion)

ヨウジヤマモトの2025-26年秋冬コレクションは、テクニカルな卓越性哲学的メッセージが高度に融合した、極めて完成度の高い作品群でした。素材選びから縫製、パターンカッティングに至るまで妥協なく作り込まれた服は、一方で見る者の想像力を刺激する余白や遊び心を残しています。

黒と紫が織りなす色彩のドラマ、衣服の構造に秘められた内と外の二重性、そしてアンチファッションを貫きながらも社会への視線を忘れないバランス感覚。ジェンダーやアイデンティティの固定観念を打ち砕き、人々に自己表現の自由を与えるその姿勢は、単なるファッションデザインを超えた文化的な提言とも言えるでしょう。

山本耀司は「ファッションとは日常を生きる人々のためにある」と語ったことがあります。その言葉通り、このコレクションは観客や着用者に問いかけます。「服とは何のために、誰のためにあるのか?」。技術と哲学が見事に調和した2025-26年秋冬コレクションは、その問いへの一つの答えを示しつつ、私たちにさらなる思索を促す知的で詩的なファッションの極致と言えるのではないでしょうか。

 
 
 

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